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道に咲く華  作者: おの はるか
俺は英雄の道を志す
30/174

迷宮編 迷宮へ向けて



「いや~、こんな偶然あるんだね!」

「単純に成績順でしょう。馴れ馴れしくしないで」

「なんだなんだ、リュウヤ、お前もう嫌われてるのかよ」


 組み分けが発表されてから早速、明日からの迷宮探索に向けて班ごとの話し合いが始まった。

 ソルトのグループはシャル、リュウヤ、そしてもう一人の異世界から来た少年による四人であった。

 現在リュウヤがシャルに話しかけて冷たくあしらわれている状況だ。


「よし、三人はお互い知ってるから自己紹介しなきゃならないのは俺だけだな。俺の名前は明智(あけち)万代(まんだい)。ダイって呼んでくれて構わねえ。よろしくな!」

「よろしく」

「そ、わかったわ」


 自己紹介したのは大柄な少年だった。肩幅も逞しく身長も190を越えているだろう。

 挨拶が終わったところでリュウヤが仕切り始める。


「それじゃあ挨拶も終わったことだしそれぞれの称号や使える魔法を言っていかないか? 迷宮探索は集団行動が義務付けられているから、役割分担した方が良いと思うんだ。ちなみに僕の称号は【剣聖】。得意な魔法は光」


 迷宮探索、それはこの学校において目玉の授業の一つである。この学校自体が優秀な人材を育てる、という大雑把な目標を掲げており、迷宮探索のようなあらゆるものを求められる授業は人気となるのである。

 当然異世界勇者達にとっての楽しみでもある。


「魔法なら大抵出来るわ」

「大抵って……得意な属性とかあるだろう? 俺でも最初に習ったんだ。全ての属性を万遍なく使える人はいないって」

「火、水、土、風、雷、光に闇、とりあえずそれなら問題なく使えるわ」

「え、全部じゃないか……異世界勇者の【魔法使い】でも無理だったのに……よし、じゃあ、シャルちゃんは後衛で。ソルト君は?」

「俺も詠唱ありの魔法なら基本出来る。得意不得意も特にない。後、剣でも戦える」

「そ、そうか、じゃあ、ソルト君は僕と共に前衛を頼むよ……。おかしいな……魔族でもない限り無理って話だったんだけど……」

「おい、俺はどうする。称号は【重盾戦士】だ。守りに入った方が良いか?」

「ああ、ダイ。すまない。うん、そうだね。それじゃあ俺達が取りこぼした敵を片づけてくれ」


 役割がどんどん決まっていく。しかしリュウヤはソルトとシャルが称号を隠したことに気づいていない。

 称号というのはソルトの【勇者】、リュウヤの【剣聖】のように個人別の称号のようなものである。獲得した瞬間にそのことは自覚されるのだ。

 だが、称号がばれるとしばしば希少価値などを理由に狙われることがある。そのため、二人は隠したのだ。

 もっともソルトが言わないのは上記に加え、クルルシアから勇者の称号を持っていることを軽々しく言ってはならない、と言われたためだ。言われたのは入学式の前の日だったので盗賊などには喋ったが……。


「よし、じゃあ明日どこの迷宮に行くか決めないか? 多分俺達なら難しいところも行けると思うんだ」


 一体どこからそんな自信が出てくるのか、リュウヤの顔は自信で満ちあふれている。

 シャルが流石に呆れた様子でリュウヤに話しかける。


「貴方……迷宮は初めてなのよね? それとも前の世界でも迷宮があったりしたの?」

「ゲームの中でならね」

「げ、げーむ?」

「遊びのこと……だったか?」


姉が遊ぶ中で、そんな言葉を使っていた記憶があるソルト。リュウヤは愕いた様子を見せる。


「何でそれを知ってるんだい!? いや、残念ながら微妙に違うのだけれど……。もしかして君は転生者だったりするのか」

「いや、俺じゃない。さっき姉を探してるって言っただろ? その姉がそうだった」

「ふーん、そうだったの」


 シャルが何か考えながら相槌を打つ。一方、リュウヤは反対がないと判断したのか話を進める。


「そういうこともあるのか。俺も会ってみたいな。ところで反対の意見はないのかな? 無いならもう決定したいのだけど」


 そう言われても他の三人から反対の意見は出てこない。シャルとソルトが反対しないのは、自分の身は自分で守れる自信があるからだ。リュウヤのことは全く考えていない。

 ダイが反対しないのはリュウヤと同じく迷宮を軽く考えているからだ。


「よし、それじゃあ決定だ。俺達は今挑戦が許される最難関の迷宮に行くぞ! 学校から与えられた期間は一週間だからそれまでに行ける距離にある迷宮をリストアップだ」

「ねえ、りすとあっぷってなに?」

「俺も知らない」


〇〇〇


 結局いける距離を考えて学校長のレイに問い合わせると、馬車で一日ほど走った距離に難易度上級の迷宮があるらしかった。

 難易度というのは、その迷宮の危険度を表すものである。最高はSS、最低はC。ソルト達が行くのは上級なので冒険者にとっては簡単な部類に入る。

 ちなみにこの級付けはギルドで行われている。


「よし、それじゃあ明日の昼には出発するからそれまでには各自荷物の準備をして集まろう。それじゃあ解散!」


 行く迷宮が決まって、開口一番、リュウヤが言ったのはそんなことだった。そしてそのすぐ後早速買い物に行ってしまう。

 ダイのほうも他の異世界勇者とともにどこかに行ってしまった。


「なあ、あの二人どう思う」


 ソルトがシャルに聞く。しかしその返事は素っ気ないものだ。


「あんたと同じ」

「そうだよな……」


 リュウヤは迷宮のことをゲーム、後で意味を教えて貰ったが遊戯の一種だと言い表した。しかしすでに姉、クルルシアをはじめ強者を見つけたこの学校のことをそんなに甘いとは思えなかった。そもそも、魔物自体が遊び感覚で戦って良いものではない。なにしろ命がかかっているのだ。


「で? あんたはこれからどうするの?」

「とりあえず図書館に行って調べ物してから食料とかの準備かな。そっちは?」

「そうね……あんたからあの魔法を聞こうとしたけど後で良いわ。そっちを手伝ってあげる」

「ありがとう」


そして二人は図書館に向かうのであった。


〇〇〇


 ガレグリオン迷宮、難易度上級 未踏破

 発見は王歴98年、出現する魔物は下級から中級。注意するべき敵としては主にゴーレムが出現するが動きは緩慢で特に苦戦はすることはない。しかし、今なお踏破されない理由としては迷宮主の部屋が見付からないため……


「おいおい、未踏破迷宮かよ」


 未踏破、というのは迷宮の主である魔物が狩られていないということだ。踏破されていない迷宮は常に中の地形を変え、冒険者を困惑させるのだ。

 また、迷宮の主も曲者だ。普通の魔物とは桁違いの再生能力を持つこともあれば種に見合わない体格を持つものもいる。もし遭遇すれば苦戦は間違いない。


「あの二人が暴走して私達を危険にさらさない限り大丈夫よ」

「シャル、そういうこと言わない方が良いぞ。現実になりそうで怖い」

「無事に終わるといいのだけど……」

「どうした? 【直感】でも持ってるのか?」

「まあね……」


 そして二人はしばらく、迷宮に出てくる魔物の分析を進めるのであった。


〇〇〇


「そこのお兄さんや、ちょっとどうじゃ」

「ん? 俺か?」


 ある路地を通っていたダイは道端で露店を開いていた男に声をかけられる。立派な髭を生やし、ローブを羽織り、全身を隠している。


「そうじゃそうじゃ、おぬしじゃ。おぬししかおらぬ」

「そんなことは……あれ?」


 見ると周りには先ほどまで一緒にいたクラスメイトは一人もいなかった。


「だから言うたじゃろ。おぬしじゃと。それはそうとおぬしの友に渡してほしいものがあるんじゃ。勿論おぬしの分もあるぞ。ほれ」


 おぬしを連発する老人が投げた小さな物体をダイはキャッチする。見てみると指輪のようだった。


「なんだ、これ」

「それはのう。付けた者の力を向上させる魔法小道具(マジックアクセサリ)じゃ。お主ら転移者はまだこちらに来て日が浅かろう。こういう武器は持っておいた方が()いぞ」

「俺が異世界勇者だって知ってたのか」

「勿論じゃ、見たらすぐに分かる」

「そうなのか」

「金はいらん。ここにある分持って行け。お前達にはやって貰わねばならないことがあるのじゃから」

「お? タダなのか。分かったぜ。頑張ってくるよ」


 そう言ってダイは指輪を幾つか受け取りその場を去るのだった。

 その背で露店の男がにやりと笑っていることを知らずに……


〇〇〇


「ええ、ええ、分かった。ありがとう。私が出るわ。出会ったときの理由…………治療の素材に使う鉱石が獲れるとかどうかしら? え、無茶? メスを作るため、でいけるでしょう。うん、分かったわ。それなら良いわよね?」


 誰もいない部屋でチェリシュが布で出来た人形に話しかけている。一見危ない人にしか見えないがそんなことはない。

 人形の開いた口から音声が聞こえる。


「動いたのは【傲慢】です。くれぐれもお気を付けて。直接戦うことは無いと思いますが……」

「大丈夫よ。新人の勇者でしょう? この前の盗賊のみたいにわざと捕まる必要はないのだし。あのとき大変だったのよ。魔力障壁を無理矢理解除しながら歩くって大変なんだから」

「それはそうですが……」

「安心しなさい。マドル。このチェリシュ・ディべルテンテよ、悪魔にだって負けないわ」


 そう言うと人形の口を閉じる。そして衣装棚をあけて何を着るか考えるのだった。

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