OVA03「ゼロから始めろ異世界飯屋」その5
俺達の複雑な思いを他所に、審査員達と審査委員長、そして親父さんの分のカツ丼が並び終わる。
今回は俺の分は無かった。…良かった、…本当に良かった…。あ、安心したら涙出てきた。
審査員達は、まず外観について語り出した。
「これは凄い!!米もカツもキラキラと輝いて、圧倒的な美しさだ!!」
「私は今、これを『カツ丼』と呼称して良いのか、非常に戸惑っています。まるで芸術品ですよ!!」
「加えてこの香りだ!あの薄味過ぎる割り下に、一抹の不安を覚えていた自分が恥ずかしい!!
「分かります分かります。どこまでも純粋で澄み渡る、一切の雑味も感じさせない香りです。」
審査委員長も唸っている。
「さても水が違うだけで、料理とはここまで化けるモノなのですなぁ…。
この一杯の丼を前にしていると、あたかも神の御前に居るかの様な、厳かな気分にさえなります。」
うっわー!!いや、もう、ほとんど正解してますよ、審査委員長!!
こりゃ、ココで『いやー、実はコレ、神様が沐浴した水なんですわー』とかぶっちゃけても、
「やはり、そうでしたか」位で済んじゃいそうな雰囲気ですわ。
『美食サークル』主宰の親父さんも、「ぬぅ…」と言ったっきり、息子の作った丼から目を離さないでいる。
「では、試食しましょう。」
店主も親父さんが作ったカツ丼を持ち、箸を手にする。いよいよ本当の親子勝負だ。
「「「「「いただきまーす!!」」」」」
ぱくっ
――『 真 理 』――
審査員達と親父さんが智見せしは、この世界の絶対不変の法則。
それはどんな力を持ってしても覆せない、崇高で畏怖すべき理。
全員が気絶もせずにそこにいる。
全員が目を見開き虚空を見る。
その見ている先は、天空の雲よりも遥か遠く、その彼方の月や星々よりも尚遠く。
―いつしか全員が涙を流していた。
「おぉおおおおおおお……、こ、これは…、これは…!!」
「マズイ…美味い…いや、味覚などという人間の矮小な感覚を超越している…!!」
そ、そんなにセブン・センシズ的な味なのか?
審査員達は次々に立ち上がり、空に手を伸ばして口々に叫び出す。
「ミヨちゃん!!」
「エミー!!」
「リンちゃん!!」
「ユカーーーーっ!!」
何だ何だ!?(汗)
「いきなり皆さん、どうしたのでしょう?叫んでいるのって、女の子の名前でしょうか!?」
プリスたんが困惑しながら俺に聞く。 いや、俺も分かんねーよ!!
あの親父さんも立ち上がった!!
「おぉ…我が妻よ…!!可愛い…あの時の…姿…!!」
空に伸びる全員の手。何か大切なモノを掴みたいが様に。
そして操り人形の糸が切れた様に、全員が一斉に倒れ、そのまま意識を失った。
「全く…幼女は最高だぜ…。」
誰かが最後に、そう呟いた。
日も暮れ掛かった料理対決の決戦場。そこに審査委員長の声が響く。
「今回の勝者は、ご子息の店主と致します。」
満場一致の盛大な拍手が沸き起こる。
そう、あの店主は勝ったのだ。
審査員達も、親父さんも、全員が喜びの表情で気を失っているその傍で、
店主は危ないトコロだったが正気を保ち、親父さんのカツ丼を倒れずに完食したのである。
俺は審査委員長に質問した。
「何が勝敗を決めたんですか?」
審査委員長は、濁りが取れた様な清らかな目で、こう答えた。
「この世の真理を垣間見たのですよ。」
「えっと…、具体的には、どういう…?」
すると、審査員達が次々に興奮して語り出す。
「私は、小学校で隣の席だったミヨちゃんに逢えました!…片想いでしたが。」
「俺はな、幼稚園の頃に好きだったエミたんを見たよ。」
「リンちゃん…、初恋の相手でした。6歳の時だったなぁ…。」
「小学校で私がいつもスカートをめくっていた子、ユカっち。可愛い子でしたよ…。」
え?…みんな、そんな幻覚…いや、過去の記憶?を見ていたのか?
じゃあ、親父さんが見たのって…、
「私と妻は、幼馴染だったのだ。」
親父さんは憑き物が取れたかの様なサッパリとした表情だ。
「夏の川で良く一緒に遊んだモノだ。水着も無しで、二人とも裸になって泳いだ。
その時の日焼け跡が眩しかった…。最高だった…。思えばあの時に、私は妻を好きになったのだ…。」
そこでプリスたんが、ポン!とジト目で手を叩いた。
「分かりたくはありませんでしたが、分かってしまいました…。幼女姿の神様の沐浴された水を使ったのが原因で、
それで皆さん、幼い頃に好きだった女の子の記憶を見たのでは無いでしょうか…?」
うわぁ。(ドン引き)
更にデヴィルラが補足する。
「しかも、我々も入浴しておったからのう。人族、獣人族、魔族、エルフ、そして神と、
言わば、オールラウンドに対応出来る『幼女エキス』がこの様な現象を引き起こしたのであろう。」
「ソコは触れないようにしておいたのに、何で話しちゃうんですか!!」
審査員達は、まだ幼き日々の思い出話をニコニコと続けている。
「えーっと、つまり、みーんなちいさいおんなのこがすきってことっすかー?」
「…ロリコン、皆兄弟。」
コイツラが辿り着いた『真理』とか『絶対不変の法則』って、そういうコトだったのか…。(汗)
親父さんが、息子の店主の前に立つ。
「完敗だ。」
「え…?」
「お前の料理は、遂に味覚という概念を超えた。味でどうこうしようとしていた私は、
所詮、味覚に囚われ、小手先だけの料理に終わっていたのだと、そう気付かされた。」
「親父…。」
「この料理は『料理』という…否、『食』という枠に収まらない、高位なる次元に我々を導いてくれるだろう。」
何か、神様を介入させちゃったせいで、とんでも無いステージに登ろうとしてるぞ、この2人!!(汗)
だが、店主は今ひとつ納得出来ない顔だ。
「でも…、アンタは母さんを捨てた!自分の料理のための踏み台にした!!」
「それは違う。」
「!?」
「料理だけに明け暮れる私に嫌気を生じ、私が妻に捨てられたのだ。」
親父さんは苦笑いしながら言った。
「そんな…!?」
「説明する間も無く、お前は早合点して飛び出してしまったからな。
ソコからは私の言うコトなど、一切聞く耳持たない状態になっていただろう?」
「あ、あああ・・・。」
何だよ、勘違いで親子ゲンカしていただけだったのかよ!!
「ま、こういったボタンの掛け違いは、世の常じゃのう。」
「でも、これならなかよくできそーっすね!」
料理対決は終わり、俺達は宿へと戻った。
一息付いていたトコロに神様が現れたので、今日あったコトを報告する。
神様は終始、小さな微笑みを絶やさずに俺達の話を聞いてくれた。
で、俺は思い切って、ずっと気になっていた『踏み込んだ質問』をする。
こうして『神様の水』が『神々の住まう場所』以外でも使えるようになった件に関してだ。
「あのー、神様って今回、こうなる様に手伝ってくれた、ってコトで良いんですかね?」
『全ては終わった事。結果がそう取れるというだけの事でしょう。』
うーむ、はぐらかされてるなぁ…。
「でも、あの水を店主にあげちゃったコトって、神様の介入に当たらないんですか?」
『世界がそれで変わるのであれば、そうなるでしょう。―しかし、』
「―しかし?」
神様はニコッとして言う。
『美味で無い物が、人の歴史に残る道理はありません。』
俺は呆気に取られる。まるで狐につままれたかと思った。何ですか、それ?
プリスたんも神様に聞く。
「つまり…、何と言いますか…神様は今回、人の世で『遊んで』おられた、というコトでしょうか?」
『面白かったですよ。』
凄い俗物的な感想を口にする神様。
思えば、風呂場に神様が現れたのも、タイミング良過ぎだったもんなぁ。(汗)
全ては、仕込みイベント『暇を持て余した神々の遊び』だった、ってコトなのかぁ…。
ドドドドドドドドドドドドドド……
突然、宿屋が揺れ始めた。 じ、地震か!?
あ、神様が微笑んで消えた!?
バターーーン!!
勢い良く開く部屋の扉。
そこには何と、あの店主とその親父さん。
「な、何ですか!?いきなり!!」
「ロリ・カイザー殿!頼みがある!どうか息子に提供した水を、もう一度もらえないだろうか!?」
「ハァ!?」
神様の沐浴水をまた欲しい!?
店主と親父さんは興奮した様子でマシンガントークを開始する。
「あれから親父と和解してな!それで今日のコトをあれこれ話し合っていたんだが、
何を置いてもやはり『あの水』に話題が集中しちまってよ!!何でも親父が言うには…、」
「うむ。今日の息子の出したカツ丼だが、良く良く思い返し考察して分かったコトがある。
見えた幼き日の妻の姿が、今ひとつ鮮明さに欠けていたと感じたのだ。」
「はぁ…。」
「原因は何か?と、息子と二人で考え、至った結論はこうだ。」
「つまりよ、米と小麦と豚と鶏と玉ネギとカツオと昆布と醤油なんだ!!」
「え?ソレって、素材全部じゃないか?」
何を言ってるのか分からないんだが。(汗)
そこにプリスたんが、今日何度目かの手をポン!と叩いた。
「分かりました!素材全部をイチから『あの水』で育てよう、というコトですね!?」
「その通りだ!!」
「素材である米や麦や大豆、玉ネギの栽培、そして豚や鶏の飲み水や飼料、更にはカツオや昆布の生育にも、
全ての素材の初期段階からあの水を使えば、今日のモノよりも高品質で味にもまとまりが出せる。
そうなれば更に鮮明で、疑似体験とも言える様な記憶が蘇るハズなのだ。」
イヤイヤイヤイヤイヤ!!!もう『あの水』は入れ替えちゃいましたよ!!
今、あの風呂場の浴槽に溜まってるのは、ただのお湯ですから!!
これ以上、幼女が入ってた風呂の残り湯で喜ぶ人種を、俺は増やしたく無い!!
「頼む!ロリ・カイザー殿!!」
「あの水をくれ!!」
うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!
「親子仲良く、出て行けやぁあああああああああーーーー!!!!」




