3.
それから何回、おばあさんは狼と会ったでしょうか。数え切れない時間を一緒に過ごしました。そしてある日、おばあさんが帰り際に手まねきをすると狼がついてきました。
今ではまねかなくても、狼の方からおばあさんを訪ねてきます。1人暮らしでさみしかったおばあさんにはうれしいお客さんです。
しかし、おばあさんには気になることがありました。それは、狼がどんどんやせていくことです。そこでおばあさんは狼がどんな生活をしているのか、確かめることにしました。
やせている理由はすぐにわかりました。狼は食事をしていないのです。いえ、厳密にはほとんどしていないのですが。
狼はどれほどかっこうの獲物がいたとしても手出ししません。食事は肉食獣ではありえないはずの木の実などを、それこそお腹をふくらませるためだけに食べていました。まともな食事をとるのは、死んでしまった動物を見つけた時だけです。
いくら狼が数日間、全く食事をしなくても生きられるとは言え限界があります。だからおばあさんは決心しました。
「わたしを、この子に食べてもらいましょう」
おばあさんは最近、手足の震えを感じていました。お医者さんには「手足の震えが起きたら覚悟してください」と言われています。
もう、死は直前まで迫っているのです。
おばあさんは狼の背中を撫でながら言いました。
「……明日はいつもよりいい食事をさせてあげるからね」
狼は前に向けていた顔をおばあさんの方を向け、クゥンと小さく鳴きました。さらに、どうしたの? と尋ねるように首を傾げています。
お前は何も気にしなくていいんだよ。
心の中だけで答えます。
他の生き物の命を奪うことをかたくなに拒む狼に自分を食べさせるなんて……、と後ろめたい気持ちがじくじくとこみ上げてきました。しかし、おばあさんはおばあさんなりに考えたのです。優しい狼を死なせたくなくて。少しでもいいから長く生きてほしくて。
その夜、おばあさんは狼と一緒に眠りました。おばあさんには大きなベッドです。一緒に寝ても十分な広さがあります。
やせているとは言え、狼の命の温もりは温かく、おばあさんは幸せな眠りにつきました。