学校とギルド編 登録終了
「ソルト様。こちらが冒険者カードとなります。自身の魔力を通すことで情報が開示されます」
「はい、ありがとうございます」
そういってソルトは受付嬢から銅色のカードを受け取る。銅色のカードは初心者D級を示しているらしい。
「これで冒険者の登録は終わりです。くれぐれもこのカードをなくしませんようよろしくお願いします。身分を保証するものですので再発行にも銀貨5枚が必要とされます。また紛失中はギルドの諸機関は使えませんのでご了承ください」
「わかりました」
「なお、ソルト様の盗賊退治の報酬、および依頼【聖治癒師救出】を達成したポイントは後程還元させていただきます」
「依頼に……ポイントですか?」
ソルトは疑問に思う。彼は依頼を受けた記憶もないしポイントというのにも聞き覚えがない。
これについては受付嬢が説明してくれる。
「ソルト様が今日救出していただいたチェリシュ・ディヴェルテンテ様は先日盗賊団にさらわれました。その際王国とチェリシュ様のクランより多額の報奨金がかけられておりました。それは正式な依頼であります。ソルト様は正式な手順を受けての依頼達成ではありませんが、その二団体からの報奨は約束されております」
「ポイントというのは?」
「冒険者のランクを上げるには依頼を達成し、その依頼に見合うポイントが依頼達成者には与えられます。そしてポイントがたまればランク昇格試験を受けることが可能となりランクを上げることができます」
「なるほど……では今回俺がもらえるポイントは?」
「繰り返させてもらいますが今回ソルト様は正式な手順で解決したわけではありません。報奨金は全額出ますがポイントのほうは全部ではなく半分です。それはご了承願います」
「そこは別に構いません。何しろ冒険者になったのもつい今ですしね」
その言葉を聞いて安心したのか受付嬢がそのポイントを語る。
「今回の正規依頼達成の際の報酬ポイントは5億です。なので今回ソルト様にはその半分2億5千万が与えられます」
「二億……ですか?」
あまりに大きい数字にソルトは驚き戸惑う。
受付嬢から説明が入る。
「はい、この依頼はSSランクのものとして発令されていました。この理由として一つ目にチェリシュ様の戦闘力が高いにも関わらず攫われたことから敵の強さがわからなくなったこと、二つ目にチェリシュ様がこの国にとって替えが効かない存在であることが挙げられます」
つまりそれだけあの任務は難易度が高かったという扱いらしい。もっとも苦戦らしい苦戦もしていないソルトにとってはその依頼難易度が適切かどうか甚だ疑問だが。
だが、ソルトは一つ聞き逃せないことがあった。
「チェリシュさんの戦闘力が高い?」
「え? そうですよ。SS級になるには一人でSS級の魔物を倒すことが条件ですからね」
「そうですか……」
考え込むソルトをみて怪訝そうな表情をした受付嬢のナターシャは気にせずに続ける。
「では説明の続きを。ランク昇格試験ですが六か月に一度開催されます。Aランクまでは既定の依頼が課題として出されそれを完遂することが昇格条件となっております」
「受験資格のほうは?」
「受験するランクの規定ポイントを達成していれば資格アリだとみなされます。しかし受験回数のほうは月に一度、つまり最速でも月に一度しかランクは上がりません。またひと月の依頼達成量が規定に届かない場合も受験できません」
「なるほど……では最後です。2億5千万あればどの級までの受験資格がもらえますか?」
「S級ですね」
「は? S級!?」
チェリシュ一人を助けるだけでソルトのような初心者でもS級になれる。つまりそれだけチェリシュの価値が重要だったというわけだろうか。
「はい、間違いありません。ポイントが渡された場合はそうなります」
「しょ、承知しました」
「ではこれにて冒険者の登録は終了です。また御用があればお申しつけください」
「はい!」
「ではよい冒険者ライフを」
こうしてソルトの冒険者登録は終わったのだった。
しかし受付嬢の話は終わらなかった。
「ところで初依頼の件ですがご自分で探しますか? こちらで斡旋することもできますが?」
「あー、それなら斡旋してください。自分の実力もわからないのでどんな依頼を受ければいいのかわからないので」
自分の実力には自信があるソルトであったがそれが自分の思い違いである可能性もある、と考え謙虚になる。しかし受付嬢の返答はソルトの予想外のものだった。
「では、【ドブ掃除】、よろしくお願いしますね」
「え……」
〇〇〇
「やっと……終わった……クル姉と別れるし掃除させられるしで散々だぜ」
依頼を言い渡されてから四時間後町のいたるところのドブを掃除し続けようやく受付嬢から報酬(10ポイント)をもらえたソルトは銭湯に放り込まれた後ギルドに備えられたソファに寝そべる。
しかしその休息を邪魔するものがいた。寝ているソルトに突如声を掛けてくるものたちがいた。
「おい、兄ちゃんよ。ちょっといいかい?」
「ん? 俺か?」
ソルトは面倒臭そうに反応する。ギルドカードを受け取ってから掃除をしている間チクチクと悪意を感じてはいたのだ。疲れていた上に面倒になりそうなので放っていたが。
「おう。そうだよ。兄ちゃんだよ。よっくも俺たちの報酬を横取りしてくれたな」
「なんのこと……ああ、【聖治癒師救出】の報酬のことか? 盗み聞きでもしてたのか?」
ソルトは冷静に返す。まだ【聖治癒師救出】の達成報告は公には発表されていない。つまりまだ目の前の集団が正式なルートで聞いたはずはないのだ。
「な! そ、そんなことするわけないだろう。俺たちは誇り高き【赤騎士団】だ! それに盗み聞きなどとよくもぬかしてくれたな!」
図星をついてしまったらしい。同様する男たちを横目で見ながらソルトは体を起こす。
「あ~、分かった分かった。で? 何の用?」
「ぐぎぎ……貴様どこまでも舐めやがって」
今にも剣を抜きそうなリーダーの男。しかし部下と思われる男がソルトには聞こえないように小声でそれを諫める。
「団長、目的を忘れたらダメです。とっととポイント回収して帰りましょうよ」
もっとも聴覚を強化したソルトにはまる聞こえだったが……
「あ、ああ。そうだったな。要件は簡単だ。お前があの依頼達成でもらうであろうポイントを俺たち【赤騎士団】によこせ。あれは俺たちがもらうはずだったものだ」
「予定って……」
恐らく今ソルトが丸腰(ドブ掃除をするにあたり武器はすべてギルドに預けた)のためポイントを奪うには好機とでも考えたのであろう。赤い鎧を着た騎士風の男を筆頭に五人ほどの集団がソルトの寝ているソファをガチャガチャと音を立てながら取り囲む。
「もちろんポイントをよこさないって言ったらどうなるか分かってるよな?」
「どうなるんだ」
軽口に応じながらソルトは男たちの実力を観察する。
しかしリーダー格の男を含め、実力者はいるように思えなかった。
(この程度ならドブ掃除しながらでも勝てそうだな)
「おいおい、俺たちはあのSランククラン【赤騎士団】だぜ。まさか知らねえってことはねえよな?」
リーダー格の男がすごんでくる。しかし
「すまん。知らない」
知らないものは知らないのである。
最もソルトは自分の姉のギルドすら知らないのだが……
「な! 【赤騎士団】を知らないだと」
ソルトが知らないことに驚いたのか五人に動揺が走る。
そして再び先ほど小声で話した男がリーダーに耳打ちする。
「リーダー、まずいですよ。俺の【嘘発見】に引っかからないのでたぶん本気で知りません。おそらくこのまま【赤騎士団】の名前で脅しても意味はないかと……」
「ちっ、そのようだな。どうやら俺直々に教育してやらねえとな」
その言葉を発した瞬間男は武器ん手をかけソルトに向き直る。
「へっへっへ、てめえが悪いんだぜ。おとなしくポイントを渡さねえからだ」
それを合図にしてかソルトを囲んでいた男たちも各々の武器を構えソルトを囲む。
「いかにも悪役なセリフだな……それと、武器を抜いたんだ。後悔するなよ」
そしてソルトも相手にばれないように身体強化を自身にかけ戦闘の準備をする。全力で集中すれば全員を無傷で昏倒させることが出来るだろうがそんな気遣いをしてやる理由もない。
そして、




