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魔法少女狩人  作者: 須田原道則
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0-1 狩人は現れた

 宵闇が辺りを染める頃、一人の少女が密林を駆け抜ける。


 眼前には一風変わった獣のような生き物が四足で駆けており、後ろ脚が地面を蹴る度に暖かそうで小さな尻尾が揺れ動いている。


 獣はこちらがまだ追っているのを確認する為に振り向いた。一風変わったと表現された獣の顔は人であった。体は驢馬なのだが顔は疲れ切った顔をした青年の顔。そう、人面驢馬。それが面倒くさそうにため息をついた。


 白く靄になったため息が向かってくるのを見て少女は左手で口と鼻を塞いだ。そして右手に持っている銀色に輝くランスを強く握り、膝に力を入れて大きく地面を蹴って空中へ飛び上がる。


 空中に飛び上がった少女はランスの矛先を下で走っている人面驢馬に向け、重力に逆らわず、そのまま目標へ狙いを定めて落ちる。


 ズブリと肉を貫くような音が耳に入った後に密林の中に小さく獣の悲鳴が響いた。


 少女は目を瞑りながら、ランスの持ち手に動く感覚があるのを感じ取り、ランスを捻じる。また獣の声にならない鳴き声を聞いた後に、目をより一掃深く瞑った。


 もうランスが動くことは無くなった。少女は片膝をついていた脚を上げ、ゆっくりと立ち上がり、ランスを抜く。血生臭い匂いは一切せず、ねっとりとした音も聞こえなかった。


 目を開けると、そこには人面驢馬の姿は無く、人魂が一つ青白く浮いていた。少女は自分を落ち着かせる為と達成感と共に一息をついて、密林の澄んだ空気を大きく吸った。


 耳を澄ますと先程まで忙しく駆けていた足音も何も聞こえなく、涼しい秋の風が木々の間を通り過ぎて行くだけであった。宵風を当たり終えて、目の前にある人魂と向き合い、ランスの矛先を人魂に向けて、口を開いた。


「彷徨える魂よ、人跡未踏の地へ帰りたまえ」


 少女が唱えると、ランスの矛先が半分に割け、まるで口のように開ききって人魂を食べてしまった。


「今日は・・・終わりですかね」


 ランスを地面に刺して、腰につけているポーチからメモ帳とペンを取り出して、人面驢馬の項目に線を引き一言呟く。


「それにしてもいつ着てもこの衣装は派手だと思うな」


 ヒラヒラと可愛げがあるスカートの裾を持ち、少女は自分の身なりを見て不満の声を上げる。木目細かい白いキャミソールワンピースに腰にポーチ付きフリルが巻いてあり、スカートが膝丈五センチ以上上で短い。その為中には黒いスパッツを穿いている。肩には取り外し可能の袖がついており、何故か肘の部分が素肌を晒すように無い。


 人目につきやすいこの服装で街などに出たら晒し者であろう。


 どうして少女がこんな一般人離れした服装をしているのか。


 それは少女が魔法少女だからである。


 ガリガリガリガリ。


 その音は唐突に聞こえてきた。静けさに染みいっていた密林の中、金属物質を地面に引きずった音が、少女が駆けて来た方向から近づいてくる。音はとても不快で、耳を塞ぎたくなったが、見えない恐怖に対等に戦える力を持ち合わせている少女は地面に刺していたランスを持ち直し、構えた。


 ガリガリガリガリ。


 不快な音が段々と近づいて大きくなってくる程に少女のふくよかな胸の奥にある鼓動も大きさを増す。


 ガリガリガ。


 音は少女の目の前で止まった。少女の目の前には音の原因を作っていた者がそこに立ちつくしていた。


 彼は男であった。長身で黒い髪をオールバックにして黒い背広を着こなす為に生れたような風貌の男。口元に掛かりそうな緑の蛍光色に光るマフラーを二重に首に巻いて、こちらを見据えている。そして不快な音の正体であるものを右手に持っていた。


 それは彼の長身をも超える、長く大きなハンマーであった。持ち手は棒状だが、レイピアの持ち手のようにとってが付いていた。殴る為の部分は綺麗な円形が付いていて、大きさはそれなりに大きいバランスボールくらいだろうか、その円形部分は見惚れるように反射し輝いていて、引きずるにはもったいないくらいだった。


 男はマフラーから覗かせる口角を釣り上げた。


 緊張が高まりきっている少女はその動作に恐怖を覚えた。手が震えランスの剣先までも同じように震え始める。


 男は少女が震え始めたのを見て、一歩、少女へ近づいた。ハンマーが不快な音を上げたがそれも一瞬で止まった。少女が震えながらも男に敵意と武器を向けているからである。


 男は物憂げに考える。


 一体どれ程の時が経っただろう。そう思わせる程に緊迫していた。時間はたった数秒しか進んでいない。その間も二人の会話は一切無し。ただ黙って少女は武器を構え、男は少女を見つめているだけだった。密林の中にいる動物たちも足を止めて、成り行きを見守っている。


「あ」


 沈黙を破ったのは少女だった。恐怖からか、それとも知的好奇心からなのかは知らないが、小さく言葉を発した。


「彼方は、何ものなのですか?」


 男に問う、その間も決してランスの矛先を変えず男に向けたままである。


 その質問に男は反応するように、耳がぴくりと動いた。 


 次に、持っていたハンマーを落とした。大きな音が地響きと化して密林に鳴り響き、鳥達が驚き木々から羽ばたき、逃げ去ってゆく。


 音に驚いたのは鳥達だけではない、少女も体を大きく震わせた。心臓にまで響く太鼓のような音が少女を震撼させたのだ。少女の恐怖は頂点に立とうとしていた。相手が武器を離したのに身の危険を余計に感じた。手袋の中の湿った汗と体を伝わる冷や汗でどうにかなりそうな神経はランスを持っている感覚で辛うじて保っていた。


 男は次の行動をした。マフラーを取った。そして取ったマフラーの先がしなやかにハンマーの先端の球体に振れた瞬間に、日が落ちた密林に眩い光が澄渡る。


 少女は聞き手ではない手で目を抑え、光を遮るも、激しい光に目を瞑ってしまう。


 暗闇の中、男の声が聞こえてきた。


「魔法少女狩人だ」


 その声を最後に少女の意識は途切れてしまった。


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