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視界を覆う果てしない森。薄暗い光の中を魔物が徘徊する。どこを見ても、どこに逃げても、吐きそうなほどの血の匂いがついて回り、休憩する時間など全く与えられない。
私はわずかな荷物と使える武器だけを手にもって全力で駆ける。
「ソーちゃん! あっちに逃げるよ!」
「お姉ちゃん! ま、待って」
弟も懸命に走ってくれる。だが、状況は最悪だろう。
弟はまだ六歳。森の中を、何かに追われながら走るなんて無茶だ。
道もあるかどうかもわからない獣道。
不気味な遠吠えは今も私たちの耳に届く。止まればすぐに襲われるのは間違いない。
そして嫌なことに、私達は今どこを走っているのかも分からない。
「ごめんね。でも頑張って! 早くしないと追いつかれるの!」
「じゃあ後どれくらい走ればいいの!?」
限界が来たのか、私の「早く逃げなければ」という気持ちに反し、弟は走るのをやめてしまう。
その時だった。
「ぐるるる!」
狙っていたのだろう。足を止めた瞬間、左右から2匹の魔物が私目掛けて飛びかかってきた。慌てて対処しようとするが魔法は間に合わない。
「お姉ちゃん!」
しかし、魔物の顎が私に噛み付く前に、弟が二匹まとめて刀でなぎ払い、潜んでいた茂みまで吹き飛ばす。まだ六歳のはずだが、流石あの人たちの子供だ。
「ソーちゃん、ありがとう」
本当だったらもっともっと褒めてあげたい……が、お礼もほどほどに私達は再び走り始める。この魔物が溢れ、薄汚れた森を切り抜けるために……。
しかし、すでに私は理解していた。このままではいずれ私達二人ともが魔物の餌となってしまうことを。
そして、同時にこの状況を打破するために、弟を無事に逃がすために、どうしたらいいかも理解していた。
その行動を即座に決定できなかったのは私のエゴだ。神様がせっかくくれた二度目の生。それを捨てる勇気が持てなかった。
もっと弟と一緒にいたい、一緒に生きていたい。そんな願いを捨てることができなかったのだ。