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道に咲く華  作者: おの はるか
俺は英雄の道を志す
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迷宮編 数の力

 シャルを拘束する腕輪から禍々しい魔力が流れ、彼女の体に纏わり付く。


『『クックックック、これで小娘、貴様は詰みじゃ。しかし、やはり支配するには時間はかかるのう』』

「あたり……前でしょう……誰があんたなんかに……」

『『まあ良い。既に体の方は問題なく動く。クックック。素晴らしいぞ』』

「シャル! 何で助けた!」


 動揺するソルトが叫ぶ。シャルは段々と意識が朦朧としてきているのか、はっきりと喋れなくなりつつも、答える。


「あんたがつかまったら……私なんて絶対逃げられないんだから………仕方ないじゃない……っく」

『『さて、そちらは一人。こちらは三人。どれだけ保つかな。クックックック』』


 異世界勇者二人の体が動く。じりじりとソルトは後退する。もはや、ソルトに勝てる見込みはない。

 だが、そこにシャルの言葉がソルトに届いた。


「あんた……だけでも……逃げなさい」


 最後の力だったのか、それきり首をカクンとさせて意識を失うシャル。

 しかし、その言葉はソルトに禁句だった。


〇〇〇


「俺は……何も変わってないんだな」

『『何を言っているのだ? 行くぞ』』


 武器を握りしめながらソルトは呟く。そこに異世界勇者が二手に分かれて挟み撃ちをする。ドグライトを通して繋がっているためか、完璧な連携である。


「十年前にも言われたんだよ。そんなこと。そして俺は逃がされたことを、ずっと後悔してた」

『【栄光斬】!』

『【シールドアタック】』


 後からはシールドが迫り、前からは竜哉の剣が迫る。しかし、ソルトは前進しながら、魔力で庇護した刀で竜哉の刀をずらし、すれ違い様に背中を蹴ってダイのシールドアタックにぶつける。


『『ぐっ……』』


「シャル、残念だけど、俺だけ逃げることはないよ。そこだけは死んでも譲れない」


 しかし、既にシャルの反応はない。代わりにドグライトが返事をする。


『『『クックック、もう手遅れじゃ! この小娘の体も私がいただいた! 後はお前だけじゃぞ』』』

「知ってるよ。でも、また誰かを見捨てたら俺は姉に会えない。合わせる顔がない」


 そして、激しい戦いが始まる。


〇〇〇


 シャル・ミルノバッハ、彼女は吸血鬼である。日に弱く、朝に弱く、銀に弱く、水に弱い吸血鬼である。だがその身体能力は人間を軽く凌駕し、そこに関してはダイのような異世界勇者ぐらいなら負けない。


 ソルトに対しての最初の苛立ちは魔族の本能から来る勇者に対する警告であった。しかし彼が魔族に対して敵意を持つ勇者ではないと言うことを確信したときには、その警告は既に収まっていた。


 しかし結局、先程まではソルトに対して、魔族であることを暴露する勇気もなく、人の状態、魔法のみで戦っていた。そして今、皮肉なことにその偽装は解かれ、その能力を十分に使ってソルトを追い詰める。


「魔族に詳しいとは思ってたけど、やっぱり魔族だったか」

『『『どうした? 小娘のことが嫌いになったか?』』』


「いや、ならないね。うちの孤児院にはもっとおかしいのもいたし」


 骸骨の剣士に、鬼の格闘家、果ては獣人の姉弟。それに比べれば吸血鬼だってソルトにとっては一つの種族でしかない。


『『『クックックッ、ますます小僧に興味がわいたぞ。一体どんな生活をしてきたのか』』』


 そう言いながらも三人がかりでソルトを追い詰めるドグライト。ソルトも手があるわけではなく、ジワジワと追い詰められていく。

 現在ソルトは三人から連携された攻撃を受けており、まともに反撃すら出来ていない。ダイは常に【シールドアタック】を発動し、その大盾の通る空間をソルトから奪う。


 また竜哉の方も剣で間合いを取りながら斬りかかってくる。


 しかし、一番厄介だったのはやはり、シャルだった。遠距離から正確に、無詠唱で強力な魔法を放ってくるのだ。その度に、ソルトは全力でその魔法に応えねばならない。


 おまけに、シャルはそれだけでなく、たまに前に出ては竜哉を軽く上回る接近戦をしてくるのだ。触ったら乗っ取られるという事情でさっきは魔法しか使わなかったが、今の相手はソルト。その身体能力は遺憾なく発揮されている。


 直接捕まることだけは全力で避けているが、徐々にシャルの魔法や竜哉の剣がかすり始める。そして、ついに、シャルの炎弾がソルトの脇腹に着弾し、最初にダイが作った壁まで吹っ飛ばされる。そして追い打ちとばかりにシャルの魔法と竜也の斬撃が飛ぶ。


「がっ、ふ」

『『『さあさあ、おとなしく捕まれ』』』


 吹っ飛んだソルトに向かいダイが歩みよる。しかし彼はまだ抵抗する。


「まだ、だ! 俺はまだ!」


 近づいてきたダイに刀を向けて牽制する。しかしその体はすでに満身創痍であった。当然である。異世界勇者の身体能力はこちらの世界の住人のそれを軽く凌駕する。ソルトは孤児院で鍛えてもらっていたから、まだ生きているが普通なら一対一でも負けるのだ。

 もちろん本来の竜也やダイならば100人いてもソルトの敵ではない。だが今はドグライトに操られており、その戦闘力は跳ね上がっている。


『『『クックックック、ならもう終わりにしてやろう。安心せい。傷はつけん』』』


 そう言うと竜也の体が近づいてくる。そして急加速したかと思うとソルトの持っていた剣を弾き飛ばす。ソルトはすでにこの程度の反応すらできない。

 だが、その目は今もなお、三人を見つめ決して絶望には染まっていない。


『『『フン、つまらないのう……なんじゃ、その諦めていない目は。実に不愉快じゃ。これで終わりじゃというの……に……』』』


 一瞬かすかにドグライトの言葉が止まる。そして突然動揺したように慌てだす。


『『『なんだ! 貴様のその目は! 何故色が変わっている!! その目の色は……いや。ない。そんなことは断じてない!』』』

「なんの……ことだ!」


 なんのことか本当に分からないソルト。孤児院にいたときもそんなことは言われたことがない。しかし、この一瞬の隙を最後の攻撃のチャンスととらえ三人に無詠唱の氷の塊を射出する。

 だがいずれも盾で、剣で、魔法で、それぞれ相殺されてしまう。そして不意打ちに対応するためか、より防御力の高いダイが前に出てくる。


『『『自覚はなしか。もういい。操ってしまえば同じだ』』』


 そういって今度こそダイの体が手をソルトに伸ばす。

 そして次の瞬間、


「【幽霊武器(ファントムウェポン)不殺(ころさず)の大太刀】」


 凛とした声が響き、魔法によって作られていた壁から突如生えた大太刀がダイの額を貫く。

「え?」

『『な……!』』


 そして再び大太刀は壁の向こうに引っ込み消える。同時に、ダイの体が崩れ落ちる。流血はしておらず傷もソルトからは見えなかった。


「よくこいつ相手に耐えたわ。充分よ。あとは任せなさい……おっと、キャラを間違えたかな。大丈夫? ソルト君?」


 ダイによる壁が消え現れたのはソルトが盗賊から救出した少女チェリシュだった。

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