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道に咲く華  作者: おの はるか
俺は英雄の道を志す
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学校とギルド編 筆記試験

「これからルールを説明するよ! 受験する者は速やかに座ってね~!」


 会場の前の方で大きな声を上げる女性、いや、少女だろう。クルルシアやソフィアと同じく青の制服に身を包んだ少女が声を張り上げながら受験生たちを誘導する。


「私は生徒会の一人! アンデルセン・アールツハイト! 今日の皆の誘導を担当してるの! というわけで私の指示に従ってね!」


 身長はソルトと同じくらいであろうか。長い茶髪をひとくくりにして声を拡散する魔道具を片手に指示を飛ばしていく。その声に従いソルトを含め周りにいた受験生たちは入り口に書かれていたとおりに定められた席に座る。


「いい? 君たち! 机の上に出して良いのは配られた筆記用具と問題用紙だけ! 他の物を出してたやつは即失格と見なされちゃうから注意するように! 貴族だろうとなんだろう容赦してくれないからね!」


 魔道具の性能がすごいのか、少女アンデルセンの声は講堂全てに響き渡る。ソルトは言われたとおり荷物を片づける。


 そしてそのタイミングで試験開始の時間がやってきた。


「よしっ! では始め!!」


 かくして、筆記試験が始まったのであった。


〇〇〇


 この学園の筆記試験というのは特に決まった科目が出てくるわけではない。毎年傾向も難易度もバラバラなのだ。


『第一問 以下の戦況で考えられる敵の戦略は何か』


 こんな問題文と共に地形と敵の位置を表すマーキングがなされた地図が貼られている。どうやら今年は戦略の問題から始まるようだ。


 しかし、この程度の問題ならば施設でリナにしっかりと教育されたソルトにとって苦ではない。特に悩むこともなくスイスイと解き進める。


『第三問 以下の魔法陣から放たれる魔法を推測せよ』


 これもソルトにとって苦ではない。そもそも魔法を使えるのであれば魔法陣は自分で想像できなくてはならないのである。つまりこの問題は魔法がある程度使えれば誰でも解けるのであった。


 そんな感じで問題を解いていくソルトだったが……


「なんだ……これ?」


 ある問題を目にしたときソルトの手が止まる。


『第三十七問 王歴32年に発生した内乱の首謀者は誰か?』


〇〇〇


『ソルト~、試験どうだった……って、あれ? 分からない問題でもあった?』


 試験が終わり机でソルトが突っ伏しているとクルルシアがやってくる。そして、ソルトを一目見るなり話しかけたのであった。


 ソルトが答える。


「なあクル姉、歴史の問題はリナ母様に教えて貰ってねえぞ……」

『ん? 歴史……あ、そういえば私も全然わからなかったな~』

「わからなかったな~じゃねえよ! 言ってくれよ。今年はこんな問題出てるから来年から気を付けてね、とかいろいろあるだろ!」

『だって私は魔法で……いや、なんでもないない。よし、じゃあ、お詫びにいいこと教えてあげる』

「おい、今何言おうとした!」


 おそらく他の受験生の心を読んだのだろう。カンニングまがいな行動を聞かされたソルトであった。それに構わずクルルシアは話を続ける。


『いいからいいから。お得な情報だから聞きなさい。一つ目、実技試験が満点だったら筆記試験関係なしに入学できること』

「おい! この試験意味ないのかよ!」


 さらっと爆弾発言するクルルシアであった。そして爆弾発言は続く。


『もう一つは言いにくいんだけど……ソルト、一人で大声出してる変な子みたいになってるよ』


 言われてソルトも気づく。周りから集まる奇異の視線。もちろん理由は明快だ。クルルシアがソルトの心に直接呼びかけているのでソルト以外に誰にもクルルシアの発言(?)は聞こえていないのだ。


『じゃ、私はこれで!』

「嘘だろ?! この状況で置いてくのか?!」


 ソルトの悲痛な叫びが響く。だが、それに構わずクルルシアは颯爽と講堂から出ていく。


「こら! 君! 休憩時間だからと言ってそんなに騒がない!」


 クルルシアが去った直後、ソルトの後ろから注意の声が聞こえる。彼が振り返ると先ほど試験の進行を進めていた少女が仁王立ちで立っていた。

 だが、ソルトと目が合った瞬間、その顔は驚愕に染まり、体が固まってしまっていた。


「あ、はい。すみませんでした。気を付けます」

「……あ、うん。そうそう。気を付けてくれたらいいよ」

「ん? どうかしましたか?」


 少女の反応にどうも違和感を覚えるソルト。だが、


「いや、何でもないよ。じゃ、気を付けてね」


 少女アンデルセンもまた、その場を去り、その場には事情が呑み込めないソルトだけが取り残されたのであった。


〇〇〇


「ふむ。なかなか面白い子だね。ソルト君は」


 テストの解答用紙を見ながらひとりの女性がつぶやく。


『ですよね! ですよね! あの子の可愛さわかってくれますか!』

「いや……私が言いたいのはそういうことではないが。なぜ歴史だけ白紙なのだ……」


 学園の最上階、その窓から望遠鏡を使ってソルトたちの一部始終を眺める者たちがいた。一人は青の制服に黄色いスカーフを首に巻いたクルルシア。ソルトが走って出て行ってからここに移動したのだった。

 もう一人は高級そうな華やかな服に身を包んだ妙齢の女性である。学園の長、レイ・アマミヤだ。


「それよりも占いの件だが彼の姉を探すということでよかったな?」

『はい。特定できなくても、ヒントがもらえれば』


 現状ソルトの姉を探す手がかりは無いに等しい。

 クルルシアも情報を集めようとはしているのだがギルドを通じて依頼を出してもなかなか有力な情報はない。


「わかった。彼の魔力は見た。血縁となれば間接的ではなく直接の場所の特定すら可能だろう。期待していろ」

『ありがとうございます』


 その時部屋にノックの音が響き渡る。


「アルヴァ・リベルタ入ります」

「アルヴァか。どうした?」


 部屋に入ってきたのはソルトの受付を担当した機械の少女アルヴァだった。作り物とは思えない滑らかな動きで部屋に入ると学園長の前に立、書類を見せる。


「最終確認に参りました。本当によろしいのですね?」

「ああ、そのことか。問題ない。今年の合格者は六十人だ。君が本気を出して試験をやっても何とかなる人数だろう」

『学園長? なんで今年はそんなに人数を縛るの? 毎年百人は合格してたでしょ?』


 そう。この学園は毎年百人は合格者が出ているのである。だからこそ実技も教師陣によって緩やかなものであったし実技と筆記どちらかしかできない極端な受験生も入学したことがある。


「ああ。その通りだ。しかしこちらにも事情があってね……」

『事情?』

「事情ですカ?」


 二人が聞き返す。この学園は王宮より資金援助がなされており、一人や二人の個人的な理由で何か規則が変更されることはあり得ない。よってその事情に興味がわいたのだ。

学園長であるレイはあっさりと答える。



「再び勇者召喚の儀が行われることが王宮で決定した。この学校は彼らの受け入れ皿として機能することとなった」

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