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ファンタジーな世界だけどラブコメしません?  作者: 夢愛
第一章 パラレルワールド
19/105

二度目の終わり

いつもより千文字くらい短いです。急ぎ過ぎました。

「お別れって、何を言ってるんだ? モトニス」


「そのまんまの意味だよ」


 突如モトニスから告げられ別れに、俺は戸惑うばかりだった。何故なら俺とモトニスは恐らくここで世界の闇に殺されてしまい、そして2つの世界は滅びてしまうからだ。別れは分かり切っているんだ。


 それを恰も自分だけが居なくなるかの様に告げられたとあっては、動揺してしまう。


 顔色一つ変えない眼の前の女性は、開いた胸元から1枚の紙切れを取り出した。皺くちゃになっていて、そこそこ古そうにも感じる。


「これは5年前、()()()()()()()()。最初の喜音が、ね」



 ──は?


 既に混乱中の俺は堪らず思考を中断してしまった。

 5年前? 俺が、記したもの? 最初の、俺だと? どういうことだ。全然理解出来ないぞ。


 理解に苦しむ俺をガン無視でモトニスは言葉を紡いでいく。俺も気を引き締めて必死に追いかける。


「喜音は、この世界の誰よりも多く人生を生きてるんだよ。何かの手違いで、記憶は無いみたいだけど」


 俺が誰よりも人生を生きている? まだ17歳なんだが? モトニスの方が歳上だよな? もっと、分かりやすく言ってくれないかな。

 ここで俺の脳裏には「イレギュラー」というキーワードが浮かび上がってきていた。


 以前に俺はイレギュラーな存在と教えられた。それがモトニスの言う5年前の俺が関係する事だとしたら、簡単な話ではないのが容易に解る。


「5年前にもこうやって私達と喜音、流音の兄弟に明日波が出会ってた。そして喜音以外が崩壊に呑まれて死亡。実質喜音も死んだ様なものなんだけどね」


「5年前に、お前達と出会ってしかも死んだだと!? じゃあ今の俺達は何だ!? 亡霊か!? その上この世界は生きているじゃないか!」


「そこが重要なところなんだよ、喜音。絶対に聞き逃さないでね。これは喜音から告げられた事でもあるんだから」


 もう既に、理解が遅れているのだが。ことのつまり俺は二度同じ人生を繰り返しているとかいうのか? いや、それは無い筈だ。同じ人生を繰り返すなら同じ時間でなければならない。


 それに流音は既に死亡し、明日波などと違い出会う事は無かった。何もかもが俺の思考回路に当て嵌まらない。くそ。


「5年前に、流音は自身のある能力に気がついた。それが異世界に飛ぶちから。試した時に喜音、明日波を巻き込んでしまって、3人揃って私達と出会った」


 流音にそんな能力があったのか。普通の人間ではなかったという訳だな。

 まあこの世界に存在している限り、普通の人間なんて単語は使用不可なんだが。


 モトニスの冷めた声に、俺の全身は強張ってしまっていた。真剣な彼女程、不安になるものはない。

 バカにしている訳ではなく、心の底から不安が湧き上がって来るのだ。


「そして今回みたいに世界の闇が姿を現し、流音を攫った。その時、こっちに居た流音は喜音の世界の人間で、そっちに居たのはマリフ・ゴートの流音だったんだよ。2人は入れ替わってたの」


「何でだ……?」


「そっちの流音が、代わりに戦うって逃したの」


 聞けば聞く程難しい話だ。レイビアによると、流音はその攫われた直後に消滅し、俺の世界に居た流音も死亡している。

 俺は流音が死んだのを向こうの、俺の世界で知ったんだ。この世界ではなかった筈だ。


 ならどうして、どうして俺はこの世界に来た記憶が微塵も残っていないんだ。明日波だって、覚えていなかったぞ。


 モトニスは世界の闇を見上げ、悲愴な笑みを零した。


「流音が死んだら、世界の闇にこの世界は崩壊させられた。でも、まだ繋がっていなかったから私は喜音の事をそっちの世界に逃がしたんだよ。その時、記憶は消えたみたいだけど」


「俺は記憶力いいんだ。5年前は平和に暮らしていた筈だ!」


「書き換えられた記憶、かな。現実はそうじゃなかった。それと喜音、言ったでしょ? これは二度目の崩壊なんだって」


 そこなんだ。二度目って何だ? この世界は崩壊したなら存在し得ない空間の筈だ。モトニスだって生きてるじゃないか。

 話を聞いた感じループはあり得ないのだが、何がどうなってるんだ。本当に。


「私達の世界の崩壊は数日前まで巻き戻されて、喜音はそっちの世界で何事も無く5年間を過ごした。そして、このメモに記された通り喜音を迎えに行ったんだよ」


 モトニスが反対向きにした紙切れを見ると、細かく指示が書かれている。それは全て俺の字だった。

 まず、『俺を見つけ次第世界を救わせろ』。そして『失敗したらモトニス魔法でコンティニューさせる』と書かれている。それが今の状況か。


 1つ理解出来たぞ。これはループではなくコンティニュー……つまり二度目の挑戦だった訳だ。記憶の無い俺には無理難題だった訳だが。

 それにしてもモトニスは中々凄い魔法を持っているな。コンティニューか。それを繰り返していたらいつか救えるんじゃないか? 世界。


 俺の考えを読んだのか、モトニスは的外れとでも言う様に首を振った。


「私の魔法は3度しか使用出来ないの。つまり、あと1回。だからさっき、「もう一度だけ」って言ったんだよ」


「三度目の正直、という訳か。だとしても俺は何も打開策など浮かんではいないんだが、どうしたら良いんだ?」


 それに、この話をしておいてお別れという事は、モトニスは死んでしまうという事だろう。話は簡単にも聞こえるが、とても凡人に出来そうな問題ではないな。


 何故、流音は明日波と違い生き返らなかったんだ? 俺も死んだらしいがモトニスの魔法でやり直しになり、明日波も共に居た。なら何故流音だけが死んだままなんだ? 話の難解度が異常だな。


「そろそろ、この世界もまた滅んでしまうね。喜音、私達の世界を、君の世界を頼んだよ。私じゃ力及ばず、だからさ」


 モトニスは俺の額に掌を触れ、珍しく魔法を唱える形で発動させた。これがコンティニューの魔法だろうか。

 使用した直後に、モトニスの右腕がドス黒く変化して行った。これが、限定品の対価となるのか。恐ろしいな。


 何度繰り返したところで俺が世界を救えるとは思えないが、明日波がまた生き返るならやる価値がある。ただ、また明日波を殺す悪夢に遭遇する事になるのだが。



 周囲のアテモテは最早原型を留めていない程にヒビ割れ崩壊して行っている。欠片として落ち、空間となった先には何とも言えない、何色も融合した様な気味の悪い世界が広がっている。

 気がつけばモトニスの身体は光の粒子となり、その悍ましい色の世界へと吸収されて行っている。


「後はお願いね、喜音」


「あ、ああ。分かった」


 これからどうするべきなのか、全く見当もつかない状態なのだが、俺は頷いた。とにかくやらなくてはならないのに変わりは無いからだ。


 俺が世界を救える人物で、そして世界が滅べば2つの世界の人間が消滅するんだ。俺が、それを防ぐ他無いのだろう。

 この後、モトニス達とは再会しなくてはならないのだろうか。その場合、モトニス達は先刻までの記憶が残されているのだろうか。


 全て消えてしまっているのなら、今度は俺が引っ張っていかなければならないという訳だが。不安だ。



『させない、もう今ここで殺すんだ。喜音、私に殺されて1つになろうよねぇ……?』


 世界の闇の狂気が籠った瞳が見開かれ、俺を死角無く捉えている。まず、コイツを倒さなければ脱出も出来ないのではないか? いやそうではない。何故コンティニューが始まらない? 家に転送されたりする訳じゃないのだろうか。


 世界の闇が振り下ろす鋭い手刀を全力で駆け抜けながら躱していく。1つ仮説を立ててみたのだが、コンティニューはやり直しだろ? だとしたら、1度殺されろという意味ではないだろうか。


 もしそれが正解なのだとしたら断固拒否する。好き好んで自身の何倍もの大きさを誇る手刀を喰らう訳ないだろう。絶対に嫌だ。


『愛してるよ喜音んんん食べちゃいたいいいいい』


「恐ろしい奴だな。だがこのまま逃げていても埒があかない……てか殺されるな。どうすれば?」


 世界の闇は右手に2階建ての家を持ち、野球選手の投球を真似る。大きく振りかぶって、投げた──なんてふざけてる場合ではないぞ。あんなのに激突したら木っ端微塵に弾け飛ぶ。いくら死ななければならないとしてもそれは避けたい。


「うおあぁぁっ!!」



『あははは! あははははは!』


 俺の眼の前で瓦礫が散開し、何度めかの飛行体験に強制移行。本当に生きた心地がしない。

 誰も居ないが、誰もが「終わった」と諦めかけた時、その声は聞こえて来た────。



 ──助けて欲しい? 私なら、貴方達を助けられるけど。



 小悪魔キャラの様にからかっている様な口調で、ぶりっ子を思わせる甘い女声だった。

 俺の事だけでなく、俺達を助けることが出来るだと? 俺は宙を舞い、世界の闇に目線を向けた。


 それが可能なら何故早く助けてくれなかったのだろうか。そして何処から話しかけてきているのだろうか。誰なのか。疑問は幾らでも有る。

 だが、今は藁にも縋りたい気分だ。死ななくて良いならそれがいい。


「頼む、助けてくれ」



 ──そしたら、私と遊んでくれるかな?


 遊ぶ? 何の事だか知らんし誰だかも姿すら見えず確認も出来ないのだが、とにかく遊んで欲しいのか? ゲームでもして遊ぶのだろうか。

 言っておくが俺はゲーム類は全般弱いからな。舐めてかかるんじゃないぞ。


 俺が承諾したタイミングで、その声は愉しんでいる様に微笑した。



 ──やった。勝てたら何だっていう事聞いてあげるから頑張ってね。



「何でも……? 世界を元に戻して欲しいとかでもか?」



 ──OKだよ。ま、勝てたらね。


 勝てたらね。って、中々嫌味な奴だな。そもそも俺は今眼の前に立ち塞がる巨大な敵に手も足も出ない状況なのだが。

 ゲームの内容すら知らない上に俺はそれすらも弱いが、勝てば無償で世界が救われるんだな? ならば選択肢は2つも必要無い。


 目前に迫る地面を確認し、死んだものかと選ぶ前に諦めてしまったが、何が起こったのか無傷でその上着地までしていた。

 恐らく、ゲームの為に声の主が何らかのちからを扱い助けたのだろう。


 これにて声の主が本当に只者ではないことが取って分かるが、俺はそんな事意中にも無かった。



「やってやろう、ゲームとやらをな。勝負だ」



 ──言ったね? もう後戻り出来ないからね。


「構わん。どうせ勝つからな」


 ──あはは、面白いねぇ。じゃ、ひとまず死んでくれる?


「何……?」


 語尾にハートでもつけた様に甘い甘い声が脳に伝わって来たが、その台詞は全く甘くなかった。むしろ辛い、激辛だ。


 世界の闇の拳が風圧を放ちながら左腕を砕いた時にはもう避ける事は叶わなかった。全身が跡形も無く感覚を失い、地に打ち付けられた。

 視界はまだ残っているが、視認できるのはドス黒い大量の血と大粒の涙を流し高笑いする世界の闇だった。


 何でこんな事になった。結局死ぬのは免れないという訳だったのか。

 まあ、どうせ死ぬならいっそ耐えよう。眼を閉じていれば視界も変わるだろう。


 瞳を閉じ、薄れ行く意識の中、あの甘い声がクスクスと笑っていた。



 ──じゃ、私の世界へいらっしゃ〜い。



 お前の、世界? もうどうにでもなれ。

 だがモトニス、お前の願い通りに進められるかは疑問だが、必ず世界を救ってみせるからな。待っていろよ。

第一章これにて完結です。

第二章も頑張って更新していきますので宜しくお願い致します。

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