王都到着編 盗賊捕縛完了
「さて、こっちか」
最後の男の捕縛を終えリュックに詰め込んでから、ソルトはさらにアジトの奥の部屋に進む。案の定、頭領の部屋の奥からは隠し通路が発見された。
罠なども警戒するが、すでに盗賊がだれもいないため邪魔も入らない。どうやらクルルシアの言った十七というのはクモも含めてのことだったらしい。確かに十七人とは言っていない。
しかしそれでもクモについて事前に察知していたのなら教えてくれてもよかったのにな、と心の中でぼやくソルトであった。
そして進むうちにソルトは部屋の前にたどり着き、その扉を開ける。
中は、特にこれといった特徴のない部屋である。天井も床も土がむき出しになっておりここが地下であることをしっかり思い出させてくれる。扉に鍵がつけられていたわけでもない。
ただ一つ異様だったのは、
「ん? この匂いは……クルルシアさん?」
目の前の人物は目隠しをされており
「クルルシアは俺の姉です」
檻に閉じ込められているのが、ソルトと同じぐらいの一人の少女だったことだろう。
〇〇〇
三つ編みが後ろに二本、癖毛が目立つ髪に白の上着を羽織り、黒色のスカートと髪と目、身長はソルトよりも小さい。それが彼が救出した女性の外的特徴である。
「いや~助かった助かった。もぐもぐ……なになに? もぐもぐ……君が一人で助けて……もぐもぐ……くれた? それは感謝感謝」
そういいながら少女はソルトが持っていた食料を片っ端から食べていく。王都が近くなのでソルトも手持ちの食料を出し惜しむつもりもない。
そしてソルトが助けた経緯を話し終えたあたりでようやく少女の食事の手が止まった。
「よし、ご馳走様。ではこっちからも説明しないとね。私は超級冒険者、チェリシュ・ディヴェルテンテ。だけど超級と言っても鼻は人の数十倍というか数万倍いいのが売りで戦闘はからっきしでね~。危うく売り飛ばされるところだったよ。もう一度いうけど助けてくれてありがとうね」
そういうとチェリシュは洗練された動作でお辞儀をする。その子供とは思えない、あまりにきれいな所作に思わず目を奪われるソルト。
「も、もしかしてどこかの貴族だったりするんですか?」
だからこんな口調でこんな言葉が口から出てしまった。
「いや? 全然違うよ。私は別に貴族っていうわけじゃないから。だから敬語じゃなくっても全然いいよ」
「あれ、そうでしたか……そうなのか」
「しがない王都の住人だよ。だから捕まった理由もさっぱりでね」
「なるほ……ど?」
しがない住人を組織だって誘拐などするものだろうか、など納得いかないソルトであった。しかしソルトの目的は盗賊の捕縛と要救助者の救出である。詳しい話は憲兵にでも聞けばいいかと考え無理やり納得する。
「さて、じゃあこっから出ようか。何分半日以上はここにいた気がするからね。できることならこんな地下からはとっととおさらばしたい。というか早く家に帰りたい」
そう言ってチェリシュは自身の白い服についた汚れを払いながら立ち上がる。
それにつられてソルトも立ち上がる。
「じゃあ、エスコートお願いね、ソルト君」
〇〇〇
「た、確かに……すごい弟ですね」
王都の門につくとなにやら門番が、姉クルルシアと並びながら、ソルトが捕縛した盗賊を荷物から出している最中信じられないという顔をしながらこんな言葉を発した。隣でクルルシアが胸を張っているあたりから考えると【伝達】の魔法で何か自慢でもしているのだろう。
『ソルト! おかえり! チェリシュちゃんも大丈夫だった?』
「おう! 終わったぜ」
「これはこれは、クルルシアさん。お久しぶりです。弟さんのおかげで無事です」
チェリシュから道中聞いた話によると彼女とクルルシアは冒険者どうし知り合いらしく、よく情報交換を行っている間柄らしい。そしてソルトが一番驚いたのは
「それにしてもびっくりしたぜ。クル姉って超級冒険者の人とも知り合いだったんだな。一体何級なんだよ。同じ超級か?」
『それは秘密だよ』
はぐらかすクルルシア。ちなみに超級というのは一般に人外の象徴として扱われる。
『よし、じゃあソルトも来たし門番さん、早く入都手続きを終わらしちゃってください』
「は! わかりました。ではソルト様はこちらへ。チェリシュ様も一応冒険者証をご提示ください」
その言葉を受けチェリシュは冒険者証を門番に手渡す。
「どうぞ」
「では、失礼します。読み取れ、【リーディング】」
男が呪文を唱えるとチェリシュから手渡されたカードから何か文字列が浮かび上がる。
今門番が使ったのは隠された情報や文章を読み取る魔法である。
そして読み終わったのか門番はチェリシュにカードを返す。
「はい。大丈夫です。お通りください」
「ありがとうございました。ではクルルシアさん。ソルト君、お先に失礼します」
『うん、またあとでね!』
「今度は気を付けてな」
ソルトの返事には苦笑いを返しながらチェリシュは優雅な礼を残し門の向こうへと消えたのであった。
そしてチェリシュを送った後ソルトは門番に向き直る。
「それで、俺はどうすればいいのでしょうか?」
そう言うと門番は懐から水晶を取り出した。
「君は身分証明の類は持っていないな? それならこの水晶に手をかざしてくれればいい。それだけで君の魔力は登録されてこっちから居場所を追跡できるようになる。追跡が嫌なら冒険者ギルドなり、なんなりに入って身分証明書を作るといい」
「分かりました。ご丁寧にありがとうございます」
そうお礼を述べてからソルトは水晶に手をかざす。その瞬間水晶が光ったが、一瞬のうちにその光も消えた。
「はい、これで登録完了です」
そう言って門番がソルトの手から水晶を受け取る。
そして両手を大きく拡げ声高らかに宣言する。
「ようこそ! 王都へ!」
〇〇〇
「あら、おかえりなさい」
「おかえり……なさい」
「ええ、ただいま。きちんと仕事は終わらしてきたわよ。これで彼には点数が入るのかしら?」
王都のある屋敷、チェリシュが自分の屋敷に戻ると二人の少女が迎え入れる。これで部屋の中には三人の少女。だが、その年代はバラバラだ。チェリシュは十代の前半なのに対し、片方の少女は十代後半。もう一人も身長はチェリシュと同じくらいだが童顔ではない。恐らく成人しているだろう。
「はい、ナターシャにも話は通してあります。すぐにもらえるでしょう」
出迎えたうちの背の高いの少女が答える。チェリシュは年齢に見合わない口調で返す。
「しかし、彼を高次冒険者にする意味は何なのかしら? 今回は言われたから体験してみたけれど……。今のままでも彼、まあまあ強いとは思うわ」
「彼女が言うには【勇者】から【英雄】になるための試練を受けやすくするためらしいですよ。まあ、彼女もできるだけ手を打っておきたいのでしょう」
「なるほどね……」
その時、屋敷の扉が開かれ、また一人少女が現れる。
「まあ、私なりのプレゼントだよ。点数も実際意味があるかどうかは微妙なところだけどないよりはましだと思ってね。それに私は今会えないから……というか会いたくない……」
「あら、プレアもきたのね。お疲れ様。あんまり思いつめちゃだめよ」
「プレア……悪くないよ……。悪いのは……あいつら……」
「うん、ありがとう。そういってもらえるとちょっと楽になるかも……」
「すいませんね……できれば私一人で終わらせたかったのですが何分相性が悪いのが何人かいたもので……」
「いいのいいの。私だって目的があるんだから。マドルちゃんばっかりに苦労はさせないよ」
四人の会話はしばらく続いた。




