王都到着編 義姉との戦い
「ではこれより、クルルシアとソルトの決闘を行う。ルールは一切なし。何をやっても反則は取らない。生死に関する心配も無用だ。君たちが死ぬ未来は見えなかった。好きなだけ本気を出しなさい。怪我に関しては……まあ、私の方で何とかなる。そして勝敗はどちらかが負けを認めるか気を失うまでとする。二人とも何か質問は?」
孤児院の外でリナの声が響き渡り、クルルシアとソルトは向かい合う。
クルルシアはいつも着ている首元まである桃色の長そでに、暖色の外套、首には黄色いスカーフを身にまとう。だが武器のようなものは一切持っていない。
ソルトの方は黒服に、彼の髪と同じ銀の足元まである外套を身にまとう。こちらはクルルシアと違い、長さ的には彼の足から胸ほどまである両手剣を腰に差す。
「いや、ない」
『私も大丈夫だよ』
返事をしながらソルトは両手剣を構える。クルルシアもまた徒手空拳でありながら彼の攻撃に対応するように自然体となる。彼女は素手であるが決して手加減している訳ではない。
対峙する二人の間を優しい風が通り過ぎる。
そして、
「では、両者、始め!!!」
リナが開始の合図を出す。
こうしてソルトが孤児院に来て初めての姉弟水入らずの対決が始まったのである。
〇〇〇
この試験をするためか、二人はお互いに師匠たちによって訓練を隠され続け手の内を知らない。その状況の中で先に動いたのはソルトだった。
クルルシアの腕力だけは普段の生活の中で身を持って知っているため、接近戦はやめたほうがいいと彼は考える。。
「疾風よ、わが剣に、力を与え、暴虐を退けよ! 風魔法【塵風】」
選んだのは風の魔法。彼が最も得意な属性だ。
詠唱が終わると幾筋もの暴風が彼の剣に纏わりつき、ただの剣を破壊の一振りに変貌させる。
そして、彼が剣を振りかぶると、纏っていた風が刃として幾筋も生み出されクルルシアに迫る。ジャンの技を参考に、ソルトが魔法で再現した技だ。
しかし、
『そんなのでいいの?』
「えっ?」
彼の放った風の刃は、常人の視力では視認することも難しいはずだった。そのうえその速度も見えていたとしても追うのは難しい。だがクルルシアは、その隙間を猫のように俊敏に動きかわし、ソルトとの距離を詰める。風は彼女の服に掠ることもない。完全に見切られていた。
予想外の実力にソルトは驚く。彼としては接近戦に入る前に少しでもクルルシアには傷を負っていてもらわねばならない。そのために一撃一撃は軽くとも、避けにくい技を選んだのだ。
だが、結果は服にかすり傷一つ与えることもできず距離を詰められていく。だが彼も我を取り戻すと、再び遠距離の技を仕掛ける。
「風の裁きよ! 流れ、絡み、伝い、閉じ込めろ! 風魔法【風揺籠】」
次にソルトは、風の刃を伴う竜巻を五つ繰り出す。いずれもクルルシアやソルトの身長を優に超え、その竜巻のうちに潜むのは幾千の刃。ソルトはいくつかを迂回させるように動かすと、五つの方向から一斉にクルルシアを囲う。先ほどのように避ける隙間はない、無理にでも突破しようとすれば無数の風の刃が彼女に襲い掛かる。
竜巻がクルルシアの姿を隠す。
ソルトはクルルシアが竜巻に閉じ込められたことを確信すると、とどめを刺すべく距離を詰め、自身の最高の一撃を放つため剣を構える。
「奥義【骨……」
しかし発動しようとしたその瞬間、彼の直感が警鐘を鳴らす。とっさにその警告に従い前方に飛びのく彼だったが、次の瞬間、見えたのは、真っ黒で不気味な球体が先ほどまでソルトが立っていた場所に降りかかり、地面に大穴が誕生するところだった。
だが、それを見て一番慌てたのは当事者のソルトではなく、孤児院で様子を見ていたリナであった。
〇〇〇
「あれは闇魔法の【ゲールボール】?! 確かにルールなしとは言ったけど弟にだす技じゃないだろうに……しかも不意打ちって……」
孤児院の中から映像を介して二人の戦闘を見守っている孤児院の面々。いるのは試験を決定した大人三人と、二人の戦いに興味を持った弟妹たちであった。
時折「すごーい」などと子供たちが騒いでいるだけの空間だったが黒い球を見た瞬間リナが呆れたように呟いたのである。
「リナ母様? あの魔法がどうかしたのですか?」
魔法よりも格闘のほうが得意であるセタリアがリナに聞く。
リナはその質問に冷や汗をかきながら答える。
「ああ、あの魔法はね、とりあえずぶつかったものすべてを削っていくんだ。地面だろうが植物だろうが人間だろうが……。闇魔法ってこういうの多いからね……」
「えっ?」
「だからもし、ソルトが躱し損ねてたら多分死んでるね。まあ、そんな未来が見えてたらそもそも決闘なんて行わなかったが……」
リナの説明通り、球が接したはずの地面は球状に消滅し、人一人が簡単に入れるような大穴が開いていた。
〇〇〇
「あぶねえ……」
ぎりぎりのところで一撃必殺級の魔法を躱したソルトは振り返ったことで自分がどれだけ危険な魔法を食らいそうになっていたのかを理解する。それと同時にその魔法がどこから来たのかも。
先ほどの魔法でできた穴をはさんでクルルシアが手で服に着いた汚れを払いながら立っていた。そしてその横には人一人が優に通れそうな大穴も。
「まさか……地面に穴開けて竜巻を避けたのか」
常識外れの避け方にソルトは戦慄する。確かに四方八方を風の竜巻で囲まれても地中まで風が存在するはずがない。
だがそんなソルトの反応に構うことなく、クルルシアは文句を垂れる。
『まったく、お姉ちゃんにあんな切り刻むような攻撃しておいて……仕返しだよ!!』
出した技に対してあまりに軽い言葉にソルトは唖然とする。しかし次の光景に、ソルトはすぐに現実に引き戻された。
クルルシアが先ほどと同じ魔法を、十数個を空中に作り出したからだ。
「は?」
『大丈夫、当たっても治してあげるから。安心してくらって♡』
「いや、ちょっとまって……」
当たったら地面すら削るような魔法を食らって治るも何もあるのかという疑問がソルトの頭に湧き、制止を呼びかけるがクルルシアの返答はシンプルだった。
『ダーメ♡』
そして空中に浮かぶ球が一斉にソルトに襲い掛かった。
〇〇〇
「あれは勝負あっただろ。さすがに……あれ全部躱せとか俺なら絶対無理だぞ」
こうつぶやくのはダンダリオン。もし自分があの場にいれば、と考えるだけで恐ろしい。ダンダリオンであればまず生き残れるかどうかが怪しい。他の子供たちもうんうんと頷く。
しかしセタリアは同意しない。
「ダンも皆もよく見て言いなさいよ。お兄様もすごいじゃない。叫んでるけど最初の一撃を含めてかすりもしてないわ。勝負はこれからよ」
横でその話を聞いていたバミルたちもその言葉に同意する。
「ふむ、そうだな。優勢をとっているのはクルルシアかもしれないがソルトもまだまだ余裕ありそうだ」
「かっかっか。そうじゃのう」
〇〇〇
「ふっ、ふっ、ふっ」
孤児院の中で映像の魔法を通してみている大人と子供がそんな会話をしている中、ソルトは右へ左へと不規則に襲い掛かってくる黒球を整った姿勢でかわし続けていた。
しかし人というのは攻撃が通じないと判断すると別の手段へと行動を変える。クルルシアも同じだ。
『うーん、当たらないな~。やっぱり肉弾戦のほうが私には向いてるよね』
そういうやいなやクルルシアは十数個の球でソルトに狙いをつけるのをやめ、自身とソルトをとりかこむように展開する。
突然黒球が動きに変化を付けたことに対し、一瞬だけクルルシアの行動理由がわからなかったが、目の前に立つ姉の姿を見てその理由を察する。
「クル姉との接近戦か……できればやりたくなかったんだけどな」
『相手が嫌がるように戦場を作るのは戦いの常識だよ』
そう、クルルシアの目的はソルトを逃がさないこと。黒い球体はソルトたちを中心に高速で動いている。この球体を避けて通ろうとしたらその一瞬の隙にクルルシアはソルトに一撃を与えることができるだろう。ソルトを狙わなくなり動きを固定されたことで先ほどとは桁違いの速度となっているのだ。
しかし、ソルトも接近戦に自信がないわけではない。は仕方なくとはいえ、接近戦い応えるため両手剣を構えクルルシアの攻撃に備える。
『いっくよ~』
「こい!」
そして、クルルシアはソルトとの距離を詰めるべく、猛然と駆けだした。。
〇〇〇
「うわー……全然見えねー」
「やっぱりダンも見えないわよね。兄さまも姉さまも普通の人族のはずだけど…」
彼らが見えないと言っているもの。それは、クルルシアとソルトの肉弾戦だ。ダンダリオンとセタリアが追えた動きはたった二つ。最初、クルルシアがソルトに向かって突進したこと。その反撃のためにソルトが両手剣を横なぎに振ったこと、それだけだった。次の瞬間には逆立ちしているクルルシアが見え、その直後にはお互いが吹っ飛んで………などとしているうちに、全くついていけなくなったのだ。
「教えて!! ワーリオプス師匠!!」
子供たちが聞いたのはソルトの剣技の師匠、骸骨のワーリオプス。
「ふむ、そうじゃのう。どこから説明すればいいんじゃ?」
「最初から!!」
セタリアとダンダリオンだけでなくほかの子供たちも追随する。
「かっかっかっか。わかったわかった。リナよ。映像魔法かりるぞ」
そういうと骸骨の腕に魔法陣とともにソルトとクルルシアの接近戦が始まった直後からのえいぞうがゆっくりと再生され始める。
〇〇〇
「やぁっ!!」
最初の一撃はソルトからのものだった。両手剣のリーチを考えれば当然のことではあるが、それはそれとして、まずダンダリオンとセタリアが見たとおり、とびかかってきたクルルシアを迎撃するべく横なぎに一閃。
しかし、クルルシアは突進の速度を緩めない。地面に飛び込むようにしてそれを回避するとソルトの懐に忍び込む。両手を地面につけ、一本の足は天に伸ばし、もう一本の足は延ばした足を軸にするように回転させソルトに回し蹴りをお見舞いする。
一方ソルトは回し蹴りをかがむだけで回避。だがそこを狙うようにして先ほどクルルシアが上空に伸ばしたもう一本の足が上から振り下ろされる。
ダンダリオンたちがクルルシアが逆立ちしてると思ったのは、この時に振り下ろす足が最初から上がっていたからである。そしてそれをソルトが刀で迎撃する。
クルルシアのブーツとソルトの剣がガギンとおかしな音を立てて激突。両者ともに後方へと吹き飛ばされる。
この間、瞬き一回程度の時間である。ダンダリオンもセタリアも獣人として決して悪くない動体視力を持ってはいるのだが、文字通り次元が違ったのである。もちろん他の子どもたちもついていけた者はいない。
クルルシアがソルトだけに話しかける。
『いいね! その調子だよ』
「なんかクル姉はまだまだ余裕そうだな。てか剣で傷つかない靴ってなんだよ!」
『これかい? 龍のひげの繊維で織られた特別製だよ』
「なんてものを標準装備にしてやがる……」
龍といえばこの世界で最高峰の力を持つ魔物だ。その鱗は魔法を弾き、その爪は全てを切り裂くとさえ言われている。
『よし、休憩はこんなものとして……』
なにか不穏な空気をクルルシアから感じ取ったソルト。
次の瞬間ソルトは言葉を失う光景を目にすることになった。
クルルシアが地面に手を肘まで突き刺す。まるで水に手を入れるように何の抵抗もあるようにはみえない。だが周りの地面がひび割れていることから土魔法を使っている訳ではない。そしてそのまま地面を引っこ抜くようにして隆起させるクルルシア。雷の魔法で隆起させた地面を切り取ると土の塊をそのままソルトに向かって投げつける。
魔力による身体強化を含めて考えてもソルトには考えられない攻撃であった。
『えいやっと』
「ふ、ふざけんな!」
降りかかる土砂と岩を両手剣ではじきながら懸命にソルトはクルルシアの姿を見失わないようにする。しかし、視界に収めていたはずのクルルシアの姿が突然消える。
『無属性魔法【ミラージュ】』
頭に直接響くのはそんな声。そしてソルトが気配を頼りに上を見上げるとクルルシアが、今にも爆発しそうな雷の光球を浮かべ、ニッコリと笑っているのだった。
『雷龍魔法【雲雷豪雨】』
次の瞬間彼女の持っていた光の球が弾け、ソルトの視界は光と雷に覆われた。
〇〇〇
クルルシアが地面に降り立つ。地面はさきほどクルルシアの放った魔法によりぼろぼろとなり、ところどころ雷の熱により融解している。
その中をクルルシアはソルトを探す。本人としては殺す気はさらさらないのでどんな怪我をしていてもすぐに治してやるつもりでいる。
(ん? あれかな?)
クルルシアが見つけたのは地面から見えている、ソルトの靴。図としてはおそらくさかさまに埋もれているのだろう。
(あれは窒息とかしちゃいそうだな……いそがないと)
そしてクルルシアが掘りかえそうとしたとき、
「奥義【骨断】」
『え?!』
驚きの心の声を発しふり返るクルルシア。彼女は自身の腹に熱を感じる。彼女が見たのは愛する弟がその両手に持つ剣で自身の腹を掻っ捌いた瞬間であった。
〇〇〇
「ちょっと? 姉さまは兄さまを殺す気ですか?」
映像魔法で客観的に見ていたセタリアたちには最後、クルルシアが放った魔法の威力がはっきり見て取れたのだ。雷龍魔法【雲雷豪雨】。言ってしまえば一撃一撃が強力な雷を雨のように降らす魔法である。普通死ぬ。
「俺、兄貴のこと忘れないよ」
「俺様も……」
「私も……」
口々にダンダリオンやほかの子供たちが涙を浮かべながら口にする。しかしそこにワーリオプスが口をはさむ。
「かっかっか。下らん小芝居はやめじゃ。きちんと防御したのが見えとっただろう」
続けてリナも言葉を発する
「あれはすごい。クルルシアの視界が雷で埋まった瞬間を狙って土で防御壁をつくりましたか……詠唱も早かったです。いや、無詠唱かな」
続けてバミルも驚きの声を発する。
「しかもそれとわからないように形は周りの岩石に紛れ込ませている。なかなか細かい芸当だな」
「ソルトお兄さま、すごいです」
「お兄様、そんな器用だったのか……でもこれなら姉さまの不意を打てるな」
周りの解説を受けて、子供たちはソルトが勝つことを予想する。
しかし大人たちの反応は違った。
「不意打ちはおそらく成功するが…」
とバミル。
「クルルシアの勝ちかのう」
とワーリオプス。
「敗因は情報不足といったところですか、まあ仕方ありませんね」
とリナ。
そして決着はついたのであった。
〇〇〇
ソルトが目を覚ますと白い天井が見えた。
(ここはどこだ?)
記憶がつながらない。考えてみるが昨日はクルルシアとの決闘をしただけでベッドで休んだ記憶はない。普通に考えれば孤児院の中であるが、ソルトには寝ている理由がわからない。
(確か、最後クル姉の後ろから俺が切りかかって……)
使った技はワーリオプス直伝の渾身の一振り。かつてワーリオプスの弟子が師匠であるワーリオプスの骨に傷をつけるために生み出した最速最強の一撃である。
(それを使ってクル姉はどうなった?)
そして思い出す。
リナの治癒魔法を頼りに思い切りやってしまえと考えた手加減なしの一撃をクルルシアの腹に入れたこと。
その技は間違いなくクルルシアに致命傷を与えたこと。
その中でクルルシアがいつも通りの笑顔で反撃してきたこと。
「そうだ!! クル姉は?」
笑顔で反撃してきたとしても彼女が致命傷を負ったことに間違いはない。
そのことに気づき慌てるソルトだったがその時ちょうどダンダリオンとセタリアの姉弟が部屋に入ってきた。
「姉さまならもう治ったぜ」
「姉さまならもう治ったわよ」
見るとダンダリオンは包帯、セタリアはご飯を持っていた。
「ダンにリアか。そうか。教えてくれてありがとうな。それにしてもダン。お前、なんで包帯なんて持ってるんだ?」
ソルトは入ってきた二人に軽く挨拶をする。しかし二人の反応は少しおかしなものとなっていた。
「えっ? 傷痛くないのか?」
「意外と元気ね。痛覚も切れてるのかしら…」
「何の話だ?」
ソルトは疑問に思う。しかしそれはダンダリオンの視線をたどったとき明らかになった。
ダンダリオンの視線が向かっていたのはソルトの右肩。見るとそこには大きな切傷が……
「いってえええええ!!!」
「兄貴うるさい」
「兄さまうるさいです」
切傷は大きく右肩から腹にわたって刻まれている。どうやら先ほどまで痛く感じなかったのは、脳が情報をシャットアウトしていただけらしい。
そしてあわただしく、そしてにぎやかにソルトの包帯替えとごはんが終わったのであった。
〇〇〇
「ソルト? 起きてるかい?」
包帯替えとごはんが終わってしばらくしたとき、部屋を訪れてきたのはリナだった。
「母さんか。起きてるよ。何の用?」
「まずは試験の結果を伝えに来た。今聞くかい?」
見るとリナの右手には丸められた紙が握られていた。
「うん。今聞くよ。待たせても悪いからね」
「そうかい。ならいうよ。ソルト・ファミーユ、合格。もう自由に外に行っても大丈夫だろう」
パチパチと拍手するリナ。
そして合格という言葉を聞いて驚くソルト。リナは続ける。
「そうだね、まず私が評価したのはまず……」
「え? 待って。負けたのにいいのか?」
ソルトが思った疑問を口にする。
しかしリナの顔は穏やかなままで質問に答える。
「別に負けたらダメだなんて言ってないでしょう?」
言われてみれば確かにそんなことを言っていない。
「今回のテストの内容は主に自分が相手のことを知らない状況でその時々の判断力を問うもの。君のあの様子なら間違いなく大丈夫だよ。負けたのはクルルシアが規格外なだけさ。だから外の世界に行っておいで。もっと世界を知っておいで。お姉さんを探してきなさい。ま、さすがにクルルシアもついて行ってもらうけど……」
「なるほど、そういう試験方式だったのか……」
一人納得するソルトであった。
「ちなみに肩の傷のことだが剣を握ったりするような大事な部分だけは私がきれいさっぱり治しておいた。ほかに関してはまあ負けた罰とでも思っておいて」
これにも納得するソルトだった。
「よし、じゃあ、ソルト。いつぐらいに出発する? ソルトが準備でき次第出発してもらうつもりでいるんだけど」
「何か急ぎの用事でもあるのか?」
ソルトが聞き返す。リナの話からはなんだか急がなくてはならないという雰囲気を感じる。
「そういうわけでもないのだけれどね。予定通り、ソルトには王都にある学校に行ってほしいと考えている。クルルシアも通っているところだ。でもこれには問題があってね」
「問題って?」
少し申し訳なさそうにリナは言う。
「入学手続きがあるんだけどね。その期限があと二週間しかないんだよ。王都に着くまでに二週間かかるということを考えると……」
「準備してきます!!」
こうしてソルトは王都に向かうことになったのであった。
ようやく姉を探すことができる。その思いだけでソルトは生きていける。
ソルトの胸で姉からもらった石が光り輝いていた。




