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OVA03「ゼロから始めろ異世界飯屋」その3

『冗談です。』

「神様が冗談言うんですか!?」


もう俺、神様に弄ばれて無事死亡。

浴槽に5人の幼女とか、何ですかこの天国。


「どうされたんですか、神様?」

『貴方達は神々の地について話していましたね。少し気になった事があって来たのです。』

「うむ、神のおる地に赴き、水を汲みに行くかどうか話しておったのじゃ。」

「でも、とおすぎてむりみたいっす。」

「…それに、その水を利用しようと考えてたから、アウトだろうって。」


みんなの話を聞いて頷く神様。そして静かに言う。


『それだけではありません。例え時間が許しても、野心や欲望が無くても、

神々の地から『その水』を外に持ち出す事は不可能です。』

「不可能?」

『外の地に持ち出せばその瞬間、私達神々の加護は無くなり、普通の水になるのです。』

「うわ、詰んだ!!」


こりゃ八方塞がりだなぁ…。あの店主のコトは可哀想だけど、どーしよーも無いもんなぁ。


「―ん、あら…?」

「? どうした、プリス?」


湯船の中で目をパチクリするプリスたん。


「―体力と魔力が回復しています!」

「そりゃ、お風呂に入ってリラックスすれば、そうなるだろ?」

「いえ、違います!全回復してるんです!」

「え!?」


お風呂に入っただけでフルチャージ!?デヴィルラ達もその変化に気付いた様だ。


「確かに、高純度のマナが身体に流れ込んでおる…。」

「おんせんきぶんっす。いやー、おんせんよりきもちいいっす。」

「…コレって神様の、」


全員の視点が神様に集まる。神様はニコッと微笑み、


『今、この浴槽に満たされた湯は、わたしが沐浴している水なのですから。』

「それって『神々の住まう場所』のあの水と同じ…!?」


おもむろにマーシャが湯船の湯をすくい、ゴクゴクと飲み始めた。


「おい、ちょっと!汚…く無いのか? 神様が浄化しているなら…?」


マーシャはそのテの中の湯を飲み干すと、「ほぅ…」と息をつき俺に言った。


「…マスター。このお湯、美味しい。あの水と同じ。」

「マジ!?」


思わず俺も浴槽に駆け寄り、片手でお湯をすくい、ひと口含む。


「!!…美味い!!」♪テーレッテレー!♪(イメージ)


雑味も無い、けがれも無い、どこまでも純粋で透き通っていて、

淡雪が溶けるかの様な優しい口当たり、それでいて後味を残さないキレのある味。

そう、キラキラと虹色に光る湯船は、今ここで神の泉になったのだ!!


「あ、あの…ケインさん…、」

「ん?」


見れば、プリスたんが湯で紅潮した小さなお尻を振りつつ、モジモジしながら俺に小声で言う。


「その…私達が入ったお湯を飲まれてるとか…、は、恥ずかしいです…。」

「!?…あぁっ!!」


プリスに言われて我に返った!! 何やってんだ俺!? 

幼女5人の入った風呂のお湯を美味そうに飲んでるとか、変態度メーター振り切ってるだろ!!(汗)

いや、でも本当に美味しいんですよ!!信じて下さい!!


「待って!何も疚しいコトしてません!無実です!」とばかりに、俺はすがるような目で神様を見る。

そんな俺の必死の訴えも完全スルーして、神様は話し始めた。


『これから数日間、私はこの宿に滞在しましょう。』


なっ!?


『これは貴方達の監視です。』

「監視!?」

『貴方達は自分達の欲望のために『神々の住まう場所』に赴こうとし、そこの水まで盗ろうと考えました。

これは許される事ではありません。』

「いや、しかし神よ。それは間に合わんし、そもそも持ち出しも不可能だというコトで決着したではないか?」


すると、神様は俺の方を見て言った。


『貴方の様なこの世界の住人では無い不確定な存在がいる限り、どんな奇跡が起こるやも知れません。

現にあの魔導巨人も、貴方以外では触る事も叶わなかったのです。』


確かに俺は、この世界ではイレギュラー扱いなワケだけどさぁ。

そんなにホイホイ奇跡起こせる程、別に凄い男じゃあ無いですよぉ…。


『そこで、神の地の水を使おうとした、貴方達の言っていた親子対決が終わるまで、

貴方達が再び『神々の住まう場所』へと行かない様、この目で監視しましょう。』


うわぁー、信用されて無いなぁー、俺達…。

まぁ、神様から見たら人間なんて、みんなそんなカンジの存在なんだろうかなぁ…。

俺達、気軽に考え過ぎて神様を怒らせちゃったのかな…。


「んー、つまり…、」


と、場の空気が悪くなった中、プリスたんが人差し指を顎と唇の間に置いて、上目遣いで喋り出す。


「それって、料理対決が終わるまで、この中央都市が『神々の住まう場所』の派出所になる、というコトですよね?」

「まぁ、そうじゃな。わずか数日とは言え、神が居る地になるのだからのう。」

「だとしたら、この浴槽のお湯って、中央都市の中ならずっと神様の加護を受け続けるワケですよね?」

「「「「―あ!!」」」」


俺達は一斉に神様の顔を見る。 神様は素知らぬ涼しい顔で言う。


『私は貴方達が『神々の住まう場所』へ行かない様、監視しているだけです。

 この都市の中の事までは、私の預かり知る所ではありません。』


うおおお!何という詭弁だ!!

俺達を監視するために、料理対決が終わるその日までココに滞在するって、

このお湯が、それまで神様パワーを維持出来るってコトじゃねーか!!

てっきり逆鱗に触れて、怒らせてしまったのかとヒヤヒヤしたよ。


『それでは、何かあればまた現れましょう。』


神様の身体が光り出す。 ―と、俺に向かって、


『言い忘れました。』

「? ―何ですか?」

『私は、怒っていませんよ?』


そう言って微笑むと、神様は光となって湯船から消えた。

跡には、加護が維持されたままの湯がキラキラと輝いている。


「くっそー!やられたーー!!神様ツンデレかよ!!―いや、デレツンかよ!!」

「何じゃ、神も話が分かるではないか。」

「このおゆなら、かてるっすよね!」

「…勝てないハズが無い。マーシャ達のダシも入ってる。」

「いや、それ生々しいから!!」

「神様も、色々と考えて下さっているんですね…。」


と、兎も角、待望の世界最高の水は手に入った。

早速、あの店に届けてあげよう。




そして決戦当日。

天気も良いコトで調理場は屋外に設置され、まるで『料理の鉄◯・TVスペシャル』みたいな雰囲気になってる。


あの店主が立つ調理場の対面に、同じ設備の調理場。そこに静かに立つ初老の男こそ、店主の父親だ。

しずかなること林の如く』とは、正にこの父親のコトだな。

店主の闘争心がこっちにまでピリピリ伝わって来るのとは対照的に、落ち着いていて明鏡止水ってカンジだ。


「店主、気持ちは分かるけど落ち着いた方が良い。俺が言うのも何だけど、雑念は料理に出るんだろ?」

「あ、あぁ。すまねぇ。…そうだな、もう、大丈夫だ。」


俺達はここまでの縁もあって、店主のセコンドとして着くコトになった。

まぁ、技術的な手伝いは出来ないけど、傍に誰かいてくれるってのは安心感があるしね。


静々と審査委員が入場して来る。

聞けば、著名なグルメマニアや吟遊詩人に芸術家、元大神官に元ギルド長と

各方面ではとても有名な人物が揃ってるらしい。…この世界にいまだ疎い俺にはサッパリなのだが。


審査委員長が中央に立つ。

細身で長く白いヒゲをたくわえた、いかにもまとめ役のご老人といったカンジだ。

周りの審査委員達に一礼をして、厳かに式辞を述べ始める。


「今回で6回目を数える料理対決。マズさの奥に料理の真髄を求める両人のひたむきな生き様。

それが今日も私達を感動させ、味覚の深淵を体験させてくれる様、期待するモノであります。」


審査委員全員から拍手が起きる。

プリスたんがお義理のように冴えない音の拍手をしながら、顔をしかめて呟く。


「『マズさ』という単語さえ無ければ、とても良いスピーチだと思うのですが…。」

「同感。」


これから死ぬほどマズイ料理を食おうって言うのに、何で笑顔で盛り上がってるんだ?この審査員達は。(汗)


「今回のメニューはカツ丼。では、調理開始!!」


審査委員長が宣誓し右手を上げると同時に、店主とその父親が猛然と動き出す!


「速い!!」


まるで銅像のように動かず立っていた父親だが、一転、鬼のような形相となり、

周りにつむじ風が起きるのではと錯覚する様なスピードで調理を始めた。

さっきとは打って変わって『侵掠すること火の如く』だな。


「凄いのう。あれほどの動きなのに、どこか典雅じゃ。」

「…店主以上に動きに無駄が無い。だから小麦粉さえ1粒も周りに散らない。」


確かに、カツの肉に着けた小麦粉の余分な粉をはたいて落とす時も全然、…いや、アレは…


「―って言うか、粉をはたき落としていない!?」


プリスがポン!と手を叩く。


「そういうコトですか!最初から肉に着ける量の小麦粉を計算し尽くしているんです!!

だから『余分な粉』が出る道理が無い、というワケですね!!」


そんな馬鹿なコトがあり得るのか!?

審査委員長が静かに言う。


「お嬢さん、よくぞお気付きになったのう。この勝負、既に人智を超えた領域に入っておるのじゃよ…。」


寿司の達人は、持ったネタに合わせて手がひとりでに、最適な量のシャリを一発で掴み取れると聞く。

それは毎日欠かさず何百、いや何千と寿司を握り続けてようやく辿り着けるであろう境地。

この父親、伊達に美食を極めていない。人外へと踏み込んだ『修羅』なのだ!


「なんだかわからないけど、めちゃくちゃすごいってことはわかるっす!!」


一方、店主も負けてはいない。

今、正に焼きあがったパンを、その場で素早くパン粉にしている。

それを見た審査員達から色々な声が上がる。


「何という素晴らしい香りだ!!これはパンだけでも逸品となるレベルだ!!」


そりゃあ、店主には神様特製の水を提供したからな。

勿論、出処を言うワケにはいかないので「兎に角、騙されたと思ってコレを使ってみてくれ」とだけ伝えた。

論より証拠、素晴らしい水だと分かれば、店主もそれ以上の詮索はしなかった。


「焼きたてのパンを使うとは…。これは香ばしさが格段に違うね!」

「いや、しかし、蒸気が抜け切らない。これでは仕上がりがベショ付いてしまうのでは?」

「私はそうは思わない。この屋外で調理するコトを踏まえ、すぐ乾燥してパサ付くのを防ぐためと見た。」

「これは手際の良さが鍵となりますな…。」


スゲェ!熱い解説ありがとうございます。

何か、こっちまで無駄にテンション上がって来るぜ!


そう言ってる横では、羽釜から湯気が立ち上り、ふうわりとした米の香りが漂い始める。

当然、コレも神様の水で米を研いで、神様の水で炊いている。


向こう正面を見れば、店主の父親が調理の手を一瞬だが停めて、こちらを凝視していた。

恐らくこの香りで『今までの飯とは違う』と、察したのだろう。


「主よ、あの父親の顔を見たか?コレはなかなかに良いプレッシャーを与えておるのではないか?」

「あぁ。だけどあの親父さんは只者じゃ無いからな。余計に闘争心に火を点けてしまうかも知れない…。」


両者ほぼ同時に、割り下の準備に取り掛かる。

ここでも店主が使うのは、神様の水だ。

店主曰く、余りに水のポテンシャルが高いので、土壇場でレシピを変えたそうだ。

それはめざとい審査員達にも判った様で、ちょっとしたざわめきが起こった。


「そんな!?調味料が少な過ぎる!?」

「あれではカツの味が勝つどころか、仕上がりが水っぽくなってしまうぞ!?何を考えているんだ!?」

「いえ、敢えて薄味にして、素材の味を引き出す作戦かも知れませんよ。」

「馬鹿な!それなら出汁まで控え目だというコトの説明が付かん!!」


そこに審査委員長が、言葉を1つ1つ置くように語る。


「余程…、水に自信があると、見受けられるな…。」


うわ!?アッサリ見破りやがった!!やっぱり審査委員長の名は伊達じゃ無いってコトか!?

それを聞いて、尚もザワ付く審査員席。


「まさか!北端の山の湧き水を!?」

「いや、無理だ!北端の山はもう冬だぞ。全てが凍り付き、掘り起こすコトも敵わん。」

「でも、対する『美食サークル』主宰は、確かその水を使っていると聞きましたが…?」

「あぁ。夏に北端の山から採取した水を保存するために氷魔法を掛け続け、今日の日に取っておいたそうだ。」

「それだけのために!?うぅむ…、何という手間と金を掛けているのか…!!」

「普通の店では決して出来ないコトですな。ならば、あの店主の水は一体どこから…?」


審査員達もココに列を並べるだけあって、とんでもない料理知識の持ち主ばかりだ。

つーか、親父さんもそこまでして水の保存に努めていたのか!!こりゃ本気も本気、大本気だな。

そんな白熱した様子を見て、パトルがぼそっと言った。


「ほんとーにこれ、まずいごはんをつくってるところなんすかねー…。」


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