再会
10年振りに来た春香の家
表札には花坂と記されている
引っ越してはいないみたいだ
大きく深呼吸をしてインターホンを押す
ピンポーンと家の中から漏れる音の後にドタドタと走る音が聞こえる
「はーい、どちら様ですか?」
「突然すみません。鳥岡というんですがご存知でしょうか」
名乗ったあと少しの沈黙が続いた
鳥岡…?と扉の向こうで小さく呟く声
「10年前に春香さんと一緒にいた鳥岡健太です」
ここまで言って分からないようなら帰ろう
折角のひまわりだけど、家に飾って春香に祈ろう
そうすれば少しは気持ちがとどいてくれるかもしれないしね
「あ、あぁ!健太君ね!春香と同じ病室だった子!」
突然ガラッと開いた扉と大きな声
出てきたのは少し歳をとったけど俺の記憶と変わらない春香のお母さんだった
「どうぞ上がって上がって
春香も喜んでくれるわ」
よかった受け入れてくれた
もしかしたら追い返されるんじゃないかと少しだけ不安があったから
家の中に入るとフワッと線香の香りがする
命日だから線香を焚くのは当たり前か
横に目をやると、仏間が見えた
そこには満面の笑みで写る春香の写真
あの時のままの春香がそこにいた
「健太君は春香に会いに来てくれたんでしょう?
こんなに立派になった健太君を見たらあの子も喜ぶわ
ほら、行ってあげて」
ポンと背中を押されて仏間に入る
何本か焚かれて灰になった線香と、お供えされたばかりの果物
そしてすでに飾られた花
そりゃそうか、花なんて俺が買わなくても両親が用意するよな
ちょっと苦笑いをしながら仏壇の前に座る
チーン
鈴が奏でる静かな音
手を合わせて春香へ再会を告げる
すると途端に頭の中は春香への思いで溢れかえってきた
10年間1度も会いに来なかった謝罪から始まり、当時の思い出、春香が亡くなったと聞いて絵里や直哉とともに声が枯れるまで泣き続けたあの日…
俺の中に閉まっていた全ての記憶が蘇った
…長く長く手を合わせ、ようやく立ち上がる
スッと心が軽くなったような気がした