第9話:灼熱の火山でBBQ(※火竜は薪にしないでください)
パパの魔力の欠片を求め、僕たちは『紅蓮の火山』へと足を踏み入れていた。
一歩歩くごとに足の裏が焼けそうで、吹き出す熱風に視界が歪む。
「……あーっ、もう! 暑い! 暑すぎるわよ! アタシのレースが焦げちゃったらどうすんのよ!」
アビィは地べたに座り込み、自慢のドレスをパタパタと仰いでいる。その顔は茹でダコのように真っ赤だ。
「主殿、娘の機嫌が臨界点を超えようとしています。このままだと彼女、火山をまるごと爆破して涼もうとしかねませんぞ」
「そんな物騒な涼み方があるかよ! ……はぁ。わかった、なんとかしてみる……」
僕は頭を抱えて深くため息をついた。
……その時だ。
「ヒッヒッヒ! 愚かな人間どもめ。この溶岩地帯でお前たちを焼き尽くして――」
岩陰から、魔王軍の刺客『氷結の貴公子・アイスバーグ』が姿を現した。彼は周囲の熱気を打ち消すほどの極寒のオーラを纏っている。本来なら絶望的な強敵だが……。
「……え、氷?」
アビィの目がキラリと光った。
「カンちゃん、あいつよ! あいつを捕まえて、アタシの横に立たせなさい! 天然のクーラーに決まりよ!」
「いや、あれ敵だから! 殺しにきてるから!」
「問答無用! カンちゃん、パパの力を使って、あいつの冷気を全部吸い取ってこっちに流しなさい!」
「無理難題言うなよ……っ、ふぅぅぅぅぅ……!!」
僕はやけくそで、パパから流れ込む熱い魔力を、あえて「逆」に回転させるイメージで練り上げた。太極拳の「柔」の動きで、刺客が放った氷の弾丸をすべて掌で受け止め、ひとまとめに凝縮する。
そして、その冷気をため息に乗せて一気に吐き出した。
「『どん底ため息砲・零式』!!」
パリィィィィィィン!!
放たれたのは、火山をも凍てつかせる極大の冷気。
刺客の男は「えっ、私の専門分野で……!?」と驚愕の表情を浮かべたまま、一瞬でカキ氷のような氷像に変わり、その周囲には快適すぎる冷風が吹き抜けた。
「ふぅ……。涼しい。……あ、ちょうどいい温度になったわね」
アビィは氷漬けになった刺客を「背もたれ」にして座り込み、満足げに微笑んだ。
「主殿、素晴らしい。敵の属性を利用して、娘の要望と戦闘を同時にこなすとは……。まさに理想的な主君の姿ですな」
「……僕はただ、アビィに怒られたくなかっただけなんだけど……」
溶岩が流れる灼熱の火山で、僕たちの周りだけが北海道のような爽やかさ。
凍った刺客の頭の上で、パパが持参したお肉を焼き始める中、僕は再び遠い目をしてため息をつくのだった。




