6.
「きゃあああぁぁっ!!」
翌朝、狼は甲高い悲鳴で目を覚ましました。声のする方を見やると、赤いずきんをかぶった女の子が立っています。年は10才とちょっといったくらい。その足元にはパンとぶどう酒のはいったカゴが落ちていました。
狼はわけがわからず、ただ、横になっている場合でないことはわかったので、立ち上がりました。すると女の子はまた悲鳴を上げ、後ろへ逃げようとします。
そう、その時、女の子の目には見たくもないものが映っていたのです。
腹が膨らんでいるやせた狼。
狼の口元で乾いた血。
誰もいないベッド。
考えつくことは1つしかありませんでした。
おばあさんは狼に……。
「どうしたんだっ!?」
そこに悲鳴を聞きつけた狩人が現れました。狩人は向かい合う狼と女の子を見比べて、すぐに状況を解釈したのでしょう。背負っていた猟銃を素早く構えるやいなや、狼めがけて撃ち始めました。
狼は狩人が現れた瞬間、逃げようとしましたが、ベッドを越えて窓をつき破ったところで左足に銃弾をうけてしまいました。そして狼は窓の外に転がり落ちました。
銃弾が貫通した足からは血がとめどなく流れ、みるみるうちに緑の草を赤く染めていきます。痛みもひどいもので、狼は左足に力をいれることができません。それでも、狼は逃げようと懸命に歩きます。殺されることよりも、おばあさんの最期の願いを叶えられないことの方がつらく、恐かったからです。
「狩人さん! あたしのおばあちゃん、あの狼に食べられちゃったんです!」
「そうだったのか」
しかし、狼が逃げる前に狩人がおばあさんの家からとび出してきました。そして速く動けない狼に、今度はしっかりと狙いを定めて撃ちます。
狼の躯につきささった銃弾は肺を貫いていました。
狩人は倒れた狼にも容赦ありません。完全に息の根を止めるために、さらに銃弾を放ちました。
1発、2発、3発……。
躯だけではなく、頭にもあたりました。頭から血を流し、肺には穴が開けられています。狼はもう動けません。
狼がぴくりとも動かないことを見て狩人が、その後に続くように女の子が狼に近づいていきます。そして狩人が猟銃で狼をつつき、完全に動かないことを確認すると女の子が飛び出しました。
「この悪魔っ! おばあちゃんを返してよおっ!」
女の子は顔を真っ赤に染めてこぶしを振り上げ、感情のまま、狼に振り下ろしました。
――ねえ、君は本当におばあさんが大切だったの?
――ずっとお見舞いにこなかったのに?
――君が、家族がもっとおばあさんのお見舞いにきていれば、おばあさんはあんなことを望まなかったかもしれないのに……。
ぶたれながら、時にはけられながら狼は泣きました。
――おばあさん、ごめんなさい。僕はもうダメだよ。
狼の死骸は狩人によって毛皮をはぎとられ、女の子には最後までののしられ、棄てられました。
――ごめんなさい、おばあさん。僕、生きられなかったよ。
――でもね、おばあさん。僕はこんな風にされるほど悪いやつだったのかな……。
――ねぇ……。
...Fin




