幕間 五
「おーい、そっちの角材、こっちによこしてくれ!」
「誰か~! 修繕の魔法を使えるやつはいるか!」
「こっちにも人手をよこしてくれ」
場所は王都、そのいたるところで冒険者が起こした戦闘による傷跡を町の人々が復興しようと頑張っていた。勿論、そこには冒険者の姿もある。
また、住人や冒険者だけでなく、多くの王国兵士も復興のために身を粉にして働いていた。
SSSクラン【悪魔喰い】のたった数時間の間に行われた王都の襲撃から一週間。町は早くも復興し始めていた。
〇〇〇
王宮内、謁見の間にて数人の騎士が王にひざまずき報告する。
「被害家屋三十四件、おもな被害はギルド周辺の家屋と王宮近くの住宅街ですね。彼らが無差別に襲撃してきたらもっと酷いものになっていたでしょうが……不幸中の幸いというものでしょうか」
「人的被害は逆に多いですね。城に常駐していた兵士たちはほぼ壊滅です。千人兵士長一名が重症、百人兵士長も三人が軽傷、十人兵士長は軽症86名、平兵士は137名が軽症となっております」
「また、SSSクラン【蒼海の乙女】【七色の旗印】【バトルビースト】がほぼ全員が意識不明、うち数名はすでに目覚めつつあるようですが……。また、王宮の地下にて五名の異世界勇者様たちの死体、所属不明の死体も二名回収しております。なお、裏門にて倒れていた異世界勇者様たちは全員が意識を取り戻した模様です」
「また、SSSクラン【悪魔喰い】の所在は一人としてつかめておりません。同時に行方不明者も二名、今年度学園入学者ソルト・ファミーユ。およびシャル・ミルノバッハ。この両名は、特に前者に関しては魔王の血族の疑い、後者に関しては魔族の疑いがあるため見つけ次第捕獲の命令を出しております」
「また、18年前に聖女様が張ったとされていた結界ですが騒動の最中に消えてしまいました。恐らく【結界姫】ミネルヴァ・アルトリアが消失させた、あるいは自身の結界に張り替えていた可能性があります。よってすでに王都内にほかの魔族が侵入している可能性もあります」
「ふむ……ご苦労であった。諸君、持ち場に戻り現場の騎士たちを指示してくれたまえ」
「はっ!」
四人の声が重なり、順に退出していく。
謁見の間に残ったのは王一人。深いため息をつくと自身も政務を処理するべく席を立つのであった。
〇〇〇
ファミーユ孤児院。そこで一人の女性がため息をついていた。
「はあ、お姉ちゃんに会えるだけならよかったのに。そこまで知ってしまうとは……【勇者】の【厄介ごとに巻き込まれる】というデメリットを甘く見すぎたか」
ため息をつくのはリナ。通信用の魔法道具を用いて王都の様子を探り、おおよその事情を把握したのだった。
「かっかっかっか。いいではないか。隠していてもいつかはばれる。というかどうして今まで隠しておったのか」
リナに話しかけるのは骸骨の男であり、ソルトの剣の師匠でもあるワーリオプス。
「どうしてって……クルルシアが脅してきたからよ」
「かっかっかっか。脅し? 二十年前の勇者全員を裏切り、我らの側にまでついた胆力を持つおぬしがか。面白い冗談よのう」
その言葉にリナは口をとがらせて反論する。
「裏切るだなんてとんでもない。私は王宮から嫌な予感がしたから逃げただけよ。それにクルルシアの脅しは私を殺すというものでもないわ。自殺するぞ、と脅してきたのよ。よっぽど前の父親、前の母親というものに忌避感があるのでしょうね」
「それはまた……」
さすがにその返答は予想外だったのか、骸骨の顎も動かなくなる。
「それで、ソルトは今どこにいる? ここに帰ってくるつもりはあるのか?」
横から口を出したのは大柄な体躯を持った鬼であり、ソルトの戦闘の師匠でもあるバミル。
「分からないわね。私の【占い】では限界があるわ。しかもどうやら隠蔽の魔法までかけてるみたいでね。さっぱり」
「そうか」
「それに、戻ってくるつもりだとしてもこの場所からシャルトラッハ王国までは徒歩で、となると数年はかかる」
「うむ? この前、クルルシアとソルトは二週間で王都に行ったのでは?」
疑問を浮かべるのはワーリオプス。
「二ヶ月前は別よ。十四柱の奴らが孤児院近くの魔物を村に送るためにゲートが繋げていたから、そこを利用させてもらったわ。クルルシアにはソルトをゲートに誘導してもらうようにお願いしてね」
「なるほど、そう言うことじゃったか」
「いや、説明したわよ!?」
「ふむ、そうなると彼の目的から次の目的地を絞ったほうがよさそうだな」
バミルが話を戻す。
「かっかっかっか。そうじゃのう。で、ソルトは一体何をやるつもりなんじゃ」
「恐らくここに戻る気配がないことを考えると魔王の復活、それも【悪魔喰い】とは別の方法で」
「かっかっかっか、となると相変わらず儂らは動けんか」
「いや、【ガタバナートスの十四柱】。その数はすでに残り七だ。我らが動いたとしても対応はできまい」
「そうね。私たちも動いていいでしょう。最も私はソルトや、クルルシア、それに孤児院の子供たちを優先させてもらうけど」
「ああ、それはよいが……そろそろ孤児院というのを止めないか……何というか、威厳が……」
鬼バミルが声を上げる。しかしリナの反応は薄いものだ。
「え? いやよ。子供たちが怯えるじゃない。魔王城なんて物騒な名前は王宮にでもつければいいのよ。この建物の名前はファミーユ孤児院。それ以外の何物でもないわ」
「そ、そうか」
しぶしぶ引き下がる鬼バミル。骸骨のワーリオプスは特に気にしていないのかその話題に入ってくることはないが、別の話を始める。
「となると、やはりわしら現魔王が名乗りを上げる、というのもいいかもしれぬな。それだけで多くの手足が集まる。前魔王の力を分け与えられている我らならば、なおさらだじゃ」
「それもそうなのだけど……タイミングがね……」
孤児院、その一室で行われている会話が世間に影響を与えるのはもう少し先になりそうだった。
〇〇〇
王都にある診療所の一室、一人の少女がベッドに付き添っていた。
「クルルシアさん……まだ目を覚まさないの……?」
ベッドに眠るのは一人の黒髪の少女。その意識はいまだ戻らない。
傷はすでに全て癒えているのだが全く反応を示さないのだ。
「全くじゃ。ソフィアよ。このアホが迷惑をかけて済まぬな」
「だ、誰ですか!」
突然、誰もいなかった病室内で話しかけられ、ソフィアは驚き、振り向くが、そこに立っていたのはクルルシアと全く同じ姿をした少女だった。
もっともクルルシアと違い黄色いスカーフはつけていないし、髪もバチバチと静電気を放っている。
「あなたは確か……ジャヌさん、でしたっけ?」
「左様じゃ。クルルシアの使い魔であり友である。おぬしは確かソフィアというたな。どうやら死の運命とやらもいつの間にか外れていたようで何より」
「あの……クルルシアはどうして目を覚まさないのですか?」
「精神的なものじゃろう……恐らくじゃが……。今は吾ともクルルシアはつながりが切れておる。詳しいことはわからん」
「そうですか……」
その時、クルルシアの手がピクッと動く。そしてゆっくりと瞼も開く。
「クルルシア! 目が覚めましたか!」
『ここは……? ソルトはどこ……?』
うつろな目をしているクルルシアにソフィアは抱きつき、涙を流しながら呼びかける。
「説明します。説明しますから。今はゆっくり休んでください」
その日、その病室から電気が消えることはなかった。
〇〇〇
どこかの森の獣道。一人の少年と一人の少女が歩いていた。
「なあ、シャル。ほんとについてくるのか? 両親がいるんじゃなかったっけ?」
「いいじゃない。どうせあんた一人旅でしょ? それと両親が学校に行けって、言ったってのは嘘よ。とっくの昔に異世界勇者様に殺されてるわ。それにほら、この剣も何か役にたちそうじゃない」
「おい……急に重い話をするなよ……。しかもそれって本当に普通の剣か?」
シャルが黄金の剣を体から取り出しながら上に掲げてみる。木陰からこぼれる太陽光が黄金の剣の輝きを一層素晴らしいものとする。
「さあね」
二人のその後は誰も知らない。
第一部終了です!
ここまでおつきあいいただきありがとうございました。
暫くは改稿作業に移るため本編は暫く投稿出来ませんが日曜昼に短編を一話ずつ投稿していきたいと思います。
これからもどうか、温かい目で見守っていただけると幸いです。




