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ファンタジーな世界だけどラブコメしません?  作者: 夢愛
第一章 パラレルワールド
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レイビア・モストアニーア

10話到達!

 今から11年前、俺達幼馴染みの2人は『世界の闇』と出逢った。

 だが、何事も無くただただ毎日隠れんぼをして遊んでいただけだったからか、その記憶か散り散りに消え去ってしまっていたんだ────。



 先の夢より現実へ引き戻された俺は珍しく寝覚めが悪かった。何か疲労感があるというか。

 睡眠はそれを和らげる為に行うものではなかったのだろうか。むしろ辛くなったぞ。


「ん、何の音だ。ラジオの雑音みたいな……」


 喧しい音に苛立ちカーテンを退かすと、霧がかかる様な大雨が降り注いでいた。


「よりによって今日なのか。たく」


 異世界なのは絶対に関係は無いだろうが、雨はタイミング悪く訪れることが多い。例えば気分が悪い時や絶対参加の行事がある日などだ。

 俺はそれが何より嫌いで、もっとはっきりと言うなら雨が大嫌いなんだ。腹が立つ。


 雨はタイミング悪く訪れると言っただろう。今日は俺が食料を取りに行く当番なのだ。

 初の狩りがまさかの大雨。前も見辛い上音も感知し辛い。


「まあ明日波にやらせるよりはマシか。仕方ない出掛けよう」


 一応雨合羽の様なビニールの上着が用意されていたので、それを纏い大雨の下外出をする。

 狩りというのは一応分かっているのだが、一体何をどうしたらいいのだろう。レイビアやモトニスは何かよく分からない生物の肉を持って帰って来るんだが。

 俺はキノコしか知らないぞ。


 この世界は異世界な為勿論元の世界と同じ動物だけとは限らない。レイビアが飼っている様なドラゴンが出て来やしないかが不安だ。

 それよりやはり雨は冷えるな。風邪引くのではないだろうか。


「こんなに暗いのならキノコすら見つけにくそうだな。それにこの音だ。動物の足音も聞こえないだろう。厳しいな」


 薄暗い森の中、俺は出口だけは見失わないように奥へ進んで行く。

 転げそうな危険な蔓などは所持しているサバイバルナイフで切っておく。次の奴等の為でもあるらしい。


 ところで、この狩りのことなんだが2日に1度だけらしい。まあ採って来た量によっては1日で終わる訳ではないしな。

 生態系も崩してしまう可能性だってあり得る。それは考えていないだろうが。


 十数分が経ち籠の中はキノコが4つ。いずれも食べたことのあるものだけだ。

 だが絶対に必要である動物の肉は未だ手に入ってはいない。そんなに毎日必要でもないのではないだろうか。

 昨日モトニスが採って来た熊らしき生物の肉だってまだ残っている筈だ。今日くらい採らなくても大丈夫ではないだろうか。


「帰るか。ん? しまった、脚が泥濘に嵌って抜けないぞ。どうするべきか」


 こんな時どう行動するべきなのかは学校では教えられない。モトニス達からも聞いていない。

 ならばどうするべきか。自力で考えてみよう。


「泥濘から脚を引き抜く。これしか無いだろうな」


 だがいくら力を入れ脚を上げようとしても全く動きもしない。こんな事あり得るだろうか。

 それと、少し気づいた事が有るのだが引きずり込まれていないか? これ。


 脚を何かに掴まれているとかそう言う感覚がある訳では無いんだが、嵌っている脚がずぶずぶと沈んで行っている様に感じるんだ。

 初めは足首までしか入っていなかったのだが、今は脹脛の中心くらいまで埋まっている。


「このままじゃもう片方の脚まで嵌るんじゃないか? 何とか抜け出さなければ……!」


 何て言うが、もう数分前から行動に移してはいるんだ。抜けはしない。このままでは────。


「お前何やってんだ」


「レイビア!」


 身体が力一杯引き上げられ、右脚以外は脱出が可能になった。レイビアが引き上げてくれた。

 こういうピンチの時にやって来てくれる彼女には毎度感謝している。

 代わりに俺は何か出来ているだろうか? いや、全裸を目撃してしまっているだけだ。


「ここは『モグロウ』の縄張りだ。引き摺られて喰われるぞ」


「恐ろしい事を言うんじゃない。モグロウとは何だ?」


「お前らの世界じゃ確か、モグラか何かってのが近い筈だよ」


「なるほど。なるほどな」


 俺が想像していたのは自分達の世界に存在しているそこそこ小さいモグラだった。あの腕で俺を引き摺り込む力が有るとは思えないんだが。

 そして、その想像は次の泥の飛沫と共に豪快に崩れ去った。


 現れたのは狼の様な雄叫びを上げる俺よりも少し大きなモグラだった。恐ろし過ぎるだろう。


「何だこれは」


「これがモグロウ。へへ、今日はコイツの肉だな」


「逃げないのか!?」


「何で逃げんの?」


 レイビアは前方に手を伸ばすと魔法陣と赤い靄を出現させた。赤色なのは何か意味があるのだろうか。


「みっちゃん! 捕らえるぜ!」


 『みっちゃん』か。中々可愛らしいネーミングだが召喚されたのは爪が俺の半分程のサイズの大きなミーアキャットだった。ミーアキャットなのか?

 あの人気者が今にも食い殺しそうな目つきでモグロウを睨みつける。


 全体的に自分よりもひと回り大きいみっちゃんを怯えながら見るモグロウは震えている。何か可哀想に思えてきたぞ。

 レイビアの『ゴー』の合図で容赦無く腹を突き刺したみっちゃんはモグロウの頭を食い千切った。見たくなかったこんな光景。


 みっちゃんに因って肉片と化したモグロウの腹肉を籠に詰めたレイビアは満足そうな笑顔を見せる。


「喜音、立てるか?」


「ああ、もう脚も抜けた。それより血生臭いな」


「まあ後はみっちゃんが処理してくれるから大丈夫だろ。この雨だし」


「その処理の仕方が恐怖なんだが」


 みっちゃんは残骸を骨も残らない勢いで貪っていく。もう帰ろう。

 そして今回得たものは大きい。あの辺はモグロウの縄張りなんだな。もう居ないけど。



 帰宅と言っていいのだろうか。とにかく家へ戻って来た俺達はエリスに食材を渡した。

 『少ない』と言われた事に腹が立ったが、その中に混じっている肉から早く離れたい為に部屋に戻った。


「何だろうな。この、何か、とにかく、暇だ」


 異世界転移ものと言ったらこう、何かもっとないか? やる事やったら毎度部屋に戻って休憩しているだけなんだが。

 と言ってもこんな人も碌に居ない世界で何か事件よ起きろと願ったところで無駄。アテテテ襲いかかって来るオチが見え見えだ。


 俺も読者もこんな非日常的な日常を過ごして得などしないだろう。何か無いのか。エリスの誘惑やレイビアの全裸や怪物に襲われる以外のイベントは!


「いや、何も無い方がマシじゃないの?」


 無断で入室して来るんじゃない、明日波。一応俺だってプライバシーというものが存在するのだからな。

 それに、分かりきった質問を投げて来るんじゃない。


「危機ばかりで興奮する様な内容が無い異世界転移ものを読者が楽しめると思うか? そんな訳がない。起承転結の『転』がいつになったら出て来ると言うんだ」


「いや何の話してんのよ。あんた自分の状況分かってる? 下手したら死ぬんだからね? あんたも私も」


「まあそうなんだが……」


 そこら辺は確かにそうなんだが、そこじゃない。もっと驚きや興奮といった要素が無ければラノベとしては駄作だと言うんだ。

 魔法が使えて怪物が出て来て戦って、なんて作品は今の時代飽きられている事だろう。もっと新しい要素が無ければ。


 気がつくとまたラノベと比べてしまっているが、俺の今の生活は現実なのだった。危ない危ない。

 現実と仮想の区別が無くなってしまえば危険が深まるばかりだ。気をしっかりと保たなければ。


「そう言えば明日波、レイビアはよく俺が居る場所が分かったな」


「そうなの? 私は全然分からなかったけど、あの人本当獣みたいね」


「人を獣扱いするな」


 む? 俺も前回同じ様な事考えていなかったか? 気のせいだろうか。


 だが獣やドラゴンなどの動物類を召喚出来るだけで獣の様に変化して行く訳ではないだろう。レイビアは何故俺の居場所が分かる?

 アイビスと出逢った後もそうだ。レイビアは『やっぱりここに居た』と言っていた筈だ。

 他に幾らでも道は有るのにどうしてそこだと思ったんだ?


「すまん明日波。少し部屋を出るぞ」


「あ、うん」


 疑問が残るのは嫌いなもので、俺はレイビアの元へ向かった。何処かは分からんからひとまず部屋に。


 部屋は蛻の殻だった。エリスは料理中の筈で、モトニスは恐らく入浴中だ。俺が風呂に入りたいくらいだぞ。

 アイビスはまだ眠っている様で、レイビアの姿だけが見当たらない。雨だから外はあり得ないと思うのだが。


「レイビア捜してる?」


 ウロチョロしている俺に鬱陶しいとでも思ったのか、エリスが台所越しに話しかけてきた。


「あ、ああ。少し気になる事があってな」


「レイビアは傷心中。隣の町にでも行ってるんじゃないかな」


「傷心中? 何があった?」


「いや、こっちの話」


「……そうか」


 エリスはやはり不思議な女だな。自分から気になることを言っておいて結局何でもないと。

 それよりレイビアは雨の中町に出かけているというのか。アイツは他の2人より薄着だから風邪引かないか心配だな。


 コートを毛布に埋めてから俺は雨傘を差して外に出た。レイビア用のも片手に。


「喜音、何しに行くのかな」


「さぁね」



 ──町に降りてみると、崩れた建物の内側に水溜まりが作られている。それ程前から降っていたのだろう。

 俺と共に帰宅した筈のレイビアは数分で姿を晦ました。そんな遠くには行っていないのではないかと坂道近辺を捜し歩く。


 思えばここで初めて全身黒タイツのアテテテを目撃したんだったな。

 レイビアはピンチの時にすぐに駆けつけてくれるが、ここでもし今襲われたら来てくれるのだろうか。

 いや、今フラグを立てる訳にはいかないか。


「……ん? 誰か居るのか」


 前と同じ場所で、同じ角の先から水溜まりを歩く音が聞こえる。レイビアが居るのなら、返事をする筈だ。

 俺は雨の中魔法を使えば感電してしまうかも知れないから戦えないのだが、アテテテではないことを祈るか。


「動くな!」


「わっ!」


 今回はアテテテではなくレイビアだった。焦った様に手を左右に振り取り乱す彼女だが、何故隠れていた?


「ちょ、悪い気づかなかった。じゃあな──あ!」


「待てレイビア。何故逃げる」


 この場から去ろうとしたレイビアの右手首を掴み、振り向かせる。

 レイビアの眉は情けなく曲がっていて、苦しそうな表情を見せる。


「何でも無いよ。風邪引くぞ、帰れって」


「エリスはお前が傷心中だと言っていた。何があった? 何でも言ってくれ。俺はお前の仲間だろう」


「……エリスはお見通し、か」


 抵抗もしなくなったレイビアは雨で濡れている事など御構い無しに瓦礫に座り込んだ。

 レイビアの麗紅な髪は濡れて艶やかなものとなって頬や首筋に張り付いている。俺は彼女に傘を差し、濡れるのが嫌で立ったまま話を聞く事にした。


 ほう、これは腕が疲れそうだな。両手に傘で片手は伸ばしたままという。キツい。


「喜音はさ、守れなかったものってどれくらいある?」


「守れなかったものか……」


 問いかけに真剣に応えようと脳内を隈無く迅速に巡ってみるが、よくよく考えると俺は明日波以外の人間を守ろうとした憶えがない。

 だがそれでも唯一守れなかったものがあった。


「猫だ。俺は明日波が居てくれなければ猫と共に流されて死んでいただろう。悔しい思い出だ」


「明日波が、助けてくれたんだな。私はもっともっとあるよ。町の人達だって故郷の人達だって、お前の兄だってそうだ」


「俺の兄……?」


 流音はアテテテに因って殺されたとエリスから聞いたが、何故レイビアが気にしているんだ?


「本名は流音というんだな。私達は『ルネ』と呼んでいた。そして私はいつも傍で戦っていたんだ」


 本名という訳では無いだろうが、異世界だと名前まで違くなってしまうのだろうか。いやそれは無い筈だ。パラレルワールドなら尚更。

 つまりレイビアが言いたいのは、『ルネ』は本名ではなくただ愛称として呼んでいたということだろうな。ルネか。るおんと読む筈なのだが。


 兄だと分かっていても中々可愛らしい愛称だな。ルネ。


 それにしてもレイビアといいエリスといい、流音をリスペクトする者が多い様な気もする。そんなに凄い奴だったのだろうか。この世界の兄は。

 それともかなり魅力的な男性だった、とかか? それは無いか。な?


「喜音? 喜音は、私を置いて行かないよな? 私達の傍から居なくなったりはしないよな……?」


「レイビア? 急にどうしたんだ?」


 虚ろな瞳。いや、むしろ何かを訴える様な曇り切った瞳で必死に俺の姿を捉えているレイビアはすぐに眼を逸らした。

 どうにも、挙動不審と言うか何かに怯えていると言うか。


 それでも何かを教えようとしないレイビアに痺れを切らした俺は彼女の肩を掴み身体を揺らした。


「何なんだレイビア! どうした!? 何でそんなことを訊く!?」


 レイビアは小刻みに震えた身体を押さえつける様に腕を交差させ反対の腕を掴む。そんなに言いにくい事でもあるのか?

 彼女の気持ちが落ち着くまで俺は待つことにした──寒いなぁ。


「私さ、流音に背中を任されたんだ。それで流音はアテモテの中を探索しに向かった」


「時空の歪みにか!? そんな事してもどうとなるものではないだろ!」


「そうなんだよ。だから途中で引き返して来たんだ。けど、流音は大きなアテテテに引きずり込まれて消えた。全てから」


「……!」


 兄、流音の死に方は初めて聞いたが、まさかそんな死に方だったとは。別れも告げることが出来ずに消えることになったのか。

 弟としてでなく、人間として哀しく思える。助けられなかったと思っているレイビアもな。


 だがな、それは間違いなんだよ。本当に不器用だなお前達は。


「レイビア、流音が死んだのはアテモテに近づいてしまったからだ。お前はそこに関係していない。時空の中に引きずり込まれたのなら、守りようがなかっただろう。気にやむことはない」


「お前の兄だぞ!? よくそんな風に言えるな!」


「俺はこちらの兄を知らない。だが少なくとも俺の兄はそんな事でお前に悔やんで欲しいとは思わない筈だ。お前が生き延びただけで喜んでくれる様な奴なんだ」


「だけど……」


「先程の答えがまだだったな。いいな、俺は居なくならない。お前達と2つの世界を救うと決めたんだ。なのにお前がそんなでは救えるものも救えないぞ」


「……」


 俺は頑固なレイビアに傘を1つ預けると、坂道を戻って行く。

 少し心配で振り返ろうとした──途端に泥で滑ってしまった。『このままではまずい』と瞳を伏せたが、転んだ痛みは無かった。


「今度は絶対に死なせないからな。喜音」


「お、俺はまだ死んでいないのだが」


「あ、そうだった」


 元気を取り戻したのか目的をしっかりと胸に刻み苦しみに耐えたのか、俺を支えてくれていたのはレイビアだった。

 男1人を片手だけで支える腕力と脚力と腰は中々のものだな。俺の方が20センチメートル程デカいのだが。


 脚首捻ったので引きずって行ってもらう事になった。酷くないか?


 まあレイビアの具合が戻っただけ良しとするか。


そろそろ物語が動き始める、様な気がします。

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