OVA04「GATT ロリ・カイザー彼の地にて、斯く戦えり」その1
前作『1クールで終わる異世界冒険』最終回のラストシーンからの続きになります。
前作はコチラ! https://ncode.syosetu.com/n5705ej/
サブタイトルは、私の大好きな異世界モノの作品のパロディとしました。
※内容にはパロディ元の作品は一切関係しません。単なる言葉遊びと捉えて下さい。
「え?…これは…。」
「ん?どうした、プリス?」
俺達は今、中央都市の冒険者ギルドにいる。
クエストを1つこなして、報告に戻り報酬金をもらったトコロだ。その報酬金を手にしたプリスが戸惑いの表情を見せている。
「どーしたっすかー?」
「えっと…、ここではちょっと…。人のいない場所でお話します。」
真面目な顔をするプリスを見て俺達は一様に頷き、この時間なら人のほとんどいないであろう資料室に場所を移した。
資料室の一番奥。薄暗い一角にテーブルを移し、そこにみんなで陣取る。
「さて、一体何があったのじゃ?」
「これです。」
プリスは先ほどもらった報酬金の中から100円玉を取り出して机上に置いた。
この世界は俺が転移して来た影響で理が変わってしまい、俺が元いた日本の文化が混ざったモノになっている。
住人が普通に日本語を話していたり、こうして日本円が共通貨幣として流通しているのもその一例だ。
で、その100円玉がどうしたんだ?
「―これ、偽造硬貨です。」
「何!?」
「まじっすか?」
プリスは顔を上げて俺達に言う。見ると、彼女のその瞳が緑色に光っている。
「私は精霊王の加護を受けて、ギルドでさえ把握していないこの世界全ての偽金の情報を得ています。
そして、こうして偽造をひと目で見破る能力も授かっています。」
プリスは幼少の頃、崖から落ちて瀕死の重傷を負い、生命の危ういトコロを精霊王に助けられた経緯がある。
そしてその代償として、モンスターに使われている鉱石を大地のマナとして還すべく、
鉱石や宝石、現金を上級神聖魔法で『溶かす』課金僧侶となったのだ。
その際、効率的に正確に鉱石や現金を稼げる様に、この偽造チェックの能力が精霊王から授けられたというワケだ。
「―確かなのか?」
「間違いありません。」
「うむ…、偽造硬貨や紙幣は今までも時折、出回っておったな。世の常と言えばそれまでであろうがのう。」
「はい。でも、今回のは今まで見たコトの無いタイプです。」
「新型、ってワケか?」
「精度が段違いです。…比べて見て下さい。」
そう言うとプリスは、もう1枚100円玉を出して並べた。…うむむ、見分けが付かんぞ!?
「正直、これまで出回った偽造硬貨は、お粗末な出来のモノがほとんどでした。
粘土に硬貨を押し付け型を取り、そこに粗悪な金属を流し込んで固め、表面を塗装する程度でしたね。
ですから彫刻が甘くなり、それ1枚だけ見るならまだしも、本物と並べてみれば一発でニセモノだと判る程度だったんです。」
「そうだったのか。」
マーシャが2枚をしげしげと眺め、手に取ったかと思うと手の中でシャッフルし出した。―そして左右の手に1枚づつ出して、
「…マスター、ホンモノどーっちだ?」
「いや、言われて見ても判らなかったんだぞ?こんなんされたら、もう完全に区別付かないわ!…で、どっちなんだ?」
左右の手の100円玉を交互に見て、マーシャは言う。
「…マーシャも判らなくなった。」
「おいおい、クイズにもなって無いぞ!?」
「こっちが偽造硬貨です。」
プリスはクスっと笑いながら、マーシャの右手の100円玉を取った。
「ほえー、さすっがっすねー。」
「うむ…そう言われてものう。我々には区別が付かぬモノを『こっちです』とされたトコロで
『はい、そうですか』としか答えようが無いのう。」
苦笑するデヴィルラ。ごもっともな意見だ。
「そうですね。それが今回この偽造硬貨の最大の問題点です。今まではその精度の低さゆえ、ごく少ない枚数だけ使って
お釣りをちょろまかす程度の使われ方しかしていませんでしたが、今回は一般人では見分けが付きません。
見分けが付かないというコトは、大量に氾濫して世界の経済を混乱させる恐れがあります。」
「そうだな。…で、どうする?」
「取り敢えずギルドに報告します。」
「しかしじゃな、見分けの付かぬモノを信じてもらえるかのう?」
「私は今までも何度か偽造硬貨や偽札の報告をして来ましたので、話は聞いてくれると思います。」
「うぉ、これまでも功績があったのか。」
「さっすがプリスっす!」
「…さすプリ。」
そんなこんなで、ココはギルドの応接室。
話は聞いてくれたものの、ギルド長に経緯を話してもにわかには信じてもらえない。
「確かに、プリスさんはこれまでも偽造貨幣の報告に協力して来て下さいましたが…これは…本当なのですか?」
言いたいコトは分かる。
本物かニセモノか見分けが付かない硬貨を見せられて「偽造です」と言われたら、誰だってこういう反応になる。
「そうですね…パトル、この100円玉、斬ってもらえます?」
「え?いいんすか?」
「プリスさん!ご自分が何を言っているか分かっていますか?貨幣を故意に変形・破壊するのは罪になるのですよ?」
「分かっています。でも、こうしないと納得してもらえないでしょうから。」
焦ってるギルド長。落ち着いたプリス。どうしたら良いかオロオロしてるパトル。
ここは俺がプリスを信じてやらなくてどうする。
「ボ、ボスー、どうしたらいいっすかー?」
「俺が責任を取る。パトル、やれ。」
「り、りょーかいっす!」
俺は卓上の100円玉を取ると、宙に放った。
シパッ!!
パトルの剣が飛ぶ。 真っ二つの半円になって落ちる100円玉。
うん。お見事。「またつまらないものをきったっす。」とか言うんじゃないかと思ったくらいに完璧な切り口だ。
その落ちた100円玉を拾って、断面を見せるプリス。
「見てください。中に粘土のセトモノが入っています。」
「―おぉ!?こ、これは…!?まさか、本当に偽造硬貨…!!」
やっと信じてもらえたか。本物の硬貨は中身まで同一金属の無垢で出来ているからな。
しかし、中に粗悪な粘土を入れて周りを精密な彫刻で再現したコーティングとか、この薄さの中で凄い技術だな。
「疑ってしまい申し訳ありませんでした。いやはや、これ程までに精巧だとは…。」
半分に切られた偽造100円玉を見つめ、舌を巻くギルド長。
そこにデヴィルラが良いツッコミを入れる。
「のう、ギルド長。偽造硬貨がこれ1枚だけというコトは有り得まい。」
「そ、そうですね。プリスさん、ギルドにある貨幣のチェックをお願い出来ますか?」
「もちろんです。」
そして、ギルドの金庫にある紙幣や硬貨をプリスの目で調べた結果、100枚ほどの100円玉が偽造だと判明した。
幸いなコトに、他の硬貨や紙幣には問題は無かった。
「ほえー、たくさんあったっすねー。」
「ふむ、ここのギルドだけで100枚か。これを多いと取るか、少ないと取るか、微妙じゃのう…。」
「確かになぁ。この中央都市全部のギルドや店、個人資産まで含めたら、どれ位になるんだろうな…。」
偽造硬貨が中央都市に一様にバラ撒かれたと仮定するなら、その数は数万枚になるかも知れない。
偽金は通貨の発明がされるとほぼ同時に生まれたと言われている。通貨の歴史は、イコール偽金の歴史でもあるのだ。
世間に偽金が氾濫すると、まずは通貨の信用が下がる。すると当然その貨幣価値も下がる。
それを放置すれば信用の無い貨幣は使われなくなり、物々交換の時代に逆戻りになってさらに貨幣価値が落ちて行く。
そうなるとその国家の経済的信用、治安的信用が下がるコトになり、貿易もマトモに出来なくなってしまう。
どんなに流通規模が大きい通貨であっても、ATMから偽札が出て来たり、一般の店で偽造チェックするのが日常化したり、
そんな通貨が世界的な信用を受けられるワケが無い。
偽金を恐れてカード決済やデジタル通貨に移行しようが、根本的な問題が棚上げなコトに変わりは無いのだ。
そんなコトを思っていると、
「ロリ・カイザー様。冒険者ギルドから依頼をしたいのですが。」
「え?」
ギルド長が俺の顔を真剣に見つめて言った。
「この偽造硬貨の出処を突き止めていただきたいのです。ここまで精巧な偽造硬貨は初めてです。
この中央都市の経済信用のためにも、放っておくコトは出来ません。」
「えーっと、今まで偽金を作っていた組織とか、心当たりは無いんですか?」
「幾つかはありますが、こんな精度の高いモノは連中には作れますまい。」
うーん、手掛かりが無いと探しようが無いよなぁ…。
と、デヴィルラがプリスに問い掛ける。
「のう、プリス。お主は精霊王から偽造の情報を得ておったのでは無いのか?」
「あ、そうそう、それだよ!プリス、何か分かるコト無いか?」
「えぇっと、それが…。」
プリスが及び腰だ。言い淀んでる。
「その、精霊王からの情報はいつも『夢のお告げ』として受け取るのですが、夢だけにかなりその時々でバラツキがあるんです。
ハッキリ詳細に見える時もあれば、曖昧で分かり難い時も…。」
「ふむ。その様子じゃと、今回は…、」
「はい。かなりボンヤリとしていて…。たった1つ、鮮明に見えたモノが…魔導巨人だったんです。」
「魔導巨人!?」
以前、魔導都市で戦ったアレか!
「まどーきょじんと100えんだまと、なんのかんけーがあるっすか?」
「やっぱりそう思いますよね。…私も、どう考えても繋がらないので、記憶違いかもしれないと思って言い出せなかったんです。」
余計な混乱を招きたく無かったのだろう。プリスは苦笑しながら答える。
そこにマーシャがずいっと身を乗り出してきた。
「…マーシャはプリスを信じる。」
「え?」
「…どうせ今、他の手掛かりは無い。だったらプリスの夢をマーシャは信じる。
プリスは自分を信じろ。マーシャが信じるプリスを信じろ。」
「マーシャ…。」
兄貴!じゃない、姉御!(汗)いや、実質90年生きてるマーシャはこの中で最年長だけどさ。
マーシャはいつもボーっとしていて口数も少なくて、マイペースに見えるけど、パーティのメンバーを誰よりも信じてる。
彼女の何気ないひと言がヒントになって来たコトも少なく無い。
「そうだな、俺も賛成だ。」
「ケインさんまで?良いんですか?私のこんな漠然とした夢で。」
「最強装備シリーズを探してた時はもっと情報少なかっただろ?各地の色々なダンジョンを、それこそ虱潰しに当たってた。」
「うむ、そうじゃったのう。何度ハズレても我々は決して諦めなかった。」
「それに比べたら、取り敢えずの方針が立てられるんだから、俺としたら十分だよ。」
「オイラもおっけーっす。」
「皆さん…ありがとうございます。」
ニッコリと微笑むプリス。うん、やっぱ幼女は笑顔が一番だ。
と、良い雰囲気のトコロにデヴィルラがひと言。
「ところでのう、主よ。」
「何だ?」
「なぜ故に『100円玉』なのかのう?」
「―あ、」
偽金を自分の目で見た衝撃ですっかり抜け落ちていたが、言われてみりゃそうだな。
「ボス、どーゆーことっすか?」
「考えてもみろ。作る手間と見付かるリスクが同じなら、500円玉の方が儲けが大きいだろ。」
「あっ!そーっすねー!…なんで100えんだまなんすかねー?」
獣人族はちょっとかしこさが足りない。そこもパトルの可愛さだけどな。(フォロー)
「偽金は大抵、最高額のモノを偽造しますよね。わざわざ低額の硬貨にする必要があったんでしょうか?」
プリスの指摘に俺達が悩んでいると、そこにギルド長が加わる。
「もしかすると、500円玉を偽造する前のテストなのかも知れませんね。500円玉の偽造は困難ですから。」
確かに。
500円玉は以前は銀色をしていたが、現行のモノは淡い金色になっている。
俺の元いた日本では、どこぞの国が自国の硬貨のサイズをわざわざ500円玉と同じに作って、ドリルで削って重さも同じにし、
貨幣価値10分の1の偽造硬貨を自販機で使って、釣り銭を盗るという事件が多発した。
それを受けて改正された500円玉は、500の『00』部分に潜像処理がされたり、厚み部分のギザが斜めになっていたりと
世界でもトップクラスの偽造困難な硬貨に生まれ変わった。
この異世界で流通してるのも、この新しいタイプの500円玉だからな。素人じゃ絶対に偽造は出来まい。
早い内にこの偽造組織を叩き潰さないと、偽500円玉や偽1万円札まで作られてしまうかも知れない。




