OVA07「其(そーの)後(あーと)・オフライン」 その3
キマイラの喉の奥が光る!!
「ブレス来るぞ!!」
ゴォワァアアアーーーーーッッ!!
凄まじい熱量!!炙られた地面は焦げるどころか融解してガラス質になる!!離れていても肌がジリジリと焼けそうだ!
すかさずデヴィルラが氷系魔法で迎え討つ!!
炎と吹雪がぶつかり合い、相殺された魔力は白い光の粒となって激しく辺りへ散って行く。
プリスは魔弓を構え、退魔の矢を放つ!矢が刺さったキマイラは苦しみ出して動きが止まる。
―だが、それはほんの一瞬。咆哮一発、大きく身震いをすると、すぐにまた猛然と襲い掛かって来た!!
「くっそ!退魔への耐性までキッチリ付けられているのか!!」
パトルとマーシャの方を見ると、2人も苦戦している。
「ぬぅーーっ!!こいつのうしろをとれないっす!!」
「…頭を殴ろうとすると、別のヤツが噛みつきに来る。スキが無い…。」
3つの頭、6つの目を持つケルベロス。常に2人を正面に捉えていて死角が生まれない。
もしかして、あのケルベロス1つの頭に付き、1人が相手しないと対処し切れないのか?
―だったら、フォーメーション変更だ!
「プリス!向こうに付いてやってくれ!一瞬でも動きが止まれば、パトルとマーシャなら何とかなると思う!」
「分かりました!!」
プリスがケルベロスに向かって魔弓の弦を引く。それに気付いたキマイラは喉を光らせる。
「デヴィルラ!奴はプリスを狙うぞ!!」
「させぬわ!!」
巨大な雷撃が2つ、3つと、地面に落ちる。キマイラはかわして後ろへ跳ぶ。
ナイス!!これはプリスから目を逸らせるための雷撃だからな。当たらなくても構わない。
プリスの放った退魔の矢がケルベロスに突き刺さる!
一瞬、硬直する地獄の番犬。その一瞬をパトルとマーシャは見逃さない!!
パトルの剣が1つの頭の脳天にブチ当たり、マーシャの拳が別の頭の1つを横殴りにする!!
ケルベロスの身体が宙に舞う!!
やった!! ―と、思ったのだが、
ケルベロスは妙な吹っ飛び方をしたものの、スタッ!と何事も無く着地した。頭は3つとも無事のままだ。
「ましょーめんからあてたのに、どうなってるっすか!?」
「…そうか、マーシャが横から殴ったせい…。」
「そういうコトですか!2人が2つの頭をそれぞれ別方向から攻撃したコトで、
繋がってる身体が不自然にブレて、2人の攻撃のポイントを急所からズラしてしまった、というワケですか!」
うぬぬ、コレは頭が複数あるケルベロスだからこそ起こった結果か。
みんなこういうモンスターと戦うの、初めてだもんな。まだコツが掴めていないんだろうか。
ならば、パトルとマーシャに同方向から同時に攻撃させるか。
―いや、それよりも、交代で攻撃して休憩させる時間を作るべきか。
その時!!
クワッシャァアアアアアーーーーーーーン!!
突然、銅鑼を思いっ切り鳴らした様な、耳をつんざく金属音が鳴り響く!!
ズドォオオオオオン!!
刹那、パトルとマーシャは一瞬にして崖の壁まで吹っ飛ばされた!!
見れば、ケルベロスが三つ首の口を大きく開けて咆哮している!
そうか!これが神話でケルベロスの設定にあった『青銅の声』か!!
そしてこの威力…、コロシアムで戦った合体モンスターも使っていた、無属性魔法の波動攻撃!!
炎や毒が無いと油断していたか。魔導都市の連中、モンスター作成にキッチリ良い仕事してやがる!!
ケルベロスは倒れたマーシャに突っ込んで行く!その速さ、正に一陣の風!!
マーシャもそれに気付いたが、モロに食らったダメージが大きく逃げるまでに至らない。
噛み付こうとしたケルベロスの3つある首の中央、その牙を何とか正面から掴み、組み伏せられながらも堪えている!
パトルはまだ起き上がれない…!!
俺とデヴィルラはキマイラの相手で精一杯。
プリスは退魔の矢を連発でケルベロスに打ち込むが、動きが止まるのは一瞬。しかもその時間が短くなっている!?
コイツ、戦闘中にどんどん耐性が上がっている…、のか!?
マーシャの腕が左右の頭の牙で串刺しになる!身体は前足の爪で傷だらけだ!
腕の力が抜けてしまったら一巻の終わりだ!!くそぅ!どうにかならんのか!?
プリスの顔が焦燥に震えている。
「こうなったら究極神聖魔法を…! いえ、駄目です。それで体制が立て直せても、根本的な攻略手段が無いなら
また同じ状況の繰り返しになるだけ…。そうなったらもう打つ手が無くなってしまいます…。
マーシャを回復するにも、私ではケルベロスの間合いに入った瞬間に攻撃されてしまう…!!」
ギリギリと嫌な音を立てて、マーシャの腕が噛み潰されそうになっていく。
もう数秒も持たない!!
「―だったら!!」
プリスが魔弓を引き絞り1発の矢を射る!だが、唸りを上げるその矢はケルベロスでは無く、その横に向かう!!
マーシャの超人的な動体視力が、飛んで来る矢を捉える!本能的に身体は矢を避けようと動き出す!
「マーシャ!避けないで下さい!!」
だがプリスのその一言で、マーシャは止まった!
ビシィッ!!
マーシャの肩に光る矢が刺さる!!
俺もパトルもデヴィルラも、余りにも予想外のその光景に、愕然とするコトしか出来なかった。
―と、マーシャの身体が白く光り出したかと思うと、更に予想外の光景が!!
バゴオォオオオッッ!!
あれ程までに劣勢だったマーシャが、ケルベロスを一発で殴り飛ばした!!
空中をきりもみ状態で飛び、頭から墜落するケルベロス!!地面に土煙が舞い上がる!!
そして立ち上がったマーシャがポツリと言う言葉、それも更に更に予想外。
「…回復、した。」
「何だって!?」
「そうであったか!先程の矢は、回復魔法だったのじゃな!?」
おぉう!!何という発想の転換!!
『回復魔法』を矢という『攻撃方法』で飛ばすなんて、よくもこの土壇場で思い付いたモノだ!!
しかもこの方法なら、術者は回復させたい相手に触れなくても構わない。
戦闘しているポイントから離れた地点より、安全に、且つ安定した回復を行えるのだ!
「…プリス、ありがとう。」
「こちらこそ。いきなりのコトだったのに、よく避けずに受けてくれました。」
「…マーシャはプリスを、みんなを信じてる。」
サムズアップするマーシャ。(無表情)
ニッコリ微笑むプリス。そのまま今度は的をパトルに移し、
「パトル!行きますよ!!」
プリスはパトルにも回復の矢を放つ!パトルもおっかなびっくりしつつ、矢を背中に受ける。
うん、回復だと分かっていても良い気分じゃ無いだろうな。それがこの回復方法の唯一の欠点だ。(苦笑)
「うおおおおーー!!ちくっとしたけど、げんきになったっすー!!」
そうしてパトルも立ち上がり、再びケルベロスに立ち向かって行く!!
安全確実な回復手段が出来た。これなら大丈夫…か?
「主よ!危ない!!」
デヴィルラの声にハッとする!!キマイラがデヴィルラの雷撃魔法を突破して、俺に飛び掛って来た!!
「こなくそっ!!」
俺は咄嗟に剣を振るうがキマイラはヒラリと身を躱し、返す身で俺の剣をガッシリ咥えると、
バキィイイーーーン!!
「折れたーーーーーっっ!?」
噛み砕かれた剣の破片が宙を飛び、バラバラと地面に降って来る。
これ、パトルと『とりかえっこ』した、あの子の剣だぞ!!よくもやってくれやがったな!!
―と、思うヒマも無く、
バシィイッッ!!
「ぐはぁっ!!」
ムチの様に振られたキマイラの尾が、俺の胴にヒット!!俺は吹っ飛ばされる!!
「ボスー!!これをつかうっすー!!」
パトルがこちらに投げたのは、今、彼女が使っている、俺と『とりかえっこ』した最強装備シリーズの剣。
そして背中からロッド引き抜くと腰のナイフと合体させ、あっと言う間に槍にしてケルベロスへの攻撃を続ける。
デヴィルラが魔法で援護射撃をしてくれて、キマイラの注意が俺からそれる。
俺は転ぶ様にして、パトルが放って寄越した剣を掴もうと手を伸ばす。
―だが!
グオァアアアーーーッッ!!
キマイラがこちらに向かって火球を吐き、俺は今度は爆発で吹っ飛ぶ。
地面に叩き付けられもんどり打つ。取ろうとした剣も爆発で飛ばされ、遥か遠くだ。
「止まらんか!!主に寄るな!!」
デヴィルラが雷撃魔法を連射するが、その速度に慣れたのかキマイラは右へ左へと見切って避けて行く!!
このモンスター2匹、恐ろしい順応性だ!!
そしてキマイラは、まず俺の方が与し易しと見て、こちらに向かって突進して来る!!
どうする!?武器が無い!!
畜生!!こうなったら石でも何でも、手当たり次第に投げてやる!!
そう開き直って地面をまさぐり、手に取ったモノは…これは、鉛の鉱石か!?
キマイラとケルベロスの戦闘訓練相手に使われたモンスターの残骸。取り敢えず、石よりはずっと良い!!
覚悟を決めて地面から顔を上げた時、そこには既に、俺の頭を噛み砕こうと大きく口を開けたキマイラの牙が!!
思わず俺は、鉱石を持った手でキマイラの牙をかわそうと…、
ガリガリガリガリッッ!!
一瞬、俺はキマイラと睨み合う!そしてキマイラは驚き思わず後ずさる!
メロン位の大きさもある鉛鉱石は偶然にも、そして幸運にも、キマイラの口に見事にはまっていた!!
その時、俺の脳裏に浮かんだギリシア神話。
確か、英雄ベレロポーンは、ペガサスに乗ってキマイラの口に鉛を突き入れたんだ。
キマイラは自分の吐く炎で溶けた鉛が喉から胃に入って、身体の内側から焼かれて死んだんだっけ。
この世界のモンスターは生物じゃ無い。焼け死ぬなんてコトは無い。
でも、俺はもう1つ思い出す。『この世界のモンスターは鉱石から作られている』というコトを。
ならば、今ここで試す価値のある手段が1つ残っている!!
「てぇえええええいっっ!!」
ガゴン!!
俺は思いっきりキマイラの口目掛けて蹴りを見舞う!その勢いで咥えていた鉱石は喉の奥に飲み込まれた!!
グガァアアアアッッ!!
キマイラは相当トサカに来た様で、激しく首を振ると、また炎を吐こうと身構え喉を光らせる!!
そして大きく口を開けた瞬間!!
ピキィイイイイイーーーーン!!
一瞬のうちに固まる獅子の頭!獅子の身体も、山羊の頭も、尻尾の蛇も、全てが石像と化す!!
次の瞬間、身体中に亀裂が入り、キマイラはガラガラと音を立てて崩れて行く…!!
「ケインさん、これは一体…!?」
「説明は後だ!俺は放っといて良いから、全員でケルベロスを!!」
「あ、あい、分かった…!!」
腹を押さえてうずくまる俺を心配そうに見ながら、プリスとデヴィルラはパトルとマーシャの援護に向かう。
クワッシャァアアアアアーーーーーーーン!!
またもやケルベロスが青銅の鳴き声で無属性波動を撃ち出す!!
そしてプリス達はまたしても吹っ飛ばされる。
くそぅ、あの無属性波動、合体モンスターが使ったのと違って全くタメが無い。
見たトコロ、事前モーションも無い様だし、対処が出来無さそうだ。
―となれば、ケルベロスに吠えさせない様にする他は無い。…しかし、どうやって?
戦闘が長丁場となり陽が傾き出す。地獄の番犬は倒れた俺達を見据えて、トドメを刺そうと夕日を背負い立っている。
夕日…!! そうだ!!
「デヴィルラ!!崖に手を置け!!飛行魔法だ!!」
「―!!その手があったか!!流石は主じゃ!!」
デヴィルラは崖に両手を付け、飛行魔法を発動させる!!
彼女の飛行魔法は未完成で、西にしか飛ばせられない。が、この位置ならば!!
たちまち崖の石が紫色の光に包まれ無数に浮かび、そこから西側、即ちケルベロスに向かって超音速で飛んで行く!!
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガッッ!!!!
ケルベロスは止むコトの無い石礫の銃弾の雨に曝される!!
身体中を無数の石に打ち据えられ、悶絶する姿は正に死のダンスだ。
吠えようとすれば顔に口にと礫弾がブチ当たる。最早、姿勢を維持するコトさえ叶わない。
庭石程の大きさがあるモノも幾つも激突し、ケルベロスは地面を芋虫の様に転がる。
そこにマーシャがデヴィルラに向かって言う。
「…デヴィルラ、マーシャ達にも。」
「うむ!!2人とも、行くぞ!!」
「いつでもいいっすよー!!」
デヴィルラが、ケルベロスの真正面に陣取ったパトルとマーシャの肩に手を置く。
2人の身体がフワリと浮いて、間髪入れず音速を超えた勢いで射出される!!
「うぉおおりゃあーーーーっす!!」
「…マーシャ・まっはきっく。」
ドッッゴォオオオオオオオーーーーーーン!!
パトルの超音速ハンマーが3つの頭を一撃で粉砕し、マーシャの超音速キックが土手っ腹をブチ抜く!!
無残!!ケルベロスは悲痛の鳴き声すら出す間も無く、木っ端微塵となり光となって消えた!!
「おっと、」
デヴィルラが慌てて飛行魔法を解除する。パトルとマーシャは随分離れたトコロで着地した。
何しろこの島は小さい。もう少し解除が遅ければ、向こう側の崖に激突してたな。(汗)




