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道に咲く華  作者: おの はるか
俺は英雄の道を志す
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迷宮編 個の力

「チェ、チェリシュさん? な、なんで?」

「そうだよ~、チェリシュだよ~。何でって……そうそう、ちょっとこの迷宮の素材が必要でね」


 驚いているソルトの問いに、一瞬の間を空けながらも理由を述べる。そこに緊張感は見られない。

 だが、ソルトはチェリシュが「戦闘力は無い」と言っていたことを思い出す。なけなしの力を振り絞り、彼女に声をかける。


「チェリシュさん……逃げて……下さい、俺が時間を稼ぎます……から」

「安心して良いよ。あの時は嘘ついてごめんね。悪ノリが入っちゃって。ほら、助けられる王女様は弱いほうがいいでしょ?」

「悪ノリ?」


 知らない言葉に疑問を浮かべるソルト。だが、その疑問を口にする前にドグライトが声をあける。


『『やはり、貴様らは我々を監視していたか』』

「はて? はてはてはて? 私は貴方のことなんて知らないな~」


 はぐらかすチェリシュ、その間にソルトが現時点で分かった事を伝える。


「チェリシュ……さん……相手は……装飾品を通じて」

「体を乗っ取ってくるんでしょ? 大丈夫大丈夫。知ってるよ。残念ながらソルト君では相性が悪かったみたいだね」


 そう言って言葉を切るチェリシュ。次にシャルに目を向ける。


「それよりも彼女は何かな? 人では無さそうだが……」

「か、彼女は……」


 正直に魔族と言うことが出来ず、ソルトは言葉に詰まる。だが、


「ふむ、マドルから聞いていた吸血鬼の娘さんかな? あ、私は魔族だろうと何も気にしないからそんな顔しなくても良いよ」

「そうですか」


 その言葉に安心するソルト。この数日で幾つか魔族に対する酷いイメージを聞かされていたので、シャルの正体を見破ったチェリシュも、そのイメージを持っていないか心配したのであった。


「なるほど、その様子だと彼女を傷つけないように戦っていたら劣勢に立たされたというところかな? まあ、人質は【勇者】に対して有効だからね~」


 そして再び武器を握りしめる。が、


「あれ? 弓?」


 その武器を見たソルトはつい疑問を口にする。さっきダイの頭を貫いたのは明らかに刃物であった。しかし、今チェリシュが持っているのはどこにも刃がついていない、刺々しい弓であった。不思議なオーラを滲ませながらその弓はその小さな手に握られていた。


『『ふん、【重盾戦士】を一人撃破したくらいで調子に乗りおって。貴様らなんぞあの小娘がいなければ怖くないわ!』』


 その威勢と共にリュウヤの体がチェリシュに襲いかかる。しかし、チェリシュは慌てることなく矢を、虚空から生み出し番える。


「【幽霊武器・不殺(ころさず)の弓】」


 そして矢から手を離す。その矢はまっすぐにリュウヤに飛んでいく。


 だが、その速度は確かに早いが、今のソルトでも十分に目で追える速さだ。リュウヤも十分に見えているのだろう。刀を構え打ち落とそうとする。


『【万物斬り】!』


 称号による補佐の力が働いた技の一つだろう。剣が煌めき、まさに万物を斬らんとする勢いで振り抜かれる。


 しかし、


『がはっ!』


 チェリシュの放った矢は問答無用で剣を貫通し、リュウヤの頭を貫通する。


『な、なぜだ! この技は何であろうと切り捨てるはずだ。なぜ、なぜ切れなかった!』

「当たり前だよ。この矢に実体は無いんだから。逆に何で切れると思ったのか教えて欲しいところだね」


 そう言いながらも第二射、三射を倒れたリュウヤの頭目掛けて放つチェリシュ。


「これで二人かな。さて、後は彼女だけれど」

『【炎壁】!!』


 目眩ましのためか、奇襲のためか、ソルトとチェリシュの視界を覆うように炎の壁が迷宮の一本道を塞ぐように展開される。


「うーん、もう弓じゃ無理そうだね」


 あっさりと弓を霧散させるチェリシュ。そして、新たな武器を手に出す。


「【幽霊武器・不殺(ころさず)の銃】」

「そ、それは?」


 右手に一丁、ソルトが見たことのない武器を装備したチェリシュ。ソルトが不思議そうに声を掛けるが、チェリシュが返事をする前に、シャルが壁の向こうから魔法を放ちながら、突撃してくる。


「ソルト君! 失礼するよ」

「えっ?」


 ソルトが返事をする前にチェリシュは彼を左の肩に担ぎ上げ、迫り来る魔法のなかを的確に躱していく。身体強化でもかけているのか、自分よりも重いはずのソルトを軽々と持ち上げるチェリシュ。


 そして、魔法の連撃が止まった後に、接近戦を挑んできたチェリシュには右手だけで対応している。それでもなお、左肩にソルトを担いだままである。


『くっ、この!』


 ドグライトが吸血鬼の尋常でない膂力と速度をもってしても全く攻撃が当たらないことに、いや、それどころか銃で殴られる度にその部分の支配が消えていくことに焦りを隠せない。


 『ならば!』


 一旦距離を取ろうとするドグライト。だが、そこを狙って、チェリシュの銃から実体の無い弾が射出される。


『がっ、は、そんな、馬鹿な……!』


 右肩を打ち抜かれ、血が出ないながらも痛そうにするドグライト。しかし、その一瞬の隙をチェリシュは逃さずに立て続けに至る所を撃ち抜く。


 そして、倒れたところにとどめとばかりに銃を消し、新たな武器を召喚する。


「【幽霊武器・不殺(ころさず)の槌】」


 ダイの体よりも大きなそれで、チェリシュは、シャル、ダイ、リュウヤの体を叩いていくのだった。


 叩かれた彼らの装飾品からは既に禍々しい気配は消えていた。


 そして、ソルトが意識を保っていられたのはここまでだった。

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