学校とギルド編 実技試験
「はいは~い!! 皆さん武器の準備はいいですか~? 今から実技試験の説明をするよ!! 心して聞くように!!」
再び講堂に戻ったソルトを向かい入れたのは先ほど司会を進行し、最後にはソルトに注意をしてきた少女アンデルセンだった。見ると周りの受験生も各々が武器をもって待機している。
少女による説明が始まる。
「今からあなた達にやってもらうのはそこにおいてある人形との模擬戦闘。時間は十秒。その間立っていられたら合格だよ」
その答えにどっと会場から笑いが起きる。なぜならそこにおいてある人形というのが魔力も何も感じることができないただの木偶人形だったからである。
「おいおい、そんなのでいいのかよ」
「楽勝よね!」
「いいのか? こんな試験で」
様々いろんな言葉が飛び交うがソルトも似たようなことを考えていた。なぜなら本当にその人形からは魔力も感じられずゴーレムに必要な核も見当たらないからだ。
だが、その様子を見てか、アンデルセンは行動を開始した。
「うん……まあ、そうなるよね。はい、それじゃあ皆、受験番号順に挑戦してね」
「?」
前半のセリフにソルトは悪寒を感じ、他の受験生と同じ思考を捨てる。
(これ絶対まずい奴だ)
ソルトはそう感じ、事実であることを確かめることになる。
〇〇〇
「ぎゃ~~~~」
「はい。次の者、早く部屋に入るように」
時間は試験の内容発表から10分後、複数の部屋で同時に行われており一人一人が部屋に入り、終われば入った扉から出てくるのだが一人目の受験者が出てきた時点で講堂内は静寂に包まれた。
最初に入っていったのは一人の貴族の息子であった。背中に大きな剣をもって「壊してしまってもいいのだろう?」と言いながら堂々と入っていった。
しかし出てきた彼の状態はひどいものだった。顔はすでに誰かわからないほど膨れ上がり握りしめているものは柄だけになった剣である。貴族がよく着る上等な上着はぼろぼろであった。たった十秒のうちにぼこぼこにされたのだ。
それからは地獄のような時間だった。たまに立ったまま出てくる生徒もいるがそれでもぼろぼろである。泣き出す生徒もいれば逃げ出す生徒もいた。
「次の者、入れ!」
そしてついにソルトの出番もやってくる。
重く感じる足を必死に鼓舞して試験の行われる部屋の扉を開ける。
部屋に入って視界に移ったのは血でまみれた木偶人形である。相変わらず魔力も何も感じないがやはり動くのだろう。
開始の合図である旗が振り下ろされ、
その瞬間目の前まで何かが吹っ飛んでくる。
「!?」
驚きつつも、なんとか飛んできた物体を受け止めるソルト。剣で受け止めた部分を見るとその物体の正体を彼は見た。
「あ、頭?」
ソルトの剣が受け止めたのは人形の頭部であった。もともと人形が設置してあった場所に目を移すと頭部だけがない。そしてさらに目を凝らすとどうやら人形には幾つか細い糸が天井から繋がっておりそれを通して動いているらしい。
だが、ソルトがのんびりと観察できたのはそこまでだった。次の瞬間には両手と両足が胴体と分離しながら四方向からソルトに襲い掛かる。頭を刀で吹き飛ばすと即座に詠唱する。
「土よ! 我が意を汲んで盾となれ 【壁土】!」
詠唱し、飛来してくる両手両足から自身を守るべくソルトの周囲を土の壁が守る。その直後ドドドドンと音がし何度も殴りつけるような音がする。しかし土の壁が壊れる気配はない。
だが、相手の攻撃は止まらなかった。先ほど吹き飛ばした頭が真上から急襲してくる。
「奥義【骨断】」
もっとも、それは十分に予想できた攻撃であり、ソルトは刀で人形の頭部を両断。それと同時に十秒を知らせる合図がなったのであった。
〇〇〇
コンコンと学長室にノックが響き渡る。
「入っていいぞ」
「アルヴァ・リベルタ、入りマス」
扉を開いて入ってきたのは人形の少女アルヴァ。幾つかの書類を持ちながら来客用のソファに腰掛ける。
「では、報告を頼もうか」
「はい、報告いたしマス。まず人形を破壊できたのは四名、そして10秒間立っていられたのは24名、彼らは文句なしに合格デショウ」
「なるほど、となると残りの31名は倒れた中から選んでくれたのかな?」
「いえ、流石に私では人を判断するのが厳しいタメ、魔力量など客観的な記録及び筆記試験での成績で候補を絞るだけにとどめマシタ」
そういいながらアルヴァは手に持っていた対象の受験生のリストをレイに渡す。
「ありがとう。十分だ」
書類を受け取り感謝を述べるレイ。そして、アルヴァは気になっていたことを聞く。
「ところでこの部屋の術式はなんですカ? ソルト君の姉の捜索でしょウカ?」
部屋の至る所に描かれた大小の魔法陣を見ながらアルヴァは聞く。
「ああ、私の占いは本人の魔力を見ること、それに加えてこのように魔方陣を準備すれば発動できるからな。だがな。どうもおかしいんだ」
「おかしイ?」
「彼の姉と言うことで彼の魔力を基準に探してみてはいるのだがどうにも反応がおかしい」
「反応?」
アルヴァはレイの言葉に困惑する。レイが説明を続けた。
「姉弟のような血縁関係だったら魔力が似ることもあってもう少し強く反応するはずなのだけれどね……全く予想よりもかなり薄い」
「では、あの姉弟は実の姉弟ではない可能性が出て来たのデスカ?」
「いや、そこまでは言わない。反応があるから何かしらの血縁関係であることは間違いない。ただ、それでも反応がはっきりしなくてね。まるで認識阻害の魔法が掛けられているかのようにね」
「ほう。なるほど。クルルシアにはその話ヲ?」
「先ほどしたばかりだ。恐らく今頃本人にも伝えている頃だろう」
〇〇〇
「認識阻害? どういうことだよ?」
試験を終えクルルシアの部屋に戻ってきたソルトだったが彼に訪れたのは明るい知らせでは無かった。
『そのままだね。誰かが彼女を見つけられないようにしている。それもかなり強力な魔法でね』
その言葉に落ち込むソルト。レイ・アマミヤの占いはかなり大きな手がかりになると孤児院でリナに聞かされてきたのだ。この結果に落ち込むのは仕方ない。しかしクルルシアは続ける。
『大丈夫だよ。彼女の占いは回数を増やせば増やすほど確たるものとなるから』
「そうなの……か」
『ただその代わりに長い時間、期間をあけないといけないんだけどね。予定通り君にもこの学園に通って貰う』
「なあ、俺が通う必要はあるのか? 冒険者として情報を集めた方がいい気がするんだが……」
『いや、リナ母様の言うとおりにした方が良い。母様は【超直感】を持っているからね。その直感は必ず当たるし、良い方向に転がる』
「そっか……」
一応納得するソルトだったがやはり自分で探せないのはもどかしいのか表情を暗くする。
クルルシアはその気持ちを汲んでか優しくソルトを抱きしめる。
『安心して。私がついてるから。心配ないよ』
そう言って背中をさするのであった。
〇〇〇
「認識阻害? なんのこと……ああ、これね」
とある屋敷のとある部屋。二人の少女が会話をしていた。茶髪の少女と銀髪の少女の会話がベッドだけの殺風景な部屋に響く。
「あなたね、せっかく弟が探してくれてるって言うのに……」
銀髪の少女が呆れた声を出す。それに対して茶髪の少女は不機嫌そうに言い訳をする。彼女の来ているのは先ほどソルトたちの向かった学園の制服。
「仕方ないじゃない。私はあなたと違ってそういった技術を持ってないのだから認識阻害が一番簡単なの。それに今回はそれが功を奏したわけだし、今回みたいに偶然会ってもばれない……というかソーちゃんが受験していることくらい教えてくれてもよかったんじゃないの?」
「忘れてたわ」
悪びれた様子もなく銀髪の少女がさらっと答える。今度は茶髪の少女があきれる番だった。
「さ、流石イタリア人……。それはそうと彼、かっこよかったでしょう?」
「そ、そうね。確かに人形を破壊したのは見事だったわ」
「でしょう? それに十年前に比べてずっとかっこよくなってるしね」
その言葉に銀髪の少女は表情を硬くする。
「プレア。分かっているとは思いますが」
「分かってるよ。直接の干渉はしない。それに会える立場でもないしね」
言いながら部屋から出ようとする茶髪の少女。
「安心して下さい。私達は間違っていません。胸を張って良いのです。それにあなたが行動しているのは結局彼のためなのでしょう?」
「そうだけど……やっぱりね……」
そして二人は出て行く。その行方は誰も知らない。




