迷宮編 対立
朝。薄暗い部屋の中でソルトは目を覚ます。日は昇っているらしいが厚いカーテンにさえぎられているらしい。
横を見るとシャルのベッドの上には昨日と同じ真っ黒な球体が鎮座していた。ソルトは呼びかけてミルが返事はない。しかしこのまま寝かせておくと、夜まで起きないと考えたソルトは身支度を整えた後、実力行使に出る。
「シャルさん? 起きてるか?」
呼びかけながらソルトは黒い球体に近づき、それに手を伸ばす。が、
「な?!」
ジュッっという音とともに黒球に触れたソルトの指から煙が上がる。即座に飛びのき簡単な治癒の魔法を自身に施す。
「どんな危険な魔法使ってるんだ……」
半ば呆れながらソルトは、黒い球体を破壊するべく、剣を魔力で包み込み刀身を守る。シャルを傷つけないようにしながら、
「起きろ!」
と、言う声と共に剣で横一閃、黒い球体を横に両断する。
「むにゃぁ、後六時間ぐらぃ……」
のんきな声が聞こえたが彼は容赦しない。次は部屋を明るくするべく、外光を遮るカーテンを開け放つ。ソルト達の部屋は、隣にも部屋がある関係で、窓は扉の反対側の壁一面にある。
カーテンが開き、光が彼女に届いたとき悲鳴が上がる。
「きゃあああああ!! 溶ける! 溶けるから~~!!」
途端にベッドから転げ落ちるシャル。心なしかまるでシュワ~と音を立てているかのようにも見えたソルトであった。
「起きたか?」
「起きたか? じゃないわよ! 朝からなんてことしてくれるのよ!」
「でも、学校遅れるぞ?」
「むぐぐぐ」
反論する材料を無くしたのか、シャルは黙って荷物の準備をする。しかしその行動が途中で止まる。
「どうかしたのか?」
不思議に思ってソルトが聞く。すると少しほおを染めながらシャルは言う。
「服着替えるから出てって貰えるかしら」
〇〇〇
「もう良いわよ」
ソルトが部屋から閉め出されてから十分後、ようやくソルトは部屋に戻れたのであった。
シャルの服装は学校支給の制服に肩ほどまで伸びる赤髪を青いリボンでまとめたものとなっている。
「もう終わったのか?」
「終わったわ。もしかして覗きたかったのかしら」
「お前みたいなちんちくりんに欲情するわけ無いだろ」
「はあ? 誰がちんちくりんよ。【魅了】掛けるわよ」
「ふん、掛けれるもんなら掛けてみろ」
そんなことを言い合いながらもお互いに準備を進めていく。レイから聞くところによると、今日は最初の実技授業があり、【迷宮】と呼ばれるところまで行くらしい。
準備を終えた二人は学校に向かいながらも会話は続ける。
「なあ、ところで話は変わるが魔族ってどういう存在なんだ?」
昨日のシャルの言動から魔族について詳しく知っているかも、と考えたソルトはシャルに聞く。
「あんたそんなことも知らなかったの? 魔族って言うのは魔王の眷属のことよ。魔物でも人でも何でも良いわ。兎に角、魔王の配下となった生き物はそう呼ばれるのよ」
「魔物でも魔族になるのか?」
「なるわよ? でもね、流石にそのままじゃないわよ。魔王の配下となった魔物は進化するわ。その上、人並みの知能も手に入れるし、姿形も元の魔物を基準にだけど人型に近づくわ」
「人がなったら?」
「その時は魔物に近づくわね、外見的には変化無くても体が頑強になって魔力量も上がるわ。それに成長スピードも段違いよ」
「ふーん、じゃあ子供とかどうなるんだろうか……」
「魔族同士なら普通に魔族の子が出来るわよ……ってあんた女の子になんてこと言わせるのよ!」
「いや、今の独り言だから!」
そんなこんなで教室までいっしょに行く二人であった。
〇〇〇
教室に辿り着くと既に何人かのグループが出来ていた。
ソルト達が中に入ると話していた生徒達が一斉に視線を二人に向ける。入学式当日に休んだ二人が入ってきたら当然の反応だろう。もっとも、それを気にするようなメンタルを持った二人ではないため、気にせず席に着く。座席表はないようで、恐らく自由席なのだろう。適当なところに腰を下ろす。
「だから、どうやって私の【黒繭】をぶった切ったのかって聞いてるんでしょ。あれ、一応私の無意識下で出来る最大防御なのだけど」
「だから言ってるだろ、こうやって魔力で刀を覆ってな」
「いや、だからそれどこの技術よ!」
そして、喧嘩なのか会話なのか判別着かないことをしているとき、二人に話しかける生徒がいた。
「君たち、ちょっと良いかな」
話しかけてきたのは前日、入学者代表挨拶をした少年、アイカワ・リュウヤだ。さわやかな雰囲気を醸しつつ二人に話しかける。が、
「「また後で」」
「へ?」
唖然とする少年。仕方ないことかも知れないが昨日の映像を見ただけの二人には彼に対する興味は欠片も無い。少年のことなど気にせず会話を続ける。
しかし昨日、同じクラスになったこの世界の住人に「異世界人なの?!」とチヤホヤされた彼からすると予想外すぎる反応だったのだ。
「お、おい。君たち、俺は異世界勇者で」
「「うるさい黙れ」」
「な……!」
あまりの対応に絶句する。彼は異世界に来てから、というか前の世界でもここまで杜撰な対応はされたことはなかった。
しかし、少年の方も諦めは悪かった。
「なあ、君たちは今年の首席と次席なのだろう。どうだい、俺達の」
「いや、あれと似たような魔法を見たことがあってさ、その対策を考えてみたんだ」
「だからその方法私にも教えなさいよ」
「な、なあ」
そしてようやくシャルが少年の方を見た。
「もう、さっきからあんた誰よ」
「人が話してるときに割り込むとか非常識だぞ」
その言葉にことの成り行きを見ていたクラスメイトたちは心の中で「お前達こそ誰だ」「無視も非常識だろ」など考える。決して口には出さないが。
しかし、少年の方はようやく相手にして貰ったことがうれしかったのか、喜んで自己紹介を始める。
「俺の名前は藍川竜哉。16歳だ。知っての通り今年召喚された勇者だ」
「ソルト・ファミーユ」
「シャル・ミルノバッハ」
仲良くする気が全く感じられない二人の自己紹介。しかし竜哉はめげない。
「そうかそうか、ソルト君にシャルちゃんか。よろしく……」
「軽々しくちゃん付けで呼ぶな」
「……ね……。わ、わかった……。それはそうと実は今日、君たち二人に頼みがあるんだ」
「断る」
「断るわ」
「そうかそうか、ありがとう。実は迷宮探索の時に俺達の班に……え?」
「断るって言ったぞ」
「同じく」
「な、なんでだ?!」
「俺は一人で十分だから……というか早く帰って調べ物がしたい」
「私もちょっと試したい魔法があるから」
「す、少しでいいんだ! 頼むよ!」
「「そう言われても……」」
困ってしまう二人。正直に言ってこの二人には、勇者に対する敬意ど存在しない。
しかしその時教室の扉が開き、男が入ってくる。
「皆、席に着いてくれ。朝の会を始める」
〇〇〇
「では全員が揃ったことだし、改めて自己紹介をさせて貰おう。君たちの担任を務めることとなったシューク・ドルストンというものだ。そして昨日来た人には言ったが異世界からの転生者だ。もし、異世界について聞きたい、或いは相談などがあれば何時でも聞いてくれていい。ちなみに前世ではサーカスで働いていた」
入ってきたのはこのクラスの担任となる男だった。ソルトとシャルに向かって自己紹介する。
他の人の挨拶は昨日のうちに終わったらしく、ソルトとシャルが順に挨拶を促される。
「ソルト・ファミーユ、この学園に来たのは姉に関する情報を探すためだ」
「シャル・ミルノバッハ、この学園に来たのは親の意思。今スゴく眠いです」
なんとも言えない雰囲気が漂う。シュークと名乗った男が話を引き継ぐ。
「うん、良いだろう。二人ともよろしく頼む」
シュークがその言葉と共にパチパチと拍手する。それに釣られて生徒も拍手をするのであった。
〇〇〇
「さて二人とも、残りの生徒との自己紹介はまた後日やってくれ。今日は今日の予定を話さなければならない」
「ええ、構いません」
「問題ないわ」
即答する二人。他のクラスメイトと仲良くする気が全くないようだ。
しかし、そんな反応を気にすることなくシュークは続ける。
「そうか、ありがとう。では今日の日程について知らせる。知っての通り……いや、二人はまだ知らなかったな。このクラスの時間割についてだ。試験を受けたものは入学試験で、転生者は持っていたスキルで、既に戦場で戦えるだけのレベルがある、と判断されたものがこのクラスに入れられた。よってこのクラスではより実践に関する講義や、迷宮探索などを行って貰うことになる。もちろん普通の迷宮では簡単すぎる、というのであれば難易度の高い迷宮へ案内することも可能だ。と、いうわけで今から迷宮探索の班分けを行う」
そして至極あっさりと班分けが決められたのであった。
〇〇〇
どこかの一室、男が鏡に向かって話しかけている。
「ふむ、これが王宮の召喚した転移者の中で優秀な者達ですか」
その声に応じて鏡から複数の声が返ってくる。
「即戦力になり得るスキル持ちが多数いることも良い」
「しかし、そうなると我々も戦力を増やさないといけませんな。元々14人もいた我々も数は減った」
「やはり十年前の実験が失敗したことがでかかったな」
「それは言わない約束だ。そにあれだって最初のうちは上手くいっていた。途中から転生者の力を見誤ったのが悪い」
「しかしそうなると一番手っ取り早いのは転移勇者をこちらに引きずりこむことですな」
その声はしばらくの間止まることはなかった。




