無言で愛の言葉を
今回は殆どエリスの一人称になってます!
エリスが世界の闇相手に、巨大な怪物を相手に1人で戦っているんだ。1番足手纏いな俺がモトニスのサポートをしっかりと熟し、短時間でエリスの手助けをするんだ。
空から降り注ぐ空間の欠片も汽車の修復も戦闘も何もかもで役には立てないが、何とか──いや何すれば良いんだ俺は。何も出来ないのに何を頑張れというのだ。
「喜音ウロウロしてんな邪魔臭い! 向こう行ってろ!」
「退け、死ぬぞ」
「喜音おにぎり食べるー?」
遂には仲間にすら邪魔者扱いされる程に。丁寧におにぎり要らんお断りをし、汽車の中に1人だけスタンバイ。仲間は外で必死になっているというのに悲し過ぎだろう。
エリス明日波と俺に好意を抱いてくれている2人が今は傍に居ない。むしろ俺を嫌ってるメンバーしか居ないのでは?
下らんと思考をそこで止め、窓からエリスの戦う町を覗き見てみる。ダメだ、山頂だから戦塵と世界の闇しか見えない。
エリスは何処だろう。ただでさえ小さいのにこんな離れてしまっては点にしか見えないぞ。
まず、そもそも世界の闇であるマリフ・ゴートの明日波とは交戦した事が無いから何が効くのか不明。
踏まれたらぶち撒けて死んじゃうから地上には降りず、常時氷の板に乗って空中からアタック。何を相手にするにもまずは色々試してみなきゃだよね。
まず、柄じゃないけど氷の大剣。氷結魔法で空気中を自在に凍らせ、形を変化させた物が私の武器。
『死んじゃえええええええ』
全身に恐怖心を植え付ける様な振動する程響き渡る声。臆する事無く、振り上げられた右腕に警戒する。
「はっ!」
下降してからの急上昇薙ぎ! 闇で作られた腕にはあまり効果無いかな? 表情も変わらないしそもそも大した傷になってない。ダメだねこりゃ。
お次は氷結魔法で創成したキャノン。威力、飛距離共に星5レベルの優れもの。皆様お一つ如何?
弾は勿論魔法だから無尽蔵なんだけど、どのくらい効果が見られるだろうか。お試し開始!
『邪魔ああああああああああ』
「危なっ! ダメか、全然効いてないね」
仮説を立ててみたんだけどもしかして物理攻撃は効かない感じかな。でも明日波の拳はヒットした上に効いてた。何か条件がある?
私の鬱陶しいお試し攻撃に虫唾が走ったのか、世界の闇は闇雲にじゃなくて正確に私を手刀で叩き落とそうとして来る。もし、重量も有るなら食らったら最後、瀕死になるね。
振り下ろす速度は然程ない為、私は旋回しながら次の攻撃手段を考案する。次は冷凍ビームとかどうだろう。
考えながら困惑する世界の闇を横目に、私は決意した。もう何が何でもナンダカンダドンナモンでも適当に当てまくる!
「こっち向きな! 冷んやりするよ!」
『うう……?』
「はぁっ!!」
『うわぁ冷たい冷たいよおおおおお』
「いちいち五月蝿いんだけど!」
リアクションは『冷たい』、以上。これも効かないとなると何で攻撃したら良いんだろう。ん? 待って、「効かない」?
私は再度、今度は両腕を伸ばし同じく冷凍ビームを放つ。すると、また『冷たい』と手をわたわたさせる世界の闇。
効いてない訳じゃない! リアクションは大した事無いけど、『冷たい』って効いてるんだよ。私バカだなぁもう。
だけど凍らない。凍らないなら決定打に欠ける。
倒す為には明日波の様な強烈な攻撃や喜音の吸収魔法が必要。私の魔法は氷だから、凍らせて砕くくらいしか手段は見つからない。難しいな。
「魔力はまだ残ってる。ぼちぼち時間かけてる暇も失くなってきた様だし、決着つけなきゃ」
時間をかけ過ぎると崩壊が更に悪化するから、次の最大の一撃で世界の闇を沈めなくちゃ。
私は魔力を最小限に抑え、更に強く練り上げる為氷の板から屋根に飛び降りた。そして肩の力を抜き、集中しそれでも世界の闇の行動の全てを把握する。
……何か、私はまだまだなんだなぁって思い知らされるよね、この状況。1人じゃ勝てないもん。
それとモトニスは分かってるだろうなぁ、私が戻るつもりないってこと。やっぱ長年居るし? 親友だし。
私は多分生き残れないし、異世界にワープ出来るなら直ぐに行って欲しい。そうでもしなきゃ誰も生き残れないからね。
明日波だって言ってたじゃんね。『私1人が死ぬのとどっちがいいんだ』ってさ。私も同じ考えなんだよ。
明日波は真っ直ぐなコだったなぁ。私みたいに流音と喜音の間で揺れてる優柔不断なダメな奴じゃない。
私だって初めは喜音のこと何か腹立つ奴だなぁとか思ってたんだけどさ、誰よりもこの世界を守ろうとしてくれる姿に惚れちゃったんだよね。弱い癖に。
私達は不幸なんかじゃない。私達には逃げ道、生き残る為の術が残されてるんだもん。
でも明日波は不幸と言わざるを得ない。小さい頃に自分の分身と出逢って、同時に同じ人を好きになって、自分の所為で世界が滅びるって知って、自分自身を消さなきゃならなくて。本当に辛かっただろうなぁ。
そんな明日波が最大のの力を出してでも、自分を殺してもこの怪物は消えなかった。私達全員を葬り去るまで居なくなろうとしない。
だとしたら誰かがまた、命懸けで最期まで戦い抜くしかないじゃん?
私と明日波の時は全く違う。明日波がダメージを与えてくれてるし、明日波が居ないから遠慮無くコイツにアタック出来る。私が倒すんだ。倒さなきゃ皆を救えないから。
私は両手を絡め、魔力を集中させていく。この間攻撃をされたら間違い無く終わりだけど、必ず当ててみせる。
──喜音危ない!!
「え──?」
微かにだけど、私はレイビアの必死な叫び声を拾った。喜音が乗っていると思われる車両に遠目でも分かる大きな破片が落下して行く。
それまで溜めておいた魔力の無駄は否めないんだけど、私は眼前に近付く拳に気付きながらも彼の居る汽車へと手を伸ばした────。
「ん、あれ……これって」
「何だ、良かった助かった様だな」
破片が俺に当たらずに停止したのには明確な理由が存在した。それは汽車自体を確認すれば容易に分析出来ることだった。
汽車を覆う特大の氷山に因り、破片が凍り落下を急停止したのだ。こんな芸当が出来るのは1人しか知らない。
だが彼女は今そんな余裕がある筈が無いんだ。
彼女の向かった世界の闇が立つ町をアイビスと共に見下ろすと、先程まで疎らに立ち上がっていた戦塵が一箇所にのみ上り、世界の闇は一点を見つめている。
ここに来て最も、恐ろしい程の嫌な予感が脳内を駆け巡った。
「エリス……! エリスは何処に!?」
「落ち着け。まだ、魔力が感知出来る。死んでない」
「生死の問題じゃない!」
生きている事自体はほっとしたが、エリスが攻撃を受けていたとしたら間違い無く汽車を守った為だろう。まず自分を守れ! どいつもこいつも。
怒りたい訳ではなく、寧ろ感謝すべきだというのもちゃんと理解している。
だがこれじゃ、彼女が死んでしまっては無意味だろう。
俺は彼女が元気な姿で立ち上がってくれることを祈り、砂煙の舞う瓦礫の山をじっと見つめた。
煙が風邪で消え去ると、瓦礫の隙間にサファイアの髪が覗いて見えた。目立つ色なので直ぐに発見出来たが、同時に胸の奥が潰される様な感覚に襲われ歯を食いしばった。
うつ伏せに倒れた身体はピクリとも動かない。それが生死の崖っ淵に居るからなのか瓦礫が重いからなのかは知り得ないが、とにかく辛い気持ちになった。
汽車を守ったから、エリスが大きなダメージを負ってしまった、と。
「待て喜音。見ろ」
「……! エリス!」
瓦礫から這い出たエリスは髪の砂を払い、立ち上がった。流石だ、エリス。生きていてくれてありがとうな。
「だから死んでないと言った」
「そうでした」
こちらに気付いたエリスは口パクで『頼んだよ』と合図するとウインクを決め、再度世界の闇と対峙する形となった。
頼まれてしまっては仕方がないな。アイビスの肩を掴み上空に警戒しながら地上の破片を避けて汽車に戻った。モトニスはそろそろ修理が完了すると親指を立てた。
ふと血の匂いを感じた方へ向くと、そこには破片が突き刺さり息絶えたみっちゃんの姿があった。ありがとうみっちゃん、休んでくれ。
「はぁ、はぁ……まだかモトニス!」
みっちゃんの死がショックでか、眼を充血させながら破片を弾くレイビアは息が上がっている。戦い通しでスタミナが保たないのかも知れない。
「もう、終わるけど待ってよ! 失敗してたらどっちにしろ時空の狭間に落とされるんだからね! 最終確認も必要なの!」
「モトニス、エリスが攻撃を受けてしまった。そろそろ助けなければまずい」
「そうだね、でも最速で進めてるから!」
「す、すまん」
全員が全員苛立ってしまってる様にも窺える。これは少々精神的にキツいのではないだろうか。
まだ時間がかかってしまうんだエリス、何とか耐え抜いてくれ。
────危機一髪、だったかな? 喜音は無事だったみたいで安心出来た。ここからは私が頑張らなきゃね。
右脚を一歩出そうと動かしたつもりだったのに、何故か視界が変わっていなくて、突然左側頭部に殴りつけられた様な痛みが響いた。
「痛っ。あれ、これって……」
痛みのある部分に触れてみると、左手は真っ赤に染まっていた。少しばかり黒ずんだ赤色の液体、それが身体から出ているのなら私は答えを1つしか知らない。
「血、出てるなマジか」
右脚が上手く機能しないのは強く左側頭部を打ち付けてしまったからと、恐らくこの出血の為だ。ここまで来てしまうともう生きてる心地がしないね。
私は衣装の裾をなるべく横長に裂き、それを頭に巻きつけた。鉢巻してるみたい。
私の様子を窺っているのか、攻撃して来る気配がまだ無いので、左手を胸辺りまで上げる。動作に支障は無いみたいだけど、魔力はもう殆ど残っていない。
そろそろ限界が近いかな。
よく考えたら自分の全身より遥かに巨大な拳を喰らって建物ごと吹き飛ばされてたらそりゃ血出るわ。私化け物じゃないもん。か弱い女の子だもん。
さてと、ラストスパート頑張りましょうかね。
私が自然に空へ眼を向けると、かなり小さくなった汽車が空を進んでいた。そして丁度真上で停止し、扉が開いた。
「エリス! 飛べるなら早く入れ! 後は私達でそいつ倒すから休んでろ!」
「レイビア」
空から私に向かって手を伸ばすのは、私にとって妹的な存在であるレイビア。髪の毛長いの邪魔じゃないの? とか常時疑問に思ってたけど、今となっちゃそれも個性かって感じ。
「早く来い。喜音がして欲しいこと何でもしてくれるぞ」
「え、マジどうしよう行きたい」
「そんな事は言っていないからな」
アイビスとは出逢ってまだ全然経ってないからよく分からない事が多いけど、印象はクーデレかな? ツンデレでもいいなぁ。それでツインテールにしてくれればってこれは願望。
うわ、本当に喜音何でもしてくれるんなら全力で飛んでくんだけどなぁ。ムリ。
「エリス! 何ボケっとしとんじゃあ! 早く来いって!」
「へへ、ごめんね」
私の1番の親友、モトニス。あのバカとは6歳頃から一緒に居るかな。多分。
変な奴だし、弱いしバカだし……でも面白いコだよね。同じ女と思えない。それは偏見か。
ねぇモトニス。私はあんたと一線を引いて今まで一緒に過ごしてきたんだよ。何でか分かる?
それはね、あんたが私と比べられちゃうからなんだよ。
自分で言うのも何だけどさ、私天才な訳よ。魔法にも恵まれたしさ。それで何度かモトニスが悪く言われてるところを目撃しちゃったんだ。私はそれが嫌だったの。
放っておくなんて頭では考えられてもさ、やっぱり離れても良いなんて思えなかった。もっと傍に居てあげればよかったんだけどね。
だから、これからは君に頼むよ。
「おい、どうしたんだエリスの奴。気づいていない訳ではない筈なんだが、飛んで来る気配が一向に無い。まさか魔力切れか!?」
「それは無いだろ。んじゃあ何で……?」
「もしかして、エリス……!?」
やっぱり気付いちゃったかぁって、そろそろ教えなきゃ分からないか。そうだよモトニス。私も明日波と同じ行動に移るから後よろしく。
それより喜音、声には出さないけど色々言いたいことがあるよ。
まず一つ目! 君は鈍感にも程があるでしょ。私が何度も何度も積極的にアピールしても流されたり無視されたり気づきもされなかったり! どれだけ傷ついたと思ってんの。
二つ目。魔力のコントロール下手過ぎ! 憧れてるだけじゃ上達する訳ないし、イメージトレーニングしっかりしときなよ。魔法は想像次第でどんなにも変わって行くんだから。
そして三つ目。これから、レイビア、アイビス、モトニスのこと、しっかり守ってあげてね。3人共心脆すぎだからさ。支えてあげて。
君も幼馴染みの明日波を失ってて厳しい心境だろうけど、きっと3人が癒してくれるからさ。心開いてあげてね。
んでもって、最後。
「エリス! お前が好きな俺が両手を広げて待っているぞ! アイビスの言う通り、1回だけなら何でも聞いてやる! だから来い!」
「ふふ、変なの」
私は汽車を見上げる世界の闇に氷麗を飛ばし、自分に殺意を向けさせた。そして、汽車に向かって両手を伸ばす。
私からの、精一杯の愛の言葉です。
「喜音、これから皆のこと、よろしく」
不意を突かれた様に固まる4人に手を振り、私は世界の闇に突っ込んで行く。
コイツも生物と言えるなら核が存在する筈。それを一か八か破壊する為、内部に侵入する!
「エリス止めろ!」
嬉しいよ喜音、心配してくれるんだね。でもごめん。私はこれから君の兄と幼馴染みに会いに行くつもりなんだ。乗車券は千切っておいてよ。
私は闇の中へと入り、迫り来る黒い手に臆する事無く、魔力を放出させた。
内側に残っている、全ての魔力を逆流させて闇を、消し飛ばすんだ。
「うおっ!?」
「エリス、魔力出し切る気!? ダメだよ!」
車体を揺らす突風の直後、世界の闇の身体の闇は流星群の様に弾け飛んだ。そして、その中心には地面の大きな裂け目に落ちて行くエリスの姿が見えた。
「エリスを助けられないか!?」
「……ムリだ遅え。アイツは、もう生命力なんて残ってないよ」
「エリス……!」
ああ、ダメだったかぁ。やっぱり上手くいかないね。
ごめんね皆、後少しだから頑張ってね。
『うわああああ』
「最後に脚だけでも凍らせておくよ」
薄れ行く意識の中、見えたのは仲間達の悔しそうな顔。そんな顔しないでよ。最期くらい笑顔で見送ってよね。
おっと、忘れるところだった。
喜音、大好きだよ────。
明日波、エリスと消えて……何か一章の終わり方バレそうな気がしーますよ〜。はい。