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道に咲く華  作者: おの はるか
私は約束の道を果たし往く
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脱出編 逃走開始

『ぎゃーはっはっはっは! やべえぜ! 超おもしれえぜ! 俺っちが! この俺っちがたかだか死体になったくらいで死んだと思ってやがるのか! いや、死体だからやっぱ死んでるのか? ぎゃーはっは! どうでもいいか!』


 意識が覚醒したプレアの耳に届いたのはそんな耳障りな声。周りを確認しても先程の空間ではなく、ひたすら虚無の世界が広がっている。

 そして、目の前にはその虚無の世界でも目立つ黒い生き物がいた。人型ではあるがその背には羽が生え、手足も不気味に細い。


「あ、あなたは……?」


 虚無の空間から神と出会った場所と同じ雰囲気を感じたプレアは、神の知り合いかと考えながら、質問する。しかし帰ってきた答えは全く違うものであった。


「あ? 俺っち? ああ、まだ自己紹介してなかったな! 悪かった悪かった。俺っちの名前はガリドルア・ビキキット・マイオネッタ・コンサータ。大魔王の腹心の悪魔だ!」


〇〇〇

 プレアが倒れた後、魔法に集中する男の後でチェリシュ、マドル、ミネルヴァの三人はコソコソと話していた。


「あれ……は……?」

「やはり洗脳系の魔法のようね。ブレアちゃん大丈夫かしら?」

「彼女なら大丈夫かと。というより恐らく私達全員に洗脳の魔法は効きません。いくらあの男……恐らく憤怒でしょう、彼が神の代行者であろうとも神でない限り転生者の洗脳は不可能です」


 三人が話しているのは男が使った魔法についてだ。マドルとチェリシュはお互いが神によって転生させられた者だと知ったとき、男達が敵である自分たちを殺さないことを疑問に思ったのだ。

 そして思いついたのは彼らが自分たちを利用して逆に戦力を揃えようとしている、という結論だった。


「一応プレアちゃんには話したのよね?」

「はい。勿論」

「それ……話してる間……ずっと結界を張らされた……」

「ミネルヴァ……お疲れ様」


 そうこうするうちに再び男から声がかかる。見るとプレアは騎士の男に別の部屋に連れていかれるところだった。


「おい、次だ。お前が行け」


 指さされたのはマドル。暴れるわけでもなく大人しく従う。


「さて、何が起こることやら……」


 そして残りの三人も順番に台座に座ることになったのである。


〇〇〇


「おもしれえええ!! おもしろすぎるだろ!!! 記憶固定持ってるやつに洗脳とか!! 効くわけないじゃねえか!!! 手駒にするって考えは悪くないかもしれねえが最後がめんどくさくなったかぎゃはははは。いや、隠蔽されてるのか。神様も悪趣味だぜぎゃはっはっは」


「あ、あの悪魔さん?」

「わりぃわりぃ。あまりにも、、ププ。あまりにもお前らの敵さんが不憫でな。プププ。だめだ堪えられねえ」


 プレアがマドルと話したことを伝えてから、ずっとこんな感じの自称悪魔であった。しばらく待つとようやく悪魔も落ち着いてきたのかプレアに話しかける。


「よし。じゃあ俺っちが邪魔するまでもなかったな」

「邪魔?」

「ああ。俺っちの体は悪魔とはいえ、儀式に使う供物の格としては超絶すごいんだぜ! だから教団が俺っちの死体が手に入れたときは絶対に大事な儀式の供物に使われると思ってたね。そしてその大事な儀式をぶっ壊してやろうとね。ぎゃはははは」

「は、はあ」


 あまり理解できなかったプレアだがとりあえずこの悪魔が、男たちが準備し、プレアにかけようとした魔法を台無しにしようとしているのはわかった。


「しかし、ほっといても失敗する魔法を妨害しても楽しくねえな……。お! そうだそうしよう!」


 突然何かを思いついた様子になる悪魔。そして悪魔らしい、不気味な笑顔をプレアに向ける。


「な、なにをする気で?」


 嫌な予感がして少し後ずさるプレア。


「なあに、大したことじゃねえ。俺っちの力をお前ら転生者に分けてやるだけだ。あいつらも驚くぞ~。洗脳したと思ったらパワーアップしてるんだからな」


「あなたの力?」


「ああ、そうだぜ。お前にはそうだな……お? 面白い能力持ってるじゃねえか。良いぜ、それを強化してやろう。受け取れ、【悪魔の言霊】だ」


〇〇〇


「あ~、愉快だね~」

「何がでしょう。怠惰様」

「だって~、考えてみなよ~。異世界からわざわざ転生までさせた手駒が~、私達のものになるんだよ~。これが~、愉快でなければ~、一体何なのかね~」

「流石です。怠惰の使徒様」


 豪華な椅子に腰掛ける怠惰の使徒。周りの騎士達も計画が上手くいっていることに安心していた。


「で~? 転生者達はまだ目を覚まさないのかな~?」

「はっ。洗脳術を施してからは、未だに10人全員が意識不明となっております。やはり洗脳に抗っているのか全員が苦悶の表情を浮かべておりました」

「なるほどね~」


 その時だった。突如部屋が揺れ、数瞬遅れて爆音が響き渡った。


「な、何事だ!」


 怠惰の使徒が柄にもなく焦る。それと同時に部屋に新たな騎士が駆け込んでくる。


「た、大変です! 使徒様! 転生者が、転生者が目を覚ましました! そして同時に近くにいた騎士に襲いかかりました! 洗脳は失敗しております!!」

「なんだと! 強欲と憤怒が協力した洗脳魔法だぞ!? 破られるはずが」


 そこに別の複数の騎士が現れる。


「ほ、報告です。悪魔の魔力が感知されました。奴は死んでいなかった可能性が!」

「か、【鑑定】持ちから連絡です! 転生者達全員が悪魔の能力を手に入れた模様!」

「他の使徒様も向かっていますが転生者が三つの塊となって逃げているので戦力的に厳しい状況です」

「な、なんだと!?」


 その言葉を残し、椅子に崩れ落ちるかのように椅子にもたれかかる怠惰。


「もう良い。面倒だ。殺して良い。行くのだ。怠惰の騎士よ」

「はっ!」

「お任せ下さい」

「この剣に誓いましょう!」


 そしてずかずかと部屋から出て行く騎士達。一人残った怠惰の男は面倒くさそうに呟くのであった。


「はあ~、やらなかったら良かったね~」


〇〇〇


「次の角を左!」

「分かりました!」

「分かった!」

「うん……」


 現在プレアはチェリシュ、マドル、ミネルヴァとともに、牢の鍵を開けてから(鍵開けはチェリシュが生前に覚えたらしい)脱出を試みていた。


 何でもチェリシュに神託が来たらしくもうそこから逃げて良いとの神からの報せだったらしい。

 四人がいた牢屋は地下にあり、階段を上がるとひたすら通路が続いており迷路のようであった。だが、チェリシュの的確な指示により迷うことなく四人は地上に向けて進んでいた。


「チェリシュさんのそれ便利ですね」


 プレアが思ったことを口に出すが、チェリシュは複雑そうだ。


「この【悪魔の鼻】? これ結構キツいわよ。外の空気が臭うだけなら良いのだけれどこの場所、男臭くて堪らないわ」

「戦闘が起こった際は我々にお任せ下さい。貴方の神届物である【幽霊武器(ファントムウェポン)】は隠しておきたいので。まあ、大概の敵はプレアで制圧できるでしょうが……」

「はい、任せて下さい。なるべく殺さないように、でしたっけ?」

「出来ればでいいわ。それで貴方たちが危険にさらされるならやらなくていい」


 全力で走り続ける四人。たがその行く手に鎧を着た騎士達が立ちはだかる。


「残念だったなお嬢ちゃん達。ここから先は」

「対象、目の前の男達! 命令【這いつくばれ】!」


 相手の口上を聞かずにプレアの言葉が放たれる。


「な?!」


 その言葉を聞いた男達は途端にプレア達に向かって這いつくばる。そしてその上を踏みながら四人は地上に目掛けて走っていくのだった。


「プレアちゃん。それ使いまくって大丈夫な奴かしら? 元々は副作用が大変なんでょう?」

「いえ、今は大丈夫です。悪魔さんが改良、いや改悪かもしれませんけども……。回数ではなく願いに比例して代償を捧げれば良くなりました。ちなみに今のは髪の毛一本の色です」

「なるほどね。でもダメよ。女の子なんだから髪の毛は大事にしなさい。まあ、この世界では元々白髪の人も多いけども」


 走りながらも会話を続ける四人。身体強化を既に全員が体得しているお陰で大人以上の速さで走り続けるのであった。


 そして、その後方。


「おいおいおい! あの悪魔の奴、なんて能力を!」

「おい! 早く先に行ってる奴を探せよ! お前【悪魔の耳】貰ったんだろ!」

「うるせえ! お前の大声のせいで聞こえづらいんだよ」

「二人とも、これ以上騒ぐなら斬るわ。あと探索は私の【悪魔の目】で行う」

「は、はい!」

「す、すみませんでした!」




「全く! 何で私が二人も子守りをしなければならな……っもう! 分かってるわよ!」

「僕たち二人を担いでくれてありがとう。独り言の多い変なおばさん!」

「こら! テイル! そんなこと言っちゃダメでしょ。おばさんは【悪魔の脳】貰っちゃって疑問を浮かべる度に答えが出てきちゃうだけなんだから。変なおばさんなのはしょうが無いでしょ! ね? おばさん」

「おばさん、おばさん言うな! 私はまだ9歳じゃ! 置いてくぞこの糞ガキども!」



 転生者10人が一つに集まろうとしていた。

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