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OVA07「其(そーの)後(あーと)・オフライン」 その4 (最終回)



「いやー、てごわかったっすねー。」

「一時はもう、打つ手無しかと思いました。」

「然りよのう。魔法への耐性が戦闘中にどんどん向上して行くのには参ったわ。」

「…もうちょっとで、美味しく食べられるトコロだった。」


焚き火を囲んで談笑が続く。

戦いに勝って、全員無事だからこその光景だが、終わってしまえば苦労話もまた楽しいモノである。


今日はみんな疲れてるからな。帰るのは明日にしてシッカリ休養を取ろうというワケだ。

結果2泊3日となって、食料も水もギリギリ丁度という具合。


「ところでケインさん、あのキマイラを倒したのは何だったんですか?」

「そうそう!オイラもそれがききたいっす!」

「余も、突然キマイラが石になったので驚いたわ。」

「…マスター、種明かしして。」


みんな身を乗り出して食い付いて来た。俺は説明を始める。


「ホラ、モンスターって鉱石から出来てるだろ?」

「そうっす。」

「で、キマイラは『シシライオン』『ヤギゴート』『マムシバイパー』3体の融合モンスターだ。

だから鉱石も、その3体のモンスターを作った時のモノが使われているハズだと思ったんだ。」

「うむ。当然であろうな。」

「だけど、3体分の鉱石にそのまま魔力を注いでも、生まれるモンスターは素材の3体そのものになってしまう。

これを1体に融合させるには、とんでも無く絶妙な鉱石の配分バランスが必要になる、って考えたワケ。」


そこでプリスたんがポン!と手を叩く。


「分かりました!その鉱石の配分バランスを崩すコトが出来れば、モンスターはその形質を維持出来なくなる…。」

「そういうコト。ヒントで浮かんだのは、以前食べたカツ丼。そして魔道具だった。」


あのカツ丼は、味覚バランスを崩すコトで超絶にマズくなったし、魔道具は元のカタチから離れたら効力を失う。

だから、キマイラの体内に別の鉱石を入れて再度融合させれば、それは『キマイラ』ではなくなる。

科学的に言うならば、ある金属に他の金属を混ぜたら『合金』になって、元の金属とは違う性質になるのと同じだ。


で、そんな土壇場での俺の推論は、幸いにも的中してくれた。

キマイラは元の形質を保てなくなって、石像の様に硬化してしまったという次第である。


「これは大発見ではないか!?この方法ならば、理論上どんなモンスターも一撃で倒せるであろう?」

「どうかなぁ。キマイラが地面を溶かす程の高温の火炎を吐くヤツだったから、口に突っ込んだ鉱石が溶けてくれたんだ。

あそこまでの強力な炎を吐かないモンスターには、コレは使えないんじゃないかなぁ…。」

「む、言われて見れば然りじゃな。」

「ケインさん、何か、デヴィルラよりモンスターに詳しくなっちゃいましたね。」


プリスたんに妙な褒められ方をして、思わず俺は苦笑する。

この世界に来た時は、文字通り右も左も分からない、武器もマトモに扱えない使えないヤツだったもんな。


「ボスが、かみさまにたよられてるのも、なっとくっすー!!」

「…スゴイ。マスター最強。」

「いやいや、今回は本当に運が良かっただけだって。」

「何を申すか。運が良いのは冒険者として大切な条件じゃ。」

「はい。デヴィルラの言う通りだと思います。」


うーん。何かそう考えると、振り返ってみても俺の冒険って、運には恵まれていた様な気がするな。

―あ、そうだ。パトルに言わなくちゃ。


「パトル、お前の剣、折ってしまった。ゴメンな。」

「ぜんぜんいいっすよ。ボスがぶじなら、それがいちばんっす。」

「でも、ずっと使って来た愛着のある剣だったんだろ?」

「ぶきはいつかこわれるっす。だれかをまもって、たたかってこわれたなら、それはそのぶきの『ほこり』っすよ。」


生まれた時から武器と共に生き、武器と共に育つという獣人族。

戦闘のプロフェッショナルらしい、潔い考え方だな。すっごくカッコイイって思っちゃったよ。


パトルと一緒に、キマイラと戦った場所に石を積み上げ、折れた剣を差す。

獣人族の死生観で、武器は壊れた場所が『死んだ場所』であり『墓場』なのだと言う。

それと同時に、この地で立派に最後まで戦ったのだという証。

積み上げた石に差した剣の刀身と鍔が、俺には十字架の墓標に見えた。




そして翌日。帰還である。

デヴィルラの飛行魔法は、西にしか移動出来ない。だからこの島から飛び立つと…、


「大陸の東側、この小さい半島に着くと思います。」


挿絵(By みてみん)


地図を指差し、プリスたんがみんなに説明する。

そこから中央都市に帰るとなると、南に下って東側の関所を通らないといけないのか。

当然、魔族がそこで『フルイ』を掛けているのだろうけど、こっちには魔族の王女のデヴィルラがいる。

彼女がいれば、余裕の顔パスで通過出来るだろう。


後は…、道中長くなりそうだから、以前に『迷いの森』の場所を聞いた漁村で一休みするかな。

まとめると、中央都市まではだいたい5日位掛かりそうだ。


帰る身支度をしていると、急に空が虹色になって辺りがキラキラして来た。

はい、もう慣れて来ました。いらっしゃいましたね。


「かみさまっすー!」


ロリ神様、空から光と共にご降臨。

神様は近くにあった岩に座り、いつも通りの涼やかな顔で俺達に言う。


『ご苦労様でした。』

「いやー、大変でした。滅茶苦茶に強かったです。」

『貴方達しか倒せない、と言った意味、分かりましたか?』


えぇ、そりゃもう。

遠距離から回復が出来るプリスの魔弓、この島に来るために必要だったデヴィルラの飛行魔法、

武器の換えが幾らでも効くパトルの装備、意外性のあるアイデアを出してくれるマーシャの発想力、

そして、俺の元いた世界から得た予備知識。


どれ1つ欠けても、キマイラとケルベロスを倒すコトは出来なかったに違い無い。

全てのフラグ回収が済んでなければ、クリア不可能なイベント…的なカンジだったなぁ。


もし、俺達がこの島に来れなくて、キマイラとケルベロスが大陸に渡って来るコトになったら、

更に戦闘学習を重ねた2匹は、今回を上回る手の付けられないとんでも無い強さになっていたかも知れない。


『気を付けて帰るのですよ。宿に着くまでが冒険です。』


何ですか、その『家に帰るまでが遠足です』みたいな。でも、ごもっともです。『九十九里をもって半ばとせよ』ね。


神様はゆっくり立ち上がり、俺達に言った。


『これからの冒険でも、辛く苦しい時があるでしょう。』

「え?あ、はい。そうですね。冒険は甘いモノじゃ無いって、改めて思い知りました。」

『貴方達が今まで培ってきたものを信じるのです。どんな苦境に打ちのめされようとも。』

「……。」


何か、とんでも無く意味深なご神託を述べて、神様は消えた。


「今回は、いやにアッサリ帰ってしまったのう。」

「神様もお忙しいのでしょう。本来なら、こうやって私達の前に姿を現すコトが異例なのですから。」


そりゃそーだ。俺の元いた世界じゃ、一生のうちで1回会えるかどうか、何てモンじゃ無い。

どれだけ信心深くても、会えずに終わるのが当たり前だったもんなぁ…。




ミスリルカーペットを西に開けた高台に敷く。準備OKだ。

全員がカーペットに乗り、デヴィルラが飛行魔法を掛ける。次の瞬間、青空に浮かぶ白い雲が物凄い速さで流れ出す。


超音速で飛ぶカーペット。これからの冒険でも、この飛行魔法は活躍の場所があるかも知れないな。

西側への移動だけではあるが、時間短縮の良い方法になるだろう。


景色がどんどん後ろへ流れて行く。それを見て、俺はあの大人気バトル漫画のアニメを思い出していた。

雲に乗ったり舞空術で飛ぶのって、きっとこんなカンジなんじゃなかろうかねぇ。気持ち良いモンだ。

来る時はモンスター退治のコトで頭が一杯だったけど、今、こうして肩の荷が降りて余裕が出たのかな。

みんなの表情も明るく朗らかだ。




一天にわかに掻き曇る。


舞台の緞帳を落としたかの様に一瞬で空が黒雲で覆われ、海面は大きくうねり出し、波は鋭く高くなる。


驚く全員が周りの状況を確認する間も無く、水平線の彼方に巨大な波の壁が出現しこちらへ迫って来る。


風の魔法で障壁を重ね掛けしようとするも、何故か魔力は霧散する。

そして飛行魔法すら強制的に解除され、全員は荒れ狂う大海原に放り出された。


「何故!?」と考えさせてくれる時間すら与えられない。

まるで山脈の様にそびえ立つ黒い波。そしてそれが鎌首をもたげ、絶望の感情と共に一気に崩れて来る。


自然の絶対的な力の前では何ひとつ抗うコトすら出来ず、全員はただただ荒波に揉まれ弄ばれる。


その中の1人がロープを投げる。


幸いにも近くにいた仲間達は、次々にその『絶望の中での僅かな望み』にしがみ付く。


魔族の姫は『背に腹は代えられない』と見るや無属性の波動で浮かび上がり、必死に全員を海面から引き上げようとする。

獣人とエルフが荒波から脱し、更に僧侶の子が仲間で唯一の男へ手を伸ばす。


僧侶の子と男は共にロープを握ってはいるが、男は長いロープの端に掴まっており、いまだ2人の距離が遠い。

男は波で揉み苦茶にされながらも、少しづつ僧侶の子の伸ばした手へと近付いて行く。


魔族の姫は、持てるありったけの魔力で浮かび続ける。

無属性波動は物体への干渉が弱く、それを用いて飛び続けるコトは魔力の急激な消費を意味する。

だが、全員を水面から引き上げた後にどうしたら良いか。それすら考えている余裕は無い。

今、ここで、この瞬間、『全員で生き続ける』コトだけを考える。

逆に言えば、大いなる自然の脅威の前に『それしか出来ない』状況なのだ。


津波の中で男は手を伸ばす。必死に手を伸ばして、伸ばした手にロープが手に当たればそれをたぐり寄せる。

激しい濁流の中で、自分の身体が上下左右どの方向を向いているのかも判らくなっているが、

それでも弱まっていく握力を振り絞り、ロープを放すコト無く仲間の元に行こうとする。


僧侶の子が千切れんばかりに腕を伸ばす。姿は捉えているのに、依然として縮まらない距離に苛立ち焦る。


もう少し。


もう少しという時、真っ暗な天空を真昼の様に照らし、轟音と共に閃光が走る。


人間は遥かな昔、その光と音を神々の戦いだと信じていた。決して人間が歯向かうコトの出来ない力。

海は逆巻き、空には雷鳴。まるでこの世の終わりの様だ。


いや、この世の終わりだったのだ。男を助けようとしていた4人の少女にとっては。


空から切り裂くような音が響き、稲妻が落ちて来る。

その光の槍は、少女達と男を繋ぎ留めていた唯一の希望であったロープをあっさりと断ち切る。


見開かれる少女の瞳。現実を拒否したいという必死の思い。


だが、現実は目の前に。波に遠ざけられ、波に畳み掛けられ、あっという間に男の姿は消えてしまう。


少女達の叫ぶ声、流す涙、それらも荒波と雷鳴にかき消される。


そこに再び津波と稲妻が襲う。




『貴方達が今まで培ってきたものを信じるのです。どんな苦境に打ちのめされようとも。』


あの神が言っていた言葉が、全員の脳裏をよぎる。

されど、今この状況で何を信じれば良いというのだ。


この日、少女4人は自分達の生きる意味を失った。



お付き合い下さって、ありがとうございました。

更なる続編『2クール目に突入した異世界冒険』

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