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1.
「狼や。お前は優しいからねぇ」
ミミズクの声が響く夜、ベッドに腰かけたおばあさんは言いました。その足元には狼がいて、深めの皿に張られた水をピチャピチャとなめています。
おばあさんは愛おしそうに目を細め、狼の頭をなでてやります。すると、狼は水から顔をはなして、夜のような漆黒の瞳でおばあさんを見上げました。その視線に微笑みでこたえたおばあさんは、ベッドから降り、病気のためにすっかりやせてしまった手で狼の背中に触れます。狼もおばあさん同様にやせているので、2枚の皮を隔てて骨が触れ合っているようでした。
「だからと言って、お前が食事をしないのは駄目だろう? ……こんなにやせてしまって」
狼の胸にはアバラ骨が浮かび、心なしか躯を覆う毛までもやつれて見えます。おばあさんが病気で長くない以上に、狼には死の色が濃く出ていました。
おばあさんは悲しくなって、狼を抱きしめます。しかし、細い躯から発せられる弱々しい鼓動に悲しみが増すばかりでした。
ふと、おばあさんの頭に狼と過ごした記憶が蘇りました。