OVA05「この蕎麦らしい世界に祝福を!」その2
かくして俺達は、ワサビが自生するという山に向かった。
山には熊や野犬や毒蛇がいて、これだけでも一般人には危険。そこにモンスターまで出て来るんだから、
こりゃあ冒険者じゃ無いと無理だわ、と納得しているトコロである。
山も中腹に差し掛かり、そろそろ陽も落ちて来た。森はスウ―ッと暗くなって来る。今日はここでキャンプかな。
みんなでテントを立てていると、パトルがいないコトに気が付いた。
「あれ?パトルは?」
「…薪を取りに行って、…そう言えば遅い。」
ちょっと心配になって、俺はパトルが薪を取りに行った方角を探すコトにした。
と、少し奥に行ったトコロでパトルを発見。
「お、いたか、パトル。心配したぞ。」
しかし、パトルは森の奥をジッと睨んで動かない。どうしたんだろう?
「―何かあったか、パトル?」
「あっ、ボス!なんか、むこうにへんなこやがあるっす。あぶないよかんがするけど、きになるっす。」
みんなもワラワラと集まって来る。だが、俺達の目には生い茂る木々しか見えない。
獣人族の優れた視力じゃないと、どうやら見分けられないようだ。
「もしかしたら、大賢者様の遺跡でしょうか…?」
「見えておるパトルが『へんなこや』と言うのであれば、普通の小屋ではあるまい。」
「そうだな、行ってみるか。」
パトルを先頭にして森の中を歩いて行く。しばらくすると、俺の目でもそれと確認出来る小屋が見えて来た。
石造りで、まるで陶芸の釜小屋みたいだ。中には床も壁もキチンと石で組まれた小さな部屋があった。
―と、突然背後から
「動くな。」
しわがれてはいるが、シッカリした声が聞こえて来た。俺達はその声に気圧されてフリーズする。
…気配がまるで判らなかった。いつ後ろに立ったんだ!?
「そんなー!オイラがきづかなかったなんてー!?」
「…ぶっちゃけ、ありえない。」
戦闘のカンが鋭いパトルやマーシャでさえ気付かなかった位だから、俺なんかさもありなん、だ。
「ここに何用ですかな?」
その声は俺達に質問する。それに答えたのはデヴィルラだ。
「あー、済まぬ。ここはそなたの家であったか?我々は決して悪気があって、」
「―その声、…まさか、姫様で御座いますか?」
へ!?
そう言われてデヴィルラが振り返る。と、
「―爺!!爺やか!?」
「おぉ、やはり姫様!斯様な場所でお会い出来るとは…。」
声の主はガラッと調子が変わり、明るい口調になる。
どうやらデヴィルラの知り合いだったらしいが、背中を見せたままの俺達が放置されとる。
「おい、デヴィルラ。俺達はどうすれば良いんだ?」
「あっと、済まぬ主よ!!皆も、もう安心して良いぞ。爺も警戒は無用じゃ。」
この小屋に住んでいたのは、魔族の竜人だった。
「ほれ、主達が余と北の関所で出会った時のコトを覚えておるか?
『爺やが寄る年波には勝てぬので、暇を与えた』と申したであろう?あの爺やじゃ。」
あぁ、思い出した。
最初、北の関所にいるのは巨大な竜人だったとギルド員から聞いたんだっけ。こんな温和そうなお爺ちゃんだったとは。
「姫様におかれましては、ご健勝のご様子。爺も嬉しく思います。」
「うむ。爺も元気そうで何よりじゃ。…しかし、何故こんな山奥におったのじゃ?静養ならばもっと良い場所があろうに。」
「私のワガママで御座います。」
「ワガママ?」
「お国のためを思いました時、ただ休んでジッとしておるのに罪悪感を覚えてしまいまして。
どこでも良いから門番なり、見張りなり、何かこの老体でもお役に立てれば、と思った次第で御座います。」
うーん、働きアリみたいに仕事好き!! あ、いや、愛国心と忠義心に厚い爺さんと言うべきかな。
「それでこの森を、か?」
「左様で御座います。ここには大賢者の残した遺産があります故。」
おぉ!!やっぱりココにあったんだ! 俺達は、思わず出した声が色めいた。
デヴィルラは爺やさんにここまでの顛末を話す。
「―そうで御座いましたか。この森は魔導大戦時に我が魔族の領地となり、その後に大賢者の遺跡があるコトが判ったと聞きます。
これは時を超えて大賢者が、姫様と私を再び巡り合わせてくれたのでありましょう。」
そう言うと爺やさんは立ち上がって、奥の部屋に引っ込んだ。
そしてしばらくすると、1つの長い布袋を持って来た。その袋の紐を解き、中から何かを取り出す。
「これが、大賢者の残された遺産で御座います。」
「ん?…これは…弓か?」
現れたのは、全体が透き通ったとても綺麗な弓だった。俺達は近くによって見させてもらう。
「これ、水晶かな?」
「みたいですね。こういうモノは儀式用にも思えますが、大賢者様の残したモノですからね…。」
「でも、これじゃ『ゆみ』としてつかえないっすよ?まがらないっす。」
パトルの言うコトはもっともだ。
この弓は全体が水晶で出来ているので、普通の弓のように『しなる』コトが出来ない。
それどころか、弦を掛ける溝も穴も無い。これじゃ矢を射てないよな。
―あ、そう言えば、弓だけで矢がどこにも無い。 やっぱり儀式用かなぁ…?
その俺達の疑問に、爺やさんが答えてくれた。
「これは魔弓なのです。」
「魔弓!? 魔法の弓…ですか?」
みんなが驚く中、爺やさんは続ける。
「握りのトコロに魔石が埋め込まれております。ソコから魔力を吸い取り、それを矢に変えて放つので御座います。」
爺さんはデヴィルラに水晶の弓を手渡す。デヴィルラはしげしげとソレを眺め、やおら射手の構えをとり出した。
すると、弓に一瞬で、光る『弦』が張られた!
「おぉ!?」
それを見た俺達は驚きの声を上げる。そのままデヴィルラが光る弦を掴み引き絞ると、…1本の赤い光の矢が装填された!
再び上がる感嘆の声。
「ふむ。今、余は炎系魔法をイメージしたので、炎の色の赤い矢が出たというワケじゃな。」
「流石は姫様。ご幼少の頃から賢くあられ、魔法に関しては誰よりもご理解が早よう御座いますな。」
そう言われて、ちょっと顔を赤らめるデヴィルラ。幼い頃の話は、やっぱりちょっと恥ずかしいよな。
「う、うむ。…しかしコレは、微妙なシロモノじゃのう?
持つ者の魔力がある限り矢は尽きぬから、弓矢として見た時は、便利と言えば便利かも知れぬが…。」
―ん?ちょっと、大賢者の遺産にしては…、何かあんまりな評価じゃない?
デヴィルラは俺のその質問に答える。
「いちいちこうして射手の構えをとるよりは、魔法を直接撃った方が、格段に、確実に早いからのう。」
「言われてみりゃ、そうか。」
爺やさんがそこに説明を補ってくれる。
「恐らく、太古の時代…、まだ魔法技術が未熟だった頃においては、魔法を撃ち出す際にこういう道具を用いた方が
『撃つ』イメージを持たせやすいという、至極真っ当な意味があったのではないか?と思われます。」
成る程。魔法のイメージを明確に持たせるためのサポートアイテムだったワケか?
「そうじゃな。一応、『狙う』コトで格段に命中率は向上するであろうが…、今の時代には無用の長物かのう。」
うーむ、折角こうしてご対面出来た大賢者の遺産も、今では役に立たないってコトか?
俺の元いた世界で言えば、みんながスマホ持ってるのに、グラハム・ベルの電話機を見せられる様なモンか。
この弓も、当時は画期的な最先端技術だったんだろうけど、時代の流れというヤツですか…。
「でも、大賢者様の遺産ですし、歴史的価値は十分にあると思います。」
「そうかそうか。ならば、言い出しっぺのプリスが、責任を持って管理すると良いぞ。」
「え!?私がですか!?」
デヴィルラはそう言って悪戯っぽく笑うと、プリスたんに魔弓を手渡した。
そして振り返って爺やさんに言う。
「どうじゃ、爺よ?構わぬであろう?」
「姫様の目の届くトコロにあるのでしたら、この老いぼれがお守りするより、遥かに安全で御座いましょう。
お父上の魔王様も、姫様達が所持されると聞けば何も言われますまい。」
爺やさんも何の戸惑いも無く了承してくれた。良いのかなぁ。かなり無茶言ってる気がするんだけど。(汗)
俺がそう尋ねると、爺やさんは笑って言った。
「良いのです。特段、魔王様からもここの遺産を死守せよとは仰せつかってはおりませぬ。」
「ふむ、父上も爺やを休ませる口実が欲しかっただけなのかも知れぬのう。」
「…魔族、意外とホワイト。」
魔弓を受け取ったプリスたんはちょっと戸惑った表情を浮かべたが、それでも持って行くコトを決心した様で、
その小さな背中に魔弓を携えるのであった。
キラキラと輝き透き通る水晶の弓は、プリスのブルーの髪とブルーの僧侶服に映えて、とても似合っている様に思えた。
さて、俺達がここまで来た本来の理由に戻ろう。
俺は、この辺りに詳しそうな爺やさんに聞いてみるコトにした。
「ワサビですか。それならば、この先の清流に沢山生えておりましたな。」
「そうですか!ありがとうございます!」
「ですが…、些か問題が御座いまして…。」
「は?」




