王都到着編 レバル村
「ではソルトさんはまだ冒険者ではなかったのですか」
無邪気な声が昼間の森に響き渡る。現在三人はクルルシアの爆弾発言の後無事に少女の住む村に進んでいきその間も魔物に襲われることもなくのんびりと雑談をしていた三人である。
「そうだよ。でもクル姉はもう立派な冒険者やってるんだぜ」
「すごいですね」
話を聞くとこの少女、名前をラディンといい、父親が冒険者なこともあって冒険者にあこがれているらしい。村から出て森にいたのも、冒険者の真似事で薬草を取りに来ていたらしく、その帰りにオークたちに見つかってしまったらしい。
『えっと。ラディンちゃんでいいのかな』
ラディンのすごいという言葉に反応を示すクルルシア。
「は、はい。大丈夫です」
まだクルルシアの伝達魔法に慣れないのかおどおどと話す。
クルルシアが言葉を続ける。しかし、その口調は厳しいものだ。
すでにラディンからオークに見つかった経緯を聞いている彼女は能天気な言葉にくぎを刺しておかねばならないと考えたのだ。
『冒険者になりたいのならもっと気を付けないとだめだよ。魔物の気配を読むことができないうちは森なんて絶対一人で入っちゃダメ』
「ご、ごめんなさい。いつもは何も出てこないから……」
『冒険にも人生にも、今までは大丈夫だったからってこれからも大丈夫な保証はないよ。これだけは覚えておいて。いい?』
「はい…」
内容もさることながら、有無を言わさない口調のクルルシア。しかし終わると今度はその顔から厳しさが消え優しい顔になる。
『厳しいことを言ってごめんね。でも冒険者になるっていうことはそういうことなの。私の友達にも死んでしまった子はいるんだ』
「そうだったんですか……肝に銘じます」
すっかりと意気消沈してしまったラディンであった。
しかしそんな雰囲気を吹き飛ばすようにソルトが口をひらく。
「よし、じゃあとりあえずは泊まれるところを紹介してくれないかな? 俺たち一週間近く野宿だったんだ」
ソルトが自分を励まそうと思ったのは伝わったようだ。元気に立ち上がるとある提案をする。
その明るい言葉に喚起されるように少女の口調も明るいものとなる。
「まだ決まってないのでしたらぜひ我が家に泊まってくれませんか? 助けてくれたことのお礼もしたいですし」
『よし、じゃあそうしようか。ラディンちゃん。今日はお世話になるね』
こうして村での宿泊場所が決まったのであった。
〇〇〇
「お父さん、お母さん、帰ってきたよ!」
ソルトたちがラディンに連れられてたどり着いたのは木でできた立派な館だった。まだ新しくたってから2,3年といった二階建ての館である。
その扉を開けてラディンが叫ぶんだのであった。
「なんだラディン? 母さんなら買い物だぞ。それに今日は少し遅かったな。どこかで遊んでたのか?」
家の奥から心配そうに出てきたのは恐らく40代の男性。体つきは決して太っておらず常日頃から鍛錬していることがうかがえる。
しかし奥から出てきた彼はソルトとクルルシアを一瞥すると不思議そうな顔をした。
「後ろの二人はだれだ、知り合いか?」
発されるのはいたって普通の質問。この村は決して大きくないので、ほかに住んでいる住民ぐらい把握している。
そしてその疑問に答えるべく、ラディンは今日あったことを話すのであった。
「今日実はね………」
そういってラディンはソルトとクルルシアがここにいる理由を正直に親に話したのだった。
そして、
「娘を、娘を助けてくれてありがとう!」
ラディンが話し始めてから数分後家ではラディンの父親がソルトとクルルシアに対して頭を下げてお礼を言っていた。
そのあまりにも必死の感謝の仕方に逆にソルトが慌ててしまう。
「いえ、たまたま通りかかったところを助けただけですからそんなに頭を下げないで下さい」
勿論、全力で走ったというように通りすがりというわけでもないが人を助けただけで感謝されることにソルトは慣れていない。
だがこの男にも意地がある。
「しかしそうはいっても、ソルト君は私の娘を助けてくれたのだ。何もお礼をせずにというわけには」
お礼なんていらないソルトとなんとしてもお礼がしたいラディンの父であった。
しかしこれではらちが明かないと考えたクルルシアが話に割り込む。
『なら二つほど良いですか?』
「なっ、【伝達魔法】?! 二つですか。なんでしょう?」
『一つ目に情報をください』
「情報ですか、何に関することで?」
一瞬【伝達魔法】で話しかけてきたクルルシアに驚きはするもののさすがは冒険者というべきかすぐに慣れて対応する。しかしなんの情報かまでは頭が回らなかったらしい。
『この近隣の魔物の生息についてです。ラディンちゃんから聞いたのですが普段この近くではオークは現れないそうですね』
クルルシアの問いに首肯するラディンの父。
「確かに私もこの村に来て三年ほどになるがオークどころかC級の魔物ですらめったに見ることはない」
『そうですか。ありがとうございます。では二つ目ですが……』
そこまで伝えるとクルルシアはラディンの方を見る。ラディンが引き継ぐ。
「ねえ? お父さん、この人たちに今日この家に泊まってほしいんだけどダメ?」
彼女としても自分とあまり年齢が違わないソルトがどうしてあそこまで強いのかを聞いてみたいと思っているのだ。
「ああ、そうだな。全然構わないとも。二人とも今日はぜひこの家に泊まってくれ。幸いいくつか余っている部屋もあるからそこで泊まれるはずだ。あとで家内に掃除をさせておく」
快く承諾してくれるラディンの父。
「ありがとうございます」
『感謝します』
こうして一週間ぶりの家に泊まることになった二人であった。
そして……。
〇〇〇
「また来てね~」
「おう! いつでも待ってるぜ!!」
「ありがとうな!」
『ではまた寄らせてもらいますね』
一夜明け語り合ったり酒を飲みあったりして夜が明けるとソルトとクルルシアはその家を後にしたのだった。ちなみに飲んだのはクルルシアとラディンの父である。




