OVA02「アウトブレイク コンビニー」その4
いよいよ第一回目のステージの開演だ! 同時にコンビニも開店だ!
さぁ、プリス達はどんな衣装を着て、どんな歌を歌って、どんな踊りを見せてくれるんだろう?
楽しみだなぁ。
「すみませ~ん!ロリ・カイザー様~!レジお願いしま~す!」
スタートしていきなり店からヘルプが飛んだ。
見たらレジに大行列が出来てる!確かにあれはレジの子2人じゃ対応し切れない量だ。
うーん、ステージ観たいのに…。(汗)でも、ここは店舗監督としての責務を果たさねば。
ゴメン!!プリス、パトル、デヴィルラ、マーシャ!!
俺は後ろ髪を引かれながらコンビニに走るのだった。
レジへと向かう俺の背後で、スパーン!と花火の音が鳴る。
ポップな曲が演奏され、観客の声が一層大きくなる。
「みなさーん!こーんにーちはー!!♥」
プリスたんの声だ。どうやらユニットリーダーは彼女らしい。
くっそぉ~、聴きたい!観たい! 俺はレジに着く。
「いらっしゃいませー!」(泣)
「ハーッハッハッハッハ!皆の者よ!とくと聴くが良いぞ!」
あー、やっぱデヴィルラはアイドルでもそのキャラで通すのか…。
うわーー!!観たいよコンチクショウ!!!!
「お釣り320エンになりまーす。ありあとあしたー、またどーぞー。」(泣)
イントロが掛かり、客席から手拍子が起こる。
「ふっふー!ふわふわっ!」「はーいはーい!はいはいはいはいっ!」言ってるのは、あの武器屋のニート息子率いるハッピ連中だな。
プリス達の歌声がわずかではあるが、店の雑音混じりでレジまで届く。
『異世界魔法』
♪あの日 あなたに巡り合い 世界は色を変えました
♪灰色だった 何もかも あなたが色をくれました
♪空も海も透き通る 清らなどこまでも青
♪胸が瞳が燃え上がる 暖かなやさしい赤
♪影に夜に包み込む 凛としたシャープに黒
♪花や雪やと舞い踊る 愛おしい果てなき白
♪この身も 心も 捧げます たった1人のあなただけ
♪恋に目覚めた 女の子は 魔法使いに変わる
♪目にする全て 虹色にして 聞くもの全てを 歌声にして
♪恋に目覚めた 女の子は 魔法使いに変わるのかしら
♪胸踊らせて 髪なびかせて あなたのぬくもりを 目指して
おぉ、甘酸っぱいけど、なかなか良い歌じゃないか。
やっぱり、ちゃんと観客席の良い場所で聴いてあげたいなぁ…。
「お並びの方ー、こちらのレジにどうぞー。」(泣)
客足は途絶える気配が無かった…。
俺がレジから開放されたのは、プリス達の1回目のステージが終わった後だった。
予想以上の集客に、急遽控えだったバイトの魔族の子達を呼んで、助けに来てもらったのだ。
「ゴメンね、今日はお休みだったのに。」
「いえー、1日多く働けるなんてー、ラッキーですよー。」
こっちの世界じゃ仕事ってのは『いつクビになったり破産するか分からない不安定なモノ』という考えの方が大きいらしく、
冒険者だって、依頼が無くなったら途端に干上がっちゃう職種だしな。
だから、自分の好きな時に好きなだけ働けるコンビニのシステムは、魔族達には大好評なのだ。
うーむ、こりゃ魔族の雇用改善のためにも、絶対ブラックにしてはいけないな…。
余談だが、この世界で日本語が共通言語となってるお陰で、コンビニ設立にとても楽だったコトがある。
それは金銭の『計算』だ。
俺の元いた世界と違い、まだレジはピッ!♪と自動化が出来ないので、コレは非常に助かった。
実は、日本語は計算に向いてる言語らしく、『日本人は暗算に強い』と世界で言われてる要因だそうだ。
例えば、日本だと10の次は11「じゅう・いち」、12「じゅう・に」、13「じゅう・さん」となるが、
英語だと10「テン」の次は11「イレブン」という1つの単語で、12も同じく「トゥエルブ」という1つの単語。
そして13になった途端に3+10で「サーティーン」だ。
つまり、数字は10進法なのに数え方は12進法という、何ともチグハグな構造をしているのだ。
加えて13は「テン・スリー」では無く「サーティーン」なので、30「サーティ」と聞き間違えやすい。
ちょっとしたコトで17も誤差が出てしまっては、商売どころでは無くなってしまう。
これはヨーロッパでも似たようなモノで、どれも暗算をしづらくする原因と言われている。
ところがさっきも言ったが、この世界の共通言語は日本語で『数字も数え方も10進法』がそのまま通用している。
だから種族や身分を問わず、誰でもひと通りの暗算が出来るのだ。
つまり、レジの子が商品の合計金額を暗算する時はもちろん、お客も暗算が出来るので、大まかな検算をその場で行い
ぼったくられたりしていないコトが理解してもらえるという、二重の利点があるワケだ。
アメリカなんかじゃ、この双方の計算能力が低いコトで端数計算で揉めない様に
1ドル未満のお釣りは計算せずに、チョコや飴玉渡して『精算』してしまうからなぁ。(汗)
『算数から教えなくちゃいけない』なんて、ゾッとしないもんな。
おっと、それよりプリス達のトコロに行かなくっちゃ。
レジを代わってもらった俺は小走りで店を出て、まだ賑わっている特設ステージへと急いだ。
―そこで見た驚愕の光景。
「応援ありがとうございます。♥」
「たのしかったっすかー?♥」
「…君もコンビニで僕と握手。」
あ…、握手会までしとる…!!
プリス達4人の前に、ワイワイと長蛇の列が4つ出来ている。
うん、どの列も同じ位の長さだ。人気は良い意味でバラけているみたいだな…。
衣装もデザインの線画しか見ていなかったから、こうして実物を目の前にすると可愛さが良く判る。
プリスが青と水色に銀ライン、パトルが赤とオレンジに黄色ライン、
デヴィルラが黒と紫に金ライン、マーシャが白と黄緑にピンクラインか。
あぁ、この基本4色って、あの歌の歌詞にあった通りのイメージカラーなのか。
いやいや、落ち着いて分析してる場合か!? でも、みんな楽しそうにしてるしなぁ。
―ん?一番奥の列が騒がしいな。デヴィルラの列か?
握手してる魔族が頭を深々と下げて、感極まって泣き出している。
「畏くも、我々魔族を統べる王女デヴィルラ様に於かれましてはご機嫌麗しゅう。
此度、我々の如き平民が拝謁の栄に浴する事叶いますとは、末代までの誉れで御座います!」
「うむ、苦しゅう無い。楽しめたのであれば、余も満足じゃ。」
「勿体無きお言葉!!」
あー、まぁ、魔王の娘がステージに立てばこうなるよなぁ。もう一般参賀みたいなモンだもんな、コレ。
しかも歌も聴けて握手まで出来ちゃうんだから、魔族の平民にしてみたら夢みたいな機会だろうね。
そうかと思えば、
「でっ、デヴィルラたーん!ラブリぃいいいーーーッ!!」
「逝ね。この芥が。気安く触れるでないわ。」
「アッヒィイイイイーー!!もっと罵って下さいぃいいいーーーーッ!!」
ゴミを見る様な目で踏まれて喜んでるぞ。(汗)
あのアメとムチの配分と言うか、『絶妙のあしらい方』が大ウケしてる秘訣か…。
それでも俺が見事だと思ったのは、そんなデヴィルラを始め、プリスもパトルもマーシャも
誰一人『コンビニでの購買』を観客へ押し付けていないというトコロだ。
「コンビニをヨロシクお願いしまーす!♥」と、朗らかに宣伝はするモノの、
「握手はコンビニで◯◯円以上お買い上げのお客様限定!」とかは絶対に言わない。
瞬間風速的な売上はそういう商法の方が儲かるだろうが、長期的に見た場合、それは反感も買うコトになる。
あくまでも主役はコンビニだもんな。4人もソコをとても良く理解してくれている様だ。
イベント関連はプリス達に丸投げしちゃってたけど、何も心配要らなかったみたいだね。
その後も、コンビニはステージ開演と同時にお客さんが殺到し、嬉しい悲鳴。
俺はレジや商品の補充や、ちょっとしたトラブル対処に振り回されっ放しとなり、
結局、プリス達のステージを2回目も3回目もマトモに観てあげるコトが出来なかった。
ちょっと、俺だけ10時間以上働いてるんですけど…。(汗)
幸い、店員のバイトの子達は飲み込みも早く、これなら明日からは俺無しでも大丈夫そうだった。
俺もまさか、ココで冒険者リタイヤしてコンビニ勤めだけってワケにも行かないしなぁ。
夜のシフトの魔族に交代してもらって、ようやく俺の役目はオシマイ。
魔族のバイトの子が挨拶してくれる。
「ロリ・カイザーサマー、ドモ、オツカレサマッシャー。」
たった1日でコンビニ口調が身に付いてるとか順応早過ぎだろ、君達。
つーか、こういう仕事してると、自然とあの口調になっちゃうのかねぇ…?
宴の終わったステージを見つめる俺。
基本、あの子達4人だけでステージを成功させちゃったのは、正直スゴイと思う。
反面、俺の助力が何も要らなかったというのも事実でありまして。ソコはちょっと寂しいと思ったり…。
でも、コレもあの子達の成長の証なのだろう。とか、芸能マネージャーみたいな気分にもなったりして。
ん?ステージの下を見ると、あのピンクのハッピ4人衆がゴミ拾いをしている。
おぉ、コイツラ何だかんだ言ってオタクの鑑だな。 俺も手伝うか。
「お疲れ。3回ともずっと観ててくれたのか。」
「こっ、こりぇはロリ・カイザー殿。助力、かたじけないでござるよ。」
「いやいや、お前達が出したゴミじゃ無いのに、悪いな。」
「そっ、某共は今日、4人の天使に癒されました故、この位のコトは当然でござる。」
うむ、オタクかくあるべき、だな。
どんな趣味趣向を持っていても、最後は「人として正しくあれ」。それで俺は良いと思ってる。
それを理解もせずに差別したり偏見を持つヤツの方が、人としてどうかと思う。
「しっかし、まぁ、お前達の声ヒドイな。ガラガラじゃないか?」
「せ、声援で出し切りました故。いやぁ、良い汗かいたでござるよ。」
そう言ってサムズアップするニート息子のメガネの奥で鈍く光る眼差しに、俺は少々のキモさと同時に、
プリス達4人のステージをずっと応援していられた羨ましさを感じていた。
その夜。魔王城に一泊するコトになっていた俺達は、もう、当前の様にみんなでお風呂。
俺は結局、一日中コンビニから動けなかった。立ちっ放しでむくんだ脚が湯船の中で癒やされていく。
「皆さん、お疲れ様でした。」
「うむ、千客万来。まずは良いスタートであったと言えるじゃろうな。」
「たのしかったっすねー!みんなよろこんでくれてうれしいっすー!」
「…2号店の時はもっとハデにする。」
おいおい、気が早いぞマーシャ。
しっかしなぁ~、ステージもそんなに大盛況だったんだなぁ…。
俺がしんみりしてると、みんなが寄ってきて心配そうに聞いてくる。
「どうしました、ケインさん?」
「そんなにつかれたっすか?」
「今日の成功は主のお陰じゃ。何を浮かない顔をしておるのじゃ?」
「…マスター、大丈夫?おっぱい、揉む?」
「あ、いや…、みんなのステージ、店の方がメチャクチャ忙しくて1回もマトモに観れなかったんだ。
みんな折角張り切って練習していたってのに、肝心な時にいてやれなくて…ゴメンな…。」
そう謝る俺の言葉を4人は黙って聞いていた。そして誰ともなく顔を見合わせ頷くと、やおら湯船から出た。
―と、クルリと反転しこっちを向いてニッコリと笑い、
「それでは!ケインさんのために追加公演しちゃいます!」
「え!?」
「ボスにみてもらわないと、おわらないっすよ!」
「歌詞の文句にもあったであろう。我々4人は、主ただ1人だけのためにある。」
「…俺の歌を聞け。」
そう言って4人はお風呂場で俺1人だけのためにもう一度みんなで歌って踊ってくれた。 全裸で。
何これ!? エロMMD!? そんなレベルじゃ無ぇぞ!リアルだぞ!!
特別公演、サービス過ぎるだろ!!
勿論、歌い終わったら拍手しましたよ。こんなアルティメット眼福、考えられないわ!!
浴室で反響して、俺1人でも万雷の拍手…ぽくなったかな?
ペコリと頭を下げた4人が、再びいそいそと湯船に入って来た。
「どうでしたか?ケインさん。」
「うん、すっごく良かった!みんな可愛かったよ!!あれだけ大人気だったのも納得だな。」
「そうであろう、そうであろう!どうじゃ、主よ?まだまだ見足りぬであろう?」
「い、いや、そんなコト…」
「ボスー、なにいってるんすかー。えんりょしちゃだめっすよー。」
「…ここからがホントの夢芝居。」
いや、それ微妙に女の子のセリフじゃ無いっぽいんだけど!?
と思う間も無く、俺は幼女4人に抱き付かれるのであった。
「(プリス達には全てお見通しか。敵わないよ、4人には…。)」