紙袋をかぶって 5
「あのなぁ、おもろい話、しよか?」
幼稚園の昼休み。ブランコの横のベンチに座っている二人。と
ってもいい天気。大きなポプラの木漏れ日が、二人の顔にその手を
伸ばしている中、美子ちゃんが悪戯っぽい顔をしてそう言った。み
いちゃんは目を輝かせながらうなずく。
「あのなぁ、うち、ブスやろ? 物心ついてからずっと自分のコト、
嫌いやってん。どうしてうち、ブスなんやろって思ってたからな。
親に直接言った事もあるんやで? 何でもっと美人に生んでくれな
かったんや、って。けどな、『仕方ないやん、うちらの子供や』そ
れでチョン、や」
「ふうん」
ニコッと笑ってそう言った美子ちゃんに、みいちゃんもニコッと
返した。微笑み返しって奴だ。
「でな。何をしてもブスやからしゃーない、そう思ってたわ。これ、
アンタならわかってくれるやろ?」
「わかる!」
みいちゃんはつい大きい声を出してしまった。それならわかり過
ぎる位にわかる。今だって半分位はそう思ってる。
美子ちゃんはそんなみいちゃんにうなずきながら
「ブスやから余計にいじめられる。ブスやから何をやってもダメな
んやってな。けど」
「けど?」
「うん。ある時、おもろいおっちゃんがおってな。うちにこんな話
をしてくれたんや。【人間は所詮クソ袋。大した違いはあらへん。
そやから気の持ちようで何とでもなる】ってな」
これを聞いてみいちゃんは首をひねる。
「どういうこと? そのクソ袋って?」
「まあ、要するに人間のことやな。少々お下劣な表現やけど、人間
はクソ製造機。食べては出す、袋。それが人間。どんなに偉いお人
でも、どんなにキレイなお人でも、突き詰めたらクソ袋。大した違
いはあらへん、ってこっちゃ。ましてや、その袋の外側の問題なん
てちっちゃなコトって話やな」
「ふ~ん、人間がクソ袋か。面白いね。そんな風に思ったことは無
かったな」
思わず感心してしまう。明るい光が差してきた気もする。
「けどな、その時な、何のことかわからんかった。だからうち、言
うたんや。そのクソ袋の外側が大切なんやて。おっちゃんも、もし
中身が同じなら、キレイな袋の方がええんちゃうの? ってな」
「うん。そこだよね、問題は。私もそう思っちゃうから」
みいちゃんの声もついつい大きくなる。
「そしたらな、そのおっちゃん、言うたんや。【美人は三日で飽き
るけど、ブスは三日で慣れるっちゅうこともある。何でもものの考
えようや】ってな」
「へえ。なるほど。三日で飽きて三日で慣れる、か」
自然と指折ってしまう、みいちゃんだ。
「こうも言うたんや。【美人は大変や。女からはキツイ目で見られ
るし、男からも美人ということだけしか見られへん。それこそ中身
は二の次や。だから人間不信になりがちや。それにいつ美人でなく
なるか気が気じゃあらへん。気の休まる間が無いわ。だから美人薄
命ってのはホントなんやで】ってな」
「うん」
みいちゃんも大きくうなずく。
「そしたらうち、わかってん。まてよ? そない考えたら、ブスも
悪いコトばかりじゃないなって。今の、美人の大変なことがうちに
してみたら総て逆やて」
「女からは優しい目で見てもらえるし、男からも中身を見てもらえ
る。それにもうブスだからブスになる心配は無い?」
みいちゃんの後を続けるように、美子ちゃんが答える。
「おまけに長生きや!」
二人はワッっと笑った。目に涙を溜めながらも、笑った。
そして泣いた。けれど、流れた涙は温かい涙だった。
明日もがんばろう。笑おう。何でもものの考えよう。
輝く明日はきっと来る。
ブス同士。四歳の幼児ではありますが、色々考えてるんです。子供は無垢で汚れがない? そんな齢で、自分の容姿の事をそれほどに考えるの? あなたも自分の子供の頃を思ってください。子供は大人が思うほど子供じゃないんです…
美子ちゃんが言った言葉。多分それは真実なのかもしれませんよ?
さて、6では二人が漫才をします! 幼稚園児の漫才! そして二人は…次回、完結です!