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ファンタジーな世界だけどラブコメしません?  作者: 夢愛
第一章 パラレルワールド
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獣の一族

新キャラ登場になります!

 エリスが自分の事についてを話してくれるまで、どれくらいかかるかは誰にも分からないだろう。

 それは小さめのカップラーメンより早いのか、また、アニメ1話が終わるまでより早いのか、それとも1年以上経つのが早いのか。

 誰も知らない。彼女も分からない。神のみぞ知る事だろう。


 空が明るく戻り、また暫くはアテテテに警戒する必要が失くなったとモトニスが言うので、俺は町に降りてみた。

 欠壊した家の扉。崩れた屋根。息が詰まるくらいの静かな町で、俺は無心で立ち尽くしている。


「おっと、まただ。ここに来るとどうにも立ち止まってしまう。何故なのかは知らんが」


 マリフ・ゴートにやって来て幾度か町に降りてみたものの、毎度立ち止まってしまう。

 ここに、いつまでかは知らんが人が住んでいた筈なんだ。今は町として機能もしていないが。


 それを想うと、哀しくなって来る。俺にもこんな感情が有ったとはな。


 時々考えてしまう事がある。この町のその先には何が在るのだろう、と。

 家がある崖の上から見下ろした感じだと、周りは全て木々に覆われているが、もしかしたら他にも町が在るのではないだろうか。

 いや、無ければおかしいのではないだろうか。世界に一つしか町が無いなんて事はあり得ないだろう。


「進にはエリス達の許可が必要なのだろうな。だが、もし却下されてしまったら二度と行けないかも知れないからな。行かせてもらうぞ」


 エリス達マリフ・ゴートの住人達の許可も得ずに町を抜け林の中へと進んで行く。

 林と言うよりは延々と続く大きな森林ともとれる木々の中、俺はある事に気付いた。


「入り口が消えている……?」


 入って来た筈の道はすぐ真後ろまで木で閉ざされている。何も無いとは思ってなかったが、まさか入り口を塞がれてしまうとは。

 アテテテが襲い掛かって来ても全身黒タイツの方なら俺でも倒せるし、あまり素早くはないから逃げ切る事も可能だ。問題はこの森。


 例え倒しても逃げたとしても、出口すら見えなければ俺はどうする事も出来ない。

 ここにアテテテが多数居るとすると、囲まれてやられてしまうのが容易に想像出来る。俺は強くないからな。


 自然破壊はなるべくしたくはないしな。ん? 動く木は自然なのか?


「足音は聞こえないな。アテテテは居ないのかも知れない、先へ進むか」


 先へと言っても、出口が見えないのであれば先すら分からないぞ。一体どうしたものか。

 1人で来たのは完全に間違いだったな。模試で考えると10点未満の選択だろう。

 俺はただひたすらに走り続け、とうとう森を抜ける事に成功した。

 かかった時間はほんの30分程度だろうか。


「適当に真っ直ぐ歩き続けていたら抜けられたな。そしてもう一つの町、か」


 俺の視界一杯に広がるのは、一つ目の町とは打って変わり崩れてすらいない綺麗な町だった。

 建物はしっかり生き生きとしていて、最近も人が歩いた様な形跡だってある。何故モトニス達はここの住人と共に暮らさないのだろう。


 暫く町を探索し、端まで来て振り返ろうとすると背中に凍りつく様な寒気が走った。

 何者かが、背中に少し何かを当てている……?


「誰だ貴様。この町に何の用だ。その服装、見たこと無い。モトニス達の仲間でもないなら、誰だ。何者だ。もしや進化版アテテテか」


 文をかなり途切れ途切れ話す声はクールさを醸し出す低音の女声。背後に居るのは女性らしい。

 そしてこの世界の衣服と全く別の物を着た俺を不審に思っているらしい。何も考えずに歩いているしな。

 そこで一つ理解したのだが、俺の背中に突き立てられているのは刃物だ。ちくりとする。


 このままアテテテと誤解されたら刺し殺されてしまうかも知れない。何とか誤解を解かなければ。

 俺はゆっくりと両手をあげてとにかく刺さないでくれとアピールをする。


「俺はアテテテではない。そしてモトニス達の仲間だ。彼女達を知っているなら話が早い、聞いてくれ」


「アテテテではなくモトニスの仲間だと? なら何だ。その服装は」


「話すと中々理解し難いと思うが、俺はこの世界の住人ではないんだ。別の世界からやって来た。敵ではない」


「別の世界。理解した。だが残念。モトニスの仲間なら私の敵だ。死ね」


「何!?」


 突き立てられた刃に激しい殺気が込められたのが分かった為、俺は咄嗟に前方へ跳び振り返った。

 身長は低めの赤茶色の髪をした目つきの悪い少女が立っていた。


 そして手に構えられたのは獣の牙の様な物で、首飾りにも数本付けられている。

 所々破れている着物を着用していて、それでも装飾品が数多く取り付けられている。やはり独特な思想があるのだろうか。


「逃げるな。死ね」


「くっ! 話を聞けと言っているだろう!」


「聞く耳持たない。お前は敵だ」


 どうしたら話を聞いてくれるのだろうか、などと考える暇もくれずに牙を突き出して来る少女。

 手慣れた刺殺の動きを見るだけで強い事がしっかりと分かる。魔法は使わないのだろうか?


 それより同じ世界に居てアテテテに襲われる側であるモトニス達が仲間ではなくむしろ敵だというのは何故だろうか。

 戦うべき相手はアテテテの筈なのに、何故モトニス達を嫌っている? 何故モトニス達を敵視しているんだ!?


 足をかけられ転倒した俺は少女にのしかかられて脱出が困難になってしまった。

 重くはないのに動けないとは、こういう体勢に関しても手慣れているというのだろうか。


「終わりだ。無駄な足掻きはするな。やりにくい」


「なら精一杯足掻いてみせる! そもそも何故俺が狙われなくてはならない!?」


「モトニス達の仲間なら、アイツも居る筈。アイツは私達を裏切った。もう許さない。まずお前が死ね」


「アイツとは誰だ!? そんな事俺が知るか! そんな事で殺されてたまるか!」


 身体を出来るだけ左右に揺らし、少女の体勢が定まらない様抵抗する。軽いから耐えるので精一杯のようだ。

 途中で牙を顔に振り下ろして来たので首を曲げて避ける。首を狙われたら終わりだな。


「ん、やめろ。動くな。ゴリゴリする。仕方ない、心臓刺すか」


「何だと!? くっ、やらせるか!」


 俺は足で押さえつけられていた右腕を何とか引き抜き、牙を持つ手を押さえる。

 だが、俺が無理やり引き抜いた為体勢を崩した少女は牙の先を俺に向けたまま倒れ込んで来た。

 さ、刺さる!


 刺殺されるのは御免なので咄嗟に左手も引き抜き彼女の身体を支えた。

 柔らかな身体をむぎゅっと鷲掴みにし、ゆっくりと横に下ろし逆に跨る。こうでもしなくては彼女はまた襲い掛かって来るだろうしな。


 そう言えば、先程から抵抗したり攻撃したりして来ないな。何だ急に大人しく──。


 俺は柔らかいものを鷲掴みにした左手に注目し、血の気が引いた。

 俺が支えていたのは彼女の身体と言うよりは、彼女の胸だったのだ。


 何てことをしてくれているんだ俺の左手。殺されても文句言えそうに無いのだが。


「す、すまない。故意ではなくてだな」


「うるさい。さっさと、手どかせ。気持ちい……悪いから」


「す、すまん」


 焦りながら弁解しようとしていると、少女は眉を寄せ恥じらう様に目を背けた。

 だからと言って降りてしまっては即刻処刑されてしまうかも知れんからな。跨ったままで居よう。


 恥じらいからか、大人しくなった少女は暫く胸の中心で牙を握り締め瞳を閉じた。

 そして瞳を開いた少女は深く息を吸い込むと再び殺気立ち牙を振り上げる。


「くっ、またかこの……!!」


「あっ」


 ……『またか』と言われるべきなのはこの俺なんだろうな、と今度は両手を蔑視しながら反省した。

 しかも、手を握りつけるつもりだった為、鷲掴みにしてその上揉んでしまったのだ。罪悪感で殺されてもいいくらいだ。

 いや、殺されたくはないが。


 顔面が紅潮した少女は力が抜けた様に手を地に下ろし、牙を手放した。

 助かったのだろうか。


「犯すなら、早くしろ。覚悟は、出来たから。早く。本当に早く」


「いやいやいや、何か誤解しているぞ!? 俺はそんなつもりでやったんじゃない! 誤って掴んでしまっただけなんだ」


「なら早くどかせ。いつまで揉んでる。そんなに気持ちいいのか。変態」


「あ……」


 こんな事で同様する俺ではない。俺が焦っているのは彼女に対する罪悪感からなのだ。

 初めて変態と言われた気がするぞ。まさか現実でそんな台詞を吐かれるとは思ってもいなかった。

 この俺が変態……。


 だがまあ、端から見たら本当に変態だったのだろうな。少女に跨っている上胸を鷲掴みにしていたのだから。

 故意ではなくとも。


「俺は殺されたくない。だからこのまま訊くが、何故モトニス達を敵視している? アイツとはだれのことなんだ?」


「モトニスが、レイビアを連れ去った。ここで1番強いレイビアを。だから死んだ。皆死んだ。私だけ生き延びた。アイツは許さない」


「ここはレイビアの故郷だったのか……」


 何年か共に居ると言っていたレイビア達だが、モトニスがレイビアを誘ったのか? 何の為にかは知らんが。

 そして戦力が減った所をアテテテに襲われ、この少女以外が全滅した、と。何て話だ。

 モトニス達は一応アテテテと戦いアテモテを失くす為に努力している。

 だがそちらに戦力を割いた為にこの町は滅んだ。これは一体誰を責めたら良いんだ。


 気づくと少女は小さい拳を血が滲む程強く握り締めている。恨みや憎しみよりは悔しさの方が強いのだろうな。

 この子は仲間を失っても1人で強く生きてきたんだ。とても辛かったろうに。


 俺は少女から降り、腕を引き起き上がらせた。


「俺は喜音だ。お前は何だ? 教えてくれ」


「アイビス。獣型魔法を得意とする、一族の女。ここは、その町の跡」


「なるほど、繋がるわけだ。訊きたい事があるのだが、家に入れてくれないか?」


「……こっち」


 彼女は牙を拾うと服の襟元に仕舞い、歩き始めた。勿論ついて行く。


 和風な民家にやって来ると、上がる様に指示された。つまりはここが彼女の家だという事の様だ。

 中は掃除も丁寧にしてあり、洗濯が干してあったりと家庭的な印象を受ける。


「私の部屋。訊きたいことって、何」


「レイビアは何故モトニスの元へ向かったか分かるか? アテテテと戦う為なんだ。この前俺も共に戦った」


「知ってる」


「なら、許してやってくれないか? 確かにこの町は滅んでしまったのかも知れないが、彼女はアテモテを食い止める為に日々生きているんだ」


 不機嫌そうに眉間に皺を寄せたアイビスは、一つの写真を俺に差し出して来た。

 髪の長い女性と、短い女性。そして老人が中心に1人笑顔で写っている写真だ。


 長いのは恐らくレイビアで、もう片方の短髪の方はアイビスだろう。中心の人物は?


「レイビアは私の従姉妹だ。いつも一緒に居た。真ん中のは町長。面倒見がいいおじいさん。だけど死んだ。レイビアが居ないから。守ってやれなかった」


「それは、レイビアの所為ではないんじゃないか? 例えレイビアが居たとしても、守れない者は死んでいくだろう。この世界なら尚更だ。俺達の世界でもしょっちゅうあるからな」


「お前に分かるか。バカ。変態。レイビアは強い。1人で100人力だ。居れば負けない。1人でも勝てる」


「そんなに強いのか。尊敬できるな」


「うん」


 一つ、会話して分かってきた事がある。この子はレイビアの事を嫌ってなんかいないって事だ。

 守りきれなかった事を悔やみ、それでもレイビアの事は認めているから行き場の無い苦しみがあるのだろう。


 レイビアと2人ならどんな大群にも勝てる。そのくらいの絆や信頼があったのだろうな。

 だが残念ながら、お前もレイビアも人間1人。守れる者も限られているんだ。


「レイビアは、何にでも勝てる訳ではない。この前戦ったアテテテには敗北しかけていたんだ。無敵な人間なんて居ないんだよ」


 アイビスは俺の襟首を背伸びしながら掴むと、射る様な睨みを利かせてきた。

 どうしても、認めたくはないんだな。敗北を。


「アイツは無敵だ。じゃなきゃ私は弱虫だ。弱い奴は役に立てない。ただ死ぬだけだ」


「なら、死んだ人間は弱いってことでいいんだな」


「違う。お前嫌いだ。何なんだ。いちいち、私をバカにしてる」


「そうではない。弱い奴が死ぬのなら今まで死んでいった人間達は弱いということだろう? お前自身がそう言ったんだ。俺じゃない」


「うるさい黙れ。やっぱ殺す。死ね」


 再度牙を持ち出したアイビスは俺の襟を引き寄せ、振り下ろすと寸前で止めた。

 彼女の手は震えている。何がそんなに苦しいのかなんて俺には到底理解し得ないのだが、この子はやはり辛いだけなんだな。

 自分が弱いと嘆いているだけなんだ。


「弱いから。私が弱いから皆死んだ。私の所為で」


「違うだろう。お前は守りきれなかったが、弱いわけではない。それと、お前が1人生き延びれたのは何故だ? 誰かが、助けてくれたんじゃないのか?」


「……町長が、私を魔法で隠した。だから生き延びた。だけど。皆死ぬなら私も死にたかった」


「馬鹿なこと言ってるんじゃない。町長がお前を守ったのは何故だと思う。生きていて欲しいからに決まってるだろう。死ぬなんて思うな」


「……うん」


 アイビスは恐らくまだ子供だろう。多分。

 だからか幼く見え、だが大人っぽくも感じられる。きっと俺よりはずっと大人なのではないだろうか。

 彼女の小さな身体を引き寄せ、俺は背中を上下に摩った。溢れた涙を、全て流せる様に祈り。


 数分後泣き止んだアイビスを連れ出し、森の前へとやって来た。


「なぁ、アイビスも俺達と共に来ないか? レイビアも居るし、まあモトニスも居るのだが。1人で居るよりはずっと良いだろう?」


 アイビスは小さく頷き、町を見渡した。

 そしてお辞儀をすると俺の手を握り締め、深呼吸をした。初めて町の外へ出るらしい。

 だが正直俺もこの森は不安要素しかないからな。閉ざされたのはもう戻っているのか、など。


 森へ一歩踏み入ろうとした瞬間、上空を何か大きな生物が通過し、俺達の真後ろに着地した。

 翼の幅が5メートルはあるだろうドラゴンが首を地に置いて羽を下ろしている。

 すると、レイビアが降りて来た。


「喜音やっぱりここに居たのか。勝手な行動し過ぎだぞお前」


「すまない。なあレイビア、この子を……」


「分かってるよ、アイビスだろ。久しぶりだな、待たせて悪かった。私が未熟だったから、皆を死なせてしまったけど、お前だけは何があっても守るから。な」


「うるさい。バカ。嘘つき。嫌いだ。嫌いだ」


 懐かしの再会からか、単に感極まってなのか涙を滲ませるアイビスはレイビアと目を合わせようとはしなかった。

 今はまだ仕方がないのかも知れないが、いつかこの2人が幼き頃の様になれることを祈っていよう。俺に出来るのはそのくらいだからな。


 ドラゴンに乗り、モトニス達の居る家へと向かって行く道中、レイビアが耳打ちをしてきた。


「お前、アイビスと手え繋いでるけど、どうした? そんな仲良くなったのか?」


「いや、良くは分からんが、アイビスが」


「喜音は私を辱めた。だから私はコイツの嫁になる。いいな」


「「何!?」」


 嘘だろう。何故こうなってしまった。単に慰めたから懐いてくれただけだと思っていたのだが、まさか勝手に婚約されているとは思っていなかった。

 俺は二次元の女性以外を愛せる自信が微塵も無いので、それは勘弁願うぞ。


 俺が焦っていると、隣からはレイビアが睨みつけて来ており、背後からは殺気が刺す様に放たれている。

 ダメだ。終わったな俺。


 新たな仲間も加わり、そして帰ってからはプラスで3人に睨みつけられるという恐ろしい状況に陥った俺は、現実逃避の為部屋に閉じ篭った。


 何故俺がこんな目に。あと何故睨む。


これからもよろしくお願いします!

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