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第6章 流転

第6章 流転


10月に入っても戦闘は激化の一途を辿った。


管区司令部より作戦の発令があったのは10月9日のことだ。


「…というわけだ。我々301は最前衛で、出現した敵を削りつつ直進する」


デスクで腕組みをした水天宮部隊長が言った。


職務復帰した錦雁之助整備士長が、即座に質問を投げ掛ける。


「そもそも、管区司令部の情報通りに成体の<厄魔>の集合体とやらがいたとして、そこから派生する<厄魔>どもが正面に現れるって見立てはどうなんだ?」


「そうよね…。部隊長、奴等はむしろ分散して出現する傾向が多く見られるかと思いますが」


有栖川鏡子事務長が珍しくも錦の意見に同調した。


「それならそれで結構。我々はターゲットを確認し、存在を抹消できればそれでいい。虫共が他所に出現したなら、周辺に展開している部隊に任せるだけのことだ」


水天宮は答えた。


「司令部の予測では、少なくとも500以上の<厄魔>が同時出現すると見ています。管区から展開する12の部隊でこれを抑え込まねばなりません」


来島冴子副部隊長が言って、錦らはただ絶句した。


「500…」


さすがの東山紅緒も二の句を接げないようだ。


管区司令部、ひいては軍本部が絵図を描いた作戦である以上、何が真実かは意味を為さない。


成体<厄魔>の集合体なる存在がいようがいまいが、分化した<厄魔>がどこに現れようが、末端の兵士はただ命じられた通りに戦うだけだ。


それでも不信感を抱くには十分な内容ではあったのだが。


***


幹部会を終え、部隊長室を出て階段に向かうところで梶ケ谷三春と遭遇した。


「あっ!柩君、久しぶりじゃない?」


「やあ。授業停止中だから、ご無沙汰してるね」


梶ケ谷三春は駆け寄ってきて、軽めに体当たりをする。


「あと1月半したら、部隊を助けてあげるからね。軍務課程順調だからさ」


「…それまでに、戦況を整えておくとするよ」


「あ。じゃあさ、柩君部隊長に昇格して、私を副官に任命してくれない?毎日尽くすよ、私」


おれは「考えておくよ」とだけ応じてその場を後にした。


***


『総力戦だな、こりゃ』


城竜二が301のチャンネルで呟いた。


すでに周辺エリアには、管区司令部の12の生徒部隊が展開していた。


通信は全部隊を繋いだものがベースとなり、作戦オペレーターは管区司令部から黛エレン(まゆずみ・えれん)少尉が立てられていた。


個別部隊のチャンネルではいままで通りに東山紅緒が控えているが、作戦開始以後はベース以外の通信は使用が制限される。


モニター上には味方機の表示が80近く点在しており、俯瞰図上ではその数は頼もしく映った。


『間もなく作戦開始です。チャンネルをクローズにしてください』


東山紅緒が言って、最後に『ご武運を』と締めくくった。


『定刻により作戦を開始します。301、前進をお願いします』


黛少尉から通信が入り、おれは式神恵美那以下全隊員を率いて指定の速度で歩を進めた。


水天宮部隊長は後方の、管区司令部本陣たる市ヶ谷高校第088生徒部隊で聖副司令に付き従っていた。


司令部が定めたターゲットまでは、この歩速で600秒程度の距離だ。


バーニアを噴かせばものの60秒と経たずに到着するだろう。


100秒ほど前進するとそれは起こった。


『敵性反応、レッド。出現位置と推定数は…えっ!そんな馬鹿な?』


黛少尉の声が裏返った。


モニターに一斉に点灯した敵表示を見て、おれも一瞬理解が及ばなかった。


『敵、推定1200…。301正面に400、周辺エリアに500、088本陣後方に…300…』


味方戦力約80に対して<厄魔>が1200という、絶望的な報告がなされた。


モニターはすでに真っ赤に染まり、間を置かずして視界いっぱいに敵がわいて出た。


「…301、総員突撃!400を蹴散らして、ついでに敵中枢を食い破るぞ」


おれは展開している全部隊を鼓舞する意味合いを込めて、オープンなチャンネルで号令をかけた。


両手にマシンガンを構えて、率先して前に出る。


さすがに400もの<厄魔>の戦列は壮観で、連射しているにも関わらずすぐに周囲を取り囲まれた。


銃を捨て、実剣による近接戦闘に切り替えてひたすら動き、ひたすら叩いた。


地獄の釜の蓋は開いた。


動きを止めれば即食い破られるという状況で、おれは味方の安否を気遣う余裕も無しに動き続けた。


<蜉蝣>が動き続け、敵の攻撃を掻い潜り続けているうちは死にはしない。


そうして動作と動作の合間に1体ずつ着実に潰していく。


モニターのカウントはすでにおれが45体の<厄魔>を叩き潰したと示していた。


まとわりつく影が少なくなった隙をついてマシンガンを拾い上げ、両手射撃を再開した。


残弾の限りに移動射撃を繰り広げ、式神恵美那の無事を確認したときには80を超えるスコアを記録していた。


「恵美那!無事か?」


『柩か?…情けないことに、右腕をやられた。折れているな』


ダメージリポートでは小破と表示されていたが、見た感じでは前面装甲板やバックパックの被害状況も怪しい。


「射撃戦に切り替えるんだ!無理に動くと<蜉蝣>が誘爆するぞ」


おれは手持ちのマシンガンと弾薬を全て恵美那の足下に放り、彼女の実剣を拾って二刀流に構えた。


『柩…二刀流など、心得があるのか?』


「これで体当りをするだけだ」


おれはバーニアの推進力にまかせて、2本の剣による突撃と離脱を繰り返した。


恵美那の周りの敵を間引き、まだ激戦を繰り広げている城竜二の元へと駆け込む。


「ジョー、よく辛抱したな!すぐにこいつらを葬送してやろう」


おれはバーニアを急制動させて直角に曲がりながら<厄魔>を叩き伏せていった。


スピードダウンしたタイミングでは剣先で突いて抉り、加速を待ってそのエネルギーをぶちかます。


突いては叩き、突いてはぶつかった。


『…柩隊長、助かったぜ…』


城もぼろぼろではあったが、<蜉蝣>に深刻な被害はないようだった。


銃器は手にしておらず、剣は根元から折れて見えた。


おれは剣を1本渡し、近寄ってきた<厄魔>を裏拳で殴り倒した。


「ジョー。すまないが、もう少しだけ頼む」


『…了解だ』


シバリスは目まぐるしく動いているようで、モニターでもその動きを追いきれなかった。


…徳丸毅、睦月、笹原の生体反応はすでになかった。


おれが130超、シバリスが170超を撃破し、他の隊員たちと合わせて眼前の400はほぼ狩り尽くした。


しかし第301生徒部隊だけでなく、戦域の状況は悲惨を極めていた。


敵の残数は依然600を超えており、すでに周辺に配置されていた10の部隊は潰滅した。


本陣の戦力も暴力的な数の<厄魔>を前にして、風前の灯火と言えた。


おれはシバリスに恵美那と城を連れて戦域から離脱するよう命じて、東山紅緒に車を手配させた。


そして、元々のターゲットである成体<厄魔>の集合体を独り目指した。


ここまでの数の<厄魔>が実体化した以上、そんなものが残っているとは思えなかったが、ここで標的を確認もせずに逃げ帰れば、死んだ仲間たちは浮かばれまい。


残り少ない推進剤を節約するため、徒歩で行軍した。


それは河川敷の草むらの中にあった。


ヤドカリ型の、前線でよく見かけるタイプの成体<厄魔>なのだが、奇妙なことに10体以上が結合しており、表面が化石のように白灰色に硬化していた。


「柩少尉、それから離れてください」


振り返ると、そこにシバリスがいた。


<蜉蝣>のメットを外していて、銀髪を風になびかせていた。


「…どういうつもりだ?シバリス。これには破壊命令が出ていたはずだ」


シバリスは剣を抜き、静かな表情と冷たい目をして警告してきた。


「…少尉のより上位者から、本件確保の優先命令が出ております。任務の障害になると判断した場合、あなたを排除します」


おれは実剣を手にとる。


ここでこの成体<厄魔>をシバリス、ひいては軍本部に渡すことは躊躇われた。


戦闘用サイボーグとやり合ったことはないが、五分に渡り合う自信はある。


『柩少尉、止めてください。軍本部からコード119991が発令。ターゲットの無条件回収が最優先となりました。ここでシバリスに剣を向ければ、少尉は反逆者と見なされます』


301のチャンネルに東山紅緒の毅然とした声が響いた。


「…こいつを回収することで、死んでいった睦月たちの英霊は納得するのか?」


『…あなたがそれを語りますか?逃亡者たるあなたが、戦没者を云々言わないで下さい』


***


全軍に撤退命令が下され、ターゲットの確保により勝利宣言が出された。


だが、戦場からの生還者は1割で、実質的に管区司令部の継戦能力は失われた。


600を超える<厄魔>も周辺に放置したままで、いずれ民間にも被害は拡大することだろう。


「聞いたか?水天宮部隊長が管区司令部の副司令に転属するらしい」


四海高校葬儀式典を前に、屋上で風に当たっていたところで恵美那の訪問を受けた。


水天宮中尉はあの絶望的な状況を生き延びていた。


聖副司令が戦死した中で48体の敵を撃破して、無事撤退まで漕ぎ着けていたのだ。


「寂しい?」


「…どうだろうな。憧れては、いたのだろうが」


恵美那がいつもと変わらぬ調子で答えた。


「まあ、彼はまさに万能な感じではある。若いのに、完成された軍人だよ。君が惚れるのもわかる」


「憧れてはいたが、それだけだぞ。下衆な勘繰りはよせ。それに、確かお前は部隊長と同い年ではなかったか?」


「…もう調べたのだろう?おれは学兵じゃない。ただの脱走兵だよ」


「八王子晶(はちおうじ・あきら)、24歳、大尉。最後の所属は特殊部隊の小隊長。…でも今は柩だ」


恵美那は言って、おれの横に並んでフェンスに指をかけ、空を眺めた。


「何で301に来たのだ?」


「…さあね」


とぼけてはみたものの、恵美那が怖い顔をしてじっと睨んできたので居心地が悪かった。


「私と関係があるんじゃないのか?」


「…何にせよ、全てがバレた以上この辺りが潮時だな」


おれは踵を返して階段へと向かう。


「柩、待て。私にお前の力を貸してほしい。私が権力を握るまで、まだしばらくかかりそうだ。それまでは黙っていてやるから、私の下で働け」


「…考えておく」


***


徳丸毅、睦月、笹原の死を悼む催しは厳かに執り行われた。


城竜二や結城ユウは泣き続けていたし、一般生徒も沈痛な面持ちだった。


水天宮が弔辞を読み、皆が黙祷を捧げて送った。


新たな管区司令部は即席で拵えられた。


水天宮が大尉に昇進し、市ヶ谷高校第088生徒部隊に転属して副司令職に就いた。


***


関東第三管区司令部は、政府・軍本部の意向を受けて、軍務課程を修了していない生徒の強制部隊配属を決定した。


雛にもなっていない卵が軍籍に連なり、無理矢理に11の部隊を再編成したのだ。


「あなたには柩中尉として、まだまだ301で働いて貰いますよ」


自ら四海高校に辞令を持ってきた六郎丸は、空の部隊長室におれを呼び出して言った。


中尉への昇進と、第301生徒部隊の部隊長への就任が申し渡された。


おれは命令書を受け取らず、六郎丸に質した。


「あの化石を手元に置くために、どれほどの血が流された?」


「あれの価値を知ったなら、あなたとて作戦を支持してくれるしょう。…まあ、私は誰の支持も必要とはしませんが」


「…おれはもう疲れた。好きに始末すればいいさ」


「おや?仲間たちを見捨てるというので?また?」


六郎丸が大袈裟に身振り手振りを交えて、半笑いで言った。


その丸眼鏡の奥の瞳は笑っていない。


「…おれがいようがいまいが、学兵はいずれ全滅するだろう」


「あなたが防波堤になってあげればいい。先の戦いで部下が死んで落ち込んでいるとでも?生粋の軍人であるあなたが?<殺戮者>と呼ばれていた頃のあなたと比べて、なんとまあ脆い。それとも、<RPGの女王>がいないと何もできないとでも…」


おれは六郎丸の胸ぐらを掴んで宙吊りにした。


力を込めて首もとを締め上げる。


「余計なことをベラベラと…」


「…安心してください。この部屋は盗聴できませんから。そのように細工してます…」


六郎丸を床に投げ捨てた。


叩きつけられ、ゲホゲホと咳き込みながら六郎丸は立ち上がった。


「…あなたがやらねば山の手の姫にでもやらせますが、果たして務まりますかね?ここからは修羅の道のりですから」


「…何を考えている?経験のない急造部隊などいくら投入しても、無力だ」


「それでも時間は稼げます。全滅したなら、また徴収をかけます。それこそ何度でも。ここがこの国の正念場なのです。…学兵のあなたには、残念ながら新たな作戦の詳細を教えるわけにはいきませんがね」


***


「私、青山慈南高校の第595生徒部隊に転籍になったわ。ユウと一緒にお別れ」


ベッドから半身を起こして来島冴子が言った。


「…部隊長か?」


来島冴子が頷く。


その見慣れた背中は、染みひとつなく真っ白で綺麗だった。


「あなたが側にいなくなるって考えたら、とても不安で眠れない…」


おれは何も言えなかった。


この殺風景な部屋には餞別にあげるようなものがなく、そして独り立ちすることになる来島冴子の部隊の命運は儚いと知れた。


「あなたも、シバリスも、そして式神恵美那もいない。595の戦闘員は全てが軍務課程から補充された新兵。…私、死んじゃうのでしょうね」


来島冴子がおれの手を握って言った。


「…ううん。1185で大負けしたときに一度あなたに救われた命だから、泣き言はもう言わない。…でも、私が困ったら救援に来てくれると嬉しいな」


***


301の部隊長に正式に就任したおれの初仕事は、他校に転籍となった来島冴子少尉と結城ユウ、他に整備士や事務員数名を送り出すことだった。


式典を終え、各校各部隊からの迎えに彼女らを引き渡し、敬礼をもって見送った。


「行ってしまったな」


少尉に昇進し、戦闘副隊長を拝命した式神恵美那がおれの隣に立った。


「ああ」


それだけ応えて、おれは執務に戻った。


やるべきことは幾らでもあった。


301も欠けた戦闘員を新兵で補うわけで、その訓練や配置を検討しなくてはならなかった。


「部隊長。俺を戦闘員に異動させてください!」


部隊長室にやってきた葛西幸尚が開口一番に大声で言った。


「…部隊長はいまお忙しいので、アポイントをとってから来てください」


東山紅緒が立ち上がり、葛西を追い返しにかかった。


葛西はいきなり土下座をしだして、「もう足は大丈夫です。俺も部隊の役に立ちたいんです。お願いします!」と続けた。


あまりの剣幕に、おれは東山紅緒と顔を見合わせた。


葛西が元戦闘員というのは知っていたし、城竜二に言わせれば腕も良かったという。


取り敢えず保険医の所見待ちということで引き下がらせた。


***


脱け殻のようになった有栖川鏡子少尉を呼び寄せて、デスクの向かいに座らせた。


「やる気、まだ出ないみたいだね」


「……」


有栖川鏡子は押し黙った。


水天宮亨が管区司令部に転籍してからというもの、彼女の仕事からはキレが失われていた。


身内の事務員からもそういった主旨の上申が届いており、こうして審問の場を設けてみた。


「おれの下につくのは、そんなに不満かな」


「…そうではありません」


「水天宮大尉が上官でなくては、やっぱり身が入らない?」


有栖川鏡子の体がびくっと動いた。


「まあ、そうだろうね。そこで、少尉には選択肢を与えようと思う。ここで事務長を続けるか、管区司令部で水天宮大尉の高級副官を務めるか、だ」


有栖川鏡子は目を見開いておれを見た。


***


「柩部隊長は甘過ぎます」


有栖川鏡子が去った後で東山紅緒が言った。


その目にはありありと非難の色が浮かんでいた。


「何が?」


「有栖川少尉を管区司令部に動かす根回しに政治力を使って、勿体ないとはお思いになりませんか?」


「彼女は優秀な事務官だ。パフォーマンスを発揮できる部署に移してやるのは軍全体にとっても有益だとは思うけどね。ここで腐らせている方が勿体ない」


東山紅緒がぶすっと頬を膨らます。


「うちの部隊の調達はどうするんです?」


「そうだな…差し当たり、羽田君か君のどちらかを事務長代理としようか」


「…!何で私が…」


「決まっている。軍へのパイプは強い方がいい。事務長とはそういう役職だ」


***


錦雁之助整備士長、羽田連理事務長代理との打合せを終え、保険医との面談に移った。


保健室には医者の他に、新任の保健担当事務員である梶ケ谷三春も同席していた。


「中尉。葛西幸尚の足の状態は良好です。ただ、私の立場から言わせてもらうと、足に負担のかからない砲術などを担当させるのが望ましいかと。…僭越ですが」


「わかりました。先生の言う通りにします」


おれは受け取ったカルテを傍らに控える東山紅緒に手渡した。


***


秋も深まり、11月の頭には生徒会主催の文化祭を挙行するに至った。


管区内の<厄魔>掃討は、司令部のある第088生徒部隊と我ら第301生徒部隊が軸となって着実に成果をあげていた。


中でも3名の<国士無双>受章者を抱える301への期待は大きく、10月の最後の1週間など出撃しっぱなしであった。


来場者で賑わう校門付近を視察に訪れると、派手な装飾を施されたアーチ状の入場ゲートが目にとまった。


「柩先輩、どうですか?私の傑作です」


ツナギ姿の藍沢渚が寄ってきて、ゲートを指して言った。


整備士たちは交代制で、今日も<蜉蝣>のメンテナンスに張り付いていた。


「派手だね」


書記の腕章をつけた東山紅緒が「…きらびやかで素晴らしい、と生徒会長代理は仰ってます」とフォローを入れた。


「…柩先輩、何だか最近東山先輩といつも一緒にいませんか?」


藍沢渚が青い瞳でおれを不審そうに見やった。


東山紅緒は部隊では部隊長付の副官で、生徒会では書記を務めているので必然おれの側に付き従う機会が多くなる。


「それは職務上の問題だね。水天宮大尉もそうだったろう?」


「…後で、整備棟にも顔を出してくださいね」


藍沢渚は青い髪を揺らして走って行った。


「…女子生徒にひたすら好かれますね」


東山紅緒がぼそりと言って、「次は校庭を回りますよ」と促した。


***


3年D組はクラスとして喫茶店を運営しており、仙太郎に案内されて東山紅緒とテーブルに着いた。


「君らを部隊や生徒会に取られちゃって、僕だけフル出勤だよ」


仙太郎が紅茶とオレンジジュースを出した。


おれは生徒会に、葛西と梶ケ谷三春は部隊の出店へと駆り出されており、仲間内で一人残された仙太郎は寂しそうに言った。


「仙太郎君、新規のお客さんだよ~」


女子生徒に呼ばれて仙太郎は接客へと戻っていった。


「…彼、戦闘員登録が次席になってましたね。次の補充で部隊に組み込まれますよ」


東山紅緒がジュースを飲みながら言った。


あの天然無害な仙太郎に戦闘員が務まるのか、おれには甚だ疑問に思えた。


***


「柩。訓練レポートを持ってきたぞ」


「…式神少尉。アポイントをお取りください。部隊長はもう2日寝ていないのです。突然来られても困ります」


「申請はした。お前がいつまでたっても取り次がないから、直接来たまでだ」


「山の手の姫ともあろう御方が短慮ですね」


「武蔵野と違い、私たちは理屈ではなく実利を優先するからな。いい加減無駄な労力に時間を割くのを愚かと知れ」


「…なんですって」


東山紅緒がこめかみに青筋を浮かべて席を立ったところで口を挟んだ。


「そこまで。2人とも頭を冷やせ。ここは軍の執務室だ。派閥の喧嘩を持ち込むなら、おれのいないところでやってくれ」


「私は喧嘩などするつもりはない」


式神恵美那がきっぱりと言って、東山紅緒は「…頭を冷やしてきます」と席を外した。


恵美那が持参したレポートに目を落とす。


「ルーキーの育成は順調みたいで何より。戦闘員8名の班割は戦闘副隊長の君に一任する。武装陳情については羽田君に、整備配置の変更は錦少尉にそれぞれ回しておこう。…ただし、藍沢渚の担当変更は無しだ」


「柩。藍沢に拘る理由が何かあるのか?彼女は腕はともかく、<蜉蝣>への執着が強すぎる。お前を拘束する時間も他所の平均の倍近く長い」


恵美那が不満を露にした。


おれを気遣っての提案だとわかる。


「腕がいいのだから、それが全てだよ。却下だ。…他に何かあるかな?」


「…ない。強いて挙げれば、藍沢と梶ケ谷が、お前があの武蔵野の小娘とばかり一緒にいると不平を言っていた」


おれの苦笑を見て、恵美那が回れ右をして「邪魔をした」と言って部屋を出た。


ようやく部隊の体裁が整ってきた。


部隊員たちはこの2月超、まともに休みを与えられていない。


願わくは、週末の休日と平日の授業参加をそろそろ復活させたいところだ。


戻ってきた東山紅緒の頬が赤く腫れていたので、思わず尋ねてしまった。


「…そこでやり合った?」


東山紅緒がコクンと頷く。


「相手は、まだ16なんだから…」


「…大人げないことをしました。すみません」


「うん。頼りにしてるよ」



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