始まり
「はぁ、はぁ……」
自分の街を抜け出して、当てもなく歩き続けてきたが……
「ここは……」
長い森を越えて辿り着いたそこは、人ひとりいない閑静な街だった。いや、街というよりは墓場、だ。
以前まで栄えていたのであろうその場所は、建物は半壊し、あちこちに人のものと思われる骨がゴロゴロ転がっていた。
「……?」
そんな通りを進んでいくと、大きく開けた場所があった。そこは文字通り“墓場”で、一面墓石で埋まっていた。
その場所はあまりにも不気味で、今にも墓から死体が出てきそうな雰囲気だった。
さっさと街を通り抜けてしまおうと歩みを進めようとしたその瞬間、
「……っ!!?」
自分の首元には大きな鎌の刃先が当てられていた。
「…何者だ」
殺気に満ちた静かな声が背後から聞こえる。
「い、いや、俺は、怪しい者じゃ…っ」
とりあえず凶器を仕舞ってもらおうと弁解を始めてみたが、効果はなく先程より刃先が喉にくい込んだだけだった。
「…墓荒しは殺す」
そう言って男が鎌を振りかぶったその時
「まぁ待たんかアイデン」
男と同じ方向から幼女のような可愛らしい声が聞こえてきた。が、そんなことはどうでもいい。
首から鎌が離れた今、俺がやるべき事は、逃げる!!!!
勢いよく走り出したのも束の間、俺の身体は黒い影のような手に捕えられていた。
「逃げるな、ぬしも待つのじゃ。」
ここで初めて声の先が見えた。しかし幼女の姿はない。
あるのは鎌を持ち大きな棺を背負った男と小さなクマのぬいぐるみだった。
「なっ…」
何より驚いたのは俺を拘束している影はクマのぬいぐるみの背中から生えていた。
おそらく声もぬいぐるみからだろう。
「まず、ぬしの話を聞こうか、ぬしは何処から来た。何をしに此処へ来たのじゃ」
まああの男より話は通じそうだ。
「ま、まずは、この影を離してくれないか。も、勿論逃げる気は無い!」
「良いだろう」
俺を締め上げていた影はスルスルと縮んでいき、そのままぬいぐるみの裂けた背中に戻って行った。
「…墓荒らしでは無いことはよくわかった。その事についてはすまなかったの」
「あ…いや、わかってくれたなら…」
あの後、俺は喋る小さなクマのぬいぐるみに対して自分がここへ辿り着いた経緯を洗いざらい話した。
その間ずっと鎌の男は俺を見張っていたのだが。
「さて、もう一つ、聞きたい事がある。ぬし、先程“長い森を抜けてきた”と言ったな?」
「えっ、あぁ、まぁ。」
「では聞くが、ぬしが出てきた街の名は?どんな街じゃ?」
……どんな名前だったか覚えていない。どんな名前だった?どんな街だった…?
「…成程な。覚えとらんのか」
「い、いや、知ってる、知ってるはずなんだよ」
俺は必死に名前を思い出そうと記憶を辿ってみるが、森に入ったところまでしか思い出せない。
……ん?まて、そもそも大事なことを忘れていないか…?
「あ……」
そうだ。そもそも、
俺の名はなんだ?