掃討開始
団長室を去り、エドとメイラはすぐに武器庫に装備を取りに行った。重装と軽装の防具がある中、二人は迷わずいつも通りの軽装の防具を身に着ける。重装に比べて防護力は劣るものの、極力無駄を省いた軽装は軽くて動きやすい。戦いの中でいくら防護力があろうが相手の攻撃に対応出来なければその内に死んでしまう、それなら最低限の防護力があるだけで良い、軽くて動きやすい軽装なら攻撃を避ける事が出来る、とエドは考えていてメイラもそれに賛同していた。騎士団の象徴『獅子』の紋様が柄に刻まれた剣を鞘に収め投げナイフを二本、腰に装備してエドの装備は完了した。
先に用意を終わらせたメイラはエドと同じ装備で身を包み、エドの準備を待っていた。
「準備、出来た?」
言葉少なに彼女はエドに問い掛ける。思えば彼女はあの日を境に殆ど喋らなくなってしまった。昔はもっとお喋りで良くエドをからかって遊んでいたなと、ふと思い出を振り返る。
城下町をーーーエドが走りまわって、それを追いかけて笑うメイラがいてーーーー店の人がそんな二人を笑って、そんな二人を兄さんが迎えにきて..........
「エド?」
「え?ぁあ....悪い、ちょっと考え事してて、大丈夫だ、行こう。」
不意にメイラに声を掛けられたエドは回想を中断して答えた。
「考え事?」
「別に、帰ったら何食べようかなってだけさ」
エドの答えにメイラはそれ以上の追及はしてこず沈黙が訪れる、これでいい、あの時のことは....まだ世界があった時の事をメイラに話すのは、本人のためにも....この国に暮らす誰のためにもならないのだから。
「行こう」
そう言ったエドの後を数歩の距離でメイラがついて来る。武器庫から出て廊下を歩き、扉を開けて外に出る。目の前、そこにはかつて城下町の大通りだった場所が広がっている。昔の様に果物を売る優しいお婆ちゃんも、魚を売っていた大柄で声がデカイ青年も、花屋を営んでいた皆の憧れだった綺麗なお姉さんも
今はもういない。今ここにあるのは、瓦礫と崩れかかった建物が立ち並ぶ大通り、そしてその大通りでボロボロの服を着て、それでも笑顔であることを忘れない国民たちが....『生き残った国民たち』が商売を続けている。
この光景は騎士団を出るときにいつも見ている、だがそれで慣れることも無い。この光景を見るたびにエドの心には、魔の使いに対する怒りや悔しさが込み上げて、顔を歪ませる。
気持ちを静めてエドは後ろにいるメイラに振り返り、毎回同じ事を彼女に言う。
「メイラ、危ないから待っててくれないか?」
悪魔退治に出発する前、恒例となったこの言葉に、彼女もまたいつもと同じ言葉で返す。
「嫌だ、置いてかないで」
無表情で、しかし力強くメイラはこの言葉を言う。エドにはこれが「あなたまでいなくならないで」と、先の大戦で全てを失った少女の懇願に感じられて、どうしても断れない。そしてエドはいつも通りに「死ぬなよ」とメイラに言って悪魔退治に向かう。今回もいつも通りの言葉を口にしようとして、その前にエドは目線をメイラの先、騎士団本部へと向ける。生き残った国民最後の砦、かつては『王城』だったその城へ。
そして視線をメイラに向け
「死ぬなよ」
いつも通りの言葉を彼女に言った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
エドとメイラが二人だけだったのと、一般兵だったからか、特に怪しまれることも無く森に向かう事が出来た。森に入るまでは余計な心配をかけないでおこうと、歩くような速度で馬をゆっくりと移動させた。
森に入ってからはこうして、全速力で馬を走らせている。あまり整備された道とは言えないが、馬は大したことは無いとでも言う様に蹄を鳴らし地を蹴って風に乗っている。首を後ろに回してメイラを確認する。どうやらメイラの馬も問題無くついて来ているようだ、騎士団の調教した馬なのだから、当たり前といえば当たり前だが。
「そろそろだな」
団長から聞いた遺跡はこの道から外れて、完全に森の中に入った場所にあるらしい。馬に支持を出し道から外れて森の中へ、メイラもそれに連なる。森の中はもちろん整備されている筈も無く、道なき道を進む。流石にこの悪路では、馬のスピードもおちるが、それでも普通の馬と比べると優秀だろう。
進む事二時間、前方に酷く場違いなものが見えてきた。木々が生い茂る森のなかで、それは異質な存在感を放ち、目立っている。石を繋ぎ合わせた様な半円の建物、卵を地面に埋めた様な形をしているそれは、地表に顔を出したほんの一部分でしかない。遺跡だ。
馬から降り、半円の一部にポッカリと口を開ける長方形の入り口を見る。この遺跡を生み出しているのは魔の使いだ。そして奴らが生み出したのなら間違いなく中に悪魔がいる。これまで何度もエドとメイラは小隊を組んでの遺跡討伐に参加していた。悪魔を生み出す遺跡、正確には遺跡の内部に設置されている悪魔を生み出す魔石を破壊する為に。魔石事態は剣で簡単に叩き壊すことが出来る、そして魔石が破壊されれば遺跡もその形を保てなくなり崩壊が始まる。しかし魔石を破壊しない限り、どんな手段を持ってしても遺跡を破壊することは出来なかった。入り口を埋めても悪魔は湧き出て、遺跡を破壊しようと七騎士が試しても無駄だったと言う程だ。だからやる事は一つ
「直接中に入って魔石を叩き壊す、いつも通りに」
そう呟いて腰から剣を引き抜き、悪魔が潜んでいるだろう遺跡の中へ足を踏みいれた。
遺跡の中は多少入り組んでいるが今までの遺跡と同じで一本道で、真っ直ぐ進めば魔石へと辿り着けるだろう。おまけに縦幅も横幅も十分な広さがあり、これが宝探しならとても親切で簡単な遺跡だろうなと心の中で冗談を言う。問題はこれが宝探しでもなく魔の使いが出現させた遺跡である事だ。
遺跡の中程に到達した所でエドは剣を握る手に力を込め、構える。
「そろそろくる筈だ、気を抜くなよメイラ」
そう、いつも通りならそろそろだ。エドが口にしたすぐ後前方から大量の悪魔が赤黒い身体から生やした羽を羽ばたかせ、獰猛な牙と爪を見せながらこちらに向かってくる。
「とりあえずは六体っ」
悪魔が目の前に迫る。それを斜めに振るった斬撃で切り捨てる。肩から腹まで斜めに切りつけられた悪魔はこちらに向かって来た勢いを殺せずに地面に転がり落ちて動かなくなる。安心はまだ出来ない、四体がエドに粗同時に前方から遅い掛かる。頭が思考するよりも先に身体が反射的に次の行動を選択する。近い場所にいた二対を渾身の横振りで切り裂く、その勢いのまま身体を捻り一回転、振りかぶった足でその爪でエドを切り裂こうとした悪魔の腹を蹴りつけ横に吹き飛ばし壁に叩きつけた。そしてエドに襲い掛かろうとしたもう一体は踏み込んできたメイラの一閃によって首を飛ばされた。蹴りを放ち着地姿勢のエドはそのまま地面を蹴って蹴り落とした悪魔にトドメの突きを放つ。
「まあこれで終わりなら、いちいち小隊組んで挑む必要も無いよな」
ほんの僅かな休憩の後、再び悪魔が押し寄せてくる。
次。次。次。斬っても斬っても湧き出る悪魔にウンザリしながらエドとメイラは魔石を目指す。二人で小隊の時の戦法が使える筈も無く、仕方なく襲い掛かる悪魔を切り捨てながら魔石へ向かう。という二人でやるには無謀な戦法ではあるが、なんとか爪で腹を割かれる事も牙で首を抉られる事も無く進めている。これは素直にルイスのおかげと言えるだろう。『先の大戦』で全てを失い、絶望に心を閉ざした少女を守りたいと強さを求めた12歳の少年がルイスに稽古をつけて貰った10年分の成果がここで発揮されているのだから。
修行の成果で言えば、メイラも負けてはいないが。エドより後にルイスに弟子入りしたメイラも五年は修行している。あの頃のルイスはまだ七騎士になる前だったが、当時からあいつの剣の腕は確かだった。
上からの攻撃、突きで仕留める。投げナイフで迫る一体の動きを牽制、踏み込んで一閃、メイラが危ない。
前方の悪魔に集中しているメイラに代わり、彼女の背後に回った悪魔を切り捨てる。
「メイラ!一気に突っ切るぞ!走れ!」
今までちんたらしていたつもりも無いが、全ての相手をしていたら辿り着く前に殺されるだろう。ならば回避に徹して大本の魔石を破壊する。その後は全力で出口まで走り、遺跡が崩壊する前に脱出するという雑な作戦を実行する。
エドの考えが通じたらしくメイラも悪魔と戦うのを止めて魔石まで走り出す。
回避。回避。回避。 前から後ろからこちらを殺そうと牙と爪を繰り出してくる悪魔の猛撃をひたすら回避して二人は魔石を目指す。ここまで全力疾走な上に広い通路のおかげで四方八方から命を刈り取ろうと悪魔が迫ってくる。恐らくルイスの稽古が無ければとっくに死んでいたであろう猛撃。ルイスに感謝しようとも思ったがこの任務に二人を指名したのが彼なだけあって素直に感謝するのは難しい。
「クッ....づぁ!」
牙はかわせたが、爪が頬を、腿を掠める。そろそろ本気でマズイ。もうすぐの筈なんだ....そう祈りにも似た思いを巡らせていると、長かった一本道から別の広い空間に辿り着いた。前方に台座がある。小さな机の上には六角形の台座、そしてその上には青紫に輝く球体があり、その少し上には悪魔を生み出し続ける鏡が浮かんでいる。
「魔石だ、ぁがっ....ッこの!」
わき腹を掠めた爪の持ち主がエドの前に立ち塞がる....前に切り捨てる。
メイラは!....今のところ目立った傷は無い。後方から不意を突かれた事で後ろにいるメイラの身を案じたが、エドが常に気を配って盾代わりとして機能していた事でどうにか無事らしい。
早く終わらせなければ二人ともここで死んじまうな。
「砕けろぉお!」
魔石まで辿り着いたエドが魔石を真っ二つに両断する。
直後、鏡が魔石からの供給を断たれ悪魔の放出を止め、遺跡の崩壊が始まる。残った悪魔は二人を殺そうと迫ってくる。筈だった。悪魔は突然黒い煙となり消え、そしてその中から黒いローブに黒のフード、全身を黒で統一した何者かが立っていた。男か女かは分からない。表情もフードに隠され伺うことは出来ない。だがこの服装をした者には何度も会ったことがある。遺跡破壊の任務のたびに姿を現す『魔の使い』
「....」
「メイラ、俺の後ろにいろ」
「....」
突然の登場にいくらか驚かされたが、すぐに警戒態勢に入りメイラを守る態勢に。
何故だ。何故何も仕掛けてこない?確かに奴らの中には抵抗もせず唯突っ立っているだけの奴もいるにはいるが、わざわざ目の前に現れて何もせず突っ立ってるのは....なんなんだこいつは。そもそもどこから出現したのか、ここは王国の結界内で魔法は団長が許可しない限りは使えない筈だ。なのにこいつは....
疑問は尽きないが今は目の前の『敵』に意識を向けろ。ここまで辿り着くまでに既にそれなりの傷を負っていてかなり体力を消耗している。万全の時ならまだしも、今はかなり不利だ。相手の出方を伺ったほうが得策だろう。注意深く観察していれば奴に虚を突かれる事も無い。
「わざわざ悪魔を消して目の前に現れて、一体何が狙いだ。」
「........ 他者を真っ先に庇い、相手の出方を冷静に伺う。なるほど興味深い。本当に騎士なのか?」
「....何を言っているんだ?」
無言だった相手が喋り始めたことに少し驚き、その後の質問に再度驚かされた。「本当に騎士なのか?」とはどういう意味なのか。奴がどういう考えでそんな質問をしたのかエドには全く分からない、後ろのメイラも同じように困惑しているだろう。
「まあ良い」
奴が言い切ったかと思えば、袖から滑る様にダガーを出し、そのまま突進してエドに跳躍。
エドの剣が横に一閃、奴の首を跳ね飛ばす筈だった斬撃は、奴が身体を屈めてエドの足元に滑り込んで失敗、そのまま空を切る。
がら空きになった腿へ突き立てようとしたダガーの切っ先はメイラの剣によって阻止。その隙にエドが奴を蹴り上げようと足を上げる。それを器用にかわし後ろへ跳躍し距離をとる。
「なんだお前は、いつもの黒服と明らかに違う。」
エドはその疑問を口にする。いつもの魔の使いならまず遺跡の中に現れる事も無かった。奴らは決まって魔石を破壊して遺跡から出てきた時に現れていたのだ。そして二対一、しかも七騎士の一人であるルイスの弟子二人を相手にここまでの戦いで掠り傷すら付けられなかった事など一度も無い。こいつは明らかに他とは別格だ。
「君の言う『いつもの黒服』と違うのは君たちが私の仲間を殺しすぎて私が出張るまでに数を減らされたからだよ....まあその質問はそのまま君にお返ししたいがね。なんだね君は、いつもの騎士とは明らかに違う」
そう言うと奴は楽しいとでも言う様に軽快にステップを踏み、突進。拳を振りかぶる。
その手を切り落とそうと剣を振る。それを見越していた様に、奴は振りかぶった拳で剣を叩き落す。そのまま残りの腕をエドの胸に叩きつけ、直後エドの身体に衝撃が走り吹っ飛ばされる。
剣を拳で叩き落すという荒技にエドは気をとられ、奴の掌底をかわせ無かった。そのまま地面に叩きつけられ、痛みに呻く。今のは....間違い無く『魔法』だ。身体からあんなエネルギーを放出するのは魔法でしか出来ない。奴は王国の結界内であるにも関わらず魔法を使ったのだ。何とか起き上がり奴を見る。
目の前にはエドが倒れていたほんの僅かな間に繰り広げられた戦いの勝敗が決していた。
剣を叩き落され膝をつくメイラを不気味な輝きを放つダガーが狙っていた。
無我夢中で地面を蹴る、何かを考える余裕が無い。
ダガーが振り下ろされーーーその刃はーーーーー
その刃はメイラに届くことは無く間一髪で間に合ったエドの左腕に深く食い込んでいる。両断されなかったことを考えると腕の骨が何とか持ち堪えてくれたらしい。メイラを守れた安堵感と、腕が繋がっている事に安心感を覚えた後に熱い焼ける様な痛みが襲ってきて顔をしかめる。脂汗が出てきて腕の痛みが全身を駆け巡る。その痛みがより一層強くなり、何事かと思えばダガーが腕から抜き取られている。
「止めだ....君は実に興味深い。」
どうやってこの状況でメイラを守りきるか必死に考えていたエドに魔の使いは突然戦闘中止の意を示した。
「は?」
呆気にとられて思わず間抜けな声が口から漏れる。
「身を挺して他者を守る。君の様な人間が何故あの国で騎士をやっているのか....」
「さっきからその口ぶりは一体....」
「まさか知らないのか?あの国がどういう場所か?騎士団がなんなのか?....そうか、君たち私と共に来ないかい?」
エドの質問を遮ってそう言った黒服はしばしの沈黙のあと、そんな分けの分からない事を言った。
しばらく呆気にとられていたが、奴から何を言われたのか落ち着いて理解して、反芻する。
「お前が何を考えてそんな事を言ってるか全く分からないが、国を滅ぼして大勢の人を殺したお前らに付いてくと思うのか?邪神を信仰する悪魔め!」
エドはこれまで魔の使いがして来た残虐な行いを並べ立てて声を荒げる。
そんなエドの態度とは裏腹に黒服は酷く落ち着いた声音で言い放つ。
「君が私の誘いを断ることは分かっていたさ。自分の目で確かめなければそうそう信じられないだろうからねえ。」
表情の見えない黒服が今どんな顔をしているか分からないがきっと笑っているに違いないとエドは思う。
奴が何をしたいのか分からないが面白がっている事だけは感じ取れる。
黒服はエドの答えに納得したように頷き、こちらに背を向けた。
「今回はこれで失礼しよう。君という興味深い人間をころしてしまうのは惜しい。最後に名前を教えて貰えないかな?」
「エド・カルマン。お前ら魔の使いを殺す男の名だ」
黒服は満足そうに頷いているがエドは敵意タップリの目で黒服を睨みつける。
「人に名前聞く時は自分も名乗れって教わらなかったのか?」
「おっとこれは失礼。私は、そうだな....君たちが邪神と呼んでいるアガムメノンの使い、ラースと名乗っておこう。」
「アガムメノン....ずいぶん前に封印された邪神の使者を名乗るだなんて随分と悪趣味だな」
「随分前とは面白い言い方だ。君たちの国では15年前の事を随分前と言うのだね」
「な!?」
聞き捨てなら無い発言にエドは目を見開いて驚きの余り言葉が出ない。邪神が15年前に復活していた!?そんな訳は無い。15年前にあったことで大規模な戦争は『あの戦争』だけだ。それに邪神が蘇ったなんて話は一度も聞いたことが無い。
頭がパンクしそうな程思考するエド正面、こちらに背を向けて立っている黒服が喋る。
「ここも時期に完全に崩壊するだろう、帰れる内に脱出すると良い....それと。私はもう行くが、真実が知りたいなら歴史の本でも読んでみると良い。それともう一つ、私たちを『魔の使い』などと呼んでいるが私としては『教団』と呼んで欲しいものだね。それでは失礼する。」
「待て!」
エドがそう叫んだのを無視して黒服の身体は糸状の影になり、そして霧散して消えた。
一体何が何なのか、頭が混乱して上手く思考できない。目を瞑り気分を落ち着け、今やるべきことだけを考える様にする。まずはメイラと共に王都に帰る。そして奴がーー魔の使いを『教団』と呼んでいたこと。アガムメノンの使者ラースと名乗っていた事を団長に報告しなければならない。
とりあえずの今やるべき事を整理し終え、メイラに声を掛ける。
「大丈夫だったか?怪我は....してないか」
ホッと安堵の息を吐きメイラの顔を見る。
泣いていた。声は出さずに、目の端を涙が伝って落ちる。
「どうし、たん、だ。怖かったのか?」
「....じゃない」
「また、いなくなっちゃうかもしれないって」
「ワタシを庇って殺されるんじゃないかって」
ポツリ、ポツリと呟くように声を絞り出してメイラは言った。
「無茶なこと....しないで。また一人になるのは嫌なのぉ!」
最後には嗚咽交じりで叫んでいた。エドはメイラが無事ならそれで良いと思っていたが、メイラは自分の為に傷ついたエドを見て心を痛ませていた。自分が盾となって彼女を守れるのならそれで良いと思っていたが、守られた彼女が心を痛めてしまっては本末転倒になってしまう。
「悪かったな、無茶なことして。俺はメイラの前からいなくならないよ」
そう言って泣いている少女の頭を優しく撫でる。
もっと強くならなければ、守って傷つくことも無いくらい。もっと強く。そうエドは心に誓った。
遺跡から脱出して少し、馬に跨った所で遺跡が崩壊した。魔石を破壊され形を保てなくなったそれは地中に
吸い込まれる様に消えて行き、完全に消失した。それを見届けて、馬を走らせる。あのラースと名乗った魔の使いの事を早く団長に報告しなくては。