大切な仲間だから
今回は、どうなるかなぁとは読んでいただければ。
今回5000文字くらいです。
明日波に続きエリスまでもが世界の闇に敗北し、消滅してしまった。
その光景を目の当たりにしてしまった俺達は、呆然とするだけだった。モトニスは親友を失いへたり込んでしまっている。
世界の闇はというと、エリスの最期の氷結魔法に因って下半身が凍らされており、大して身動きが取れていない状況だ。
崩壊が進む中、現状打破するには今、世界の闇を自分達で倒すしかない。そして異世界へと逃げるしかないのだ。
だが、明日波やエリスの捨て身の攻撃すら無効化されるとなると、出来る自信が無い。諦めるつもりは無いのだが。
だとしたら、これしかないのではないだろうか。
俺は腰が抜けたモトニスを立ち上がらせ、椅子に座らせた。
「俺が一か八か、吸収魔法を使う。上手く発動するかは分からないが、今ここに居る4人の魔力を合わせればいける気がするんだ」
「お前の魔力カスだろ」
「うるさい」
明日波にエリスと、俺達の中で特に魔力が高いらしい2人が離脱してしまった為、以前トカゲのアテテテを撃破した時の様な破壊力は無いかも知れんが、これしか思いつかないんだ。
それを理解してか、レイビアとモトニスは頷いてくれた。アイビスには今説明し、何とか承諾を得た。
「つまりこうだな。これが駄目だったら後は死ぬしかねぇってことか」
「誠に言い難いが、そういうことだ」
「チャージする間私達が召喚魔法で対抗するか」
「頼むぞ」
正直、エリスの自爆より威力があるとは思えない。
哀しいが俺には元から大して魔力が存在しないし、モトニスは先程汽車を修復するのに使用した。レイビアやアイビスもずっと汽車を守っていたからな。
だが最も魔力を消費してしまったのは、あのアテテテ達の一斉襲撃でだろう。数が多過ぎて魔法で対抗するしかなかったからな。
前線に居なかった俺とモトニス以外の2人は特に。
発動の仕方がいまいち理解出来ていない為、時間がかかる可能性がかなり高い。汽車をコントロールして奴の攻撃を避けるしかないな。
「モトニス、レイビア、アイビス頼むぞ。これが最後だ」
「分かった!」
「おう!」
「ん」
イメージを練りに練ってあの時の吸収している気分を保ち、光を帯びる拳を強く握る。もうちょっとで必要な魔力がチャージ出来る。と思う。
まだ世界の闇が攻撃を仕掛けて来る素振りを見せないので、焦らず、イメージを崩さずに集中を続けて行く。そして、俺の両手はあの時の輝きを放ち始めた。
チャージ完了だ。後は3人の魔力を吸収する。
「行くぞ3人共。覚悟はいいか」
「吸っちゃって喜音!」
「よし、吸収だ!!」
魔力が珍しく言うことを聞いてくれて、吸収が開始される。魔力の吸収を行っているということは、その間俺は動けんし、モトニス達も正気を保つのが精一杯になる。
つまり、誰もガード出来ない諸刃の剣という訳だ。
しかし俺はこの魔法の更なる効果に気がついた。
この吸収魔法は周囲の魔力を吸い尽くす為、世界の闇に含まれた魔力も全て力に替える事が出来るのだ。
これなら弱った世界の闇に奴自身の巨大な魔力をぶつけることが出来る。勝てるぞ!
「まだだ! もっと吸収するぞ!」
「お、おう……!」
「……っ!」
「くぅぅきくぅぅ!」
『チカラが、抜けるうううううう』
片目を閉じたり、肩を竦めたり、びくんっと跳ねたり、内股になったりと4人は色っぽい声を出して反応している。やめてくれ。
モトニスはわざとだろうが、股座に両手を置き喘ぎ声を出している。やめろ。
脱力してしまうのは世界の闇が発した言葉で分かることだが、俺は吸収する側なのでどんな苦痛を伴うのかは分からない。もしかしたらモトニスも素の可能性がある。
吸収が思った以上にキツいのか、レイビアもアイビスも召喚魔法を使用出来ずに息を荒あげている。その息遣いやめてくれ。気が散る。
「これは、1人でする時よりも感じるなぁっ!」
「何ふざけたこと言ってるんだモトニス。いいから集中させてくれ」
「いや、大真面目に言ってるんだけど……」
世界の闇が少しずつ動き出しているということは、恐らくこの苦痛に免疫がついてきて耐えられる様になっているということだ。
対してこちらの3人は床や座席に突っ伏し、大熱を出してる様に顔を紅潮させ息を荒くしている。このままではマズい。俺はまだ吸収し切れていないというのに。
「お前達……」
モトニス達にしっかりするよう声かけをしようと顔を動かしたら、車体が大きく揺れた。モトニスの魔法の加護があり、降り注ぐ空間の欠片からのダメージはない筈だが──。
俺は窓の外に見えた掌が汽車を掴んでいる事に気付き、全身から血の気が引いて行った。
「くっ! もう放つしかないか。掴まってろ全員!」
『落ちろおおおおおおおお』
勢いよく振り下ろされる汽車の中で、俺の掌から特大の光の塊が放出される。それはドラゴンとユニコーンを形取り、何故か英語でホスピタルという文字も飛び出していった。光は電気を纏い、見た感じだと物理的威力が高そうだ。
放出中、地に叩きつけられたと思われる汽車が大破し、俺達は宙を舞った。これで世界の闇が倒れてくれれば休憩の後に脱出が可能なんだがな。
俺が放った4人の強力な合体魔法が世界の闇の腕を消却していく。ふと怯えたその顔を見て、少し前の再会した頃の世界の闇を思い出した。
彼女がどうしてあんな事になってしまったのかは見当もつかないが、少なくともあの時の彼女は自我を失ってはいなかった。一体どうして──。
「ぐっ……おぉ、痛いな。かなり」
遥か上空から瓦礫に叩きつけられ、感じたことも無い激痛が全身を巡り、一瞬胸の辺りが苦しくなった。死んだかと思ったぞこの。
周囲を見渡してもあの3人の姿が見えない。全く別の場所に落ちたのだとしたら不安だ。今は丸腰も同然だからな。
俺は自分が最も弱いことだって覚えてはいたが、危険を冒してでもモトニス達を救わなければと瓦礫の上を駆けて行く。
世界の闇は、左半分だけ残され、動きが鈍ってはいるが消滅はしなかった。クソ、これで倒れなかったら9割型終わりだと考えていたのに、最悪だな。
「き、おん……!」
「レイビア! 何て場所にぶら下がっているんだ! 鍛えている暇は無いぞ!」
「お前わざとでもわざとじゃなくてもぶん殴るぞ」
大きな亀裂の小さな突起に片腕のみでぶら下がるレイビアは魔力を吸収された為か、いつもの覇気は感じられなかった。
ピンチに陥ってしまったのが俺の所為ならば、悔んでも悔み切れないな。もっと慎重に行動すべきだった。
亀裂の中の更に奥。あんな場所、ロープでも使用しなければ救出出来ないぞ。
だが、腕力よりも突起の限界で、もう既に落ちてしまいそうだ。落ちたらもう帰っては来れないぞ。
「レイビア少し待っていろ! 何か掴まれる物探してくる……!」
「さ、サンキュー」
早く何か頑丈なロープなどを見つけなければ、と言っても瓦礫が一面に敷かれて探しようが無い。こんな絶望あるか。
エリスや明日波の様に救出しようがない状況な訳ではなく、今はまだ救出可能なんだ。レイビアは。
エリスにだってコイツらの事を託された。頼まれたんだ。絶対にもう誰も死なせたくない。
『うああああああああ』
「うおっ! まだ暴れるのか明日波……!」
世界の闇は左手を雑に叩きつけ来た。瓦礫が吹き飛ぶ程の破壊力だが、何とか避ける事に成功した。
俺今どんな見てくれなのだろうか。何処も折れてはいなそうだが、流血とかしてそうだよな。
森の付近に赤い頭の人間、恐らくアイビスであろう人物を発見した。
「レイビアが危ない! 出来れば世界の闇から守ってやってくれ!」
「分かった。魔力練る」
今一番警戒しているのはレイビアが世界の闇に攻撃されて帰らぬ人になるかも知れないということだ。それだけは避けなければ。
だが、どう脳をフル回転させても不可能としか答えが出てこない。もう、奴を倒す事は不可能だ。
もし今ここでレイビアを助け出せたとしても、その数十秒後世界は滅びる。そうしたら誰も彼も、俺の親だって御陀仏だ。
「喜音、早くしよう! 世界の闇をどうにかして倒さなきゃ!」
「モトニス、無事だったか。だがそれはダメだ。まずはレイビアを救出しなくては」
「マジ!? どんな状況!?」
役割分担的には、俺とモトニスがこの広い町から埋もれているロープを探す。アイビスが世界の闇の魔の手からレイビアを守る係だ。
何故だろう、胸騒ぎがしてならない。予感に身を震わせ、俺は挙動不審になっていた。
モトニスが手を叩き、山頂を指差す。
「うちにある筈! めっちゃ長いロープが!」
「おお、どのくらいだ!?」
「三十メートルくらい!」
「長いな」
俺はレイビア達の心配もしつつ、家に向かってダッシュを開始。中々離れてしまっているので、山の麓まで全力で向かう。
山に着いてからは呼吸を整え、太腿の筋肉の疲労感を殴って確かめ駆け上がって行く。モトニスも流石に呼吸が荒い。
「喜音、もう無理かな。助からないかな」
「バカか。そんなこと言うな。無事全員が脱出し、異世界で幸せに暮らせると信じるんだ」
弱気になってしまったモトニスを励まし、数百メートルの坂道を全力で登る。これは筋肉痛避けられないだろうな。
モトニスは道中俺の左手を掴んだ。驚くだろうやめてくれ。
「じゃあ、助かったら1日1発ね!」
「何の話をしてるんだお前は」
「ハーレム結婚でもいいよ!」
「よくねーよ」
元気付ける為なのか、単に素で話しているのかは知らないが、終始このテンションで居られるモトニスのことは尊敬出来る。
モトニスと話していると呆れるが、気が楽になるのも決して嘘ではない。ホスピタル係なだけはあるな、モトニス。
山頂に着くと、俺は各部屋を探しモトニスは倉庫などを漁りに向かった。必要性が感じられない物は倉庫にしまっているのだという。
たまぁに飲み物の容器がカビて見つかるそうだが、何でだかは知らないそうだ。
「クソ、ロープが無ければ何か、と考えていたんだが、皆あまりにも何も持っていないな」
エリスは部屋に下着を散らかしてあるし。何か、これエロ本じゃないか? 意外な訳ではないが驚いた。
倉庫を漁り終えたらしいモトニスがロープを担いで来た。本当に三十メートルくらいあるな。デカいぞそれ。
坂を下る為に外へ飛び出すと、物が一通り放り投げられている倉庫が視界に入った。凄い散らかし方するなコイツ。
「あ、ヤバいぞ急がなきゃ!」
「どうした!? 一体何が……」
世界の闇が再生した右腕を振りかぶっている。あんなサイズの拳を受けたら2人は一溜まりも無いぞ。レイビアはそれどころか死が確定だ。
俺もモトニスもスピード重視と考え坂道を全力でボールの様に転がり落ちて行く。力は抜いておかなければスムーズにはいかない。
結局、降りた頃にはズタボロだった。
『おおおおおおおお』
「アイビス! レイビア! 逃げろ!」
巻き込まれたら死んでしまうので、俺とモトニスは急ブレーキをかけた。
だが世界の闇の拳は容赦すること無く無慈悲にも振り下ろされて行く。
1人なら避けられるであろう一撃が迫る中、アイビスは逃げる動作すら微塵も見せないでいる。レイビアが助かるのを待っているのだ。
「アイビス、早く逃げろ! お前このままじゃ2人揃って仲良く天国行きだぞ!」
「私はそれでいい」
「はあ!?」
アイビスは死を決した表情よりも、レイビアと共に散る決心をした表情をしている。後悔など万に一つも無いかの様な美しく凛々しい表情だ。
レイビアは自身の命よりも他人の命を重んじるタイプな為、その行為はあまり許せるものではなかった。それでも自分をこんなにも大切に想ってくれているアイビスを突き放す事は出来なかった。
「レイビア、お前もあの2人もエリス達も、大切な仲間だろう」
「ああ、そうだ」
「こんな終わり方で悪いが、いつかまた会ったらよろしくな」
アイビスは初めてと言っていい程珍しく微笑み、世界の闇の拳を前にその場から消滅した。
「……ああ、またな」
そしてその拳は止まる事無く突き進み、レイビアのことまで消し飛ばした。
エリスに頼まれたばかりである喜音は、早くもそれを打ち砕かれて膝をついた。
この世界で日々を過ごす以前の喜音ならそんな事に対して多大な感情は生まれなかったが、今は絶望、後悔、嫌悪感などが脳裏を駆け巡っている。
所詮、自分の力では誰も守れないと現実を突きつけられ、歯を食いしばった。
「……モトニス」
自分の隣に居るこの女性のことだって、俺ではきっと守り切れないことだろう。俺は所詮弱い人間なんだからな。
俺ではダメなんだ。すまないな、モトニス。
「喜音あのさ、もうダメって考えてるじゃん? 今」
突然、モトニスが真剣な顔つきに変わる。
「だとしたら、もう一度だけ頼めるかな。そしたらもう諦めるから」
「……? 何言っている?」
「お別れだよ、喜音」
突如モトニスから告げられた別れに、俺は動揺を隠すことができなかった────。
次話で一章が完結する予定でございます。
一章の最後まで、よろしくお願いします!!