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OVA03「ゼロから始めろ異世界飯屋」その4



「ほんとーにこれ、まずいごはんをつくってるところなんすかねー…。」


呆然と呟くパトル。言いたいコトは良く分かる。

何も知らずに見れば、百人が百人『最高に美味な料理対決』にしか見えないもんな。


いよいよフィニッシュだ。

同時に完成させては後から試食する方が不利なので、後攻の店主は仕上げ前で手を止める。

先攻の親父さんが、流れるような手さばきで次々にカツ丼を並べて行く。

―ん?審査委員に審査委員長を足しても、丼が2つ多いぞ?

不思議そうな顔をしていた俺を察してか、店主が説明してくれた。


「ありゃ、1つは俺が食う分だ。」

「アンタの分?」

「あぁ。審査委員のジャッジはあくまで参考意見に過ぎねぇ。元々が好き者の集まりだからな。

この試合の根本的なルールは、互いに相手の料理を食って、残したり、完食前に倒れたり、気絶したら

『相手の料理のマズさを認めた』ってコトでそいつの負けになる。」

「恐ろしくハードじゃねーか!!完食なんて出来るのかよ!?」(汗)


そう言われてから見ると、静かに湯気を立てているカツ丼のその静寂さが凄まじく不気味に思えてくる。


「しかし、2人で食い合うのはコチラの試食が終わった後の、最後のハズだ。

親父のヤツ、『冷めても破壊力には影響しない』という自信の表れか…?」


成る程なぁ。こうして何気ない一挙一動で心理的な揺さぶりを掛けるのも勝負のウチか。

あれ?じゃあ、残りの丼1つは誰の分なんだ?


「―それはロリ・カイザー殿、貴方の分だ。」


―あれ?今、何か変なコトが聞こえた様な? 幻聴?幻聴だよね、ハッハッハッハ。

いや、待て待て待て待て!!!!!!

親父さんがとんでも無いコト言いました!!幻聴であって欲しいと願うが、現実だ!!


「お、俺…の!?」

「そうだ。先程からそちらから漂って来る香り。どこで手に入れたかは想像が付かぬが、

使っている水が、この世のモノとは思えぬ尋常ならざるシロモノであるコトはすぐに判った。」

「う…む、」

「愚息にそんな水が安々と調達出来るワケも無し。ロリ・カイザー殿、貴方の助力あってのコトと見た。」


うわ、バレテーラ!!(汗)


「気にするコトは無い。別にルール違反では無いからな。しかし、一旦協力したからには、

この調理場に立つ者と同じ資格があると判断する。ならば、貴方にもこの場で一膳振る舞わずして何とするか。」


ご高説、ごもっともでございます!!!(泣)


うわぁあああああああ…、俺にも食えってか?あのカツ丼を!?

店主を上回る『世界一まずい店』の看板を頂く、親父さんのカツ丼をですか!?


親父さんの言葉を聞いた俺の胃からは、食う前から既に酸っぱいモノが込み上げて来る。

額からは『人間ってこんなに汗かけるんだね!』ってぐらいに、暑くも無いのにダラダラと体液が流れる。

手は小刻みに震え、息は乱れ、過呼吸を起こしそうだ。


―と、そこに少女の声が響いた。


「わ、私が!…私が、ケインさんの代わりに…食べます!!」


プリスたんが決死の表情で調理台に詰め寄った。

そしてソコへ、


「プリス、お主だけに良い格好はさせぬぞ。…余が第一婦人として最初に食そう!!」


デヴィルラまで妙な宣言をして来た!?


「誰が第一婦人ですか!!デヴィルラは下がっていて下さい!!」

「お、オイラがたべるっす!!ボスをぎせいにはできないっす!!」

「…マーシャが行く。マーシャなら、何とか死は間逃れるハズ。」


次々にみんなが立ち上がる。俺のために真剣な表情だ。

―それを見て、俺の心の迷いは晴れた。


「みんな、ありがとうな。…だが、コレは俺が食う。いや、俺が食わなきゃいけないんだ!」

「ケインさんっ!?」


俺の決意を聞き、フッと笑みを浮かべ頷く親父さん。


「流石は、勇者…。」




俺の前に鎮座する一杯のカツ丼。

かつて、これほどまでに巨大で険しい壁に思えたモノがあるだろうか。

ガキの頃、食事で嫌いなモノを残し、それを食い終わるまで席を立つなと言われた時以来…。

いや、アレよりも遥かに高くそびえ立つ、越えるコトなど不可能だと思える壁だ。


「それでは皆様、試食いたしましょう。」


審査委員長がみんなを促す。

バンジージャンプで、係員にカウントダウンされてる気分だ。

ええい!こうなりゃヤケだ!!どうとでもなりやがれ!!


「「「「「いただきまーす!!」」」」」


パクッ


「えっ!?何コレ!?メチャクチャ美味s


 ブ ツ ン






「……さん……ケインさん!?……大丈夫ですか!?」


「………う…ん?」


―誰かが俺を揺さぶってる。

それに起こされて目を開けた俺が見たモノは、抜けるような青空。

それと…

俺を心配そうにのぞき込んでいる、

広がる青空に負けないほどの綺麗な青い髪をした少女だった。


「あぁ、気付かれました?よかった…。」


その少女はホッとした表情で俺に微笑みかける。


―あれ?このシチュエーションって、俺が初めてこの世界に来た時の…?


俺は理解した。


「あぁ、そうか…。俺は死に戻りをしたのか…。」

「ケインさん!何を言ってるんですか?しっかりして下さい!」

「しかし、一気にスタート地点まで戻るとは、厳しいな…。」

「ケインさん!ケインさん!!!!」


うっ!?


青髪の幼女に更に激しく揺さぶられ、俺の意識は2度目の覚醒をする。


「え?ぷ、プリス!?」

「ケインさん!…今度は本当に大丈夫ですか?」

「ん…、あぁ、大丈夫…。」


一体、何があったんだ? 確か、俺は…えっと…、そうだ、料理対決があって、そして…、

頭を振りつつ上体を起こす。

―そこには、想像を絶する惨状が広がっていた。


テーブルに頭がめり込んでいる者、何故か上半身の服が破れている者、時間停止でもした様に身体が固まっている者、

5メートルくらい後方に倒れている者、黒かった髪が真っ白になっている者…。


何だコレは…。『フィラデルフィア計画』の現場にでも出くわしたのか!?(汗)


審査委員も審査委員長も、俺を含めて全員が意識を失っていた。

パトルが涙目で俺にすがり付く。


「ボス!いきてるっすか!?」

「何とか、な…。」


これが『美食サークル』主宰、『世界一まずい店』の親父さんの実力…!!

だんだん記憶が戻って来たぞ…。カツ丼を食ったんだ。それで、…そうだ!!


「凄く美味かったんだ!!本当に、こんなカツ丼があるのか?って位に美味かった!!

―でも、次の瞬間に……駄目だ、そこから何も覚えていない…。」


狼狽している俺を見て、親父さんが言う。


「皆さんが目覚めるまで、解説でもしよう。」

「一体、このカツ丼は何だったんですか?」

「ロリ・カイザー殿は『錯覚』というモノをご存知か?」


錯覚?あぁ、同じ長さのハズの線が

『<――>』と『>――<』とで長さが変わって見えたりするヤツか?


「この料理の基本はソコにある。」


親父さんは静かに歩き出し、続ける。


「例えば、かき氷のシロップも、イチゴ、メロン、レモン、と色々あっても、使ってる材料はどれも同じモノだ。

それでも人の脳というモノは、着色料と香料を変られてしまうとアッサリと騙される。

『コレは赤いし匂いもイチゴっぽいから、イチゴの味に違いない』と、錯覚してしまうのだ。

そしてこのカツ丼も同じく。いかにも美味しそうな見た目と香りを演出するコトで、

誰もが『このカツ丼は美味しいに違い無い』と、経験則からそう思い込んでしまう。」

「それは、アンタの息子さんのカツ丼を食べた時にも感じたよ。騙された、ってヤツだ。」

「そうじゃ。確か、その見た目と香りを保てるギリギリのトコロで、調味料の配分をワザと崩すのであったな?」


デヴィルラが俺の傍に寄り添って、親父さんに言う。


「うむ。だが、それで行き着ける『場所』には限界がある。そこで私は、更にもう1つの錯覚を取り入れるコトとした。」

「まさか、ソレって…一瞬、凄く美味いと感じた『アレ』か!?」


親父さんは頷いて答える。


「視覚や嗅覚もさるコトながら、味覚を最も狂わせるモノは、やはり味覚なのだと私はそう結論した。

その結論に基き、『超絶にマズイ』カツの表面に、極々薄い『超絶に美味しい』層を重ねたのだ。」

「何だって!?」

「ここにいる皆は初見の客とは違って『これから不味いカツ丼を食すのだ』というコトが分かっている。それを逆手に利用するのだ。。

これにより、このカツ丼を口にした最初は、表面の『見た目通りの超絶に美味しい』刺激を舌に感じる。

―だが、次の瞬間、」


それを聞いて、プリスが恐る恐るポンと手を叩く。


「分かりました…!次の瞬間、『超絶にマズイ』味が一気に広がり、その味の落差で神経が混乱する…。

それは、見た目や香りから来る錯覚だけとは比較にならない程に大きいダメージを与える、というコトですね?」

「うむ。ロリ・カイザー殿のお仲間だけのコトはある。正確な解析、その通りだ。」


親父さんは続けて語る。


「これぞ私が創造した『上げて落とす』調理法。 名付けて『ヘヴン・アンド・ヘル』。」


深さ100メートルの崖下に突き落とされるにしても、海抜0メートルの地表から落とされるのと

エベレスト頂上に突き上げられてから一気に叩き落とされるのとでは、まるで威力が違う。

天国と地獄。アレは正にその言葉の通りの経験だった。

現に、マズイと感じるヒマすら無く、俺の意識はブチッと切れていたもんな…。(汗)


振り返ると、店主が親父さんをキッと見据えて立っていた。

今までの驚天動地の説明を聞いても、表情に何の変化も見せていない。


「流石は親父だ…。だが、俺は負けねぇ。」

「お前ごときに何が出来る?お前が料理を語るなど千年早いわ。」


周囲からゴソゴソと音がしている。ようやく審査委員達が地獄から戻って来た様だ。


「うぅう…、いやぁ、今回も強烈でしたなぁ…。」

「この意識の途絶にはキレがありましたね…。満点じゃないでしょうか。」

「私なんか、まだ足が震えてますよ。ハッハッハ…。」


何言ってんの?この人達!?

マズイ飯食って、気絶して喜んでるよ!?審査員はドM揃いなのか!?(汗)

あ、審査委員長も起き上がって来た。


「おぉぅ…、いや、素晴らしいお手並みでした。川岸の向こうに花畑が見えましたな…。」


多分それ、見えちゃいけない景色ですよね!?

もうお歳とは言え、もっと色々大切にして下さいよ!!


「さて皆さん、席に戻られましたかな?それでは息子さんの方の試食に移りましょう。」


うぉおおおおおおおおおおおーーーーーい!!ちょっとー!!休憩入れずに、もう食うの!?

みんな、生命惜しく無いの!?(汗)俺がリーダーだったら『いのちだいじに』だよ!!


そんな俺の心の叫びを全スルーするかの様に、審査員達は皆、ウキウキとした表情で次の試食に備えている。

店主もとうに仕上げに取り掛かっており、次々に丼がテーブルに並んで行く。

俺達はそれを、呆然と見守るコトしか出来なかった。


「思えばこの勝負、これで6回目とか言っておったのう…。」

「この平然とした空気が、この大会の暗黙の流れなのでしょうか。」

「もしかして、みんな、きぜつするのがたのしいんじゃないっすかね?」

「…駄目だコイツラ…早くなんとかしないと…」


プリス達も一種異様なモノを見る目で…と言うか、半ば呆れた表情(うち1名、無表情)で成り行きを見ている。

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