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ファンタジーな世界だけどラブコメしません?  作者: 夢愛
最終章・分断される世界
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弱点

「喜音、話しておきたいことって何だ? 流音はまだ私らを捜してて隙はあるけど、崩壊は止まってないんだ。早くしろ」


「ああ、世界の闇……マリフ・ゴートの明日波と流音にある共通点についてだ」


 俺は直ぐに気がついた。流音が走り出した時点で不思議に思ったのだが、既視感というか……覚えがあるものを感じたんだ。

 明日波を除けば、コイツらは俺より頭が回る。もしかしたら先に勘づいていたかも知れないが、一応確認しておこう。


「実はな……」


 溜める意味も必要性も皆無なのだが、雰囲気を作りたくて間を空ける。明日波がジト目を向けて来たので、反射的に続けた。



「世界の闇になると、気怠い口調になるらしいんだ」



 そう、俺が言いたかったのは何を隠そう、そのことである。気がついたか? どちらも素の時と違っているんだ。

 流音は段々と変化していったが、普段と違いが大き過ぎて誰でも分かるだろう。

 本当に不思議だ。どういう仕組みなのだろうか。


「……ねぇ、まさかそんなことを伝えたかった訳じゃないわよね」


 何かの我慢が限界、というくらい眉間に皺を寄せた明日波が、何故か指を鳴らし始めた。俺、それ出来ないんだよな。


「と言うことはやはり気づいていたか。それなら時間を取ってしまって申し訳ない。だがやはり、共有していかなくてはと思って……」


 ──おや? いつの間に俺は寝そべっているんだ。何故こんな危険な場所でうつ伏せになっているんだ?

 よく分からないまま立ち上がり、右頬に不思議な痛みを感じた。唇切れてるし。


「なぁ、俺何があった?」


「さーな、知るかよ。急な睡魔にやられたんじゃねーの?」


「あー……じゃあ右頬の痛みは倒れた時のものか?」


「それはどうでもいいけど。もう一度訊くわよ喜音、まさかさっきの下らないことが言いたかっただけ?」


「下らない……」


 今ので何となく察したぞ、この怪我は明日波にやられたんだな。思い切り殴られて失神したとかそんなとこか。どんな力で殴ったんだお前。

 このままじゃ俺だけ仲間外れにされる可能性も否めないな。丁度今気づいたことを本題のようにしておこう。

 まさか殴られるとは思わなんだが。


「実はもう一つあるんだ。今のはジョークだったが……」


「こんな状況でよく冗談かませるなお前」


「今度のはマジメだ。大マジメだ」


 俺はつい十数秒前くらいに違和感を覚えた。気づくのが遅過ぎたとも思うが、それは追いかけられたからということにしておこう。

 いや! 気づいてたが冗談が先に出てしまったといことにしよう。そうするべきだ。

 だってコレを本題として出すんだからな。


「明日波はさっき、『腕が治っていない』と言ったな? そう、治っていないんだ」


「んなの見れば分かるわ」


 レイビア、そろそろ飽き飽きして来たのだろうな。だがコレは本当に重要なヒントなのだ。流音を倒す上でな。


 アテモテの魔力をチャージして放った吸収魔法。流音はそれを、右腕を犠牲に弾いた。

 弾いた右腕は消滅し、それは今も継続中だ。再生はしていない。

 さぁここだ。ここが最も重要な点だ。


「腕が再生しない。更に流音は、オーラを使わなかった。これでどういうことか分からないか?」


「ああ、そういうこと。喜音はこう言いたいのか。『吸収魔法でなら倒せる』って」


「エリス、惜しいぞ。実に惜しい。確かに大雑把に言えば、それで間違いではない。だが吸収魔法だけでは、明日波バージョンの世界の闇の時と同じで、流音は死なない」


 もう一度考えてくれ。()()()()()()()()を。


 ほぼ同時に四人は頷き、エリスはニヤりと笑ってみせる。これをしたり顔と言うのだろうか。

 弱点めっけ〜みたいな。


「なるほどな。オーラで防げなくなった上に、アテモテの魔力は致命傷になるって分かった訳か」


「正解だ」


「だから、唯一それが使えるあんたが狙われてんのね。納得」


「じゃあ私達は……」


「喜音がチャージしてる間、アイツを引き付けとけばいい訳だ。まっかせて〜」


 エリス達は、距離を詰められない為にも素早くここから離れて行った。頼んだぞ、お前ら。

 ……というか俺ももう少しだけ近づこう。ここじゃアテモテ降って来る。


「チャージに要する時間は凡そ一分。それまでに勘づかれなければ、今度こそ仕留めてやる。もう一度腕でガードされても、その次は守れやしないからな」


 そうなったら吸収魔法も必要ない気がするが。まぁ、より殺傷力の強い攻撃を撃った方がいいだろう。スタミナ的にも。

 問題は一つだけある。この魔法、俺も相当疲れるんだよな……。


「吸収開始だ! 頼むぞ、こっちに気づくな」


『見ぃつけたぁああああああああああああああ!!』


「早ぇよ! まだ溜めてもねーよ!」


 駆け出した流音に、止むを得ず中断。時間がかかるというのにこんな直ぐ居場所がバレては、いつまで経っても放てないぞ。

 何故こんなに早く見つかってしまうんだ? 距離は充分に取ってあって、狭くて見え難い位置でやっているというのに。


「アテモテを吸収しているから察知出来る、とかだったら面倒だな。何とかしなければ……」


 何とかなればいいが。

 ──走りつつ対策を探していると、流音の顔が爆発し動きが止まった。脚も凍らされている。

 明日波とエリスか。


「喜音!」


「おお、レイビア! お前あまり高く飛ばない方がいいぞ! 範囲から外れる!」


「バーカ! あんなデカい奴の範囲からそうそう外れる訳ないだろ! それより聞け!」


「何だ!?」


 ドラゴンに跨っているレイビアは、そのままで流音を指差した。ふむ、やはり動きが鈍くなっているな。空気抵抗の問題だろうか?


「そっちに気づいても、私らで足止めする! だから出来るだけ早く溜めて、アイツをぶっ飛ばしてくれ!」


「なるほど、了解した! 確かに見たところ、オーラがなくなった分明日波とエリスで止めることが出来るようだしな。今度は向こうでやる! 任せたぞ!」


「おう! アテモテには気をつけろよ!」


「分かった!」


 アテモテが降って来ることよりも、流音が瓦礫を投げて来る方が恐ろしいのだがな。

 かつて明日波版世界の闇に家を投げつけられ、死に直面したのだ。あんな恐怖はもう味わいたくない。

 流音からまた離れ、アテモテが降って来ないことを確認する。今は明日波達が攻撃しているからか、流音は俺を捜していない。

 なら今がチャンスだな。寧ろこんな絶好のチャンスは殆どないが。


「チャージ開始! 一分間耐えてくれ皆。そうしたら、奴の腹に風穴を空けてやる!」


 身体に、アテモテの魔力がこれでもかと言う程に流れ込んで来る。これだけの魔力を吸収出来ていれば、致命傷を負わせられるのではないだろうか。

 腕でガードされなければ、この一撃で終わるかも知れない。


「もう少しだ!」


『喜音んんんんんんんんんんんん!!』


 驚くくらい唐突に、流音は俺を視界に捉えた。まさか、さっき予想したアテモテの魔力を察知出来るってやつ、当たりだとか言わないよな。

 だがこれだけ前触れもなしなのは有り得ない。そうだと認識しておく方がいいか。


「行かせるかぁあ!!」


「止まれ!!」


『ぅああぁぁあぁぁあああああ!』


 小さな何かが、流音の腹と顔面に突撃した。そのお陰で流音は足を止める。

 アレは恐らく、ドラゴンに乗ったレイビアとユニコーンに乗ったアイビスだな。助かった、あと十秒も要らん。


『邪魔だあああああああああああ!』


 流音が空中で何かを掴んだようだ。──待て、レイビアとアイビスじゃないか!? ドラゴンとユニコーン毎だろうが。

 しまった。これじゃ放てないどころか二人が危険だ。明日波、エリス何とかしてくれ!


「その手を放しな。汚いんだよ!!」


 ドデカい氷の刃が、流音の腕を切り落とす。攻撃力高過ぎないかそれ。

 三人がその場から離れて行くのが見えて、いざ放とうとしたら明日波が射線に入って来た。邪魔なんだが!?


「はぁぁあああああああああああああああっ!!」


『うぐぁあああああああああああああ!』


 燃える拳を連打する明日波と、ビクンビクン身体が跳ねる流音。何してるんだお前らは。明日波退いてくれ。

 つーかエコーかかってうるさいんだよ流音が。


「喜音! 撃って!」


「ん!? このタイミングでか!?」


「いいから撃てって言ってんのよ! ギリギリまで動き止めとかなきゃやられるでしょ!?」


 喉が傷つきそうな程の大声で会話し、その中で流音の切断された左腕が治りかけていることに気がついた。

 明日波は俺がやられないように足止めしていた訳か。バカだから気づいていないのだとばかり。


 足に力を入れて踏ん張り、魔力を前方に押し出すイメージ。

 これで終わりだ流音。

 放出──!


「明日波避けろ!」


「言われなくても分かってる!」


 魔法が届くより少し早く、明日波はその場から離脱した。寸前まで止められていた流音に、これを躱す余裕などないだろう。

 つまり、ゲームセットという訳だな。多分!

 考えてみろ? あんな化け物が風穴空いたくらいで死ぬって決めつけられるか? 瀕死でも生きていそうだろう?

 だから次の手も考えておこう。


『うぁあぁあぁああああああああああぁぁぁああああっ!!』


 あの、低音ボイスだった流音からは想像つかない程の、耳を劈く高い悲鳴が響き渡る。頭割れそうだ。鼓膜も無事だろうか。

 全世界に聞こえているのでは? と思うその絶叫が終わると、流音は膝から崩れ落ちた。そのまま折れるように倒れる。

 ……死んだ?


「終わった、のか? え、もう明日波達のところへ近づいても大丈夫か? だがいきなり起き上がられたら怖いよな……」


 ゾンビゲームなどで、倒したと思った敵が突然起き上がるのとか、俺は苦手な方が。あんなのビビるだろう。

 やったことないけどな、その手のゲーム。


「破壊された腹は修復されていない……ということは、倒せたのでは? 終わったのでは!? 俺達、世界を救えたのでは!?」


 ズズーン──大きな振動に、一瞬で身が硬直した。ちょっと待てよ。

 おい、ちょ待てよ。待ーてーよ。


「何で崩壊、終わらないんだ……!?」


 アテモテは未だ、休むことなく降り続けている。崩壊は現在も進行中だ。

 どうなっているんだ。流音が最後の敵じゃなかったのか!? 流音を倒せば全てが終わるんじゃなかったのか!?

 ──今のは語弊があるな、うん。戦いは終わるんじゃないのか!? にしておこう。


「おかしいだろこんなの……俺達は、何のために戦って……」


 見てくれよ皆。あそこに、デカい死体が見えているじゃないか。

 俺達は勝ったんだ。流音を倒したんだ。世界を救うための挑戦をクリアした筈なんだ。

 なのに、だというのに、崩壊は終わらなかった。


「喜音、よく聞け」


 ユニコーンに乗ったアイビスが、頭から血を流した状態でやって来た。もしかしてそれ、掴まれながら落下したからか? 大丈夫かよ……。


「それより、見てくれアイビス。流音は倒せたのに世界は……」


「うん、やっぱりか。明日波が言ってた通りだ。お前は勘違いしてる」


「……勘違いだと? 一体どの辺が勘違いだと」


「流音は死んでない。『見てみろ』がおかしいんだ。アテテテは死んだら、アテモテ還る」


「……あ」


 そう言えばそうだった。世界の闇は俺が吸収したから見た訳じゃないが、他のアテテテ全ては、アテモテに還って行ったのだった。

 だが、流音はまだそこで倒れている。アテモテに吸い込まれてはいない。

 つまり、生きているという訳か。


「なら早く立ち上がれ! 次こそ仕留める! もう、時間がないだろ!」


「それに関しては策があるらしい。エリスが、『懸けに出よう』と言ってた。行くぞ喜音」


「懸け……? こんな大事な場面でか? 何のことか知らんが、下手をしたら……」


「いいから黙ってろ」


「うっ……!?」


 わざとユニコーンをジャンプさせやがった。お前、男の一番の泣き所を、間接的に攻撃して来るとは何て奴だ。痛ぇ……。


 股間を労いながらもエリス達と合流し、その策を聞いた。確かに、とんでもない懸けではある。

 少しでも失敗したら、世界が崩壊とかいう前に殺されるだろう。

 しかし俺でも、それくらいしか手段が残っていないのも理解出来る。やるなら、やってやろうじゃないか。


「何より、お前らが一番気をつけてくれ。失敗したら全滅だからな」


「ミスしなきゃいいのはあんたでしょ? 私達はどうすることも出来ないんだから」


「私達の命は預けたよ喜音。もしダメだったら、天国で反省会でもしよ」


「ダメだったらなんて考えんな、絶対に倒すんだよ。外すなよ喜音」


「善処する」


「動き出すぞ、全員離れろ」


「また、今度は世界を救ったら会おう」


 全員が散らばり、流音の範囲からも外れる。アテモテはもう残り僅かだ。落ちて来るのも少ないだろう。

 この策には、二つの懸けがある。


 まず一つ目は、外したら手も足も出ずに殺されるだけということ。

 二つ目は、その間誰も動けず、アテモテに潰される可能性があるということ。

 後者は最早運でしかない。最後の懸けだ。

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