OVA01「異世界は島ーと本とともに。」その1
前作『1クールで終わる異世界冒険』最終回のラストシーンからの続きになります。
前作はコチラ! https://ncode.syosetu.com/n5705ej/
サブタイトルは、私の大好きな異世界モノの作品のパロディとしました。
※内容にはパロディ元の作品は一切関係しません。単なる言葉遊びと捉えて下さい。
『皆さんにお願いしたい案件があります。』
窓の外から現れた神様は、何食わぬ表情で俺達に言った。
ここは中央都市の宿。
今では俺達のパーティーが長期滞在して、アパート的感覚で『暮らして』いる。
普通、長期の宿泊は1ヶ月が限度だ。何故なら、冒険者はクエストに出たら何日間も部屋を開けるし、
最悪、事故や戦闘で帰らぬ身になるコトだってあるからだ。
だけど俺達は例外。
この世にたった1人、神様から賜った『ロリ・カイザー』の二つ名で箔が付き、
魔導都市で起きた大決戦の一件で、知名度と信頼度だけはウナギ登り。
一年間まとめての先払いを、宿の女将さんの二つ返事で了承してもらったのだ。
女将さんとしても、知名度の高い冒険者が滞在しているのは良い宣伝になるらしく、
結構と繁盛しているのか、食堂で頼んだ食事にも時々サービスを付けてくれる。
神様も来てるとなったら、この宿、もっと有名になるだろうなぁ…。
「ま、まぁ、立ち話も何ですので…。」
俺は神様に椅子を勧める。
つーか、立ち話以前に、そのデフォとなった全裸幼女の姿が、ちょっと刺激的でアレなんですが。(汗)
プリスはお茶を淹れてる。 …神様って、お茶飲むのかな?お供え的なモンかな?
部屋の椅子は俺達の分しか無いので、俺はベッドに腰掛けるコトに。
「えっと、案件とは何でしょうか?」
『モンスター退治をお願いしたいのです。』
「モンスターですか?だったら、俺達よりランクが上の冒険者に頼んだ方が…、」
『貴方達以外では倒せません。 いえ、正しくは『貴方以外では』です。』
「俺ですか!?」
「うひょー!ボス、かみさまにたよられるなんて、かっこいいっす!!」
いやいや、そんなコト無いってば!買いかぶり過ぎですよ!
つーか、何で俺だけしか出来ない前提!?
「神よ、それはもしや、主が異世界から来た者だというコトと関係するのであろうか?」
デヴィルラの問に神様はコクリと頷くと、
『これを御覧なさい。』
俺達が囲むテーブルの中央に光の玉が現れ、その中に景色が見えてきた。
―どこかの荒野だろうか。草木も無い荒涼とした地面ばかりだ。
そこに何かうごめくモノが。 段々それがアップになって行き、細部まで見えるようになり…って、
うわ、コレって…!?
「何でしょう?これはモンスターですか!?」
「デヴィルラー、これ、しってるっすかー?」
「いや、知らぬ。過去に我が城にある『モンスター名鑑』を読破しておるが、この様なヤツは見たコトが無い。」
「…シシライオンに似てる。でも違う…。」
神様が映し出した画像。それは獅子の頭と身体に、肩から出た山羊の頭、そして蛇の尾。
間違い無い。 コイツは―
「キマイラ…。」
「え!?ケインさん、このモンスターを知ってるんですか!?」
「知ってるも何も、超有名モンスターじゃないか。」
キマイラと言えばギリシア神話のモンスターで、色々なRPGでも良く出て来る常連モンスター筆頭だ。
あれ!?みんな知らないの?キマイラ。
「『きまいら』とな?初めて聞く名じゃのう。」
「そうか、この世界にはいないのか。…あれ?じゃあ、ココに映ってるのは何なんだ!?」
『魔導都市の負の遺産です。』
「魔導都市!?」
『貴方達が魔族の国で戦ったモンスターの集合体。あれと同じく、新たに作られし異形の物。』
「…合体モンスター。」
デヴィルラの国、魔王城のコロシアムで、いきなりモンスター達が合体して巨大なモンスターになったんだよな。
アレは魔導の技術力で改造したのだと、魔導都市の所長が言ってたっけ。
このキマイラもそうなのか?
「それって、この『きまいら』の強さが、最上級モンスター並だというコトでしょうか?」
「シシライオンはさいじょうきゅうもんすたーっす。」
「…肩のヤギゴートは中級。尻尾のマムシバイパーは上級モンスター。」
「単純計算で合計したら、最上級かそれ以上になる!?」
「判らぬ。前例も比較対象もおらぬ故な。
主とおると色々と『初めて』を経験出来るが、…これはかなりハードじゃな。」
みんな、映し出されたキマイラを見て神妙な面持ちになっていた。
『それと、』
「え?」
映像が横に流れたかと思うと、そこにもう一匹。
「まだいるっすかー!?」
「『きまいら』では無いですね…。これも見たコトありません。」
「三つ首の…犬じゃと!?」
これも知ってる。俺の元いた世界ではキマイラと並んで有名なモンスター、
「ケルベロスまでいるのか!!」
「!? 主はコヤツも知っておるのか?」
「あぁ、『地獄の番犬』って二つ名があるヤツだ。」
「何て不吉な二つ名でしょう…。」
「オイラ、ひさしぶりにしっぽふるえてきたっす…。」
「…これ、元は上級モンスターのリョウケンハウンド。尻尾は最上級モンスターのリュウドラゴン。」
みんなが2体のモンスターを見つめている。その傍で、俺は別のある疑問を持っていた。
以前戦ったけど、この世界にも『ガンセキゴーレム』『ヒリュウワイバーン』『タンガンサイクロプス』みたいな
俺の元いた世界の神話とかに出て来たモンスターがいたよなぁ。
じゃあ、何でキマイラやケルベロスはいないんだろう? 何がどう違う?
『この世界のモンスターは純粋体ばかりなのです。』
神様は俺を見て答える。 うぐっ!また心読まれた! ウソ!?俺のプライバシー保護、低過ぎ!?
いや待て、『純粋体』だって?
「神様はキマイラのコト知ってました?」
『いいえ。この世界には存在しません。 理を歪められた結果です。』
理を歪められた?……つまり、普通じゃ無い、手を加えられた……あ!!!!!
「そうか!この世界のモンスターって、複数の生物による融合とか合体をしていないんだ!!」
頷く神様。
「何となく読めて来たぞ。魔導都市の所長は『魔導の力に限界を感じた』と言っていた。
新しいモンスターを生み出したのも、モンスター技術のブレイクスルーを狙ったモノだったんだろう。」
「ふむ、手っ取り早く新しいモノをと考え、既存モンスターを流用して作ったのが、
我々がコロシアムで戦った『合体モンスター』と、この2体の『融合モンスター』というワケじゃな?」
で、遅れて開発していた『融合モンスター』が、あの大決戦後も残った、と。
「でも、いままでこの2ひきには、あったことがないっすよ?」
「…もしかして、大陸にはいない?」
また神様が頷く。すると、画像が引いて行く。上空にカメラが登って行く様に地上がどんどん遠くなる。
そしてそこに映ったのは…島!?
「何だ!?ずいぶんと小さい島だなぁ?」
「!! ココって…、」
プリスが地図を広げるが、どこにも映し出されているモノと同じ形の島が無い。
「やっぱり、『行けない島』でしたか…。」
「むぅ、よりにもよってソコとはのう。」
「え?どういうコト?」
プリスは地図の西側、紙の端を指して言う。
「今、出回っている地図のほとんどはココまでしか描かれていません。
しかし、魔導都市の港から更に沖。西に進んだトコロに、小さな島が1つあるんです。」
プリスの指は地図の西端を超えて、地図の左側のテーブルの1点を指す。
「どうして地図に載って無いんだ?」
「今さっきプリスが言うた様に、『行けない』からじゃ。誰も行けぬ場所ゆえ目指す者もおらず、
地図に載せても意味が無いので『紙面の無駄』と割り切られ、省略されておるのじゃ。」
「『行けない』ってのは、何で?複雑な海流が渦巻いてるとか?」
「否。この海域には『イカクラーケン』と『タコテンタクルス』という、いまだ誰も倒せぬ
超難関の2大最上級モンスターが配備されておってのう。」
「どんな頑丈な船も、このモンスターに出遭ったが最期、バラバラにされてしまうんです。」
クラーケンか。これも俺の元いた世界のモンスター、メジャー勢だな。
RPGなんかだと、プレイヤーは船の甲板に、相手は海の中から顔を出して対峙してるワケだが、
そんな律儀にお行儀良く、相手のフィールドを尊重し合った戦闘なんて、実際には有り得ないよな。
リアルでどっちが有利かって言ったら、断然向こうだ。8:2、いや、9:1くらいの差がある。
ぶっちゃけ、向こうはこっちと戦闘しなくても、船を壊せば『勝ち』だからな。
こっちは船が壊されたら戦える足場が無くなるし、引きずり込まれたら溺れてオシマイだ。
なにせ人間は『泳げない』。人間がやってるのは、ありゃ『水をかき分けながら呼吸してる』だけだ。
魚の様に水中で生きられないんだから。
加えて、あっちは危なくなったら水中に潜れば良い。当然、それからの奇襲攻撃も出来る。
一方こっちは終始、丸見えの船の上でしか行動出来ないんだから、ハンデが厳し過ぎるわ。
そんなモンスターが2体もいるんじゃ、そりゃ『行けない島』になるよなぁ。
と、難しい顔(無表情)をしていたマーシャが口を挟んだ。
「…あれれ~、おっかしいよ~!?」
「どーしたっすか、マーシャ?」
「…『行けない島』なのに、どうして『きまいら』と『けるべろす』がいるの?」
!!!
「言われてみりゃそうだな!コイツらは飛べないんだから、誰かがソコに『置いた』ハズだもんな。」
「主よ…それは簡単なコトじゃ。」
デヴィルラがバツの悪そうな顔をして答える。
「我が魔族の中で、連中に与した不埒者共がおった、というコトじゃろう。慙愧に堪えぬわ。」
「そうか、魔族だけならモンスターは襲って来ないもんな。」
モンスターは数百年前の魔導対戦時に、魔族が自分達の数の少なさを補うために作り出した戦闘兵器。
当然、味方は襲わない様にプログラムされている。
この『行けない島』は、魔族にとっては『行ける島』だったんだな。
「もしかして、魔族は昔からこの島に通ってたのかな? あ、魔族の領有地だとか?」
「残念ながらノーじゃ。こんな島、どこの国も欲しがらぬわ。」
そのから先は神様が説明してくれた。
『この島は非常に小さく、池も川も泉もありません。雨すら滅多に降らないので水の恵みを受けず、
動物はおろか草木すら、生命が根付けない土地なのです。』
うわー、無人島どころかマジで何も無い島なのか…。
「全く、この島を選ぶとは、魔導都市の研究員達も上手いコトを考えたモノじゃのう。」
「鉱物から生み出されたモンスターは生物ではありませんから、この過酷な島でも平気です。
研究の隠れ蓑には、この『行けない島』は持って来い、というワケですね。」
モンスターは食事や睡眠も必要無いし、呼吸も代謝もしていない。
俺に言わせてもらえれば、アレは半永久的に動くロボットだ。
「でもオイラたちは、どーやってこのしまにいけばいいんすかね?」
「そうだなぁ。ウチのパーティーは良い意味で『ごった煮』だもんな。」
人間、魔族、獣人、エルフ、それに異世界人と、各種豊富に取り揃えております。
『元凶の地に赴けば、道が拓けるでしょう。』
神様はそう言ってかすかに微笑んだ。
基本、週イチ(土曜の夜~日曜の午前中)で投稿しようと思っています。
ヨロシクお付き合いの程。