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第三王国に伝わる神物語  作者: ねこまんま
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任務の内容

扉の先、そこには広々とした空間に三メートルはあろうかという本棚が壁際に所狭しと並べられている。そして部屋の中央に幾つもの資料を乱雑に置かれた机、そしてそこには『現』騎士団団長マルクス・アウレリウスがこちらに背を向け、椅子のすぐ後ろにある武器棚に飾った剣を眺めていた。


「おぉ、すまないな、では任務について詳細を語ろうか」


そう言うと剣から目を離しこちらに身体を向ける。白髪で無精ひげを生やした老人。年齢は確か、50代だったろうか、誰かがそう言っていたのを思い出す。一般的に見れば唯の年寄りと思う彼の容姿だが、その目には幾つもの死線を潜り抜けてきたのだと確信させるには十分な眼力が備わっており、皺が刻まれたその顔には衰えを感じさせない闘気が溢れ、まだまだ引退の時では無いと物語っている。事実、『先の大戦』で彼は前線で戦い、勝利に大きく貢献したことは王国中の誰もが肯定するだろう。そんな大物である団長には騎士であっても簡単には会えない。余程の事が無ければ連絡係と七騎士くらいしか彼と接する機会は無いだろう。だからエドはそんな人物に呼ばれて、こうして顔を合わせている事態に緊張を隠せない。それは隣で落ち着いているように見えて目が泳いでいるメイラも同じだろう。


「そんなに緊張しなくてもよい、ワシは君らが思っとるほど凄い人間では無い。唯の年寄りじゃよ。」


こちらの緊張を察したのか椅子に腰を下ろした団長は資料だらけの机の上に組んだ腕を置き口元に握り合わせた手を持って行き、ホッホッホッと微笑んだ。正直、これには驚いた。想像ではニコリともしない冷徹漢ではと思っていたからだ。いい意味で想像を砕かれて、エドは緊張が解れ肩の力が抜けた。メイラも酷く驚いた様子で目をパチクリさせていたが、団長が気を解そうとしてくれているのだと分かるとさっきまでの緊張も消えていた。


エドとメイラの緊張が解れたのを察した様子で団長が任務の詳細を語り始める。


「すでにルイスから聞いておると思うが手の空いておらん七騎士の代わりに任務に当たってもらいたい。

それで、任務の詳細じゃが....遺跡調査と言ったところか。王都から程近い森で『例の遺跡』が出現したのは知っておるか?」


問われた質問にいくらか間を置いて答える


「いえ、そんな話は聞いたことがありません。」


「ワタシもそのようなことは聞いていません。」


エドとメイラの答えを、さも当たり前の反応だと頷いて団長は話を続ける。


「それもその筈じゃ、こんなことが知られては国民が混乱してかなり面倒な事態になるじゃろうからな。

そこでこの遺跡が国民の目に触れる前に秘密裏に対処しなくてはならん。君ら二人に課す任務は、遺跡内部に蔓延る悪魔の掃討、ならびに遺跡の破壊じゃ。」


なるほどそう言う事なら納得がいく。本来遺跡の破壊は七騎士で無くとも一般騎士が小隊を組んで挑む騎士の仕事なのだ。それをわざわざ王国最強の七騎士に任せようとしたのは、『王都の近くに遺跡が出現した』という事実が広まらないようにするためだろう。騎士が王都近くで小隊を組んで森に入っていく所を見られれば、それは王都に遺跡が出現した。言い換えれば『自分たちをすぐ襲える距離に悪魔が出現した』と言う事になる。そんな事が知れ渡れば団長の言う通り大混乱が起きる。団長が七騎士に任せようと思っていたことには納得できたが、どうしても聞いておかなければならない事がある。


「事態は呑み込めました。直ちに装備を整えて任務に着きます。ですがその前に、一つ質問してもよろしいですか?」


エドの問いに団長は無言で続きを促す。


「遺跡が出現したと言う事は、それを出現させた『魔の使い』が王都に潜伏しているということですか?」


『魔の使い』それはこの世界を破壊しようとした邪神、『アガムメノン』を信仰する教徒の総称。奴らは邪神と同じくこの世界を滅ぼそうと、各地で悪魔を使役し遺跡を出現させる悪の権化。奴らにいったいどれ程の人々が殺されたか....考えるだけで騎士であるエドの心を怒りが熱くする。


「現状、奴らがどうやって遺跡を出現させているのか不明ですが、遺跡を出現させるには直接その場所へ行かなければならないという仮説が立てられています。」


仮説、と言っても、奴らが出した遺跡を潰しに掛かると必ずと言って良いほど『魔の使い』はそこにいる。

騎士を見た途端、空間魔法を使い逃げ出す輩もいれば、応戦してくる者、何もせず突っ立っている者。行動がバラバラで何を考えているのか分からない奴らだが、遺跡の出現場所には『魔の使い』が現れる。


「奴らが直接遺跡を出現させている事を前提に置いて、王国の周りに張り巡らされた探知結界が反応しないとなれば、考えられることは一つ....奴らはこの国に潜伏している。」


エドの言葉を黙って聞いていた団長が渋い顔をして顎を摩る。少しの沈黙、そして顔を上げた団長が真っ直ぐエドとメイラを交互に見つめた。


「恐らくは君の考えで粗間違いないじゃろうな、正門を通って国に入らない限り、国内の領土に入れば探知結界に掛かる。それに掛からないと言う事はこの国に『魔の使い』がいると考えて間違いないじゃろう。」


奴らがこの国にいる。それはエドにとってなんとも許しがたい事だった。俺の....俺たちの大事な人を奪っていった『魔の使い』が『また』この国にいるだと!?


「本来ならば七騎士でもない限り、小隊を組んで挑むのだが....今回はそれができん。君の腕に託してよいか?」


エドはその拳を硬く握り閉め、一度下を向いて気分を落ち着ける。そしてゆっくりと顔を上げ


「任せてください、この国を好きにはさせません。」


もう二度と、奴らには奪わせない。そう硬く心に誓い、エドは団長に告げた。

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