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道に咲く華  作者: おの はるか
私は約束の道を果たし往く
37/174

脱出編 うっかりミス

第二章です!!!

よろしくお願いします!!

「お姉ちゃんって呼んでくれて、ありがとう。ソルト、大好きだよ」




〇〇〇


 ソルトと別れたあと、プレアは二人が隠れていた岩から少し離れた場所で一人立っていた。


「ぐぎぎぎぎ」「ぎゃぎゃあ」

「ブルルッルル」


 周りにはプレアの魔法によって動きを封じられている数十の魔物がいる。

 ある魔物は氷で、ある魔物は電撃により、ある魔物は炎に焼かれ、ある魔物は土魔法で動きを封じられていた。


「あ~あ、もう少しお姉ちゃんでいたかったな。どうせ転生するならもっと幸せでもいいのに……」


 そうぼやきながら天に手をかざして二回目の【要求】を使う。


「対象、私の魔力の届く、全範囲の魔物、命令【この場所に集い、仲間同士殺し合え】」


 その途端周囲の魔物だけでなく近くの山林に住んでいる魔物全てに対し【要求】が発動される。

 使用制限がなければほぼ無敵と言ってよい魔法である。しかし代償は伴う。


「くううう! はあ! はあ!」


 すでにプレアの体はその代償にいくつもの血管が切れ全身から血を流していた。

 しかし、まだ倒れるわけにはいかない。自分の体に余り得意ではない治癒魔法をかけながら、ソルトに対する合図として【サンダーシャワー】を発動する。

 そして、プレアは本当の地獄に自らを投じた。


〇〇〇


「おやおや、これは想定外だね~」

「どうされたのですか、怠惰の使徒様」


 場所はどこかの神殿の一室。水晶玉を見つめながら声を出した男性に、騎士風の男が反応する。


「どうしたもこうしたもないね~、マグナ地方で何個も問題がおこったのだよ~。派遣した騎士から連絡は来な~い、魔獣は我々の命令を無視して一カ所に集~合~中、勇者パーティーを抑えるだけではだめだったのかね~。いくら私が怠惰だからといって、手を抜いたつもりはないのだがね~」

「仕方のないことだと思われます。予定外の出来事は計画につきものです。現在追加の人員を送り調査を行っていますが、未だに魔物が傲慢の使徒様の支配から解放されたのか分かってはいません」


 敬礼をしつつ部下の不甲斐ない結果を報告する騎士の男。しかし怠惰と呼ばれた男は特に気にした風でもなく話を続ける。


「いや、やはり私にも落ち度はあったのだろうね~。他の使徒にもっと協力を仰げばよかった~。今現場にいるのは強欲だけだろう?」

「はっ その通りであります」

「やはり、そこだな~。全く、計画ができたときはうまくいきそうだと思ったがやはり、私は怠惰だ~」


 自虐的につぶやく。その様子を見て騎士は慌てて話を戻す。


「しかし、使徒様、マグナの周辺こそ失敗気味ではありましたが他の地方では無事に計画は進んでおります」

「何人ぐらい確保できそう~?」

「ざっと10人ほどではないかと」


 その言葉を聞いて満足げに笑う怠惰の男。


「ほう、なかなか順調だね~」


 騎士が思っていた疑問を投げかける。 


「しかし、使徒様、魔物に対して行った洗脳は傲慢の使徒様の契約魔法だったはずです。その魔法を上回るとなるとかなり強力な魔法のはずです。一体何の魔法でしょうか」


 しかし、怠惰の男は手のひらをひらひら振りながらこう返す。


「そこは気にしなくていいよ。もう目処はたっているから」

「目処……ですか?」

「恐らく傲慢の系統、または強欲の系統、或いはその両方か……ん? そうなると大賢者級の魔力がいるはずだが……」

「使徒様?」


 突然騎士の男には理解できないことを話し出す水晶玉の男。騎士は戸惑いながらも話し相手をつづけるしかないのであった。


 しかし、その時水晶が反応を見せる。


「ん? なんですか……おお、おおおお、まさか、まさかまさか!」

「どうされたのですか?」

「駒を集めるためだけにやっていましたがこれほど優秀なのを見つけるとは思いませんでした。私は今とても興奮していますよ」

「どういうことです?」


 理解できない男は聞く。


「いえ、強欲から連絡が入ったのですよ。なんと魔法を行使したのは7歳の少女だそうですよ」

「なんですと!」

「これは何としても駒に欲しいですね~。我らの教会のために! そして我らの大義のために! ゲリル、私もマグナ地方に向かいます。準備するように」

「はっ」


 ゲリルと呼ばれた男は急いで転移魔法の準備を始めるのであった。


〇〇〇


「たくっ 報告だけじゃだめなのかよ。全く面倒くさい……おっとこれは怠惰の台詞か」

「怠惰の使徒様はなんと? 強欲の使徒様」


 山道を歩く謎の集団。一人の大柄な男と数人の騎士が歩いていた。


「あの娘を捕まえろとさ。金は弾むそうだが、はたして俺を満足させてくれるのかね」

「なるほど、怠惰の使徒様も無茶を言いなさる。彼女を生け捕りですか」


 彼らの目線の先にいるのは何百もの魔物に対して一歩も引かずに戦っている少女だった。

 全身から血を流しながら時に雷を放ち、時に同士討ちを狙いながら魔物を翻弄する少女。

 その姿はまるで鬼のようだった。

 騎士達の誰もがその姿に戦慄を禁じ得ない。

 動揺する騎士達の中大柄の男一人だけが高笑いをする。


「だっはっはっは、あの数の魔物を倒そうとするとは強欲な奴め。俺がやってやろうじゃないか。この俺、ジャルジャス・ブーノ様がな」  


〇〇〇


 どれくらいの時間が経っただろうか、とプレアは木の上で休みながら自問する。

 目の前に現れるのは幾千を超え、万に届こうとする魔物の群れ。プレアが命じて同士討ちをさせてはいるがそれでもなかなか数が減らない。


「もっとうまい方法はあったかしら……。ワイバーンに命じて私とソルトを連れて行ってもらえばよかったかしら? いやそれではもっと早く動く翼竜に攻撃されるかもしれないし、早く動けば私たちの体も無事じゃないでしょうし。

 なら周りに同士討ちをさせつつ進めばよかったかしら? いや、魔物と遭遇するたびに【要求】なんて使ってたら一時間も持たないし……」


 プレアの考えはまとまらない。だが考えている間にも複数の魔物がプレアにむかって飛んでくる。

 そのすべてを一瞬のうちに撃墜して一息つくプレアだったがその背筋に悪寒が走る。本能に従いプレアは木から飛び降り土魔法で地面を柔らかくし落下の衝撃を緩和する。

 その次の瞬間、木が何かに吸い込まれるように消滅した。


「なに? 今のは」


 プレアが疑問を口にする。プレアがジャンやセナから聞いた知識の中に空間魔法を使うような魔物は魔王か幽霊系の魔物、或いは上級魔法使いの魔物ぐらいである。この魔物の群れに紛れていたのか。


「おっ、俺の強奪を避けたのか」


 だが現れたのは魔物ではなかった。

 全身を鎧に包み、その上から魔術師のようなローブを羽織っている男。右手には大きく、装飾の付いた剣を、左腕には真っ黒な円形の盾を装備している。そして取り巻きには数人の騎士風の男たち。

 ここでプレアの目は男たちの盾に目が行ってしまう。盾が珍しかったわけではない。その盾の中心に書かれていた模様が彼女の目を引いた。


「その、マークは……」


 そこにあったのは三日月と太陽と思われる円、そしてそれらを囲むようにして描かれている数多の武器防具である。

 ソルトたちの家を襲った男たちと同じものであった。


「ん? このマークか? よし、俺の一撃を躱したご褒美に教えてやってもいいぜ。これはな、俺たちガタバナートス教団の証だ。まあ、教団といってもその暗部だがな。お嬢ちゃんはこのマークに見覚えがあるのかな」


 その言葉にようやく疑問が解消されたプレア。確かに宗教関連の紋章はまだ教わってはいなかった。いや、仮に教えてもらっていても暗部の情報などはさすがにセナでも知らなかっただろう。だが疑問が解けると同時に、「こいつが父と母を殺したのだ」という魔物を倒している間は忘れていた復讐の念が頭を支配する。


「だんまりか。まあいい。お嬢ちゃんに恨みはないが仕事はさせてもらう」


 そういって無造作に、そしてどんどんプレアとの距離を詰める男。


「……象、目の前……とこたち」


 男達はプレアの発する殺気には気づきながらも軽視していた。確かに騎士の男たちにとって一対一ならプレアは戦慄を感じる対象である。だがいかに魔物に対し無双しようとリーダーであるブーノさえいれば自分たちは死ぬことはないという信頼のためだ。


「おっと、自己紹介がまだだったな。冥土の土産だ。教えてやる。【ガタバナートス14柱】強欲のジャルジャス……」

「命令【死ね】」


 プレアが発した言葉、その一言で勝敗は決した。


「ぐああああああああああああっ」


 ジャルジャスを含め男たちの体はみるみるただれ、全身の穴から出血し、あらゆる死の概念が彼らを襲う。


「ぐあああ、なんだこれは、なんでだ、なんで奪えねえ」


 男、ジャルジャス・ブーノの持つ能力【強欲】。それはあらゆるものを他者から奪い自分のものとする魔法である。当然自分から死を奪うという応用も彼には使える。

 しかし、プレアが使った魔法と致命的に相性が悪かった。プレアの使った【要求】だがこれは相手に強制的に行動させるものである。相手の意思に反するほど必要な魔力量や代償は大きくなる。


 では、この魔法により【死ね】と命じられた男たちはどうなるか。その答えは彼らの体が死ぬために行動する、というものである。全身の細胞は活動を止め、血管は収縮し穴が開く。

 そして最悪なのは強欲の男の能力が奪うことに主を置いていたことだ。

 彼は自分が無意識に、そして強制的に発動した自身の魔法により、自分の命を自分から奪おうとしていた。

 当然それをキャンセルする【強欲】の魔法を使っても同じ魔法なので相殺されるだけである。ほかの死へと向かう行動までは奪う余裕がない。


「そ、それにだ!! てめえ、相手を殺せるならなんで最初から魔物の大群に対して使わねえええええ!!」


 当然の疑問がブーノから発せられる。だがプレアの反応は淡泊であった。


「あ……」


 実際それをやっていれば確かにこまごまとした問題は残るが(プレアの魔法の有効範囲など)二日間の道のりであるとしても、ソルトと二人で生き延びた可能性は高い。


 要するに単純に思いつかなかっただけであった。逃げるという選択肢がプレアの頭に浮かんでからそれしか考えなかったのである。


「あ……じゃねええええええええげぶぶっぶぶうがががが」


 ブーノの叫びはもっともであったが問答をしているうちに男達は絶命に至った。

 しかし当然代償はある。男たちが死んだあと、副作用とも呼べる激痛がプレアを襲う。


「ああああああああああああああああっ!!!!」


 本来この魔法は安全に使えるのが一日に一つが限度なのである。しかし、ソルトに一回、魔物に一回、というように、すでに二回プレアは使っていた。二回目でも全身から出血なのだ。三回目ともなると目も当てられない。


 すでに内臓を含め無事な臓物は一つもない。

 そして、プレアは意識を失った。



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