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道に咲く華  作者: おの はるか
俺は英雄の道を志す
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迷宮編 手がかり

 入学式当日、ソルトは式典には行かず王都で一番大きい図書館に来ていた。要はサボりである。目の前に積まれるのはこの王国の歴史書の数々。


 彼が入学式をサボってまで何をしているかというと近代の事件について調べていたのであった。もちろん、彼の故郷が滅ぼされた十年前の魔物の襲撃について調べているのだが……


「大きなものとしては二十年前に異世界勇者の召喚及び三代国王就任、十七年前には捕らえた龍の子どもが脱走、十六年前の魔王討伐、八年前は教会襲撃……うーん、なかなか見付からねえ……」


 もともと捜し物が得意ではないソルト。そして図書館の膨大な本の数もありなかなか目的の資料を見つけられずにいた。

 しかしそこに救いの手が差し伸べられる。図書館の司書をしている女性が捜し物をしているソルトを見つけ、声を掛けてきてくれたのだ。


「何をお探しになっているのですか?」

「あ、ちょっと大きな出来事について探しているのですが」

「私でよければお手伝いいたしますが」

「それはありがたいです! 是非お願いします」


 その申し出を素直に受け入れるソルト。司書が詳しいことを聞いてくる。


「それで? どのような出来事についての本をお探しですか?」

「十年ほど前なのですが……辺境の村を魔物の大群が襲った、というような……」

「十年ほど前の資料ですね。少々お待ちください」


 そういって書庫のほうに消える司書。しかし数分もしないうちに何冊かの本を持ってソルトのところに戻ってくる。


「どうぞ。おそらく【災厄】と呼ばれる事件かと思われます」

「ありがとうございます。それにしても事件ですか?」


 事件、という言葉に違和感を覚えるソルト。司書が説明してくれる。


「ええ。犯人がはっきりしておりますので。魔族による魔王を討たれたことに対する復讐ですね。いくつもの村が一日で消えました」


「魔族? いくつもの村? 一体どういうことです?!」


 驚いて少し大声になってしまうソルト。


「図書館では静かにしてください。一応【消音】の魔法は図書館内で常時作動していますがそれでも限度があります」

「す、すみません」


 潔く謝るソルト。それで許してくれたのか司書が再び解説を始める。


「では詳しいことは本に書いてあるので私からは概略だけ。まず被害にあったのは十村ほど。いずれも人口は数十人から数百人規模で小さいものです。しかし魔族は警備が甘いことをいいことに夥しい数の魔獣を引き連れ襲い掛かったのです。」

「騎士の人たちは?」

「騎士ですか? 残念ながら行く先々で魔族の妨害を受けながらの行軍でしたので王都から一番近い村でも三日、遠い村だと一か月はかかっていますね」

「そんなに……」


 驚いたふりをしながらもソルトは考える。ソルトとプレアが出会った騎士もどきは一日と言わず魔物とほぼ同時刻に来ていたはずだ。しかしそれとはまったく違う情報が司書から延べられる。


「はい、魔王を倒して油断していた人側の対応は全て後手に回りました。その結果生き残りは見つからず死者は千人を軽く超えたと聞きます」

「生き残りはいなかったんですか」

「はい。騎士団が発見できた生き残りはいません。全くの零です」

「そうですか。ありがとうございます」

「いえいえ。調べものお疲れ様です」


 お礼を言って司書とは別れたソルト。しかしその頭は疑問でいっぱいだった。


〇〇〇


「それで? 確かに事情はクルルシアから聞いていますし、それで調べたい気持ちもわかります。しかしあなた昨日クルルシアから主席合格だと聞きましたよね? あなたがいないせいで今年は主席も次席もいない入学式になったんですからね!」

「待ってください。次席がいない理由は俺関係ないです」

「分かってるわよ! でもあなたたちのせいでバタバタしたの私ですからね! あっちこっちに頭下げて回ったんですからね!」

「す、すみませんでした」


 場所は学校長の部屋、そこに生徒会長ソフィアと彼女に拘束されたソルト、そして学校長レイがいる。


 クルルシアに学長室に行くように言われたと思ったらソフィアに魔法で拘束されたのだった。

 レイがソフィアをなだめる。


「まあまあソフィア。そろそろ解放してあげなさい。もう十分彼も反省しただろう」

「はい。反省しています。次からは無断で調べに行きません。きちんと報告してから行きます」

「この子絶対反省してないですよね!!」


 そんな問答がしばらく続き


「はあ、はあ。もういいです」


 そういいながらソフィアは魔法を解いてソルトを自由にする。


「これで帰っていいのでしょうか」


 少しも堪えていない様子でソルトはレイに聞く。しかしソフィアが首を横に振る。


「いえ。今回お呼びした一番の目的は怒ることではありません」

「え? 違ったんですか」

「お呼びしたのは学長の魔法の準備期間の説明と部屋の鍵を渡すためです」


「準備期間に部屋の鍵?」


 レイが答える。


「準備期間については私が説明しよう。私の魔法【占い】というのはほとんど予知に近い未来を見ることができる。しかし代わりに一人に対して月に一度しか使うことができない」

「では昨日占ってもらったのでまた一か月後ということですか?」

「そういうことになる。そしてもう一つ。この魔法は対象者の魔力を私が知れば知るほど正確さが上がる。というわけで授業のある日だけでもいいから登校してもらいたい」

「そうですか。わかりました。ところで部屋の鍵というのは?」


「それはこちらです」


 そう言いながらソフィアはソルトに鍵を渡す。


「入学式に参加した人たちには自由に選んで貰ったのですがね。学園にいる間はこの寮に住んで貰います。残っているのはこの部屋だけなので他に選択肢はありません」


 かなり遠回しに嫌味を言われるソルトだった。当分は恨まれそうである。


「分かりました。では行ってきます」


 そう言ってソルトは学長室を後にした。


〇〇〇


 部屋に残された二人。静かになった部屋でレイがソフィアに聞く。


「ところでソフィア。我々は彼の同室になる生徒の説明はしたか?」

「あ……」


 それきり、また静かになるのであった。


〇〇〇


 扉の前でソルトは立ち止まる。指定された部屋に辿り着いたのだが


「これ、中に誰かいるな……クル姉は一人部屋だったけどな」


 そう、中に誰かいるのである。しかも何やら禍々しい魔力を感じるのだ。

 意を決して部屋に入ると更にその禍々しさは増した。


 部屋は5メートル四方、左右に一つずつベットが置いてあり左側に誰かの荷物が置かれている。


 そして、その左側のベットの上にあるものが問題だった。そこにあったのは黒く禍々しい球体。いつぞやのクルルシアのゲールボールを思い出させるようなそんな物体である。


 そして更に目を引いたのは黒い球体に浮かんでいる文字である。


ー起こしたら殺すー


 まだ顔すら見ていないが早くもルームメイトに対するイメージが固まってくるソルトであった。


〇〇〇


 とりあえず荷物を置き身支度を調える。風呂は部屋に備え付けてあるのでそこで素早く済ませて図書館で借りてきた本を読む。

 主に書かれていたのは次のようなことだ。


~~事件名【災厄】~~

 王歴93年、10の村を突如現れた大量の魔物が襲撃した。空間魔法で転移してきたと思われる。その結果騎士の派遣はまるで間に合わず別の依頼などでたまたま現地にいた冒険者達が初期の対応をしたと思われる。しかし、騎士が各村に到着したときにはいずれも生存者は零。犠牲者は二千人を越える。

 また、派遣した騎士達によると魔物とは別に魔族の姿が確認された模様、魔族領から遠く離れた自国内での出来事であるということを考えても無関係とは考えられず今回の主犯と思われる。

~~~


〇〇〇


「やっぱり……何かおかしい」


 時刻は夜、借りてきた本を全て読み終えたソルトはそう結論した。明らかにソルト達が経験した話と違うのだ。彼らは逃げている最中に魔族など一人も見かけなかったしその気配も感じなかった。出会ったのは騎士のみだ。(しかも彼らはソルト達を捕らえようとしてきた)

 そして更にソルトは混乱する。本に記されている地図もおかしいのだ。ソルト達は孤児院から王都までに二週間かけているのだが、王都から徒歩で二週間の範囲に孤児院周りの森のような上級の魔物が跋扈するような森は存在していない(・・・・・・・)。本当なら孤児院の森はこの王国に接しているはずである。


 そんなことを考えながらソルトが唸っていると左側にあった禍々しい球体が消え去った。ソルトはルームメイトが起きたのかと思い振り返る。


 そこには眠たげな目を擦りながらあたりを見渡す少女(・・)が……、


「え……?」


 そこに居たのは寝間着を着ただけの無防備な赤髪少女。


「う……ん……? あなたが……るーむめいとの……ひと……?」


 そう言いながら彼女の目は段々と大きくなり意識の方も覚醒してきたのか段々と声もはっきりしてくる。


「ご免なさい。私夜型だから朝はなかなか起きられな……い……っへ?!」


 振り向きソルトと目が合った瞬間とんちんかんな声を上げる少女。そして現状を理解して悲鳴をあげ


「破邪の炎を我が手に! 魔滅の業火となって敵を滅ぼせ! 【灼熱炎(インフェルノ)】!」


 るわけでもなく躊躇せずに魔法を放ってきた。それも部屋どころか使い方によっては人一人を軽く消せる魔法を。

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