追憶
高校に入るのは入試以来だったから体育館の場所が分からなくて、近くを通りかかった先生に道を聞きながら体育館に向かっていた時にマリーに会った。
あの桜の木はこの高校の名物でもあったからしばらく見惚れていた。だから、声をかけられた時には正直めんどくさいと思ったんだ。振り向いて、彼女の姿を確認するまでは。
「あの…ゴメンナサイ、タイイクカン…とはどこでしょうか…?」
「…!あ、あの…こ、こっちです、高校には今年から入ったんですか?」
「はい、そうです。もしかしてあなたもシンニュウセイ、ですか?」
「うん、そうなの。よかったら一緒に行きませんか…?」
「本当ですか?Thank you!あなたいい人ね、名前はなんて言うの?」
「私は鷹野 知華っていうの、よろしくね!あなたは?」
「ワタシはマリーよ。よろしくね、チカ!」
「…ねぇ、知華?どうしたの?」
「あっ、ごめんね。入学式の時のこと、思い出してたの。マリー、日本語カタコトだったもんね。」
「もう…やめてよ、その時の話は…。」
照れくさそうに笑うマリーがいつもよりまぶしく見えて、可愛くて仕方なくて、私はマリーを思い切り抱きしめた。
「ちょ…っ、知華、苦しい…。」
「ごめん…でも、もうちょっと…。」
「…もう、仕方ないんだから。ちょっとだけだからね?」
「うん…。…ねぇ、マリー。こっち向いて…?」
「え?うん…。…!」
私より少し低いマリーを引き寄せ、触れるだけのキスをした。
「ごめんなさい…でも、今だけだから…もうしないから…。」
「…1回だけなの?知華…。」
少しさみしそうなマリーを見て、私はもう一度キスをした。今度はさっきより長く、深く。
初めてのキスは、熱と涙で溢れたキスだった。




