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道に咲く華  作者: おの はるか
俺は英雄の道を志す
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王都到着編 王都目前

『ほら、頑張って。もう少しで外壁も見えるから』

「だから! 何回も言うけどそんなこと言うくらいなら少しくらい荷物を持て!!」


 そういいながら二人はきれいに整備されている街道をひたすら歩む。

 レバル村を発ちその後複数の村を経由すること再び一週間、ソルトたちは予定通りに、着々と王都に近づいていた。その間魔物との遭遇も、レバル村を過ぎてからは特になく、せいぜいゴブリンと呼ばれる小型の人型をした魔物が数体程度であった。


 そして今日は予定通りならば王都に到着する日だ。街道がきれいに整備されているのも王都が近い証である。


 ソルトたちが目指すのはシャルトラッハ王国の主都シャンベル。


 建国から百年ほどしか経っていないにも関わらず、その国力は伸びる一方。さらには魔族に対し十六年前の魔王討伐まで前線で戦ってきた国の一つである。


 その名残もあり、王都には凄腕の冒険者が集まるギルドや、今からソルトたちが向かう優秀な人材を育てるための学校という機関などが存在する。


『訓練だよ、訓練』

「クル姉、荷物持つのが嫌いなだけだろ」

『そ、そんなことないよ』


 あからさまに動揺を示すクルルシア。彼女の固有魔法【伝達】は自身の気持ちをダイレクトに伝えるためこのような動揺も伝わってしまうのだ。

 ソルトはその返答にあきれながらも、道をまっすぐに進むのであった。


 そして日が真上に上る頃、ようやく王都を取り囲む城壁が二人の前に見えてくる。


「なあ、あれがクル姉が言ってた壁ってやつなのか?」


 高くそびえる壁を遠目に見ながらソルトはクルルシアに質問する。

 はるか前方にあるにもかかわらず一瞬で見つけることができるほどの白い巨大な壁。王都シャンベルは第二代国王が魔族と戦うことを決意した際にこの壁を築くことを決め、以後の数十年間一度たりとも王都内に魔物や魔族の侵入を許していない、と言われている。


『そうだね。やっと到着だよ。お疲れ様ソルト』

「そうか、やっと着いたのか」


 クルルシアから確定の情報が得られ安心するソルト。当然だ。かれこれ二週間の野宿、加えて今ソルトが持っているのは総重量が数十キロにも上る背負い袋である。

 リナが若い時に作り、空間魔法だけかけて時魔法をかけ忘れたこの背負い袋は、大きさこそ普通のバッグだが、中身の重量が減量されない。そんな欠点のせいで普段は使われず、倉庫の中に封印されていたのだが、この度、ソルトの罰ゲームと称して、クルルシアが引っ張り出してきたのである。

 ソルトとしては一刻も早くお別れしたい物品だった。

 しかし安心するには少し早い。クルルシアの言動は常に突発的なのだから。


『よし、じゃあここから門まで競争しようか!』

「え、ちょっと待ってくれよ。俺荷物があるんだけど…」


 しかし人の話を聞かず、クルルシアは合図を出そうとする。門というのは町の中と外を結ぶ場所のことで常に門番が立っており中に入るもの、外に出るものを常にカウントしている。

 場所としては町を囲む壁の数か所にありどの方向から壁に向かってもすぐに門は見つかるようになっている。


「いくよ~ よーい……」


 ソルトが準備する間もなく出そうとする点クルルシアらしいだろう。


 しかしそのあとの合図はソルトが準備を終えていくら待っても始まらない。

 たまらず質問をするソルト。


「どうしたんだ? クル姉?」

『……十三、十四,十五、十六,十七、捕捉終了。ソルト、盗賊がいたからとりあえず捕まえてきてくれる?』

「盗賊? こんな都の近くなのにか。わかった。人数は?」


 思ってもみなかった反応に少しは驚きながらもソルトは冷静にクルルシアに人数を確認する。彼はクルルシアの伝達魔法の精度と恐ろしさを知っているので疑うことはない。


『盗賊が十七、あと……要救助者と思われるのが一名。場所はここから東に一キロ』

「方向としては……あっちか」


 太陽の位置を確認し目標に目を向ける。

 現在北に門が見えているので右に行けばいいことになる。


「じゃあ、行ってくる。クル姉はどうするんだ?」

『うん、頼んだよ。私は門番さんに話を通してくる』


 そういうや否やクルルシアは目を閉じ【伝達】魔法を飛ばすそぶりをする。おそらく門番と連絡を取っているのだろう。

 そして連絡が終わったのかクルルシアは目を開けソルトに報告する。


『全員殺しちゃってもいいけどできるなら生け捕りだって。死体でも報奨金が出るけどやっぱり生きてる人に比べたら減っちゃうから』

「別にお金のためじゃないけど……生け捕りなんかできるかな。わかった。できる限りは殺さないようにするよ」

『うんうん、それでこそ私の自慢の弟だ。取りこぼしのないようにね』


 そういうとさっさと町のほうに歩き始めるクルルシア。

「あれ? クル姉は行かないのか」

『うん、ソルト一人でやってみなさい』

「わかった」


 そうしてソルトも目的の場所まで歩きだしたのであった。


『しかしあの子がなんで捕まるかな……』


 クルルシアの疑問の声はソルトには届かなかった。


〇〇〇


「十三、十四、十五、十六……あれ? 一人たんねーぞ?」


 場所は先ほどの場所から一キロほど東にずれた森の中、ソルトは息をひそめていた。


 アジトと思われる場所は、森の大木の根の隙間の空間を地下に拡張したのだろう、外から見れば小さな亀裂があるだけであり普段はそれすらも見えなくなっている。


 しかし見張り続けて三十分、【悪意探知】の魔法も使っているのだが十七人目がどうしても引っかからないのだ。


「ふむむ、クル姉がまちがえたのかな。結構適当に言ってたし……いや、捕まってる人を含めたら十七か? でも要救助者は別に一人いるって話だし……」


 しかし悠長に観察できたのもここまでだった。外に向かった盗賊団の一人が帰ってきた途端、アジトから漏れ出る雰囲気が変わったことをソルトは感じた。


「こりゃあ新しい獲物でも見つけたか……乗り込むなら今だな」


 今のところソルトの助けを求める声が聞こえる魔法に反応する声はない。危なくなればソルトは強引にでも侵入するつもりだったが、暴行されている様子もなかったので放置する方針をとっていた。強引に行けばその助けを求める人を人質にされて面倒、と考えたゆえだ。

 ソルトは、自分たちが搾取する側だと思っているときこそ人は油断すると考え強襲する時を待つ。

 ソルトが補足した十六人のうち四人が、意気揚々とアジトらしき場所からでてくる。隊列はひし形。そこをソルトは意識を刈り取るべく、四人の真ん中に木の上(・・・)から飛び降りる。


「な!!」


 もちろん殺しはしない。剣を鞘から抜かずに鈍器として扱い、殺傷能力を下げ意識を奪うにかかる。ソルトが最初に狙ったのはソルトをすぐに視認できる真後ろの盗賊、その次に左右、最後に前を歩いていた盗賊の意識を順に刈る。

 もちろん鞘から抜いていないとは言っても、剣を頭に振り下ろせば即死であるし、防具のところを狙ってしまうと音が鳴って、ほかの盗賊に悟られてしまう。しかし、剣の鍛錬をさんざんやってきたソルトにとって、防具の隙間を的確に狙い気絶させることは造作もないことであった。


「まずは四人」


 確認するようにソルトはつぶやく。

 そして次のメンバーが来る前にソルトはその四人を自身の持っていた背負い袋の中に放り込む。重さは増えるが中の音も聞こえないため、途中で目を覚まされても平気だからだ。


 そして四人を背負い袋の中に詰め込んだところで次は一組の男女と大柄な盗賊が姿を現す。


「あれ? おかしいっすね~。ムウたちどこに行ったんでしょうか?」

「確かに……連絡もなしにどこかへ行ってしまうようなやつらではないわよね……」

「よし、俺様に任しとけ。こう見えても【探索】の魔法は得意なんだぜ」


 そういって詠唱が始まると一組の男女の後ろに立つ男の体を中心に魔法陣が広がる。

 そしてそのタイミングでソルトは攻勢に出ることを決める。


「我に届かないところを見せよ、魔法【探索…」


 しかし、どうしたことか男の口から声が突然消える。


 後ろの男の声を消したのはソルトの音魔法【音消去(サイレント)】。特定の場所の空気の振動を完全ではないにしろ停滞させることでほとんどの音をシャットダウンできるというものだ。


 魔法というのはクルルシアのように直接口にしなくても発動できるがそれにはかなりの訓練を要する。詠唱自体が術者のイメージを明確にするという目的があるためだ。そして、残念ながらこの男は盗賊生活でそんな殊勝な訓練をする男ではなかった。


 呪文が最後まで唱えられなかった魔法陣が消える。そしてそれに疑問を持った男女の盗賊が振り向き後ろの男の顔を見たとき、ソルトは正面から猛然とかけていく。


 唯一ソルトが駆けてくるのが見え、顔を青くしながらソルトを指さす男と、突然黙り込んだ男を心配した一組の男女は全員等しく鞘の餌食となった。


 こうして七人の盗賊の捕縛が終わった。

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