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道に咲く華  作者: おの はるか
私は約束の道を果たし往く
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脱出編 囚われた者同士

 隣の牢屋の住人、マドルガータの指示で結界が消されてから数分後、プレアは特にすることもなく、大人しく床に横になっていたのであった。

 しかし堅い床の上である。チェリシュは一瞬で寝たがプレアはなかなか眠れなかった。やることもないので声を掛けることにするプレア。


「ねえ、マドルガータさん」

「マドルでいいですよ。長いので。後敬語もいりません。私もそんなに年上ではないでしょうから」

「わかり……。わかっ……た。マドルさん、よろしくね。ってそっちも敬語でしょう!」

「ええ、よろしくお願いします。後私はこれが素なので」

「そっか……ところでマドルさんは地球ではサーカスの人形劇をやっていたんだっけ?」

「そうですね。日本人の人に教えて貰っていました。名前を思い出すことはできませんが彼との思い出は今でも色あせませんね」

「日本に来たことはあるの?」

「無いですね。出来れば行きたかったのですが……その前に自殺してしまいました」

「自殺?! 何で……」

「腕が使い物にならなくなったので……それに絶望してです」


 淡々と話すマドル。プレアも少し悲しい気持ちになるのだった。


「そっか……」

「重い話をして申し訳ありませんね」

「そ、そんなことないよ。聞いたのは私だし」

「ところでプレア。眠くはないのですか?」

「え? 眠く?」


 突然変わった話題に戸惑うプレア。マドルは続ける。


「ちなみに今は深夜の二時です。まあ、先程まで二日間も寝ていたのですから仕方ないかもしれませんが……」

「え? 二日間も?!」

「ちなみにその間ずっとチェリシュは貴方の傍で治療していました。『ゾーキが! ケッカンも!?』とか言いながら」


 その言葉に驚きプレアはチェリシュの方を振り返る。


 先程までは暗くて見えなかったが目元を見ると隈が出来ていた。


「起きたらもう一回お礼を言っておこう……」


 堅く心に誓うプレアであった。


〇〇〇


「怠惰の使徒様! ただ今暴食の使徒様よりまた一人捕らえたと連絡が」

「ふむ~、これで~全員捕らえたかね~」

「はい。恐らく。神の神託では異世界転生者は10人。計画通りです。流石は怠惰の使徒様」


 騎士の男と怠惰の使徒と呼ばれた男。そして、この場にはまだ他の人物もいた。


「おい! 離せよ! 今すぐ殺してやる!」


 縄でグルグル巻きにされ、左右からも騎士風の男に拘束されているのは9歳ほどの少年。だが彼は眼だけで人を殺せそうなほど睨んでいた。


「あ~、きみね~、五月蠅いからあっちに行ってておくれ」

「くそっ!」


 左右から抱えられて少年は抵抗とすることも出来ずにひっぱられていく。



 その様子を見て騎士の男は心配そうに疑問を口にする。


「それにしても使徒様。なぜ彼らを殺さないのです。彼らは私達が信ずる神とは別の存在によって送られてきた、言わば異物です。早急に対処しなければ……」

「焦ることは損だよ~。いいかい。彼らは~、異世界転生者だよ~。その戦闘力は今では低くとも~将来高くなるとは思わんかね~?」

「し、しかし。それならなおさら早く対処しないといけないのでは……」

「いや~、考えてみなよ~。もし~、彼らをこちら側の~手駒にすることが出来れば~、大分優位に立てるし~向こうの神の神格も奪えるではないか~」


 怠惰とは思えない計画性であった。


「こちら側の手駒に……ですか」

「幸い契約に使えそうな供物は大量にあるのでね~。悪魔、それも魔王の配下とあれば~、部位でも十分だろ~」

「魔王の配下……ということはついにあれとおさらばできるのですか!」

「そうだね~。君たちにも世話をかけた~、悪魔の体なんて~、管理も大変だっただろう」

「はい、流石は魔王の部下です。死体となっても我らを苦しませるとは」

「よし~、じゃあ、後は~、憤怒にでも任せようかね~」


 最後の最後で面倒くさがる怠惰の使徒であった。


〇〇〇


 いつの間にか寝ていたのだろう。プレアが目を覚ますと、すでにチェリシュは起き上がり、昨日牢屋に投げ込まれ治療を受けた二人の横で体操をしていた。


「おはよう、プレアちゃん。昨日はマドルと一夜中話したんだって? いいねえ、若いねえ」

「お、おはようございます。ところでチェリシュさんって前世も含めると何歳……」


 体は四歳で明らかにプレアより年下のチェリシュ。プレアはつい、聞いてしまった。

 隣の部屋からマドルの悲鳴のような叫びが聞こえる。


「プレア! 聞いてはいけません!!」

「えっ…」

「プレアちゃん? 何か言ったかしら?」


 次の瞬間、プレアは鬼を見た。チェリシュが一歩前進し、プレアは二歩三歩と後退する。


「な、何でもないです。何でもないです!」

「うん、よろしい」


 するとさっきまでの気迫が嘘のように消える。そのにこやかなチェリシュの顔を見てようやく安心するプレアだった。


 だがその平和な空間に再びカツカツと靴音が響き渡る。現れたのは長身の目つきの悪い男だった。


「よし、6人いるな。ではお前とお前、それにお前、最後にお前。牢屋から出ろ」


 指さされたのはプレアに、チェリシュ、そしてマドルとさらに隣の檻に入れられていた少女だ。


「一体……何を……させる気?」


 ぼそぼそとつぶやくように話す少女。その話し方から昨日のミネルヴァという少女は彼女だろうとプレアは予想する。


「いいから来い。そうすればわかる。それとくれぐれも言っておくが逆らうなよ。もし逃げようとすればほかのやつ。例えばそこでねている二人を殺す」


 その言葉を聞き息をのむ四人。その様子に満足したのか男は四人を先導するのであった。


〇〇〇


 四人が連れてこられたのは神殿のような場所であった。中央に台座が置かれており、その中央に何か黒いものが置かれている。


「よし。順番にあの台座に座れ」

「あれは……?」


 プレアが疑問を口にする。しかし男は取り合わない。


「いいから早く座れ。まずはお前だ」


 そういわれ、牢に残された二人のことを考えて断れないプレアはおとなしく台座に座る。

 近づいてみてわかったのはその黒いものは何かしらの生物の死体だということだ。

 そしてプレアが台座に座ったことを確認して男は詠唱を始める。


「神よ。間違いの道を進むものに慈悲を与えたまえ。そして汝が導き直すがよい。我が神に栄光あれ【神の修正】」


 その瞬間プレアの意識は暗転した。


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