OVA01「異世界は島ーと本とともに。」その3
翌朝…と言うか、俺達が起きたのは昼過ぎだった。(汗)
いやぁ~、俺も含めて、みんな相当に疲れてたみたいだなぁ…。
ちなみに俺達が泊まったのは、魔導都市が壊滅して研究員を捕縛した後に生じた、大量の空き家の内の一軒だ。
今じゃこうして、魔導都市再建の工事に携わる者達の宿泊所になっている。
元々、魔導都市には宿屋が無かった。『関係者以外立入禁止』の閉鎖的な街だったからな。
今じゃ出張の屋台も出ていて、労働者への三度の食事を提供している。
俺達も遅い朝食…じゃない、昼食を屋台の色々な料理で済ませるコトにした。
みんな、食事を摂っていると顔が元気そうになって来る。起きた時の顔は、揃いも揃ってやつれ気味だったからなぁ。
今日に何も用事が無ければ、そのままベッドにUターンして夕方まで二度寝してたいトコロだよ。(汗)
「さて、神様のご神託の通りココまで来たけど、これからどーすりゃ良いんだろう?」
「そうですねぇ…。あの『きまいら』と『けるべろす』に関して何か分かる、とするなら
ケインさんをこの世界に転送した、魔導都市の元所長の近辺を探るべきでしょうか。」
「でも、あのおっさんは、もういないっすよ?」
あの所長は、魔導巨人の放った『消滅の光』の中で消えてしまったからな…。
「ならば、あの所長の研究室を見てみるのはどうじゃ?記録とか資料とか残っておるやも知れぬ。」
「うん。それが一番有力かなぁ。」
デヴィルラもすっかり元気になった。テンションも元通りだ。
「いつまでもウジウジしとるのは余の性に合わん。今は出来るコトを成すだけじゃ。」
「それでこそデヴィルラですね。」
「当然じゃ。」
やっぱりプリスたんとデヴィルラは良いコンビだ。
決して百合とか、キャッキャウフフとか、そういった意味で申し上げているのでは無い。
俺達は転送機が置かれていた場所、つまりあの所長と出逢って、魔導巨人と戦った場所に来た。
分かっちゃいたけど、魔導巨人の超大口径ビームと『消滅の光』で辺りはボロボロだ。
これじゃ研究室があったとしても、とっくに壊れちゃってるんじゃないのかなぁ…。
―と、マーシャが俺の服の袖を引っ張った。
「ん?どうした?」
「…あの所長はエルフだった。エルフは家に必ず隠し部屋を作る。だからきっとココにもある。」
「そうなのか!?」
「…特に、荒らされたく無いモノは絶対ソコに隠す。」
ここの所長は、マーシャの父親に呪いを掛けたり、人間と戦おうとしたりした好戦派エルフの1人だった。
エルフとしての習慣が残っていれば、この場所にも隠し部屋を作ってるだろう、ってコトか。
「…ただし、見付けるのは大変。エルフ同士でも分からないようになっている。」
「うん、まぁ、隠し部屋っていうのはそういうモノだよなぁ…。」
「…周りがみんな壊されてるから、あるとしたら地下室だと思う。」
「どうやって、さがしたらいいっすかね?」
「端から虱潰しに当たりますか?」
そんな、攻略本無しでピラミッドの地下にある隠し階段を1マス1マス探す様な真似はゴメンだわ。
ゲームは『しらべる』で当たれば自動的に見付かるけれど、実際はそうは行かないからなぁ。
「フッフッフッフッフッフッフ……。」
むっ!!この高圧的な笑いは!?
「ハーッハッハッハッハ!遂に余の出番が来た様じゃ!!」
出た!!腰に手を当て仁王立ちしたデヴィルラの魔王笑い!(仮名)
「デヴィルラ、何か調べる方法があるのか?」
「うむ。主よ、とくとご覧あれじゃ。」
そう言うと、デヴィルラは自分の長い髪を数本づつ両手に持つ。
―すると、持った髪が光り出して、ピーン!と針金の様に真っ直ぐに伸びた。
髪は光るL字型の棒となって、デヴィルラの手の中でユラユラと揺れている。
―あ!!コレって、ダウジングロッドか!?
俺の世界じゃ、オカルトや似非科学扱いされてるヤツだな。
これで地中に埋まった水道管とか、鉱脈とか、見付けられる…そうだ。
「これって探知の魔法か?」
「何じゃ、主はこの魔法を知っておったか!?」
「俺の世界にも似たようなモノがあってな。もっとも、ほとんどがインチキ扱いされてたな。」
「それは多分、主のいた世界にマナが無いからじゃ。水の無い池に石を投げても波紋は出ぬからのう。」
何となくデヴィルラの言うコトは分かる。
つまり、コレって魔力版の『超音波探知機』みたいなモノなのか。
あれ?でも、物を探すなら『魔眼』があったよなぁ?
「魔眼はこの世界中全てを探索範囲に出来るが、この魔法は極々限られた範囲でしか使えぬ。
それに、魔眼の様に曖昧なイメージでも探せるというワケでも無い。明確なイメージが必要じゃ。」
成る程、探す物と探す場所がハッキリした後の、絞り込み用の魔法なのか。
デヴィルラは周囲を歩きながら説明する。
「大昔の魔族がダンジョン探索用に開発したらしいのじゃが、明確なイメージが無ければ反応があっても
それが宝箱なのか罠なのかの判別が付かんという根本的な欠点があってのう。
それ故、欠陥魔法のそしりを受けて来たが、今回これだけ絞り込めておれば十二分に使える魔法じゃ。」
あー、徳川埋蔵金とか探した時も、超音波探知機の反応があって掘ってみたら
小判じゃ無くてガラクタが出て来たりとかあったっけなぁ。
ダンジョンじゃ罠かどうかの判別が出来ないのは、生命に関わるモンな。そりゃ怖くて使えん。
でも、この魔法ってイイよな。部屋の中でリモコンとか見付からない時には。(苦笑)
と、デヴィルラの髪ロッドがスウッと左右に開く。
「ココじゃ!!」
俺はその床をパトルに調べさせる。
パトルは床に耳を当てて、拳で床を叩く。
「ボス!このしたにへやがあるっす!!」
「おぉ!やった!!」
パトルとマーシャが床の石畳を持ち上げる。
「…よっこいしょーいち。」
マーシャは毎度毎度、どこでそういう言葉を覚えてるんだ…。
―と、隠し部屋の扉が出て来た。
「凄いぞ!デヴィルラ!!大手柄だ!!」
「主に喜んでもらえて恐悦至極じゃ。」
俺はデヴィルラの頭を感謝を込めてナデナデする。
途端に彼女は頬を赤らめ、クネクネと身をよじって喘ぎ出す。
「あっ…主っ…そんなに優しくされたら…余は、余は墜ちてしまうぅっ…!」
喜…んでいるのか、コレ? …喜んでいるんだよな?(汗)
そんなコトを思ってると、突如、絶対0度の様な声がする。
「ケインさーん、隠し部屋が開きましたので、どうぞー。」
プリスたんがすっっっっっごい営業スマイルで俺を見てる。
これ以上、いけない。
「あ、うん、そうだね…。ハイ、今行きます。」
俺はデヴィルラの頭から手を離し、そそくさと隠し部屋に向かう。
残されたデヴィルラ。
「プリスめ…、まことにイイ性格しておるわ…。」
隠し部屋は6畳一間といった具合の広さで、机、椅子、棚、と簡素な家具のみ。
ベッドが無いが、他の場所で寝ていたのか?それとも、椅子に座って机に突っ伏して寝ていたのか?
後者の方が、あの研究フリークの所長っぽいけどな。
家具は簡素だが、雑然と置かれている本や資料、木箱、袋等の類は滅茶苦茶多い。
コレは…、研究部屋と言うよりは、倉庫か物置と表現した方がシックリ来そうだ。
みんなで手分けして、隠し部屋の中を調べるコトにした。
俺は…まず、机周辺から当たってみるか。
所長の使っていた机の上には、栞がワンサカと挟まれた分厚い本が山積みになっていた。
何か判かるコトが無いか、その山積みの本を崩さない様に上から数冊取ってみる。
予想通り、機械工学や生物学っぽい本が多いな。内容は…高度過ぎて俺にはチンプンカンプンだが…。
と、俺はその中の1冊に目を留めた。
コイツは…こっちの本にしては、やけに装丁が丁寧だな。紙の質も良いし、印刷も鮮明だ。
まるで俺の元いた世界の…、
「!!!!!!」
その時、表紙にある単語を見て俺は凍り付いた。
『新紀◯社』
コレ、ズバリ『俺の元いた世界の本』じゃねーか!!
え!?なぜこんな本がここにある!? 誰かが持ってきた!? 誰かがって、誰さ!?
俺は手ブラで転移して来たし、俺の他に誰かが来ていた!?…いや、それは無い。
神様が『この世界が内包出来る歪みは、貴方1人分が精一杯なのです。』って言ってたし。
…ん!?『1人』!?
そうか!もしかして『人間』は1人しか許容出来ないけれど、それ以外の『物』ならOKってコトなのか!?
コレは俺みたいな人間以外、『物』を何度か転送させていたと考えて良いのか。
落ち着いて考えてみれば当たり前だ。
俺をこの世界に召喚した転送機だが、そんな大掛かりなモノをいきなり人間で実用稼働させるワケが無い。
ロケットだって、無人、観測機、動物実験、そしてようやく有人飛行だ。
あの転送機も、最初は小さい無機物から始め、日用品や簡単な機械なんかを転送させて来たに違いない。
この本もその一連で、俺の元いた世界から『お取り寄せ』したのか。
狙ったモノを転送させられるのか、たまたま偶然なのかは分からないけど。
この辺りのコトはまた後日、神様に会えたら聞いてみよう。
パラパラと本の中身を見ると、神話や童話、フィクションに登場するモンスターや妖怪、悪魔等が沢山載っている。
コイツで『キマイラ』や『ケルベロス』を見付けて、合成モンスターのヒントにしたんだな。
なまじこの世界で日本語が共用語になってるから、どの本も普通に読めて当たり前で
装丁とか印刷の違いに気付かなかったら、危うく見逃すトコロだったかも知れない。
俺はみんなを集めてその本を見せて、俺の仮説も簡単に説明した。
「これがケインさんの元いた世界の本ですか…。」
「すっごくつよそーなやつが、いーっぱいかかれてるっすねー。」
「城で見たモンスターリストにも載っておらんモノが沢山おるのう。」
「…こんな連中がウヨウヨしてる世界で、平気でいたマスター。やっぱりスゴイ。尊敬する。抱いて。」
イカン。みんな勘違いしてるぞ。
こっちの世界ではモンスターがいるのが当然だから、この本が創作だとは思ってない様だ。
そう言えば俺、神様にキマイラとケルベロスを見せられた時のインパクトが強過ぎて、
『この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。』
―って、みんなに断って無かった気がする。(汗)
俺の元いた世界は、そんな魑魅魍魎が跳梁跋扈する修羅の国じゃ無いぞ。
この世界は日本語が普通に使われているので、プリス達も俺の世界の本を普通に読めてしまう。
それですんなり内容が入って来てしまい、より一層、誤解に拍車を掛けているカンジだ。
早目に誤解を解かないと、後々面倒なコトになりそうだ…。
「そーだ、ボス!オイラ、こんなのみつけたっす!」
そう言って、元気良く切り出したパトルが俺に見せたソレは、人型を模した『いかつい』魔物の様な人形。
「そ、それは!『マシ◯ロボ』の『デビル◯ターン6』じゃないか!!
そんな美品、どこに売ってた!…じゃ無い、どこで見付けた!?箱は!?説明書は!?」
「ケインさん!落ち着いて下さい!」
「は、はこはしらないっす。たなのうえにおいてあったっす。」
―決まりだ。偶然似たモンスターが作られたワケじゃ無い。
やっぱり俺の元いた世界から色々なモノを転送させてたんだ。本から機械、そしてこんなオモチャまで。
「コレ、魔族の国のコロシアムで戦った合体モンスターに似ていますね。」
「そりゃそうさ。まぁ、見ててくれ。」
俺はそのロボ玩具を慣れた手つきで次々に分離させていく。
「うわー、6ぴきになったっす!!」
「成る程。我々が戦った『合体モンスター』は7体のモンスターによる集合体であったが、
この玩具がそのヒントとなったと見て、まず相違無いであろうな。」
「恐らく、新しいモンスターの開発に向けて、この『合体』と、キマイラの様に『融合』という、
コンセプトの違うプランを同時に手掛けて、研究員同士で競争させてたんじゃないかな?」
「複数のモンスターを融合させるよりは、こんな風に合体させるだけの方が簡単だったから、
『合体モンスター』の方が先に実戦配備されたというコトですね?」
「…『はっはっはー。この世界は我等のモノだー。』」
マーシャは合体ロボで遊び始めた。
「…『待てー。』『誰だ貴様ー。』『悪党に名乗る名前はないー!』」
気に入ったのか、ソレ。 …持って帰るか。マーシャちゃんのために。(汗)
しかし、最大の難問は棚上げ状態だ。
どうすれば、あの『行けない島』に行くコトが出来るんだろう。
船では絶対無理、メイドさんも駄目、神様の瞬間移動も…使えないだろうなぁ。
恐らく、これは推察だが、神様はあえて助けてくれないのだと思う。
きっと、俺達だけであの島に行く方法がどこかにあるのだ。
そんな気がする…。多分。
※上記の通りこの問題はしばし棚上げになり、主人公達は他の冒険に明け暮れます。