第7話:初めてのSランク依頼(※お買い物ついでに魔王軍を撃退)
金ピカのSランクカードを手に入れた翌日。
僕がやりたかったのは、薬草採取のような地味で安全な仕事だった。……けれど。
「ねぇカンちゃん! この街で一番高い服屋さんはどこ!? アタシ、今のドレスも気に入ってるけど、もっとフリルが爆盛りなやつが欲しいわ!」
「主殿、娘の願いは私の願い。軍資金(ギルドからの支度金)もたっぷりありますし、まずは景気よく買い物といきましょう」
……現実は非情だ。僕は二人の「お買い物エスコート役」として、昼下がりの公道を歩かされていた。
その時だった。
突如として、空が不気味な紫色の雲に覆われた。
「ヒャーッハッハッハ! 愚かな人間どもめ! 今日がこの街の最後の日だ!」
立ち込める暗雲の中から、巨大な蝙蝠の翼を生やした男――魔王軍の幹部を名乗る『虐殺のゼノン』が、数千のガーゴイルを引き連れて降臨した。
街中の人々が悲鳴を上げて逃げ惑う。
「……はぁ。なんでお買い物の日に魔王軍が来るんだよ。ねぇアビィ、今日は帰ろ――」
「ちょっと、アンタ!!」
アビィが、空中のゼノンを指差して絶叫した。その怒りは、魔王軍への正義感……ではなく。
「アタシが今から入ろうとしてたお店の看板を、アンタの部下が踏んだわね!? 泥がついたじゃない! どうしてくれるのよ!」
「……ええい、うるさい小娘だ! 貴様らから血祭りにあげてくれるわ!」
ゼノンが凶悪な魔力の塊を練り上げる。
だが、アビィの怒りはすでに沸点を超えていた。
「カンちゃん! あいつ、今すぐブチのめしなさい! アタシのフリルへの情熱を邪魔する奴は万死に値するわ!」
「えぇ……僕がやるの?」
「主殿、修行の成果を見せる時です。……さあ、あのお喋りな蝙蝠を黙らせてしまいなさい」
パパが僕の背中を、優しく(物理的には壁を壊すくらいの強さで)叩く。
一気に魔力の回路が開き、全身に力が満ちる。僕は深く息を吸い、ゆったりと腰を落とした。
太極拳のような円の動きで、ゼノンの放った漆黒の雷撃を受け流し、掌へと凝縮する。
「……はぁぁぁぁぁぁ…………っ!!」
渾身のため息と共に、僕は叫んだ。
「『どん底ため息砲』!!」
ドズゥゥゥゥゥゥン!!
僕の掌から放たれた透明な衝撃波は、ゼノンの雷撃を飲み込み、そのまま彼を雲の彼方まで消し飛ばした。
ついでに、付き添いのガーゴイルたちも衝撃の余波で、空中でバラバラに分解されていく。
「な、なに……!? この私があんな無名のガキにぃぃぃ……(キラリッ)」
空に星となって消えていくゼノン。
一瞬で静まり返る街。逃げていた住民たちが、恐る恐る物陰から僕を見つめている。
「ふん、当然の結果ね! さあカンちゃん、看板が直るまで次のお店に行くわよ!」
「……主殿、今の『ハピネス・バスター』のキレ、なかなかでしたぞ」
「……はぁぁ。もう、勇者とか魔王とかどうでもいいから、普通に買い物をさせてくれ……」
僕は頭を抱えて、本日何度目かのため息をついた。
すると、僕のため息をたっぷり吸ったアビィが、満足げに鼻歌を歌いながら、新しいブティックの扉を蹴り開けるのだった。




