OVA02「アウトブレイク コンビニー」その1
前作『1クールで終わる異世界冒険』最終回のラストシーンからの続きになります。
前作はコチラ! https://ncode.syosetu.com/n5705ej/
サブタイトルは、私の大好きな異世界モノの作品のパロディとしました。
※内容にはパロディ元の作品は一切関係しません。単なる言葉遊びと捉えて下さい。
「―カップ焼きそばが食べたい。」
「え?ケインさん、何か言いました?」
「ボス、どうしたっすか?」
「何が食べたいとな?主よ?」
「…かっぷ…?」
昼下がりの宿屋の部屋。空行く雲を眺めていたら、ふいにそんな言葉が俺の口から出た。
「カップ焼きそばが食べたい。」
「えっと、焼きそば…ですか?」
「だったら、たべにいくっすー!」
「うむ、この宿の麺類はなかなかに美味じゃ。」
「…? マスター?」
「あ、いや、違うんだ。俺が食べたいのは『カップ焼きそば』なんだ。」
この世界は、俺が転移してきた影響で、日本の文化が混在している。
共通言語は日本語だし、文字も漢字にひらがな・カタカナだ。お金だって日本円だ。
食生活も然り。ラーメンもあれば牛丼もあるし、カレーもある。
だから普通に暮らし易いし、元の世界が恋しくなるコトは無いと思っていた。
だ・が! だが、である。
この世界にはインスタント食品が無いのだ。
宿屋の食堂や、ちょっと町に出れば、安価で大抵のモノが食べられる。
でも…いや、そんな充実しているからこそか、インスタント系ジャンクフードが無いのだ。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか…いや、知り得ないよなぁ。
―プリス達は頭の上に『?』マークを出して俺の顔を見ている。
「カップ焼きそば、とは何でしょうか?」
「やきそばじゃだめなんすかー?」
「何がどう違うのじゃ?」
「…イミフ。」
うん、駄目なんだ。焼きそばじゃ駄目なんだ。
焼きそばと、カップ焼きそばは似て非なる食べ物なんだ。むしろ全く別物と言って良い。
カップ焼きそば。
『焼きそば』と銘打ってるクセに焼いてもおらず、ソースは和えただけ。
キャベツも細切りのフリーズドライで、調子に乗って麺だけ食べてると、後から底に張り付いたヤツがゴソッと出て来る。
「だが、それがいい!(ニッコリ)」
俺は滔々(とうとう)とカップ焼きそばについての講義をプリス達にした。
興味深く俺の話を聞く4人の幼女。(うち1人、無表情。)
「何となく理解しました。ケインさんの元いた世界の食べ物なんですね。」
「あんまし、おいしくなさそーっすねー。でもきになるっす。」
「うむ、下賤な印象を受けたが、保存食か携帯食の類かのう。」
「…マスター、美味しい?マズイ?どっち?」
「そうだな、確かに特別に美味いというモノじゃあ無い。だけど時折、無性に食べたくなるんだな、コレが。」
「本当にお湯を注いで3分待つだけ、なんですか?」
「そう。後はお湯を捨ててソースと和えるだけ。」
「主よ、それは…『焼きそば』と、呼べるのか?」
「うん、ソコは俺の世界でも、今なお喧々囂々たる議論が続くトコロではあるんだが…。」
「かんたんで、のじゅくのときとかにいいかもっすね。」
「…ちょっと食べたくなった。」
食べたくなった、と言われてもコレはなぁ。
インスタント食品は、日本の誇る食品技術と『食』へのこだわりの結晶だ。
設備も無いのにおいそれと『それじゃあハイ、作りましょう』とは行かない。
「うーん、こんな時、コンビニがあればなぁ…。」
俺の口からまた耳慣れない単語が出て来て、4人が質問する。
「『こんびに』とは何ですか?」
「たべものっすか?」
「いや、食べ物じゃ無い。お店だよ。俺の世界のあちこちにあった便利なお店。」
「どう便利なのじゃ?」
「…食べ物屋さん?」
「食べ物だけじゃない。飲み物も、お菓子も、雑貨も、大抵のモノは揃ってる。」
「何じゃ?よろず屋みたいなモノか?」
うぬぬ、今イチ伝わらないな。…ならば、これでどうだ。
「―例えばさ、夜中に特定の食べ物や飲み物が、突然欲しくなる時って、ないか?」
「あります!!」
「あるっすー!!」
「うむ、あるのう!」
「…夜中あるあるー。」
うぉ、みんなが猛然と食い付いて来た。
「アレはツライのぅ。一度欲しいとなると気になってしまい、なかなか眠れぬわ。」
「胃袋が『それ』になっちゃいますからね。他の代用じゃ収まらなくて。」
「そうなったらもうオイラ、あさまでごろごろころがってるっすよ!」
「…あれは生きながらの地獄。」
「だろ?だけど、夜中でもそれが売ってたらどうだ?」
このひと言で4人はコンビニの何たるかを理解した様で、パアッと顔がほころぶ。
「ケインさん!!それは素晴らしいです!!」
「だっしゅでかいにいくっすよー!!」
「あの悶々とした気分が解消されるのじゃな!!」
「…天国はここにある。」
やはり、どの世界でもこの深夜の苦悩への対応は大命題だった様だ。
「それだけじゃ無い。電気料金…あーっと、こっちでは何て言えば良いか…、税金をここで納めるコトも出来るし、お金も引き出せる。
手紙も出せるし、荷物を送ったり受け取ったり、バスや電車…こっちだと寄り合い馬車か。その席の予約とかも出来る。」
「それは便利ですね!」
「しかも、それが全て24時間365日いつでも利用出来る。」
「何と!?」
「ふえっ!?ぎるどよりすごいっす!!」
「…あいててよかった。」
うん。何だかこっちの世界に来て、初めて異世界モノっぽいコトしてる気分だわ。
こっちの世界は、夜になるとほとんどの店が閉まってしまう。
開いてるのは酒場や風俗店、そして冒険者ギルドくらいなモノだ。
みんながコンビニやカップ焼きそばの話で盛り上がっているそんな中、デヴィルラが神妙な表情で顎に手を当てている。
そして、やおら俺に向かって言う。
「のう、主よ。」
「ん?どうした、デヴィルラ?」
「その『こんびに』という仕組み、拝領出来ぬか?」
拝領?…あぁ、目上から何かをもらう時の言葉か。……ん?コンビニのシステムが欲しい!?
「コンビニをどうするんだ?」
「我が魔族の国に設立したいのじゃ。」
何だってーーーーーー!?
「主よ、皆も聞いて欲しい。我が魔族は今でこそ『魔族』という大きな括りで呼ばれておるが、実際は非常に多様な種族の集まりじゃ。
早い話、人間族と獣人族とエルフ、ドワーフのそれ以外、一切合切の総称だと言うても良い。」
「そうだったのか。確かにお前のお父さん、魔王様はすごくゴツイ姿だったもんな。」
「しかるに、生活様式も様々でのう。昼にしか活動しない者、逆に夜しか活動しない者、朝と夕だけ活動する者、等とな。
それ故、街もそれぞれの生活様式で別けるしか無く、種族間の交流や情報の共有がなかなか進まんのじゃ。」
「それは、国としては頭の痛い問題ですね。」
「左様。父上も如何様にすれば魔族を潤滑に統括出来るのかと、長年悩んでおる。」
「それで『こんびに』なんすか?」
「うむ。1つの店がずっと開いているのであれば、どんな種族でもそこを等しく利用出来るであろう?
さすれば、各種族の交流も進むし、その『こんびに』が庶民の情報発信源にもなり得るのでは?と思ったのじゃ。」
うぉ、流石は魔族の王女だ。デヴィルラはコンビニの真の価値にいち早く気付いている。
「主よ!お願いじゃ!魔族の未来のために、余に情けを掛けてはもらえぬか?」
「デヴィルラ、そんなに畏まらなくても良いよ。別に俺のアイデアってワケでも無いしな。どうぞ使ってくれ。」
「誠か!?恩に着るぞ!!」
デヴィルラは俺に抱き付き、キスを、
―しようとしたが、光の速さでプリスの手が入り込んで、デヴィルラはプリスの手の甲に口吻したのであった。
デヴィルラの「チッ」という舌打ちが露骨に部屋に響いた。
さて、そんなこんなで俺達は魔族の国へとやって来た。
あの合体モンスターの一件以来だ。俺がロリ・カイザーの二つ名を神様から頂いたコトもあって、今回も国賓待遇である。
魔王様は、娘デヴィルラの元気そうな姿を見て大層喜んでいた。その娘が異世界(俺の国)の情報を持ってきたとあって更にご満悦。
「父上!主から賜った『これ』は革命じゃぞ!!魔族の輝かしい未来への大いなる一歩となろうぞ!!」
デヴィルラはコンビニの設立案を、これでもかと自信たっぷりに話す。
ちょっと待ってよ!ハードルが天井突き破って尚もガンガン上がって行くんですけど…。(汗)
俺はサラリーマン営業とかしたコト無いから、緊張しっ放しだ。
一応、プレゼンテーションのために、ここに着くまでに要点を紙にまとめ、簡単なフリップも用意しておいた。
そして、魔王様や経済担当の大臣達を前にしてプレゼン開始。
俺の説明は素人丸出しで自分でも拙いとは思ったが、その都度プリス達がフォローを入れて補完してくれた。
「ふむ、なる程。確かにこの発想は無かったか。」
俺のプレゼンを聞いた魔王様は腕組みをして、頷きながら言う。
「ロリ・カイザー殿、幾つか聞きたい。24時間休まず営業というのは店にとって大きな負担になるのではないか?
更には、治安の問題もあろう。裏を返せば、いつでも強盗が入れるという意味でもあるしな。」
「いえ、その心配はさほど大きくありません。」
「―理由は?」
「この店は、何も店長が不眠不休で営むワケではありません。時間ごとにリーダーを設けて順番で担当します。
魔族の方々は生活様式が多様だと聞きました。なら、朝は朝に強い種族をバイトに入れ、夜は夜に強い種族に任せれば良いのです。
それは1つの店で複数の雇用体系が生まれるという意味でもあります。」
「なる程。そういうコトか。1つの店にどの種族にも均等に働ける機会があるというワケだな。」
「治安の件も、犯罪者は明るいトコロを嫌いますから、俺のいた世界では逆に良い結果が出ています。
市民にとっては、危険を感じたらすぐに逃げ込める『常に誰かがいる明るい場所』でもありますしね。」
「むぅ、言われてみればこれは然りだ。腑に落ちたぞ。これは思っていた以上に画期的な代物だ。」
魔王様の反応は上々だ。大臣もメモを取りながらウンウンと頷いている。
「であろう?父上。魔族の誰もが同じ1つの店に集い、同じ待遇と情報を得られるのじゃ。」
「うむ。…だがな。」
好印象だと思っていたが、ここに来て魔王様は怪訝な表情をして言う。
「民草と言うモノは存外にして保守的なトコロがある。あまりに革命に過ぎる案は理解もされにくく、拒否反応も出よう。
我々もこの案をロリ・カイザー殿が持って来たのだと知っていなければ、未だ眉唾ものであったと思う。
どうだろうロリ・カイザー殿、それでも上手く行くと思うか?」
魔王様の言うコトは尤もだ。見たコトも聞いたコトも無い異世界の文化を投じるワケだからな。
しかも個人が勝手に試すレベルでは無い。こうしてココに持ってきた以上、魔族の国家レベルの案件なのだ。
ここは嘘を言っても始まらない。俺はそう判断した。
「ご指摘の通り、始動して暫くは赤字になる可能性があります。」
「ちょっ、主!?」
「ほう。」
驚くデヴィルラ。目を細める魔王様。
「しかし、コンビニは一度利用すれば、その利便さを誰もが納得出来ると思っています。そこからは口コミで広がって行くはずです。
開始当初はまだ、魔族の皆さんの嗜好や需要なども把握出来ないので、試行錯誤があると思いますが、
顧客の望む商品が判れば、迅速に入れ替えが出来るのもコンビニの強みです。何たって一日中開いているワケですから。」
「………。」
魔王様は俺の話を聞いてしばらく無言でいたが、ゆっくりと立ち上がり、
「良くぞ正直に話してくれた。ここで媚やへつらいを聞かされたら、ロリ・カイザー殿といえど、にべも無く断っていたトコロだ。」
「父上…。それでは主の案は…、」
「やってみるが良い。未来の我が国はお前達、若者に託されるのだからな。」
「ありがとうございます!」
俺の倍以上はある魔王様の大きい手と握手。これで計画にGOサインが出たワケだ。
俺もプリス達も、ようやく肩の荷が1つ降りたカンジで、そろって安堵の表情を浮かべる。
「魔王様、これからも何かと問題はあると思いますが、ご指導ご鞭撻よろしくお願いします。」
「うむ。ロリ・カイザー殿、我が娘のコト、末永く頼んだぞ。」
「どういった意味で仰ってるのか、今イチ不安ですが頑張ります…。」