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道に咲く華  作者: おの はるか
俺は英雄の道を志す
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年少編 魔物の襲来

 その日はどんよりと曇った天気だった。雨は降りそうにないがそれでも空気は湿る。

 だが、そんな天気でもソルトは日課として、家から少し離れた場所で剣の稽古をする。だが、いつも見てくれる父ジャンはいない。


「俺の【直感】が反応してるんだ」


 と、ソルトにはよく分からないことを言いながら、森の方へ行ってしまったのだ。


「えいっ、やっ」

「頑張って、ソーちゃん」


 だから、というわけではないが、今日はジャンの代わりに姉プレアがソルトの稽古に付き添っている。


「はあ、はあ、どうかな、お姉ちゃん。どこかおかしくない?」

「大丈夫。とってもかっこいいよ」


 大人が見ればとても和やかな場面であり、姉弟が仲良く遊んでいるように見えること間違いなしだ。だが、ソルトの剣の振りも大人が見れば思わず唸ってしまうほどのもの。そして、プレアも只者ではなかった。


「でも最後、少し剣が傾いてたよ。それに体の軸もずれてたし。ある程度の姿勢は、疲れてても維持しないと」


 褒めるだけではなく、的確にソルトの悪い部分を指摘していくプレア。プレアには剣を振る才能が無い代わりに、剣筋を見る目はジャンも認めるほどなのだ。大人が聞けば卒倒する場面である。



「わかった。次は気を付けてみるね」


 大人しく姉のいうことに耳を傾けるソルト。そして彼が返事をしたその時だった。


「ん? あれは何?」


 先に気付いたのはプレアだった。遠くから何かが飛んでくる。最初は点だったものが段々と大きくはっきりとしていく。

 遅れてソルトも空に浮かぶ黒点に気づく。


「お姉ちゃん? あれ何?」

「ちょっと待っててね。水よ、我が意を汲んで、形を作れ、水魔法【遠望水(えんぼうすい)】」


 プレアが使ったのは水魔法【遠望水(えんぼうすい)

 水によって作られるレンズを複数枚前方に展開することで、遠視を可能にしてしまう魔法である。


 そしてプレアは自身の体ほどの大きさのレンズを覗き込み、信じられないものを目にすることになった。


「えっ、ちょっと待って、あれは魔物? うそ、なんで? 母様の結界は!?」

「お姉ちゃん? なにか見えたの?」


 突然慌てるプレアにソルトが聞く。しかし、プレアの反応は質問に対する答えではなかった。ソルトの刀を指さし急いで指示を出す。


「ソルト。そこの剣を持って! 急いで!」

「お姉ちゃん? どうしたの?」


 未だに状況が掴めないソルト。だが次のプレアの言葉にソルトの表情は凍りつく。


「魔物が来たの!!」


〇〇〇


 魔物、それは大昔、魔王と呼ばれる者が作り出し、世に放った生物。人を食べる彼らは魔王の、人に対する攻撃手段となった。

 その後魔王が代替わりしても、彼らは消えることなく子孫を残して繁栄し、時には進化して人々の脅威であり続け、依然として人々の生活を脅かしている。

 最下級のゴブリンと呼ばれる、人の子供程度の大きさ、外見をもつ存在でも一般人では太刀打ちできないほどの力を振るうのだ。


子供にとっては魔物という存在であるだけで恐怖の対象なのである。


 本来であれば、セナが魔法で結界を張っており、近辺の村を含めて魔物の脅威にさらされることはなかった。そのため二人が魔物を見るのは初めてとなる。


 しかも、プレアが見たのは最下級のゴブリンではない。


〇〇〇


「はあ、はあ、お姉ちゃん、待って」

「ソーちゃん、頑張って。あそこまで行けば大丈夫だから」

「何が大丈夫なの? 僕たちだけでワイバーンは倒せないよ」


 ソルトが弱音を吐くがそれも仕方のないことだ。彼らを追いかけてきているのはワイバーン。

 灰色の体に羽が生えた腕を持ち、足には獲物を捕まえるための鋭い爪を持っており、凶悪そのものだ。


 今ソルト達はそのワイバーンに、しつこく追いかけられている。すぐに追いつかれないのはワイバーンが二人が疲れるまで遊んでいるだけだろう。


 しかし、プレアはワイバーンが油断していることを利用して逆に倒そうと考えていた。


「もう少しで、森でしょ、そこまでは走って! そしたら勝てる! 私を信じなさい。ワイバーンなら私たちの魔法も通じる!」

「う、うん、わかった」


 プレアの作戦は単純だ。上空からは見え辛い森に入り、ワイバーンから視認されない場所から魔法で一方的に攻撃しようとしているのだ。

 しかし、ようやく森が見えてきたときワイバーンの動きに変化が訪れる。


 今回先に敵の動きに気付いたのは後ろを走っていたソルトだった。突然自分の周りに影が落ち、おかしいと思って顔を上げた結果だった。


「お姉ちゃん! しゃがんで!」

「え? きゃっ!」


 ソルトの警告に戸惑いながらも従いしゃがむプレア。そして彼女の黒髪を掠めたのはワイバーンの足爪であった。

 地面が見えない森が見えワイバーンも、二人の作戦に気づき、このままではまずいと思ったのだろう。空からの急降下でプレアを捕まえようとしてきたのだった。


 そして、ワイバーンは捕獲に失敗したと知るとそのまま二人の前方に移動。森へと続く道を断つ。

森まであと数歩というところで、二人の足が止まってしまうのだった。


「あと少しだったのに……」


 残念そうなソルト。しかし、まだプレアの目から諦めの色は感じられない。


「いや、ソーちゃん、あいつはここで倒す。それならいけるよ」

「わ、わかった。怖いけどお姉ちゃんを信じる」


 前方にいたワイバーンが上昇し、二人を捕まえようと降下してくる。対して二人は、武器を持っているソルトが前衛に立ちプレアが後衛で魔法の準備をする。


「ソーちゃん! 牽制!」

「わかった! 風よ、巻き起これ【風砲(ふうほう)】」


 降下してくるワイバーンに剣を向けその先から簡単な魔法を放つ。プレアの魔法が完成するまでの時間稼ぎだ。


 だが、簡単な魔法と言っても彼の育ての親は勇者パーティー。強い風がワイバーン目掛けて放たれる。空を飛ぶ魔物であってもそれを食らえばたちまち落下してしまうだろう。


だがワイバーンは、まるで見えているかのようにそれを回避、後ろに控えていた武器を持っていないプレアを目指す。


 そこに早くも準備を終えたプレアが魔法を放つ。


「雷よ、我が意を汲んで、崩壊せよ。雷魔法【雷傘(かみなりがさ)】!!」


 放たれるのは雷の初級魔法【雷傘(かみなりがさ)】。

 プレアを中心として幾筋もの小さな雷がワイバーンに向かって放射状に放たれる。

 一撃一撃は弱くても、複数で高速に飛んでいくこの魔法は相手を逃がさない。

 結果、全てをかわすことは叶わず、ワイバーンは右手の翼に雷を食らう。右翼は使い物にならなくなり、左翼で必死に体制を整えようとするものの、じわじわとその高度を落とす。


 次に動いたのはソルトだった。落下し始めたワイバーンに走り寄り、自身の身長の数倍の高さまで跳躍すると、持っていた剣でまだ動いていた左翼を叩き折る。刃は潰してあっても金属でできた鈍器であることに変わりは無い。

 

「グルルルルゥ、グルルルルゥ」


 苦しそうな声がソルト達の耳に響く。直後落下。すでに空を飛ぶための翼は右は雷に、左は剣によって、それぞれその機能を失い、ワイバーンは移動手段を失ったのであった。


「やったね。ソーちゃん」

「うん! お姉ちゃんも怪我とかない?」


 二人で互いの怪我の有無を確認する。


「うん、これなら大丈夫かな。よし、ソーちゃん、一回家に戻るよ。母様たちと連絡を取らないと」

「うん、そうだね。まずは家に帰ろう」


 初めての戦闘に関わらず快勝を収めた二人。その気分は弾んでおり、家に帰る足取りも軽い。


 だから仕方ない。考えない。セナが結界で守るこの場所にどうして魔物が現れたのか。


 その答えを二人はすぐに知る。

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