過去・勇者編 魔王相対
町長との挨拶を済ませるとユウヤはそのまま宿に向かい二人を呼びだす。装備の点検も早々に次の町へと向かったのであった。
「さて、今後の方針だが……ひとまず魔王城を目指そう。幸いにも竜が飛んでいったのは魔王城の方向だ。もしかしたら龍も子供も見つかるかもしれない」
「そうね。それがいいと思うわ」
「それなら急かされることもありませんね」
町の門を通り過ぎた後、今後のことを歩きながら相談する三人。
そこに、唐突に、第三者が割り込んできた。
「ぎゃーはっはっはっは! やべえぜ! 超おもしれえぜ! 魔王城を目指す!? 龍一匹に逃げられるお前たちが?! ぎゃーはっは! 死ぬぜ!? 死ぬに決まってんだろ! え? どうでもいいか! それもそうだな!! ぎゃーはっはっは!!」
三人の背筋に冷たいものが走る。慌ててあたりを見回すがどこにも声の主は見つからない。
「だ、誰だ! 姿を表せ!」
ユウヤが声を張り上げる。その声に応じてか返答があった。
「姿?! 見せていいのか?! 見せていいのか!? よ~し! 言ったな!」
次の瞬間、ユウヤの眼前の空間に亀裂が入り、真っ黒い異形の怪物が姿をあらわす。
黒い角に黒い胴体、黒い目に黒い耳、尻尾まで黒い。
一瞬その姿に驚いたユウヤだったがすぐに敵意を感知して剣で切りかかる。だが、
ガキンッと派手な音を立て、剣は化け物の皮膚にぶつかるにとどまる。
「な?!」
龍の鱗でさえ切り裂いたユウヤの剣。だが、目の前の怪物は全く苦にした様子がない。
「おいおい、俺様の【皮膚】ですら敗れねえのかよ。ぎゃーはっはっは!! 笑うぜ! 笑わせるぜ! 勇者ってこんなのばっかりかよ!」
「光魔法【天使の断罪】!」
セナが魔法を唱え終わった瞬間、真っ黒な怪物に点から光の十字架が雨あられと降り注ぐ。【勇者】などをはじめとする特定のジョブを持つ者だけがこの魔法を無効化することができる。
だが、その異形はその光の洪水を一身で受け止め、
「ああ~~~! 気持ちいいぜ!!! まるで水浴びしてるみたいだぜ!! ぎゃーはっはっはっは!!」
耳障りな声で怪物は笑う。その時点でユウヤの剣技もセナの魔法も弾かれたと判断したジャンは素早く判断を下す。
「ユウヤさん! 【転移門】を!」
「はい! 【転移……」
「させねえええええよおおおおおお!!!」
黒い腕から不気味な魔法陣が浮かび上がり、それを見た三人の意識は閉ざされた。
〇〇〇
再び、ソルトたちの見る景色が変わる。
場所は薄暗い洞窟のようなところだった。ユウヤ達三人は一つの部屋の地面に寝かされている。だが、そこに拘束具のようなものはない。
天井から滴り落ちるしずくがユウヤの頬に落ち、彼の意識を覚まさせた。
「こ、ここは……?」
それにつられてか残りの二人も意識を取り戻し、あたりをきょろきょろと見渡し始める。
「ユウヤ……ここって?」
「分からない……俺たちは一体なにを……」
その瞬間、気を失う寸前に不気味な化け物と対峙し、意識を刈り取られたことを思い出すと三人の顔は恐怖に染まる。
「ま、まさかここってあいつの根城なのか!」
「そ、そんな!? いくら何でもあんな化け物に私達だけで立ち向かうのは無謀よ!」
「そうですな……ほかの勇者様と協力して倒すのが理想的……この状況は……」
「クックックック。面白い小僧たちだのう」
突然、暗い洞窟の中に光が入ってくる。誰かが入ってきたのだろう。扉があき、そして閉まる音がする。再び光が閉ざされ、あたりはわずか数本のろうそくの光にのみとなる。
「お、おまえは誰だ!」
警戒心をむき出しにしてユウヤは声の主に尋ねる。先ほどの異形の声とは明らかに違う声であったがこの状況で助けだとは思えなかった。
「ふむ? 儂か? 儂の名はワーリオプスというものじゃ。安心せい、おぬしらに危害を加えるつもりはない。それは彼女の意思に反するからのう」
「彼女?」
ジャンが不思議に思って聞き返す。
「そうじゃ……っと、そうかおぬしらはここがまだどこか知らんかったな」
段々と声が近づいてくる。そしてわずかな光源でも見える距離まで声の主が近づいてくると、三人はハッっと息をのむ。
見えたのは骸骨のみで構成された顔。それは人であるはずがなく、
「要こそ魔王城へ。魔王軍六幹部の一人。しばらくの間よろしく頼むぞ。クックックック」
〇〇〇
「ま、魔王城?」
驚きのあまりユウヤは聞き返す。
「そう言ったであろう? クックックック。面白い奴よのう。そんなに信じたくないのか」
「ワーリオプス、おしゃべりもそのくらいにしておけ。彼女がお呼びだ」
再び扉の向こうからまた、新たな人物がやってくる。
「ふ~む……おぬしは遊び心が足りんな。彼女はそんなにせっかちではないのだからもっとゆっくりやればいいものを」
「彼女、しょっちゅう愚痴ってるからな。おまえの遅刻癖」
「クックックック! そうであったか! それは失礼。いや、改める気はないが」
「おい」
新たな声の主の足音がだんだんと近づいてくる。そしてユウヤ達が閉じ込められている牢屋のところまでやってきた。
ユウヤ達が見るとそこに立っていたのは筋骨隆々の男であった。頭に二本の角を生やしており、彼もまた人でないのは明らかであった。
「貴様ら、ついてこい。彼女がお呼びだ。くれぐれも抵抗するなよ。その時は命の保証はせん」
その声と共に牢の鉄格子をねじ曲げて三人が通れるくらいの大きさの隙間を作るバミル。
「……」
警戒しながらもその穴から外に出る三人。
そしてそのまま骸骨と鬼に連れられて洞窟風な場所から扉を通じて外に出る。すると三人の目に入ってきたのは見事な装飾の施された廊下であった。
「こ、ここが魔王城……」
驚きつつも辛うじてそれだけ呟くユウヤ。
廊下の横に並ぶ燭台は何れも見事な装飾が施され、全ての壁にも絵が描かれており見る人を圧倒する。
「こっちだ」
バミルが無愛想に手で示す。幾つかの階段と幾つかの扉をくぐってセナ、ユウヤ、ジャン、そしてバミルとワーリオプスは一つの大きな扉の前に立つ。
「ここ……は……?」
ジャンがバミルにきく。だが、それには応えずに彼は扉の方に向かって呼びかける。
「魔王様、彼らを連れて参りました」
「入れ」
中から短い女性の声が返ってくる。
だが、ユウヤ達はバミルが口に出した【魔王】と言う言葉に戦慄する。
だが、その混乱が収まる前にバミルは部屋へと続く扉を開く。
「ようこそ。勇者ご一行の一つ、ユウヤとセナ、それにジャンであったな。其方らの話は聞いているぞ」
三人の視界に入ってきたのは部屋の中央を陣取る大きな八角形の机。その八辺のうち五辺にはすでに誰かが座っていた。声をかけてきたのは一番遠くに座っている女性であった。
だが、明らかに人ではない。その背からは二対の羽が生え、額にも二本の小さな角が生えている。
美しい銀の髪を腰まで伸ばし、同じく銀の瞳でユウヤ達をじっと見つめる。
「では名乗らせてもらおう。我は五代目魔王。貴様らが討とうとしている存在だ。そしていまからは其方らの交渉相手だ」
そういって彼女は不敵に笑った。




