婚約を解消した私に、無口な伯爵がダンスの練習を申し込みました
「君との結婚生活は、退屈そうだ」
二年間の婚約が終わる理由は、それだった。
茶器の向こうで、ノルベルト様は窓の外を見ていた。
私は今朝、彼の好きな菓子が届くように、侍女に頼んでいた。菓子は一枚しか減っていない。
「先日の夜会でも、君はずっと壁際にいたね」
「あの日は、お話の途中でいらっしゃったので」
「待っていなくていいんだよ。自分でも人付き合いを広げないと」
でも、勝手に離れたら、いつも不機嫌になるではないですか。
言いかけて、やめた。
次の夜会のために用意した扇が、部屋の引き出しに入っている。彼に地味だと言われないように選んだ、私には少し華やかすぎる扇だった。
「分かりました。父には私から話します」
私が答えると、ノルベルト様はようやくこちらを見た。
「君なら、分かってくれると思っていた」
その顔が晴れやかだったので、私は膝の上で手を握った。
両家の話し合いは、その週のうちに済んだ。
先方が望んだ解消であることを文書に残し、贈り物を返した。
婚約の証の結晶も、小箱へ戻した。二年前、署名を終えた私たちが、両家の封蝋の間へ魔力を通して作ったものだった。箱を閉じ、ほかの返却品と一緒に侍女へ渡した。
母は最後まで、あの菓子を食べさせるのではなかったと言っていた。
私が十八歳になったばかりなのを心配して、父はしばらく領地へ戻ろうかと尋ねた。
私は首を振った。
隠れるように帰ったら、今よりもっと惨めになりそうだった。
◇
婚約解消から一週間後、ユリウス・ローデン伯爵が訪ねてきた。
母の施術を受ける日ではない。それなのに、いつも通される小さな治療室ではなく、客間で待っているという。
「私も?」
「あなたに、お話があるそうよ」
母は私の髪に引っかかっていた糸くずを取り、先に客間へ向かった。
私は鏡で襟元を確かめてから、あとを追った。
ローデン伯爵は、二十三歳。父君を亡くし、帰還後に爵位を継いだ。
半年前に北の戦地から戻り、今は王都で呪いの治療を受けながら、領地との書簡をやり取りしている。
左脚に残った呪いは、筋や骨を傷つけるものではない。体を動かす魔力の道を、ときどき締めつける。
神殿の治療師が少しずつ呪印をほどき、母はその合間に、乱れた魔力の流れを整えていた。
私たちヴァンネ子爵家に伝わる、小さな術だった。
ほかの人の魔力を一方的に流しこむと、呪印はそれを絡め取ってしまう。母は自分の魔力を伯爵のものと一度、手元で輪につなぎ、整えてから返す。術者だけでなく、受ける側にも、異なる魔力を通す練習が必要だった。
呪いを消す力はない。けれど施術のあと、伯爵が杖を軽く持ち直すのを見ると、私まで嬉しくなる。
伯爵は長椅子から立ち上がろうとした。
母が、どうぞそのままで、と手を添える。
「こんにちは、ローデン伯爵」
「こんにちは。リディア嬢」
彼の膝の上には、一通の封筒があった。
王家の紋章が見える。
「来月の、帰還者を迎える舞踏会です」
封筒を卓上へ置き、伯爵は続けた。
「出席できると、治療師から許可が出ました。短い曲なら、踊る練習をしてもよいそうです」
「それは、よかったですね」
思わず声が弾んだ。
伯爵は私を見て、一度うなずいた。
「そこで、練習のお相手をお願いできないかと」
母を見ると、私に答えるよう、穏やかに顎を引いた。
「私で、お役に立てますか」
「はい。あなたに、お願いしたい」
伯爵の手は大きかった。
母が術の具合を確かめるため、私にも彼の魔力に触れさせてくれたことがある。あのときは手首に指を添えただけだった。
踊るとなれば、手を取り、肩に触れる。
私は膝の上の両手を、きちんと揃えた。
「母が見ていてくれるのでしたら」
「もちろん。治療師から届いた指示も、確認します」
母の声に、伯爵は封筒とは別の書付を差し出した。
私は少し安心して、それから少し恥ずかしくなった。彼は当然、体に無理のない練習の話をしている。
「舞踏会で、踊っていただきたい方がいるんです」
伯爵が言った。
私は揃えた手を、もう一度握った。
「……承知しました。練習の日は、いつからにいたしましょう」
私は母の方へ向き、予定を尋ねた。伯爵も手帳を出す。
誰と踊るのですか、とは聞けなかった。彼のお相手になれる方が、羨ましかった。
◇
練習は週に三度、午後のお茶の前に行うことになった。
母と、私のダンス教師のベルト夫人がつく。
初日は、手を取り合って立つところからだった。
「リディア様。肩が上がっています」
「はい」
「伯爵様もです」
同じ指摘を受け、私たちは目を合わせた。
伯爵は咳払いをした。
最初の八歩は、補助をせずに進んだ。
九歩目で、彼の左手に少し力が入る。
「止まりましょう」
夫人がすぐに言った。
母が彼の魔力を確かめ、その日の練習はそこで休憩になった。
椅子へ戻った伯爵は、私に詫びた。
「せっかく、支度をしていただいたのに」
「私も、八歩では間違えずに済みました」
夫人に、余計なことを言わない、とたしなめられた。
伯爵が顔を伏せる。笑っているのだと分かって、私も口元を押さえた。
私は彼が笑うところを、もっと見たかった。
施術のあとのお茶で、私が庭の犬の話をすると、彼はときどきこんな顔をする。
大きな犬小屋を建てたのに、うちの犬は空の植木鉢に丸くなる。伯爵はそれを聞いて、次の訪問で、犬はまだ鉢に、と尋ねた。
私は嬉しくなって、今度は鉢を横倒しにして眠っていたと話した。
ノルベルト様には、こういう話をしなくなっていた。犬の話を始めると、またかと言われたことがあった。
「次は、リディアに補助をさせてみましょう」
母の声に、私は顔を上げた。
「少しだけよ。まず、お二人で輪を作って。整えるのは、それから」
私の術は、まだ母ほど安定しない。
母が呪印に触れる施術をする一方で、私は締めつけの弱いところへ、細く魔力を添えるだけだった。
最初は伯爵の魔力を通すのに精いっぱいで、自分のものを返すのが遅れた。母に言われ、踊り出さずにもう一度試す。
私から細く通した魔力が、彼のものに混じって手元へ戻った。温度の違う水が、同じ水路を流れるようだった。
「今、つながりましたね」
伯爵の声に、私はうなずいた。彼にも分かるのだ。
母が流れを確かめてから、二人で一歩を踏み出した。さっき硬くなったところで、左脚が止まらなかった。
「今の、痛みませんでしたか」
「ええ」
伯爵は足元を見ていた。
「もう一度、お願いしても?」
今度は、私も笑ってうなずけた。
二回目の練習のあと、母が治療の記録をつけている間に、私は伯爵へ尋ねた。
「舞踏会のお相手にも、途中でお休みになる目安を、お伝えした方がよいでしょうか」
伯爵が、紅茶のカップを置いた。
「お相手?」
「踊りたい方がいらっしゃると。術を使えなくても、脚がこわばる前に休憩をお勧めすることは、できますから……」
「あなたです」
言葉が止まった。
「踊っていただきたいのは、リディア嬢です」
母のペンの音が止まり、すぐに再開した。
私はそれを聞きながら、膝の上で指を重ねた。
「でも、おっしゃいませんでした」
「はい。申し訳ありません」
伯爵は逃げずに、私を見ていた。
「あなたがまだ、おつらい時期だと思って。まず、踊っていただく約束をしようと考えたのですが」
「練習の?」
「……その先まで、言うべきでした」
私は紅茶を一口飲もうとして、カップを持つのをやめた。
手が震えそうだった。
「では、ほかの方はいらっしゃらないんですね」
「いません」
返事があまりにきっぱりしていたので、次の言葉が出てしまった。
「よかった」
母のペンが、今度こそ止まった。
伯爵は私の返事を聞き直したりしなかった。ただ、背筋を伸ばし、改めて舞踏会への同行を申し込んだ。
私は母を見てから、自分で答えた。
「喜んで、お受けします」
◇
それからの練習は、前より難しくなった。
足ではなく、顔を見てしまう。
彼がこちらを見ていると分かると、数えていた拍子が抜ける。
「伯爵様。今のは脚のせいではございませんね」
「はい」
「リディア様も、間違いにお付き合いなさらないで」
私は返事をする代わりに、口を結んだ。
練習を重ねると、互いの魔力を通すのも早くなった。けれど顔が近くなるのには、なかなか慣れなかった。
一度、手元が温かいのを意識しすぎて、私は思わず魔力を引いた。輪がほどけたので、二人とも足を止める。
「ごめんなさい。私が、切ってしまいました」
「つなぎ直しても?」
伯爵は手を取ったまま待っていた。私はうなずき、自分から細い流れを返した。
ただ、一つ気にかかることがあった。
彼は、私の補助で踊れると、とても嬉しそうだった。
それを嬉しいと思うのと同じくらい、不安にもなった。
もし、私にこの術がなかったら。
そんな考えが浮かぶ自分が嫌で、ある日、休憩のお茶を注ぎすぎた。
「リディア嬢」
伯爵の声で手を止める。カップの縁まで、あと少しだった。
「すみません」
「大丈夫です。ポットを、置いてください」
伯爵は卓上を少し空けてくれた。
母は今日の施術を終え、ベルト夫人と隣室で予定を相談している。開いた扉の向こうに声が聞こえた。
「何か、気になることが?」
私はポットの柄から手を離した。
黙っていても、彼には分からない。ほかの女性と踊るのだと思っていたときのことを、思い出した。
「私が、母の術を使えなかったとしても。お誘いくださったでしょうか」
言ってから、彼の顔を見るのが怖くなった。
けれど伯爵は、不快そうにはしなかった。
「はい」
すぐに答え、それから少し考えた。
「ただ、その場合は、ダンスを口実にはできなかったと思います」
私は顔を上げた。
「術がなかったら、ですから。たぶん、庭を見せていただきたいと、お願いしたでしょう」
「庭を?」
「あなたに、案内してほしくて」
伯爵はカップを手に取り、飲まずに置き直した。
「以前、次は薔薇が咲くと話してくださったのを覚えていますか」
「はい」
「咲いた頃に、足の具合を聞いてくださった。庭へ出られそうなら、ご案内しますと」
まだ、彼が来るたび杖を強くついていた頃だった。
私は急に、あの日のことを思い出した。
庭へお誘いした私に、ノルベルト様との約束はないのかと伯爵が尋ねた。次に婚約者が来る日を告げると、彼は、ではその日はお二人で、と話を終えたのだった。
「歩けるようになったら、あなたと見たいと思っていました。けれど、その約束をしてよい立場ではなかった」
私は、自分のカップを見た。
あの頃から、と尋ねたい。尋ねたら、私もあの頃からだったと伝えてしまいそうだった。
「庭の薔薇は、もう終わってしまいました」
「ええ」
「今は、何も珍しいものがありません」
「犬が、鉢に入っているのでは」
私はとうとう笑ってしまった。
「もう入りません。植え替えてしまったので」
「それは、惜しいことをしました」
彼があまり真剣に言うので、笑いが止まらなかった。
隣室から母が顔を出したが、何も言わず戻っていった。
次の訪問では、最初から庭へ出た。
施術は前日に済んでいる。練習も休みだった。
杖をついてゆっくり歩く伯爵に、犬が使っていた鉢を見せた。今は小さな花が植わっている。その隣には、庭師が片づける途中の別の空鉢があった。
犬はどちらにも入らず、伯爵の靴の匂いを嗅ぎ、その足元に座りこんだ。
伯爵はベンチへ腰を下ろすと、困ったように私を見た。
「動けなくなりました」
「今日は、練習をしませんから」
私は隣へ座った。
犬が彼の靴の上に顎を乗せる。伯爵はしばらく、その重みを動かさずにいた。
◇
舞踏会が近づくにつれ、神殿の治療が一段階進んだ。
呪印はまだ残っている。けれど、母の補助を受けない日にも、歩調が乱れにくくなった。
伯爵は治療師から許された範囲で、屋敷の教師とも練習していた。
「こちらだけでは、回数が足りませんでしたか」
私が尋ねると、彼は首を振った。
「あなたがずっと、私の魔力を気にしていては、楽しめないでしょう」
私は少し黙った。
確かに、最近は彼の顔より、手のひらを通る流れに注意している時間が長かった。
役に立ちたいと思うあまり、練習のあと、術のことばかり尋ねていた。
「一曲全部、補助なしで踊るつもりですか」
「できれば」
「でも、無理はしないでください」
伯爵は、はい、と答えた。
私は念を押した。
「私、途中でやめても嫌ではありません。あとで痛かったと聞く方が、困ります」
彼は私の顔を見て、少し間を置いた。
「分かりました。では、痛んだらお伝えします」
「はい。魔力の補助が欲しいときも」
その日の最後は、半曲だけ踊った。
補助はしなかった。彼は途中で休みたいと言い、私は手を離して、隣の椅子へ腰を下ろした。
ベルト夫人が譜面を閉じる。
伯爵は左脚を楽な位置へ伸ばすと、私の靴先を見た。
「今日は、踏まずに済みました」
「まだ半曲ですから」
夫人が咳をした。
私たちは、それ以上ふざけるのをやめた。
舞踏会の前日、母が私の髪飾りを確かめに来た。
卓上には、ノルベルト様のために買った扇と、以前から使っている白い扇を並べてある。
「どちらにするの?」
「こちらに」
白い方を取ると、母はうなずいた。
「伯爵様から、お父様へお話があったのよ」
私は扇を開きかけて止まった。
「あなたが望むなら、正式に求婚したいそうです。まだ解消したばかりだから、返事を急がせないでほしいとも」
「……父は、何と?」
「まず本人と話してください、と」
母は私の髪に、真珠の飾りを当てた。
「舞踏会で何か言わなければと、気負わなくていいのよ」
私は鏡の中で、母と目を合わせた。
今まで、伯爵が帰ったあと、次の訪問までの日数ばかり数えていた。
練習が終わったら、何を理由に会えるだろうと考えていた。
「母様。私から、お伝えしたいことがあります」
母は、私の肩へ手を置いた。
「ええ。それなら、明日、きちんと聞いていただきなさい」
◇
宮廷の大広間は、思っていたより明るかった。
天井に浮かぶ灯火石が、楽師の奏でる音に合わせ、ゆっくり金色から白へ変わる。
伯爵は父への挨拶を終えると、私の前へ来た。
杖は、すぐ脇に控える従者が預かっていた。
「リディア嬢。一曲、お相手をお願いできますか」
私は扇を母に渡した。
「喜んで」
差し出された手に、自分の手を重ねる。
手袋越しにも、彼の魔力は分かった。練習のときより、少し速い。
「緊張していらっしゃいますか」
「とても」
「私もです」
伯爵は私を広間の端へ導き、短い曲が始まるのを待った。
私は魔力を流さず、彼の最初の一歩に合わせた。
八歩を数える必要はなかった。
顔を上げると、彼も私を見ていた。
「今日は、こちらを見ていても、叱られませんね」
伯爵が言った。
私は笑いそうになり、拍子を一つ取り損ねた。
「今のは、伯爵様のせいです」
「申し訳ない」
広間を一周する前に、彼の歩幅が小さくなった。
私は尋ねるより先に、彼が口を開くのを待った。
「少し、脚が張ります。ここで休んでも?」
「はい」
二人で足を止め、曲の途中で輪を離れた。
従者が杖を渡しに来る。私はそばで待ち、一緒に壁際の椅子へ向かった。
一曲全部は、踊れなかった。
けれど伯爵は椅子に腰を下ろしてから、気まずそうな顔をしなかった。
「水をいただいてから、庭へ行きませんか」
「寒くはありませんか」
「少しだけ。お話ししたいことがあります」
父と母へ声をかけ、庭に面した回廊へ出た。
扉から数歩のベンチへ伯爵が座ると、母は少し離れたところで知人と話し始めた。
広間の楽の音が、ここまで聞こえてくる。
「お父様には、お話ししました」
伯爵が言った。
「あなたへ、正式に求婚するお許しをいただきたいと」
「母から、聞きました」
伯爵はうなずき、私に向き直った。
「リディア嬢。私と結婚していただけませんか」
私は、練習のない日に彼を庭へ誘ったことを思い出した。
犬が動かなくて、ずっとベンチにいた。二人で何を話したか、全部は覚えていない。
それでも、彼が帰る時刻になったら、もう一杯お茶をいかがですかと引き止めた。
「私も、お伝えしたいことがあるんです」
伯爵が静かに待つ。
「練習の日が、楽しみでした。まだお帰りになっていないのに、次はいついらっしゃるか、考えていました」
白い扇を母に預けてよかった。手元にあれば、顔を隠してしまったと思う。
「好きです、ユリウス様。私でよければ、お受けします」
彼は、すぐには答えなかった。
私が少し心配になった頃、長く息を吐いた。
「嬉しいです」
彼の手がこちらへ向き、途中で止まった。
「手を、取っても?」
私は自分から、その手に触れた。
魔力の流れを探らず、ただ握る。ユリウス様の親指が、手袋の上を一度だけ動いた。
母が話を終えて戻ってきた。
私たちの手を見てから、顔を確かめる。
「お父様を呼んできても、よろしいかしら」
私はうなずいた。
そのあとで、小さな声で頼んだ。
「もう少ししてから、お願いします」
母は私たちから目をそらし、分かりました、と答えた。
◇
婚約の書類を交わしたのは、舞踏会から十日後だった。
両家の署名を終え、婚約の証を作るための封蝋が並べられた。
父が手順を説明する前に、私はユリウス様へ手を差し出した。
「練習どおりで、よいのですね」
「ええ。今日は、踊りませんが」
彼の魔力が私の手へ入り、私のものと一緒に戻っていく。何度も繰り返した流れを、今度は二人で封蝋の間へ導いた。
淡い琥珀色の結晶ができると、父がほっと息をついた。
母はそれを窓に透かし、「綺麗にできましたね」と私たちに見せた。
ユリウス様の脚には、まだ呪印が残っている。治療はこれからも続くし、母の施術にも通う。
けれど、私を訪ねてくる日には、もう練習の予定を入れなくてよくなった。
その午後、私はお茶の卓に、彼の好きな焼き菓子を並べた。
ユリウス様は二枚目を取り、窓の外へ目を向ける。
庭では犬が、前に見た別の空鉢を嗅いでいた。庭師が、犬のために残してくれたものだった。
「入るでしょうか」
「昨日は、入りました」
「それは、見たかった」
ユリウス様が腰を浮かせたので、私は慌てて止めた。
「お茶が冷めてしまいます。犬は、まだしばらくそこにいますから」
彼は椅子へ座り直し、菓子をかじった。
私は自分のカップを持ち上げる。
「来週も、いらっしゃいますか」
「はい。あなたがよければ」
「では、次はこの菓子を、もう少し多く頼んでおきます」
ユリウス様が手元の皿を見た。
「もう一枚、いただいても?」
私は皿を、彼の方へ寄せた。
~完~
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
一曲を踊り切ることよりも、途中で「休みたい」と言えること。
役に立てるからではなく、その人と一緒にいたいと思えること。
そんな二人の恋を、楽しんでいただけたら嬉しいです。
よろしければ、評価やご感想をお寄せください。




